Extra Chapter : 回避盾 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ もう一人の蒼き雷霆との決戦を終えて帰還したGV。 失意の底にある彼だが、戦士に休息は訪れない。 新たな第七波動能力者が皇神の兵を率いて牙を剥く。 銀虎の爪が生えるまでの、狭間の物語。 ほか短い話を二つ。そっちは軽い日常の話になってると思います。 爪や電撃nintendo10月号が発売する前に書いたものな ので、矛盾があったらすみません。 目 次 狭間 ││││││││││││││││││││││││││ シアンの日記 │││││││││││││││││││││ 一角獣のある一日 ││││││││││││││││││││ 1 24 27 狭間 ﹁ただいま⋮⋮﹂ 静まり返った室内に、声が虚しく響き渡る⋮⋮。 ﹁お疲れ様、GV﹂ ﹁ああ、シアンもお疲れ様﹂ アメノウキハシでの決戦から早一ヶ月。皇神はもちろん、フェザー からも逃げるように拠点を移したボクは、急激に増えた依頼の処理に 追われていた。 セ ブ ン ス アームドブルー スメラギ ど こ か ら 聞 き つ け た の か 分 か ら な い が、﹁S S ラ ン ク の 雷 撃 の 第七波動 能 力 者 〝 蒼き雷霆 ガ ン ヴ ォ ル ト 〟 が 皇神 の プ ロ ジ ェ ク ト を潰した﹂という情報が広まっているからだろう。 皇神の力が弱まったこの機に、能力者の世界を創るため動こうと力 力 1 を求める者からの依頼と、その勢力によって危機に陥いり打つ手がな 戦 い無能力者が藁にも縋る思いで助けを求めてくるというケースが殆 ディーヴァ どだ。 歌 姫 プロジェクトが崩壊し、皇神の強力な能力者が大きく減少し た影響で、能力者の秩序もまた崩れかけている。 これはボクの責任だ⋮⋮。無能力者を襲う連中を戒めなければい けない。しかしこのままでは、平穏に暮らす能力者の立場もいずれ無 くなってしまう。能力者と無能力者の間にある溝を無くすには、一体 どうしたらいいのだろうか⋮⋮。 ﹁あまり思いつめないで⋮⋮。いつか手を取り合える日が来るよ。あ なたならきっとできるって、わたしは信じてるから⋮⋮﹂ ││能力者の⋮⋮未来は⋮⋮お前に⋮⋮託す⋮⋮ ⋮⋮ボクの脳裏に、あの人の言葉が浮かぶ。 ﹁⋮⋮ありがとう、でもボクは大丈夫だよ。ボクがやらなければなら ない事なんだ⋮⋮。休むわけにはいかない﹂ 外 か ら な に か 聞 こ え る。こ の 駆 動 音 は ⋮⋮ 皇 神 の 兵 器 か ﹁GV⋮⋮﹂ ⋮⋮ ? ボクの傍に ﹂ この場所に迫ってきている ﹂ ﹁シアンッ ﹁ ! く そ ッ ハッタリか⋮⋮。 に銃を向けるという事は、何らかの攻撃手段があるのか、それとも 今のシアンに攻撃が効かない事も分かっているだろう。だというの 敵 は こ の 拠 点 を 突 き 止 め る 程 の 情 報 収 集 能 力 を 持 つ 人 物 だ ⋮⋮。 が新たに開発したのか⋮⋮ る⋮⋮。人が直接操作しているかの様だ。初めて見る機体だが、皇神 侵入者は皇神の兵器の様に見えるが、それにしては動作が自然すぎ 窺わせる。 銃が取り付けられていて、戦闘のために開発された物だということを 印象を与えるようなメカだ。右腕はブレードになっており、左腕には 学銃をシアンへと向けていた。がっしりとしていて、見る者に力強い こちらが銃を向けると同時に、相手も左腕に取り付けられている光 ﹁動くな⋮⋮何者だ﹂ すぐさま体勢を整えて銃を侵入者へと向ける。 アンとその場を飛び退いた瞬間、轟音と共に拠点の壁が破壊された。 幾度となく遂行した任務で培われた勘が警鐘を鳴らす。咄嗟にシ ! ? 迂 闊 に 動 く の は 危 険 だ ⋮⋮。彼 女 を も う 傷 つ け た く は 無い⋮⋮ ! キミが推測しているであろう ? キミへ宣戦布告に来たよ﹂ 能力者である紫電を倒し、真にこの国最強の第七波動能力者となった 基地の兵士共を焚きつけて準備も終わったから⋮⋮。皇神最高の 通り、皇神の兵さ。 ﹁検討はついているんじゃないかな ﹁何者だ、と訊いているんだ⋮⋮。答えろ﹂ だ。 機体の顔にスピーカーが付いている。そこから声を発している様 ヴォルト、といったところなのかな﹂ ﹁突 然 の 襲 撃 だ と い う の に、随 分 と 早 い 対 応 だ ね ⋮⋮。流 石 は ガ ン ! 2 ! !? !! 全ての宝剣を解放した紫電を倒すとは思わなかったな、と緊張感の ﹂ 無い語調で語っている敵。 ﹁宣戦布告だと⋮⋮ ・ それにしては言動が妙だが⋮⋮。 最強の称号を手にし、世界にボク自身の力を知らしめてみせる ﹂ ものか⋮⋮ ﹁そんなことはさせない⋮⋮ お前はボクが必ず打ち倒す﹂ 継ぎ、責任を全うしなければならない。こんなヤツに、負けてたまる 相手の目的がなんだろうと、ボクには使命がある。彼の言葉を受け コイツはただの戦闘狂なのか んだ⋮⋮ る ならば、キミを倒すことが出来ればボクこそが最強の能力者となれ 良くも悪くもね。 ﹁ああ。キミはこれから能力者を巡る時代の中心となるだろう⋮⋮。 ? のボクだ﹂ 敵機の銃が発光している ﹁GV││﹂ ﹁シアン││﹂ ﹁遅いよ﹂ マズい⋮⋮どうする ! た。 サイバーディーヴァ そ の 光 ⋮⋮。電子の譜精 を 制 御 す る 技 術 を 応 用 グ リー ド ス ナッ チャー ﹁うぅっ⋮⋮ごめんなさい、GV⋮⋮﹂ ⋮⋮。十分な代物だ﹂ ただの見様見真似だから、電子の譜精を一時的に封じる程度だけど し、アキュラの対能力者特殊弾頭を擬似的に再現したものさ。 ﹁気 づ い た か い ? ない様だが、身体に紅紫色の光がまとわりついている。これは⋮⋮。 敵のことも忘れ、慌ててシアンに駆け寄る。どうやらケガはしてい !? ﹂ ﹁きゃあっ ! 大丈夫か ﹁シアンッ ﹂ に合わず⋮⋮。弾丸は発射され、吸い込まれるようにシアンへ命中し ボクへ手を伸ばしてきたシアンを庇うため、即座に動き出したが間 ! ﹁そう言うと思っていたよ、ガンヴォルト。勝つのはキミじゃない、こ ! ! ! 3 ? ! ! ﹁シアン⋮⋮ るよ﹂ ﹂ グリードスナッチャーの影響がボクにまで出ている⋮⋮ ト・ リー ダー た ま ダー ト ガ とがない。絶対に必要だという場面があまりなく、チャージが終わる ナーガはよく使っているが、チャージの機能は未だ任務で使ったこ ジをセットする。 のカートリッジだ。いつものごとく手入れした銃に、このカートリッ ることで貫通力を高められ、雷撃も同時に五箇所へ誘導できる万能型 性が変化する。ボクが愛用しているものは五頭龍といい、チャージす ナー 避雷針は使用するカートリッジによって、弾丸の性質や雷撃の誘導 よって雷撃を的確に当てる事が可能となる。 な金属でコーティングして作ったこの弾丸を、対象に撃ち込むことに D:T/LEADER。込 め る 弾丸 は 避雷針。