海洋性細菌のヨウ素酸イオン還元活性 Reduction of iodate by marine bacteria 国立奈良工業高等専門学校 3年 西岡 心 【研究背景】 ヨウ素は海洋環境に分布する微量元素である. 現在の分子状酸素に富んだ海水において,その化学種は,熱力 学的にヨウ素酸イオンが最も優先的に存在する. ところが,実際の海洋環境からは,しばしばヨウ化物イオンと いった還元態化学種も見出されており,何らかの形で還元反応が進行していると考えられている 1). 先行研究 では,この還元因子としてヨウ素酸還元細菌 (IRB: Iodate Reducing Bacteria)の存在 2)が報告されているが, 実際の海洋環境での機能性については, 不明な点が多い. 本研究では, 海洋環境から IRB を単離し,その生態を 詳細に解明することで,実際の海洋環境における IRB の機能を評価することを目的とした. 【実験方法】 2014 年 3 月, 海洋研究開発機構 NT14-04 研究航海にて千葉県館山湾の海底堆積物を採取した. この堆積物の表層部(~2 cm),深層部(~20cm)にヨウ素酸カリウムを 0.5 mM 添加し,10 ℃で嫌気的 [気層: N2] にバッチ培養した. 培養期間における系のヨウ素酸イオン濃度は,ヨウ化カリウムを添加することで生じる単 体ヨウ素にでんぷんを加え,錯形成したところで,525 nm の吸光度を測定することによって決定した. 還元活 性を有した培養系を対象に限界希釈法を用いて IRB の単離操作を試みた. 【結果】 ① 海底堆積物のヨウ素酸還元活性 千 葉 県 館 山 湾 の 海 底 堆 積 物 を 対 象 に ヨ ウ 素 酸 還 元 活 性 を 測 定 し た . 結 果 ,全 サ ン プ ル に お い て ヨ ウ 素 酸 還 元 反 応 を 観 察 す る こ と が で き た . ま た ,還 元 活 性 は 滅 菌 操 作 と 抗 生 物 質 の 添 加 に よ り 完 全 に 阻 害 さ れ た こ と か ら ,バ ク テ リ ア の 関 与 が 示 唆 さ れ た . ② IRBの最適基質の検討 IRBは ヨ ウ 素 酸 イ オ ン を 電 子 受 容 体 に 用 い る 嫌 気 性 細 菌 で あ る . 具 体 的 に は ,ヨ ウ 素 酸 イ オ ン は 有 機 基 質 が ク エ ン 酸 回 路 を 経 て 分 解 さ れ る 際 に 生 じ る NADHを 再 生 す る た め の 酸 化 剤 と し て 利 用 さ れ る . つ ま り ,有 機 基 質 が ク エ ン 酸 回 路 を 通 過 し , NADHが 共 役 し て 生 成 す る こ と が , ヨ ウ 素 酸 呼 吸 の 必 要 条 件 で あ る と 考 え ら れ た . そ こ で ,ク エ ン 酸 回 路 に 関 連 す る 有 機 基 質 を 対 象 に ,ヨ ウ 素 酸 還 元 活 性 へ の 寄 与 を 評 価 し た . 結 果 ,乳 酸 や ピ ル ビ ン 酸 ,酢 酸 が 最 適 基 質 で あ る ことを見出した. ③ IRB培 養 方 法 の 検 討 ヨ ウ 素 酸 還 元 活 性 を 有 す る 集 積 培 養 物 に つ い て ,寒 天 培 地 に よ る IRBの 単 離 操 作 を 行 っ た . し か し ,良 好 な コ ロ ニ ー 形 成 は 確 認 で き な か っ た こ と か ら ,コ ロ ニ ー 形 成 を 必 要 と し な い 限 界 希 釈 法 で 再 度 実 験 を 行 っ た . 結 果 ,高 次 の 希 釈 系 列 に お い て も 良 好 な ヨ ウ 素 酸 還 元 活 性 を 確 認 す ることに成功した. 【引用文献】 1) D. C. Whitehead:Environ. Int., 10, 321 (1984). 2) S. Amachi et al.:Appl. Environ. Microbiol., 73, 5725 (2007).
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