北部地域拠点施設 設計者選定競技(公募型プロポーザル)の概要と選評 1 選定経過の概要 (1) 本プロポーザルの仕組み 本施設の設計者選定はプロポーザル方式で実施され、地域の資源と力を 活用する前提で長野県内の設計者を公募の対象とした。 審査委員会は塩尻市の意向のもとに、できるだけ多くの設計者が応募で きるよう、経歴や実績等の応募資格条件のハードルを極力低くすることと した。その理由は、県内の多くの設計者に本施設に関心を持ってもらうこ とで、設計時、建設時、さらには竣工後の管理運営にも興味をもってもら うことに繋がり、本施設の成熟に有効な力が働くと想定したからである。 また、本プロポーザルは 1 次提案と 2 次提案に分け、第 1 次審査と第 2 次審査を行った。 多くの応募者を期待する 1 次提案は応募者の負担を極力少なくするため、 本施設の要件に関する基本的な考えとそれを補足する簡単なスケッチ等で 提案を求めた。これは本来のプロポーザルの主旨に則るものである。さら には、図面や透視図で示されている案を採用するのではなく、市や市民の 要望をうまく施設に取り入れながら設計を完成させることができる人を選 ぶという、プロポーザルのもう一つの主旨も踏まえている。 第 1 次審査は提出された匿名の提案書から 5 者程度を選ぶ。 第 2 次審査は第 1 次審査を通過した提案者が、要件に対する基本的な構 想をより具体的に提案するもので、構想を進化させることも認め、改めて 文書とイメージ図、簡単な図面や透視図を加えることを可能とした。審査 は、公開プレゼンテーションと審査委員による質疑を行なった後、非公開 の審査委員会で最優秀者、優秀者及び入選者を決定することにした。また、 塩尻市は 2 次提案者に対して 100,000 円の報酬を払うことにした。 (2) 第 1 次審査委員会 1 次提案には 18 者の応募があった。長野県内に限定した公募としては、 多数の応募であった。 審査委員会の運営の効率を図るため、各提案者の提案内容が示された様 式3の提案書が審査委員に届けられた。各委員は提案内容の読み込みと予 備的な個人評価や疑問点等のチェックを行い、審査委員会に臨んだ。審査 員会は非公開で行われた。 審査委員会では提案の一つひとつに対して評価や意見を出し合い、内容 の理解の共有化を図った。その後に各審査委員は、18 者の提案を A、B、C の 3 段階に区分評価して投票を行った。投票結果を参考に、改めて全ての 提案内容を審議しながら上位 9 者を選んだ。 次に、9 者から 5 者を選ぶために再び 9 者の提案内容を審議し、投票に より上位 4 者を選んだ。残り 5 者の中から審議により 1 者を選び、予定通 り 5 者を 2 次提案者とした。 (3) 第 2 次審査委員会 第 2 次審査に先立って、第 1 次審査を通過した 5 者が新たに作成した、 様式 3 の提案書が審査委員に届けられた。 審査委員は第1次審査同様、提案書を予め読み込み第 2 次審査に臨んだ。 第 2 次審査は公開の場で統括責任者や意匠担当者等 3 名が審査委員に対 してプレゼンテーションを 15 分間行い、その後審査委員の質疑に対して 15 分間応答する時間を設けた。 公開プレゼンテーション後、第 1 次審査同様に非公開で第 2 次審査員会 が開催された。 第 2 次審査は、統括責任者らから直接説明を聞くことで書類ではわかり にくい情報を得ることができ、また、2 次提案書からは 1 次提案書で明確 に表現されていなかったことが理解でき、一段と深化した評価が可能にな った。 審査は、プレゼンテーションの順に 1 者ずつ提案、プレゼンテーション 及び質疑応答の内容確認と評価を行い、2 者連記の投票を行なった。投票 結果を参考に問題点の検討を行い、市民参加のワークショップで案の展開 が難しいと予想される 2 者をはずし、3 者に絞った。 続いて、3 者について改めて意見交換を行った。提案に対する期待や評 価の視点が多様であることから意見の収斂は難しく、最終決定も投票で行 った。 