自 身 の 髪 の 毛 を 特 殊 ダー 雷 撃 の 第 七 波 動 を 補 助 す る、 専 用 の 電 磁 加 速 銃 │ │ 粗方の用意は整った。装備の確認を始めよう。 ◆ ﹁くそッ⋮⋮逃げられたか⋮⋮﹂ 空を飛んで撤退していく。 ボクが動きを止めている隙に敵機は足裏からエネルギーを噴出し、 ! つく紅紫色の光に動きを止められた。シアンと同化させられた事で、 退こうとするコーベットに向かい攻撃しようとするが、身体に絡み ﹁待てッ ﹂ 制する者を決めようじゃないか。相応しい場所を用意して待ってい コーベット。第二陸上基地に来い、ガンヴォルト。これからの時代を ﹁さ て、用 は 済 ん だ。そ ろ そ ろ 失 礼 さ せ て も ら う よ。ボ ク の 名 前 は うのは事実のようだ⋮⋮。 つものような第七波動の高まりを感じない。能力を封じられたとい 苦痛に声を上げながら、彼女がボクの身体へ沈んでいく。だが、い ! ま で 待 つ な ら ば 他 の 手 段 を 使 っ た 方 が 早 い こ と が 多 か っ た か ら だ。 4 ! この機能は便利だ、有効に扱いたいな⋮⋮。 D N A 常に付けるようになった両目のコンタクトは、視覚から精神に作用 し 様 々 な 効 果 を も た ら す 特 殊 な 物 だ。ボ ク の 能力因子 が 生 み 出 す Electric Psyco エネルギー ││EPエネルギー。 第七波動を使うために必要不可欠なそれの消費を抑える﹁抑制のレン ズ﹂と、EPの最大値を増やす﹁鳴神のレンズ﹂を装備している事を 確認する。 ﹁EPエネルギーの残量には気をつけろって忠告されていたな⋮⋮ア シモフ⋮⋮﹂ 感傷に浸っている暇は無い⋮⋮。準備を続けよう。 右手に光るのは第七波動を高める特殊な霊石や金属で出来た﹁セラ フリング﹂。空中での跳躍と移動を可能とする指輪だ。 シアンが作ってくれたペンダントを首にかけて行きたいが、これ以 上損傷すると完全に壊れかねない⋮⋮。懐に大事にしまっておこう 5 か。 シアンの想いの結晶であるこのペンダントは、彼女を守れなかった ボクを激しく責め立て鼓舞してくれる。今の精神状態でなんとか戦 うことが出来るのは、アシモフの言葉とシアンの存在を支えとしてい るからだ。第七波動を強化する効果がなくとも、持っていくべきだろ う。 身体の調子も万全だ。擬似グリードスナッチャーによるボクへの 影響は一時的なものだった様だが、シアンは未だに出て来る様子が無 い。今の彼女はとても不安定な存在だ。深刻な影響が無い事を祈る しかないか⋮⋮。 ﹂ 出撃の用意は整った。第二陸上基地へ向かおう。 ﹁ヤツの思い通りにはさせない⋮⋮ ◆ 総員、迎撃用 ! ! ガンヴォルトが来たぞ ! ﹂ ﹁ガ⋮⋮ガンヴォルトだ 意 ! ﹁皇神の意地を見せてやる ﹂ ﹂ ダッ 覚悟しろ、ガンヴォルト ﹁邪魔だ⋮⋮道を開けろ⋮⋮ ! ツは一体どこで待ち構えているのだろうか⋮⋮。 この声は⋮⋮。 ﹃鮮やかだなぁ。蒼き雷霆サマはやっぱり凄いね ﹂ ! ﹁ふざけるなッ ﹂ よ。⋮⋮紅茶でいいかい それともコーヒーがいいかな シュ ﹄ ﹃ようこそ、ガンヴォルト。ボクに出来る最高のもてなしで歓迎する ﹁コーベット⋮⋮ ﹄ 鱗によるホバリングでゆっくりと着地し、基地の中を駆けて行く。ヤ 激しい衝撃に声を上げ、昏倒していく兵士達。それを尻目に、雷撃 向かい、兵士の武装を弾け飛ばす。 雷撃鱗を展開して雷撃を放出。連なる雷撃が撃ち込んだ避雷針へと ライゲキリン いのまま大きく跳躍する。兵士とのすれ違い様に、電流の障壁である バリア 立ち塞がる兵士に避雷針を連射し、第七波動の力で加速移動した勢 ! ! ? ? ご苦労なことだ。 ? てるから、早く来てねー﹄ べらべらと、よく喋るヤツだ⋮⋮ 決意を再確認し、再び走り出す。 た⋮⋮。絶対に許すわけにはいかない⋮⋮ ! ﹁挟撃か⋮⋮ ﹂ の行く手を阻んだ。 最奥へと向けて進んでいると、突然前後にシャッターが降りてボク ! アイツはシアンにも手を出し ﹃キミの様子はカメラを通して見てるよ。ボクは最奧のエリアで待っ ている⋮⋮。わざわざ設置したのか 基地内のあちこちに設置されているスピーカーから話しかけて来 ! れを躱しながら、前方と背後に避雷針を撃つ。充填のために一時的に 砲門が展開され、前後別々のタイミングでビーム弾が撃たれる。そ い。 撃ってくるが、攻撃が単純なため注意していれば然程の驚異では無 こ れ は ⋮⋮ 防 衛 シ ャ ッ タ ー だ。備 え ら れ た 光 学 銃 で ビ ー ム 弾 を ! 6 ! ! ルー ティー ン 銃撃が休止したタイミングを見逃さず、雷撃を放出して二つのシャッ ターを同時に破壊。 精神集中する為に自己暗示の型をとり、消費したEPエネルギーを 回復して進んでいく。 ダッ シュ 前方に作動しようする防衛シャッターを複数発見。ごく僅かな時 間だけ第七波動で身体に負荷をかけ急激に加速する事で、シャッター が降りきる前に次々と走り抜けていく。 ⋮⋮この辺りの防衛シャッターは全て越えられた様だ⋮⋮。先へ 行こう。 │││││││││││││││││││ マンティスレギオン⋮⋮発進 ぶちか ﹃うーん⋮⋮やっぱりこの程度の仕掛けじゃダメか⋮⋮。じゃあ兵士 ﹂ よし、行くぞ さん、アレを出しちゃおうよ﹄ ﹁了解 ましてやれッ ! ﹂ ﹁こ の レ ー ザ ー ⋮⋮ 第 九 世 代 戦 車 か か ま わ な い そ ん な 玩 具、 よく跳ねる。雷撃鱗で滞空し、レーザーを飛び越えた。 しいだろう。床を強く踏みしめてダッシュ、その速度を活かして勢い レーザーが飛来してきた。通路の幅は狭い⋮⋮。横に避ける事は難 並み居る兵士や兵器を突破し、長い通路を突き進むボクに向かって │││││││││││││││││││ ! ! ⋮⋮ 以前には無かった角があり、カラーリングもやや変わって る。そこを攻撃すれば倒せるだろう。 ると、非常冷却が作動してコアが上部に押し出されるという弱点があ ギミック など厄介な機体だ。無人型の第九世代戦車は頭部にダメージを与え 搭載していたり、バルカンをジャンプで回避した瞬間レーザーを放つ コイツの相手はこれで五度目⋮⋮。ビームを内蔵したミサイルを 広間に出ると、前方から改良型の赤い第九世代戦車がやって来た。 ﹃蒼き雷霆が、ね⋮⋮。ふーん⋮⋮やれるものならやってみなよ﹄ 何度でもボクの蒼き雷霆が打ち砕く ? ! 7 ! ! ? いる様に見える⋮⋮。 ジェネレーションナイン その速度は、通常型のマンティスの三倍⋮⋮。 ﹃それは改良を加えた無人型の第九世代戦車を、さらに改造した特別 製だ 第九世代戦車の弱点である頭部にキミが幾ら攻撃しようが、当てら マンティスの両肩にあるフタが開き、誘導ミサイルを れなければなんてことないのさ﹄ ││来る ザー で時間がかかるよう、軽快に何度も跳ね続けるマンティスから離れた あの大きさに潰されてはひとたまりもない。