日本企業、投資の質で株価に差、人への投資

リサーチ TODAY
2016 年 8 月 19 日
日本企業、投資の質で株価に差、人への投資・M&Aに注目
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
政府の『日本再興戦略』では、コーポレートガバナンス重視や投資促進といった、日本企業に変化を促
す政策が盛り込まれている。アベノミクス以降、企業による投資は総じて増加傾向にある。なかでも自社株
買いと配当支払いの増加が顕著であり、株主還元に最も重点が置かれている。みずほ総合研究所は、最
近の企業の投資活動の変化に関するリポートを発表している1。企業の投資内容と株価の関係をみると、最
も株価上昇率が高かったのが人件費(人に対する投資)に投資をした企業であり、次に自社株買い、子会
社・関係会社株式取得等のM&A関連が続く結果となった。
下記の図表は、東証1部上場企業のうち、金融業種を除き、直近5期において連続的に財務データと株
価データが取得でき、比較可能な1,515社を対象とした項目別の投資概要の推移である。アベノミクスが始
まって以降の日本の企業行動は、自社株買いと配当支払いの2項目の伸びの顕著さが目立っており、日
本企業による株主還元重視への変化を示している。
■図表:投資対象の項目別投資概要
項目/年度
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
固定資産取得増加率
(前年比、%)
11.7
2.1
5.8
5.8
人件費・福利厚生費増加率
(前年比、%)
3.0
6.7
5.5
N/A
自己株取得増加率
(前年比、%)
▲ 6.3
33.3
64.1
58.9
配当支払い増加率
(前年比、%)
5.0
10.3
17.0
16.9
子会社・関係会社株式取得増加率
(前年比、%)
▲ 26.0
26.5
▲ 38.4
30.7
(注)人件費・福利厚生費については、2015 年度販管費明細のデータが多くの企業で取得不可のため、2014 年度までの
データ。
(資料)QUICK Astra Manager よりみずほ総合研究所作成
次に、企業の資金使途と株価との関係を考える。次ページの図表は資金の使途毎にグループ分けをし、
それぞれの株価パフォーマンスを示している。そのなかで最も株価上昇率が高かったのは、人件費に重点
を置いて投資をした企業群であった。次いで、「自社株買いグループ」、「子会社・関係会社株式取得
(M&Aによる株式取得)」となった。業績堅調な結果、人件費を増加させる余力があったと考えられる。
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2016 年 8 月 19 日
■図表:投資項目グループ別の平均株価推移
(2011年3月=100)
260
人件費
自社株買い
220
子会社・関係会
社株式取得
配当支払い
180
日経平均
設備投資
140
100
60
11/3
11/9
12/3
12/9
13/3
13/9
14/3
14/9
15/3
15/9
16/3
(年/月)
(資料)日経 Astra Manager、Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は日本企業のバランスシートの変化を示す。2000年代以降の変化は有形資産を減少させる
一方、株式取得を大幅に増やす転換が生じている。ここでの株式取得は、1990年代までのバブル期の財
テクのように、有価証券を増加させたものではなく、関係会社株式を増加させた結果である。一般的に日本
企業は資金をため込むとされ、確かに流動資産は増加しているが、増分は必ずしも大きいものではない。
今後、日本企業は円高メリットを海外企業のM&A等で活かす選択肢もある。しかも、今日の低金利環境は
レバレッジを活用するには絶好の機会となる。株式市場はこの動きを期待して企業の選別を行っている可
能性をもつ。日本企業の投資に対するスタンスの変化に注目する必要がある。
■図表:日本企業のバランスシートの変化
+259兆円
流動資産
601兆円
流動資産
700兆円
流動負債
512兆円
流動負債
544兆円
固定負債
445兆円
固定資産
708兆円
有形資産
310兆円
株式
96兆円
固定資産
868兆円
固定負債
429兆円
有形資産
271兆円
純資産
336兆円
うち
内部留保
194兆円
株式
244兆円
純資産
611兆円
うち
内部留保
354兆円
【2014年度】
【2000年度】
(資料)財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成
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大塚理恵子「上場企業による投資活動の変化」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 7 月 27 日)
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