投票の結果、選定候補者として最優秀者 1 者(登録番号 06)、次席とし て優秀者 1 者(登録番号 11)、入賞者 3 者を選んだ。 この結果は審査委員全員が合意したものであり、選定結果を小口利幸市 長に報告した。 2 選評 (1) 第 1 次審査の概評 北部拠点施設は、近年この地域に新しい住民が増加している状況で、い ろいろな住民、特に従来からこの地に住み続けてきた人達、特に高齢者と 新しい移住者、特に若い親と幼い子ども達が施設を親しく、活発に利用す ることで、これからのコミュニティ形成の促進をはかることを目標に、立 地や周辺環境と調和する施設整備を行い、予定される機能の異なる施設が 巧みに連携し、地域の材料や地域の力で建設されるもので、バリアフリー や省エネルギー、LCCなど諸性能のレベルの高い施設が期待されている。 そのため、選定される設計者は、市や市民と力を合わせて施設の実現を図 らなければならない。 応募者が長野県内に限られているにもかかわらず、1 次提案の内容は要 求に応えるレベルが高く、審査委員会での慎重な審議と選抜が容易でない ことが予想された。 18 者から 5 者を選抜する審議は、考えの個別評価や比較評価を繰り返し 行い、投票によって絞り込んだ。評価の主なポイントとして、土地利用や 機能の配置、動線の考えや地域の文化や伝統的なすまいや町並みに関わる 考えについて評価しながら審議した。木造建築の構造に関する提案は可能 性を広くする前提で第 1 次審査では比較的緩やかに判断した。市民参加の ワークショップに関する評価は、経験の豊かさ、新しい方法の提案、プロ セスの上での開催するポイント等を評価した。選抜した 5 者には、結果的 に土地利用やゾーニングは異なるものの、より詳しく具体的提案を求めて 評価する可能性のある者が選ばれた。 (2) 第 2 次審査の概評 前半の公開プレゼンテーションは、統括責任者や意匠担当者から直接考 えを聞くことができ、また、質疑応答ではその応答から提案者らの人とな りも想像でき、それぞれ不安の払拭にもつながった。 後半の非公開の第 2 次審査は、提案者の特徴がよく把握できたことで評 価は深化したが、審査委員それぞれが期待する考え方の違いがもとで評価 が割れる場面もあり、審議による合意で最優秀者を選ぶことが難しくなり、 決選投票で、最優秀者、優秀者各 1 者、入選者 3 者を決定した。 (3) 選評 ア 最優秀者の選評 この施設が北部地域のコミュニティ形成に大きく寄与し、そのための 多様な機能の組み合わせ、立地する周辺環境への配慮、新しい施設づく りへの市民参加の提案、地域産材の活用と木造の架構・構造等が明確で、 バランスの良い構想を提示している。 「新しいふるさとづくり」を主張して、それを子育て支援機能を中心 的に考え、子どもを地域の「種」として育てる考えは、高く評価された。 例えばホールと交流スペースの扱いは、ホールが日常的な子どもの空間 とみれば利用しやすい考えである。広丘駅と短歌館を結ぶ道を施設の中 に「軸」として取り込み、それを内外の通路を組み合わせて実現しよう とする考え、その軸の周囲に様々の機能を配置する考えは魅力的である。 市民参加のワークショップについてステップの提案や様々な意見を収集 する考えも評価され、ワークショップによる計画の成熟を期待されてい る。大規模木造建築の構造や防耐火に対する考えには安心感がある。 イ 優秀者の選評 第 3 の居場所として、様々な市民、老若男女が、それぞれ自分の居場 所を発見し、日常的に利用する施設の構想が評価された。 また、施設建物に沿う外部通路が雁行した建物の窓や壁、深い庇など の要素を使って親しみのある現代的な町並みをつくろうとする考えは魅 力的であり、地域資源との繋がりもあり評価される。この外部通路と付 帯する広場の活用、特にホールと一体的な利用は市民の期待するもので あろう。 ただ、この案の木造建築らしくない断面のイメージは、木造建築とし て実現する上では不安が残り、この点はこれからの課題である。 北部地域拠点施設設計者選定競技審査委員長 三井所 清典
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