跳んでから着地するま 躍 し た マ ン テ ィ ス の 下 を く ぐ る 様 に ダ ッ シ ュ し て 攻 撃 か ら 逃 れ た。 体躯でこちらを押し潰そうとしてくる。ボクは雷撃を放ちながら、跳 敵機がしゃがむ様な予備動作を見せた直後に大きく跳躍。巨大な エネルギーを回復した後にすかさず雷撃を叩き込む。 レーザーが放出された。訪れた僅かな隙で自己暗示の型をとり、EP 雷撃鱗を解除して着地する。直後に、開かれた口部から宙に向けて きた。 な 状 態 を 狙 っ て 高出力輻射式増幅光砲 を 撃 つ 為 の 事 前 動 作 が 確 認 で レー たれるバルカンを雷撃鱗による滞空で避けていると、空中での無防備 硬直が終わり、マンティスが動き出す。両腕部から地に向かって放 く変化した様には見えない。この調子なら問題なく倒せるだろう。 元々の三倍というだけの速さはあるようだ。だが改良型から大き 開し、三重の雷撃を対象へ当て続ける。 のだ。マンティスの頭部に避雷針を素早く三連射。再び雷撃鱗を展 せた。低い位置からでは、避雷針が刺さる装甲の隙間が見つけにくい 空中でジャンプする事で、高い位置にある弱点へ正確に照準を合わ クは、危なげなくそれを回避。攻撃後に出来る硬直を狙う。 ビーム弾がミサイルの軌道のままに迫って来るが、既に動いていたボ 鱗に触れたミサイルが壊れ、内臓されていたビーム弾が露わになる。 発射してきた。ボクはゆっくりと移動しながら雷撃鱗を展開。雷撃 ! コ ア が 露 出 し た ⋮⋮。頭 部 に か な り の ダ メ ー ジ を 与 え ら れ た 位置を取っていく。 8 ! 様だ⋮⋮。コアを攻撃してマンティスに止めを刺すため大きくジャ ! ンプし、頭の中で強く念じる。ボクの第七波動がそれに反応して、解 イ ト ニ ン グ ス フィ ア ﹂ スペシャルスキル 放される時を待ちかねているようにうねり荒れ狂う。 天体の如く揺蕩え雷 ラ 是に至る総てを打ち払わん ﹁││LIGHTNING SPHERE 第 七 波 動 を 応 用 し た 技 の 中 で と り わ け 強 力 な 必 殺 技 │ │ ボ ク が 使うそれらの中でも消費の少ないライトニングスフィアを発動した。 スペシャルスキルは繊細なコントロールと第七波動の高い出力を要 ・ ・ ・ ・ 求されるので、精神力と体力を激しく消耗するというリスクがある。 そのため自分で決めたキーワードを念じ、技名を叫ぶことでスイッチ を入れて反動を小さくしているのだ。 雷撃鱗を凌駕するパワーを込められた巨大な三つの雷球が、ボクの 周囲を旋回しながらコアにヒットして完璧に打ち壊す。 コアが破壊された影響でマンティスが内部から連鎖的に爆発を起 ライトスピード こし、やがてバラバラに崩壊した。 ﹁││撃破完了﹂ は や スピード ﹃そういえばキミ、あの〝 残 光 〟のイオタも倒してるんだったね ⋮⋮。あれほどの光速さに打ち勝ったのなら、この程度の速度は意味 を成さないか⋮⋮。改造する際に速さを重視したのは失敗だったよ、 まったく﹄ 嘆 息 す る 様 子 の コ ー ベ ッ ト。耳 を 貸 さ ず に 進 む の が 賢 明 だ ろ う。 有益な情報を出すとも思えない。 でもそうすると、作るのが難しいし仕 ﹃開発段階で計画してたように、ミサイルに内蔵したビーム弾が敵を 追尾する方がよかったかな 方ないか。 進むんだね。次の仕掛けを用意しておいてあげるからさ﹄ 道を阻むように設置されている、皇神のセキュリティバリア装置、 ゲートモノリスを破壊して先へ進む。ヤツの元へたどり着くには、も う少しだけ時間が掛かりそうだ⋮⋮。 9 !! まあいい。ともかく、早くゲートモノリスを破壊して次のエリアに ? ◆ エリアを越えても、未だ敵の勢いは衰えない。 無傷でかなりの敵を倒し続ける事でボクの調子は上がっているけ れ ど、シ ア ン の 祈 り に よ る 歌 声 が 聴 こ え な い。普 段 な ら、調 子 が 上 がって強まったボクの第七波動に電子の譜精が共鳴して、歌が届いて 来るんだが⋮⋮。 シアンの歌が聞こえないのは、おそらくコーベットに撃たれた弾丸 が ま だ 効 い て い る せ い だ。シ ア ン は 今 も ボ ク の 中 で 苦 し ん で い る ⋮⋮ 込み上げてくるヤツへの怒りを振り払う様に、より一層疾く駆け出 す。 一際広い部屋に出た。この様な場所では包囲される危険性がある。 警戒しながら部屋の中央まで行くと、警報装置が作動すると共に天井 から兵士が続々と降りてくる。 部屋の出入り口は、避雷針が通らないほど強固なシャッターで閉じ られてしまった⋮⋮。先へ進む為にはまず、押し寄せる兵士を倒さな 戦闘部 ! ければいけないか。 ﹂ ﹁待っていたぞ、ガンヴォルト 飛んで火に入る夏の虫 隊、集中砲火だ ! バ リ ア 雷撃鱗 を 展 開。そ れ に 触 れ た ミ サ イ まだ部屋から出られないらしい。火炎放射装置を手にした兵が四 とってEPエネルギーを回復。隙だらけの銃兵達へ発砲、撃破する。 敵二人が光学銃のチャージを行っている間に、素早くルーティーンを ら 逃 れ る た め に 大 き く ジ ャ ン プ。弾 丸 が す ぐ 傍 を 通 り 過 ぎ て い く。 だ。今にもボクに命中する、という程に迫っている二発のビーム弾か ミサイル兵を倒すまでにかかった時間で、更に兵が来ていたよう ルを破壊し、指向性を持った雷撃が兵を倒す。 ボ ク に 実 弾 は 通 じ な い ⋮⋮ ! ら発射された追尾性ミサイルがボクへと迫ってくる。だが無意味だ。 れた。即座に前へ三回、後ろへ二回避雷針を撃つと同時に、二方向か 一足先に降りてきた、ミサイルランチャーを装備した兵二人に挟ま ! 10 ! 人、ボクを包囲するように降りている。この兵は危険だ⋮⋮ いつの間にか、上空に浮遊砲台が来ている して躱す⋮⋮。 ⋮⋮ 攻撃 砲台が真横 で問題ない。セラフリングの強化により、空中で二度目のジャンプを 中させて対処する。残る二人が火炎を放ってきたが、予想していたの 四人が一斉にチャージを始めた。まずは間近な兵二人に雷撃を命 範囲が広いため、急いで対処しないと燃やし尽くされてしまう。 ! 不意を衝かれた 慌てて空中で身を捩ると、間一髪で命中を免れ に撃ったレーザーがボクの頭上で止まり、垂直に落ちてくる。完全に ! 締めよう。 ◆ 真っ暗な部屋だ⋮⋮。全く光が無い。本当にここに居るのか ﹁やあやあ、よく来たねガンヴォルト ﹂ れた。反射的に両腕を交差させ、目を守る。 不意打ちを警戒しながら歩いていると、突然部屋中が眩い光に包ま ? ゲートモノリスを発見。そろそろ最奥だ。戦いに備えて気を引き ⋮⋮。 敵の接近に気付けないとは、いつの間にか油断していたみたいだな が開いていく。 響いている警報装置を破壊すると、出入り口を塞いでいたシャッター 後 続 は や っ て 来 な い ⋮⋮。ど う や ら 終 わ っ た よ う だ。天 井 で 鳴 り 撃破した。 る。雷撃で浮遊砲台を爆破して着地、再び火炎放射をされる前に兵を ! ヤツを見た途端に沸々と怒りが湧いてくるが、なんとか抑えて冷静 ﹁そうだよ。全く、待ちくたびれたなぁー﹂ ﹁⋮⋮お前がコーベットか﹂ だ。 立っているのを視認できた。先の閃光と同時に明かりを点けたよう 光が治まったのを感じて目を開けると、部屋の中心に一人の少年が ! 11 ! になる事を意識する。油断して隙を晒す真似はしてはいけない。ま ずは注意深く観察しよう⋮⋮。 背丈はボクと同じ位、年齢も大して変わらないだろう。今までの能 力者と同じ様に、皇神の制服を着ている。見たところ武器は所持して いないみたいだ。周りに兵が潜んでいたり、罠がある気配も無い。 宝剣の解放が始まる前に勝負をつけたいが⋮⋮。避雷針を撃ち、雷 撃を当てるには少し距離がある。誘導の対象からあまり離れると、雷 撃が避雷針へ向かわないのだ。動きを悟られぬよう、ゆっくりと慎重 暗闇の中から攻撃したり、光で に近づこう。会話でもして注意を逸らすか⋮⋮。 ﹁⋮⋮どうして隙を突かなかった 目をくらましている間に宝剣を解放することが出来たハズだ。ボク を殺したいのならば、そうするべきだろう﹂ ボクの問いを聞くと、ヤツは逡巡する様子を見せる。数瞬の間が空 き、先ほどまでの軽い口調とは打って変わって、暗く沈んだ声でコー ベットは語り出した。随分と様子が違う⋮⋮。この落ち込んだ雰囲 気が素のようだ。 ﹁ボクは、この世界はもう終わりだと悲嘆しているんだ。皇神が絶対 的な力でなくなった今、国内の能力者が叛乱を起こし始めている。今 起こっているような暴動も次第に激しくなり、手がつけられなくなる だろう。国外の大規模な能力者の組織が、何やら不審な動きをしてい るという話もある。破滅はもう避けられない。 そこで、最強の第七波動〝蒼き雷霆〟をこの手で倒したいと思っ た。ボクが蒼き雷霆を上回っていることを世に証明できれば、もう心 残りは無くなるからね。後悔すること無く、良い気分で死ねる。 そんな自 不意打ちしなかったのはそういう理由だよ。正面から打倒しなけ れば意味が無い﹂ 本当に、ただボクに勝ちたいだけなのか⋮⋮こいつは 己満足のためにシアンを傷付けて⋮⋮ ? ﹁キミも待ちきれないみたいだし、そろそろ戦おうか﹂ て一言呟いた。 話し終えたのか深くため息をつくと、コーベットはボクの足元を見 ! 12 ? ││やはり気づかれるか 八かで攻撃するしかない 間に合うか⋮⋮ 蒼き雷霆⋮⋮ 身 の余波で弾かれ ﹂ !? さ﹂ プロジェクト・ガンヴォルトの生き残りだと⋮⋮ !? アシモフの言葉が ! ラクのようなタイプの能力者か は、先ほど襲撃された時と同じものだ 直接的な攻撃力が無い、メ いて、彼方から飛んできた高機動武装鎧に乗り込んでいた。あの機体 アー ム ド スー ツ ハッと我に返り、ヤツに注意を向ける。コーベットが後ろに飛び退 間違っているとも思えない。どういうことだ⋮⋮。 では、生きた成功例は今やボクだけのハズ⋮⋮ アシモフの話 電子の狭間 〟。電 子 の 世 界 を 支 配 す る 能 力。蒼 き 雷 霆 の 成 り 損 な い サイバーバウンド ﹁当 た ら ず と も 遠 か ら ず っ て と こ ろ か な。ボ ク の 第 七 波 動 は 〝 ﹁その第七波動は⋮⋮まさか 戦闘態勢に入ったコーベットの周囲に、蒼い電光が迸る。 どさ⋮⋮﹂ たくないんだよね⋮⋮。宣戦布告の時は、頑張って元気だしたんだけ ﹁はぁ⋮⋮。いつにも増して気分が落ち込むから、宝剣はあまり使い てしまう。コーベットを注視したまま後退り、距離を取る。 かった。宝剣の解放を阻止できず、避雷針は 変 アームドフェノメノン 床を蹴り出し、相手へと向かいながら避雷針を連射したがやはり遅 ? 接近が失敗した。宝剣は既にヤツの手元に転送されている。一か ! ! ! ﹁さあ、始めようガンヴォルト。キミの力を見せてもらうよ﹂ ! ﹂ を躱し、横へ飛んで距離を取る。崩れた姿勢で飛んだが、転がって衝 撃を受け流しながら体勢を直したので、後手後手になることは避けら れたか。 凄まじい速度の攻撃だ⋮⋮。自分を称賛したい程に素早い動きで 回避しようとしたが、避けきれず胸部を斬られてしまった。致命傷に 13 ! 宣言が終わったことを知覚した直後、目の前にブレードを構えた ぐッ コーベットが居た。 ﹁││ ! 反応は自分でも驚くほどに速かった。むりやり身体を反らして刃 ! な る 程 で は な い が、あ の 速 度 で も う 一 度 攻 撃 を さ れ る と ま ず い な ⋮⋮。この怪我では、次は凌げない。 突 進 し て く る 直 前 に ヤ ツ の 脚 が 蒼 く 光 っ て い た よ う に 見 え る。 アームドスーツの脚部にある推進装置に第七波動を使って驚異的な 加速を生み出しているのだろう。だが、襲撃から帰還していく際は今 よりもずっと遅かった。足裏ではなく脚部の装置を使った急激な加 速は、そう何度も出来るものではないらしい。連続して使用できるの ならば、距離を取ろうとしている間に接近されてボクは死んでいる。 ﹂ ヤツに迫りながら避雷針を五 ﹁⋮⋮ 今 の を 回 避 さ れ る と は 思 わ な か っ た な。終 わ り だ と 思 っ た の に﹂ 先の突進が再び来る前に攻める 連射。狙うは推進装置のある脚部だ。 ﹁無駄だよ。勝算も無く勝負を仕掛けるわけが無いだろう 避雷針は脚部へまっすぐ向かっていくが、アームドスーツの装甲に 当たった瞬間に弾かれてしまった。随分と頑丈だな⋮⋮。並大抵の 攻撃ではびくともしないと思われる。 ﹁その針さえ当たらなければ、キミの得意な雷撃は放てない。攻撃手 段の無い蒼き雷霆など脅威では無いね﹂ 左手から弾丸を連射しながら、足裏からエネルギーを噴出して浮 遊。ボクの周囲を飛び回り弾幕を張ってくる。 シアンを撃ったあの銃はもう取り付けていないようだ。あの銃で は、対電子の譜精の弾しか撃てないのかもしれないな。 雷撃鱗で弾丸を防ぎながら攻撃の機会を窺う。ただの武器ではあ の装甲に弾かれるだけだが、生憎この避雷針カートリッジは全てを貫 通する〝ナーガ〟だ。チャージが終わるのを待ちつつ、EP切れを避 つまんないな﹂ 14 ? ! けるために弾幕が張られにくいよう走り続ける。 ﹁ちょこまかと逃げるだけ ? 痺れを切らしたのか、弾を切らしたのか。弾丸を撃つのを止め、ブ ! レードを振りかざしこちらに迫って来た。銃のチャージは既に完了 ﹂ している。今が好機 ﹁⋮⋮貫けッ ! 如何に強固な壁でも容易く穿つ避雷針が一発、ヤツの右脚へ命中す る。雷撃鱗を解除し、EPエネルギーも回復し終えた。あの突進がい どうしてこの針が⋮⋮ ガンヴォルトの銃の威力は計算 つ出来るようになるか分からない。早く推進装置を破壊しなければ ⋮⋮ ﹁なに 通りのハズ⋮⋮﹂ 動揺しながらも、至近距離から右腕で数回斬りかかってきた。かな りのスピードと剣筋による攻撃だが、第七波動で強化された身体能力 にて紙一重で回避し続ける。 この連撃を長い時間躱しているのは困難だ。ボクの動きが鈍って いるのもあり、負う傷が徐々に深くなっている。後ろへ飛ぶ瞬間に加 速して飛距離を伸ばし、間合いを大きく取った。チャージしていた避 雷針を、滞空している間にもう一発撃ち込み雷撃を叩き込む。 避雷針の対策をされていたが、ナーガのチャージについては知られ ていなかったみたいだ。今までの任務で使わないでいた甲斐があっ たかな⋮⋮。 ﹁⋮⋮まさか、こんな隠し玉があったとはね。だが、この武装を貫通す る弾は連発できないようだ。それに、今のキミは傷を負っている。そ の身体で動くのは楽ではないだろう。そろそろトドメを刺してあげ るよ﹂ ⋮⋮体力や傷を回復するスペシャルスキルを使いたいが、あの技は 隙が大きすぎる。戦闘中に発動するのはまず無理だ。 かと言って一時的に身を隠すのもリスクが大きい⋮⋮。この傷で はあまり遠くまで動けない。すぐに追いつかれ、先の突進で殺される だろう。どうするか⋮⋮。 ﹁今のキミは俎上の魚⋮⋮。料理は得意なんだ。機動力を奪って歩み を止めた後、華麗に仕留めてみせる﹂ 足裏からエネルギーを噴射し、一気に接近してきた。ブレードによ る攻撃を何度も回避させ、少しずつ傷を増やしボクの体力を奪ってい くのが狙いか⋮⋮ 先の動揺が消えたからか、斬撃が一層激しくなっている。まずいな ! 15 !? ! ! ⋮⋮距離を取る隙が無い。仮に離れられたとしても、すぐに間合いを 詰められるだろう。一体どうすれば⋮⋮ ﹂ るように光学銃が現れた。 ﹁しまった⋮⋮ 一体何が起こった⋮⋮ ぼんやりとした頭で抱いた疑問は、すぐ クは、温かい液体で溢れた床に倒れ伏している。 うと共に、視界がぼやけ意識がもうろうとし始めた。いつの間にかボ 身を隠して回復するため再び動き出した刹那、激しい衝撃がボクを襲 弾は全てボクの身体をわずかに逸れていく。それを訝しみながらも こんな仕組みがあるとは 反射的に急所を守るが、発射された光 るようにして歩きだすと、周囲の壁や床、天井が開いてボクを包囲す どんな攻撃が来るか分からない。攻撃を避けるため身体を引きず 身から蒼い光が迸っている。第七波動による攻撃の前兆だろう。 反しコーベットは突進の構えを取らず、代わりにアームドスーツの全 わずかに迷い、ボクは勝つための行動を決めた。だがボクの考えに スペシャルスキルでの回復に掛けるしか道は無いか⋮⋮。 の体力だと反応することすらままならないだろう。リスクはあるが、 える。あれをまともに食らえば、今度こそ死は免れない。しかし、今 コーベットが一歩下がった。脚部の装置による突進を警戒して身構 息も絶え絶えになりながら必死に攻撃を避け続けていると、突然 ! か⋮⋮。 ﹁⋮⋮ガンヴォルトを、蒼き雷霆を、倒したのか ⋮⋮ ボクはまだ、倒れる、わけには⋮⋮シアン⋮⋮。 まずい⋮⋮。ヤツの声が遠のき、意識が暗闇へと沈んでゆく⋮⋮。 ! ? れでもう、比べる相手は居なくなる⋮⋮。ボクこそが、〝最強〟だ ﹂ ハ、ハハ⋮⋮。こ 動きを制限することで確実に突進による斬撃を当てるためだったの いるのを感じ取ったのだ。ボクの周囲にエネルギー弾を撃ったのは、 に氷解した。間近に、血塗れのブレードを構えたコーベットが立って ? 16 ! ! ⋮⋮⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ﹄ ⋮⋮闇の中、声が聴こえる気がする。彼女の、シアンの呼びかける 声が⋮⋮ ﹄ ﹃こんなところで終わらせない こえ ﹃あなたは死なせない⋮⋮ わたしが、あなたの翼になる⋮⋮ チカラ ﹄ この謡が、いつもボクを奮い立たせてくれた⋮⋮。シアンのためな ら、ボクは何度だって戦おう⋮⋮ ﹃立ち上がって⋮⋮GV シアンと一つに ! ソ ン グ オ ブ ディー ヴァ SONG OF DIVA なることで、ボクの第七波動が内から高まっていくのを感じる⋮⋮ シアンの歌が、ボクの身体を支えてくれる⋮⋮ ! ! ⋮⋮。 あなたがやられてから、まだ時間は経ってない。行こう、GV ﹂ ! みたい。気をつけて ﹂ ﹁GV、あの人はすぐ近くにいるわ。まだあなたには気が付いてない はここで倒さなければ⋮⋮。 ていた影響は無いのか確認したいが、今はそんな場合ではない。ヤツ 傍らからシアンが微笑みかけてくる。コーベットに力を封じられ あの人を倒さなくちゃ ﹁ううん、わたしこそごめんなさい。あなたの足をひっぱっちゃって ﹁ありがとう、シアン﹂ とを確認する。 パチリと目を開き、少し身体を動かして自分が万全の状態であるこ ! ! ! している。今のヤツからは警戒心が全く感じられない。油断してい 所には居なかった。歓喜に打ち震えるように、虚空を見つめて呆然と ボクを倒した余韻に浸っていたのか、コーベットはあまり離れた場 ! 17 ! ! ! る今がチャンスだ。 ど う し て お 前 が 生 き て い る ん だ、ガ ン 音を殺して背後に忍び寄り、チャージした避雷針を脚部へ撃つと同 時に雷撃鱗を展開する。 ﹁な ッ │ │ ど う し て ﹂ ! この能力で蘇ったのか⋮⋮ ! と蘇生できないよう、徹底的に斬り刻んでやる ﹂ ﹁わざわざ電子の譜精を封じたのに、結局こうなるとはね⋮⋮。二度 うだ。すぐに立ち上がり、構えた状態でこちらを見据えている。 スが崩れてコーベットは膝をつく。今の轟音と衝撃で我に返ったよ に取り付けられている推進装置が大きな爆発を起こし、機体のバラン ヤツが呆けている間にも、ボクは雷撃を放出し続けていた。両脚部 の中から出てくることすら不可能なハズ⋮⋮ ﹂ どうしてだ、能力は間違いなく封じた⋮⋮。暫くはガンヴォルト ﹁この第七波動の波長││電子の譜精 ツで顔が遮られていても分かるほどに動揺している。 と思えば、コーベットが微かに息を呑む音が聞こえた。アームドスー 時間が経過した後、ヤツのアームドスーツから何かの起動音が響いた た様子で取り乱す。ボクが死んでいると確信していたようだ。やや コーベットが攻撃の気配に気づいてこちらを振り返ると、愕然とし ヴォルト ! ! い込んでいる。推進装置が雷撃を受けていたので本人に届いていな の推進装置があった場所へ刺さった避雷針は、今もヤツの脚へ深く食 再び接近される前に、雷撃鱗を展開して雷撃を浴びせていく。脚部 てすぐに体勢を戻している。 る。ボクは蹴り飛ばした勢いで距離を取り、ヤツもまた空中で回転し コーベットの腹を蹴り飛ばし、がら空きの胴体へ避雷針を命中させ 体強化を強める。 けて回避。直後にボク自身へ負荷を掛けて一時的に第七波動での身 た。正中線を目がけて勢いよく振るわれるブレードを、身体を横へ傾 エネルギーを足裏から噴射して、ボクを剣の間合いへと入れてき かげで壊せたのは僥倖だ。傷も癒えた⋮⋮今度は全力で戦える。 脚部の装置による突進という懸念要素を、隙を曝していてくれたお ! 18 ! ! かったが、それも先ほどまでの話だ。避雷針が当たった両脚と胴体 へ、三条の雷がコーベットを襲う。 ﹁ぐぅっ⋮⋮。万全の状態で、しかも電子の譜精の加護を受けている ﹂ 話を聞く限り、皇神への忠誠 キミはやはり強いな。だがボクは勝つ。勝たなきゃいけない⋮⋮ ⋮⋮何故こうまでボクに執着する 心から復讐のために戦っているわけでもない。 ﹁⋮⋮一つ訊きたい。蒼き雷霆の成り損ないとはどういう意味だ プロジェクト・ガンヴォルトの生き残りはボクしかいないハズだろ う﹂ 雷撃を止め、いきなり話し出すボクにコーベットは怪訝そうな視線 を向けるが、問いの内容を聞くと納得したように頷く。 ﹁確かに、蒼き雷霆の能力者を作り出す実験で生きた成功例は既にキ ミだけ。ボクはなんなのかというと、文字通り成り損ないだよ。ボク の第七波動は、電子機器へ干渉して操るだけの能力。 電子を司り、雷撃や身体強化による高い戦闘力を持ち、ハッキング ニセモノ まで意のままにできるという汎用性を誇るキミとは違うのさ。ボク の能力は、蒼い電光という見かけだけは立派な虚栄だ﹂ ヘラヘラと軽薄な、しかしどこか陰を感じる笑みを浮かべて答えだ した。今のヤツからは、皇神の能力者特有の妙な雰囲気を感じる。 ﹁だからこそ、キミを倒して自身の実力を世界に示したい。キミの首 ガ ン ヴォ ル ト を世に曝し、能力者の頂点が居なくなったと知らしめるんだ 生き方だろ ﹂ そんな絶頂の気分のまま、この絶望的な世界から去るんだ。最高の らしい気持ちになるよ。 す。それらを間接的に動かしたのは全てボク。想像するだけで素晴 情 勢 は 混 乱 し、立ちはだかる難敵 が 居 な く な っ た 各 勢 力 は 動 き 出 ! のだろう。プロジェクト・ガンヴォルトの後遺症なのか 皇神の被 ボクはヤツを決して認めるわけにはいかない。アシモフから託さ の青年と違い、自分の意思で無駄な争いを起こそうと企んでいる。 害者だと考えると哀れにも思えるが、こいつはエリーゼや薬理研究所 ? 19 ! ? ? 完全に錯乱している⋮⋮。ヤツの中では、もう世界は破滅している ? ・ ・ いたずらに れ、シアンが存在しているこの世界には、まだ価値があるのだから。 ﹁お前がどんな経歴で、どんな思いを抱えていようと アー ム ド ブ ルー 諦観に満ちた咎人を斬り裂く、一閃の雷剣と 世を乱さんとし、シアンを傷付けたことをボクは絶対に許さない ﹂ 迸れ、蒼き雷霆よ なれ ! ! 狙いを定められる前 ! ﹁嘗めるなッ ﹂ 撃をさらに強める。 と電気によるショックで動きが止まったところで、避雷針を当てて雷 に雷撃鱗を展開し、シアンの力でより強力になった雷撃を放つ。痛み た。だが、ヤツの攻撃はもう喰らわない⋮⋮ ベットに向けると、ヤツも同時に左の掌からビーム弾を撃とうと構え 既に避雷針のチャージは完了している。下ろしていた銃口をコー いく。 表れ。ボクの感情に呼応し、体内の能力因子がふつふつと熱を帯びて 口にしたのは、覚悟の証。眼前の敵を必ず退けるという強い決意の ! けるような音が部屋中に響き渡っている。 奔った。その輝きは、この戦いで見た中で一番力強く、バチバチと弾 コーベットが怒号をあげると、アームドスーツの全身に蒼い電流が ! ﹁注意して、GV あの人の第七波動が、どんどん激しくなってく ﹂ ! フィールド を守る電磁場の 膜 を厚く、硬くしていく。コーベットが両腕を前に 向けると、身体中からミサイルが飛び出した。不規則な軌道でボクに 向かってくる弾を雷撃鱗で破壊すると、勢いよく煙が噴き出す。 煙 幕 か ⋮⋮。冷 静 に 対 処 す れ ば 問 題 は 無 い。膜 の 形 状 と 大 き さ を 変化させ、広い範囲を覆って攻撃を感知しやすくする。膜の内側に何 かが入れば、見ること無く認識出来るのだ。 ヤツが背後に忍び寄っているのを感じ、振り向きながら身体を深く 沈めた。頭の上をブレードが掠めていく。 コーベットは攻撃があっさり避けられたことに動揺しているよう だ。視界が遮られていても、ヤツの動きは手に取るように把握できて 20 !! 警戒を促すシアンの声に、ボクの勘も同意する。攻撃に備えて身体 ! いる。反撃に胴体へ避雷針を撃つと、攻撃を当てられないことに焦っ たのか斬撃に銃撃も交え始め、追撃が苛烈になった。 ⋮⋮やはり先の怒号から、ヤツは迅さを増している。自分の能力は 電子機器を操ることだと語っていた。ボクよりもハッキングや精密 な操作に長けているのなら、アームドスーツを操り限界以上に性能を 引き出すことも不可能では無いかもしれない。 常に感知範囲を広げているため、EPエネルギーが少なくなってき た⋮⋮回復を急がなければ。右腕から振るわれる袈裟斬りを、グリッ プを逆さまに持ち銃身で防ぐ。一瞬だけ雷撃の出力を強め、ヤツの第 七波動によるコントロールを阻害してから離れる。コーベットの第 七波動も電子に関するものだ。強い電撃を与えれば、ヤツの電流が乱 れて能力が使いにくくなるだろう。 予想通りアームドスーツの操作に異常をきたして、上手く動けてい ないようだ⋮⋮今の内に、消費したEPエネルギーをチャージする。 ﹂ ﹁ボクが、ガンヴォルトに劣っているだと⋮⋮。そんなハズは無い そんなこと、認められるものか りと立ち上がり、誰にともなく虚ろな叫びをあげている。しばらく喚 ニュ ピ レ イ ト ス ト リー ク き散らした後、再びボクを見据えてきた。どろりと濁り、絶望しきっ たような眼だ。 ﹁幕を閉じよう⋮⋮﹂ 轟くは支配者の呼び声 響くは蒼き世界への怨嗟 マ 数多の電子よ境界を超えて従属せよ 第七波動を強めていたのは、こ ! ・ は今までのようなビーム弾ではなく、線であるレーザーだ。上体を傾 けてこれを躱す。 21 ! アームドスーツの動きを取り戻したのだろう。幽鬼のようにゆら ! ﹁MANIPULATE STREAK﹂ ヤツの、スペシャルスキル││ ﹂ の為でもあったのか ﹁GV、避けて ! シアンの声と同時に、床から現れた光学銃が放たれる。撃たれたの ! 気がつくと、ボクの周囲の床や壁が光学銃で埋め尽くされていた。 四方八方をヤツに囲まれた形だ。立て続けにレーザーが撃たれる中、 時々ミサイルが飛んできて煙幕が張られる。 良くない状況だ。いくら周囲を感知できると言っても、蜘蛛の糸の ように張り巡らされたレーザーを避け続けるのは難しい。判断を間 違えて、放出されているレーザーに突っ込んでいけば身体が真っ二つ になるだろう。EPエネルギーが切れれば、電磁場の膜で攻撃を感知 することも出来なくなる。コーベットを直接叩くのが得策か。 ﹂ ﹁あの人は少し離れたところで力を溜めてるわ。これほどの膨大なエ ﹂ ﹂ ネルギーを食らったら、わたしでも支えられない⋮⋮ GV、急いで ﹁大丈夫だよ、その前に倒す。ヤツはどっちにいる ﹁⋮⋮あっちに居るよ ? ! ﹁消し飛べ││ ﹂ ていた。針に糸を通すように正確に、レーザーの隙間を縫って走る。 レーザーが向かってくるが、撃たれる前に角度とタイミングは把握し あまり時間は残されていないようだ。行く手を阻むように辺りから シアンが指した方向へと急いで駆ける。彼女の焦り方からすると、 ! 出る。しかし、もう攻撃の準備は終わっていたようだ。かつて無いほ どのエネルギーが、アームドスーツの左掌から放たれた。 視界が白く塗りつぶされるほど大きな光の塊が、ボクを呑み込まん と迫ってくる。シアンの加護を以ってしても、躱すことも耐えること も不可能。ならば、やるべきことは一つ。身体の底から活力を引きず ク ﹂ カ リ バー ﹂ り出し、全身に第七波動を漲らせる。想像するのは、総てを打ち破る 蒼き剣。 アー ム ド ブ ルー ﹁迸れ、蒼き雷霆よ 煌くは雷纏いし聖剣 パー 蒼雷の暴虐よ敵を貫け ス ﹁││SPARK CALIBUR ザ ー を 両 断 す る。避 雷 針 を 通 さ ぬ 強 固 な 武 装 鎧 な ど 意 に も 介 さ ず、 剣として現れ出で実体を持つほどに強力な雷が、ヤツの放ったレー !! ! 22 ! 雨のように入り乱れるレーザーを潜り抜けコーベットの前に飛び ! コーベットもろとも斬り裂き穿つ。 この技は体力の消耗が大きいため、持続させられる時間がとても短 い。役目を終えた剣が霧散していく。 ﹁無念だよ⋮⋮﹂ 光が搔き消えて視界が元に戻ると、ヤツの最期の声が耳に入った。 皇神の能力者は宝剣と融合して能力を使う。身体にダメージを受け ると、宝剣も同じだけ損傷するということだ。上半身を貫かれれば、 もはや耐えられない。 限界を超えたダメージを受けて、それを処理しきれなくなった宝剣 が能力者ごと爆発を起こす。宝剣だけが解放前の剣の形に戻るが、雷 撃鱗に触れると粉々に砕け散った。 宝剣さえ壊せば、敵が生き返るようなことは起きないだろう。戦い が終わって安堵し、力が抜ける。だが、ここは敵の基地だ。休んでる ﹂ 暇など無く、急いで脱出しなければいけない。 シアン ノイズが走り、薄れているように見える。 ⋮⋮そういえば、アメノサカホコでシアンの力を借りている時はE Pエネルギーが減ることは無かった。ずっと無理に能力を使ってい たのか⋮⋮ 薄れるまでに無理をさせてしまうなんて⋮⋮ 手は決して離さない。例えどんな争いに巻き込まれようと⋮⋮。 彼女を守れるのはボクしか居ないんだ。ボクの魂が離れても、この ! アンを守れなかった⋮⋮。撃たれることを防げないばかりか、存在が シアンが疲弊した様子で、ボクの内へと戻っていく。ボクはまたシ でいて⋮⋮﹂ ﹁いや、シアンのせいだなんて思ってないよ。大丈夫だ、安心して休ん ﹁ごめんなさい、GV⋮⋮。わたしのせいで、またあなたを⋮⋮﹂ ! 23 ﹁うっ⋮⋮﹂ ﹁ ! 移動しようとすると、突然彼女の苦しむ声が聞こえた。姿もどこか ! シアンの日記 夕陽が徐々に沈んでいき、空が淡い茜色に染まる。海面に反射する 陽光に浜辺が照らされていく中、二つの影が寄り添っていた。 ﹁GV、あなたとここへ来れて良かった⋮⋮﹂ ﹁ボクも、キミと旅行に来れて嬉しいよ、シアン﹂ 向かい合う少年と少女││ガンヴォルトとシアンが、熱い視線を交 わしている。GVがシアンに微笑みかけた。彼女の顔が熱を帯びて いき、胸が激しく高鳴っていく⋮⋮。 ﹁顔を背けないで⋮⋮。キミの表情を、もっと見せてほしい﹂ 羞恥に耐えられなくなったのかシアンが俯いていると、頬に手が添 えられ、その顔を彼へと向けさせられた。 ﹁は、恥ずかしいよ⋮⋮GV⋮⋮﹂ 子から転げ落ち、真っ赤な顔であたふたとし始めた。また驚かせてし GV ﹂ まった⋮⋮。今度からは物音を立てた後に話しかけるようにしよう。 ﹁どどど、どうしたの !! て⋮⋮。驚かすつもりは無かったんだ、ごめんよ。ただ声をかけただ ﹁いや、鼻歌を歌いながら楽しそうに何かを書いていたから気になっ かマズいことをしてしまったんだろうか。 ノートを隠すように持ちながら、激しい剣幕で問いかけてくる。何 ! 24 シアンが潤んだ瞳で訴えかけるが、GVが気にする様子は無い。抵 抗をする気が無いと分かっているようだ。次第に彼女の表情が、何か を期待するものへと変わっていく。 ﹁シアン⋮⋮照れているキミも可愛いよ﹂ シアンがそっと目を閉じ、無言で懇願している。GVが彼女を抱き ﹂ 寄せ、顔を近づける。そのまま、二人は口づけを││ ﹂ ﹁シアン、何してるんだい ﹁きゃああっ ? 机に向かっているシアンに声をかけると、彼女はノートを抱えて椅 !? けだから、心配しないで﹂ 彼女はボクの言葉を確かめるようにうなずくと、深呼吸を始めて落 ち着きを取り戻した。 その事を日記に書いてたら、段々と楽しみに ﹁う、ううん。大丈夫⋮⋮。あ⋮⋮あの、今度旅行へ行くプランを二人 で練ってるでしょ ﹁ う⋮⋮うん メなんだって わたしもすごく楽しみ 他にも、 ﹃遊園地﹄って場所に行くのとか映画を観に行くのがオスス あのね、この前テレビの特集で、すごくきれいな海が映ってたの ! んだ。だからシアンとの旅行、楽しみにしてるよ﹂ ﹁そうか⋮⋮。実はボクも、あまりそういうものに行ったことが無い 由なんだから⋮⋮。 う。色々な場所へ連れていってあげたいな⋮⋮。ボクたちはもう、自 われていた。見たことの無い景色を見るということが新鮮なのだろ 照れくさそうに話してくれる。⋮⋮彼女はずっと、皇神によって囚 なってきちゃったんだ⋮⋮。え、えへへ⋮⋮﹂ ? ! ことは、申し訳ないけれど⋮⋮。 ﹁⋮⋮ で も、G V は 明 日 ミ ッ シ ョ ン に 行 く ん で し ょ ⋮⋮ 帰ってきてね⋮⋮﹂ 無 事 に べられるなら安いものだ⋮⋮。フェザーの皆に迷惑をかけてしまう る。皇神の追っ手に見つかる危険性も多少あるが、彼女が笑顔を浮か シアンはとても楽しそうに、旅行や最近のことについて話してい ⋮⋮﹂ この間は、おまけなのに一万円もする栄養ドリンクなんて物があって ついても、色々調べてるの。アジフライの美味しい作り方とか⋮⋮。 それと、GVのために早起きしてお弁当作るつもりなんだ。料理に ! 何もしていないと思っている節がある⋮⋮今もそう感じているのか してくれているのだろう。彼女は、自分が守ってもらっているだけで シアンは、さっきまでの明るさが嘘のように沈んでしまった。心配 んだ﹂ ﹁ああ。フェザーからの依頼で、皇神のデータバンク施設を襲撃する ? 25 ! !! もしれない。ボクはシアンにかなり支えてもらっているんだが⋮⋮。 ﹁⋮⋮ボクは大丈夫だよ、シアン。必ず無事に帰って来る﹂ ボクなりに励ましてみるが、シアンはまだ不安そうにしている。ど うすれば彼女の気分を晴らすことができるだろうか⋮⋮。 ﹁⋮⋮そうだ。また良い宝石を見つけたら、シアンにあげるよ﹂ ﹁い⋮⋮いいの あんなきれいなもの⋮⋮。もう六つも貰ってるの に⋮⋮﹂ ﹁うん⋮⋮。他でもない、シアンに受け取ってほしいんだ﹂ ﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮。GV﹂ 少 し 元 気 が 出 た み た い だ ⋮⋮。笑 顔 が 戻 っ て よ か っ た。物 で 釣 る 様なことしかできない、自分の無力さが恨めしいな⋮⋮。今度、モニ カさんにでも相談してみようか。少しからかわれそうだけど。 チラリと時計を見ると、日付けが変わろうとしている所だった。彼 女のため、明日は絶対に死ぬわけにはいかない。早めに眠って備えて おこう。 おやすみ⋮⋮﹂ ﹁ミッションがあるし、ボクはもう寝るよ。おやすみ、シアン﹂ ﹁うん あのノート⋮⋮確か前にも拾った物だ。ボクの事ばかり日記に書 いていた気がする。チラシにサインの練習を書いていた時よりも、凄 い剣幕で問い詰めてきていた⋮⋮。あれよりも見られたくないもの なのか⋮⋮ しないけど、少しだけ気になるな。 一体どんな内容をノートに書いているんだろう。もちろん覗きは ? 26 ? 自室に入り、一人考える。 ! 一角獣のある一日 デイトナの朝は早い││ 起きてー ﹂ 現在の時刻は午前四時。早朝に鳴り響く時計から、彼の一日は始ま る。 ﹁朝だよデイトナくん の じょ ﹁おはようモルフォちゃん 今日も素晴らしい朝だね ﹂ いかという勢いで跳ね起き、彼女の元へと全速力で向かう。 モルフォの美声が耳に入った瞬間に覚醒。ベッドが壊れるのではな か き る の は や や 辛 い の だ ろ う。し ば ら く 微 睡 ん で い た デ イ ト ナ だ が、 昨夜遅くまで仕事をしていた十六歳の少年にとって、この時間に起 ! ! サ ファンクラブ会員カードを取り出し、PCに接続した機器に読み込ま ク へ と 向 か う。紫 電 の 特 権 で 作 っ て も ら っ た、N o.0 の モ ル フ ォ 朝の挨拶を終え、毎日欠かさず行う日課の為にデイトナはPCデス いる今が夢なのか分からなくなるようだが。 時々、夢の中でモルフォが爆発したのかモルフォと幸せに過ごして り出しそうな勢いだ。 て、真面目に頑張っているのだろう。いつか巨人となって関西弁を喋 ていて、たびたび悪夢を見るようになった。夢が現実になるのを恐れ ちなみにデイトナは、この仕組みを説明する映像がトラウマになっ 好となった。 が組み込まれている。そのおかげでデイトナの勤務態度は非常に良 起こす映像と共に、ホログラム装置が木っ端微塵になるという仕掛け だが一度仕事をサボるとモルフォが別れを告げながら爆発四散を にとって正に夢のような装置が開発されたのだ。 結果、ホログラム映像のモルフォと四六時中過ごせるというデイトナ 仕事をサボりがちなデイトナのやる気を出そうと紫電が画策した をしているのは、紫電から報酬として与えられた特殊な装置だ。 エ あのデイトナがまるで好青年の様に爽やかな笑顔で清々しい挨拶 ! せる事で特別なページへアクセスする。 27 ! ﹁まったく、今日のシアンちゃんも最高だぜ ﹁デイトナくん お仕事の時間だよ ﹂ 寝顔も堪らないぜ⋮⋮﹂ ﹂ ラームのような音と同時に装置からモルフォが映し出された。 めつつ名無しにかわりましてブイ・アイ・ピーがお送りしていると、ア ながらおぞましい事を口にしているデイトナ。しばらくシアンを眺 さきほどの爽やかな笑顔はどこへやら。気色の悪い笑みを浮かべ ンちゃんはサイコーに胸キュンだな ﹁動いてるシアンちゃんも可愛いが、やっぱり機械に繋がれてるシア ている。 日あたり数ページも書かれている日記の数は、半年で数十冊にもなっ 毎日のシアンの様子と写真が載っていて、それを賛美する内容が一 しみにしているのだ。 像を紫電から提供してもらい、目の保養のために毎朝鑑賞する事を楽 いる姿だった。なんとこの男は、監視カメラに映っているシアンの映 そのディスプレイに表示されているのは、シアンが穏やかに眠って デイトナはPCの画面を見て、思わず感嘆の声をあげる。 ! ﹂ る。だが愛しきモルフォがわざわざ呼びかけてくれている事を思い 出し、瞬時に支度を整え家を出た。 ﹁シアンちゃん、モルフォちゃん、行ってきます ◆ ﹁はぁ⋮⋮今日の仕事もダルかったぜ⋮⋮﹂ 紫電からメールが来てやがる。珍しいな、何の用だ ﹂ 世が世なら、両手首に冷たい鉄の感触があってもおかしくないよう まっているPCを起動した。 癒そうと、小さい⋮⋮幼さを残した若い女の子の画像がたくさん詰 気が出ても、やはり仕事は嫌いな様だ。愛しのシアンを眺めて疲れを 勤務を終え、帰宅したデイトナ。モルフォやシアンによってやる ! ? 28 ! ! その言葉を聞き、デイトナは気だるげな雰囲気を出しそうにな ! な画像が山ほど入っているが、今はそれを見る気は無いようだ。 ﹁⋮⋮あン ? 紫電は、業務に関する連絡などをデイトナに送ることがある。この メールもそうなのだろう。 一応マジメに仕事をしてたハズだ、とモルフォとの幸せな生活が続 くよう祈りながらメールを開いた。 ﹃やあ、デイトナさん。最近はよく働いてくれてるみたいで、ボクも嬉 しいよ。 今回の連絡なんだけど⋮⋮。落ち着いて読んでほしい。実は、モル フォ⋮⋮シアンを狙ってフェザーが襲撃してくるという情報を掴ん で、襲われる前に輸送する計画だったんだ。しかし⋮⋮それが失敗し てしまった。 あのガンヴォルトが、彼女を攫っていったらしい。単独で行動して いる様でね⋮⋮。中々足取りが掴めなくて困るよ。 デイトナさんも心配だろうけど、まずは冷静になってほしい。シア ンを取り戻し、ガンヴォルトを倒す機を伺うんだ。それじゃあ、今回 ユニコーン 一角獣は、敵を殺し尽くすまで決して止まらない。 愛 ! テメェは、ゼッテー 目の保養を⋮⋮ ! ガンヴォルトォッ ! ﹁あのヤロォ、オレの毎日の楽しみを⋮⋮ ﹂ しの人を奪いやがって に蹴り殺すッ ! 一般人。その一般人が一級ドルオタのデイトナに対してナメた真似 ガンヴォルトは一級ドルオタのデイトナの足元にも及ばない貧弱 ! 29 はこの辺で失礼するよ。ごきげんよう﹄ ││デイトナの時が止まった。壊れた機械のように何度もメール を読み返すが、いくら読もうが文面は変わらない。 どれだけの時間そうしていたのだろうか。日付けが変わった事を モルフォの映像が告げ、その声で ! も、モルフォちゃんが⋮⋮。し、シアンちゃんが、攫われた でいとなは しょうきに もどった ﹁うッ ﹂ シアンちゃんを うばわれた デデデデーン ! 俯 き な が ら、あ ま り の 怒 り に 震 え て い る デ イ ト ナ。怒 り 狂 っ た ! ? をしたことで彼の怒りが有頂天になった。 この怒りはおさまる事を知らない。ガンヴォルトを燃やし、蹴り貫 くまで。 30
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