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普遍性
alg-d
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2016 年 8 月 16 日
圏論で重要な考え方の一つが普遍性 (universal property) である.普遍性を使うと,与
えられた圏 C の中で様々な「構成」が可能となる.
例えば「構成」の例として,Set, Grp, Top などの多くの圏においては,二つの対象
a, b が与えられたときに直積と呼ばれる新しい対象 a × b が定義される.実は,一般の圏
C においても (存在するかは分からないが) 直積が定義されるのである.まずはそれを見
てみよう.
定義. C を圏,a, b ∈ C を対象とする.a と b の直積 (product) とは,三つ組 ⟨u, p0 , p1 ⟩
であって以下の条件を満たすものである.
(1) u は C の対象である.
(2) p0 : u −→ a,p1 : u −→ b は C の射である.
u
a
p0
p1
b
(3) ⟨v, q0 , q1 ⟩ が同じ条件 (即ち,v が対象で q0 : v −→ a,q1 : v −→ b が射となる) を
満たすならば,射 h : v −→ u が一意に存在して q0 = p0 ◦ h,q1 = p1 ◦ h となる.
即ち次の図式が可換である.
v
h
q0
q1
u
a
p0
1
p1
b
この三番目の「同じ条件を満たすものがあるならば,射が一意に存在して可換となる」
という条件が重要で,このような形の条件を普遍性 (universal property) と呼ぶ.この場
合は直積の定義に現れている普遍性なので,条件 (3) を「直積の普遍性」などと呼ぶ.ま
た,定義にあるように,直積とは三つ組 ⟨u, p0 , p1 ⟩ のことなのであるが,単に u を直積と
呼ぶことも多い.この場合 p0 , p1 に当たる射は明示されていないが,暗黙のうちに与えら
れているのである.
まずは例をいくつか見てみよう.
例 1. 集合の圏 Set の場合,通常の意味での直積が,上で定義した意味での直積とな
る.詳しく言えば,X, Y ∈ Set に対して X × Y を直積集合,p0 : X × Y −→ X ,
p1 : X × Y −→ Y を標準射影としたとき ⟨X × Y, p0 , p1 ⟩ が X と Y の直積である.
それを示すため集合 Z ∈ Set と写像 q0 : Z −→ X ,q1 : Z −→ Y を任意に取る.この
とき写像 h : Z −→ X × Y を h(a) := ⟨q0 (a), q0 (a)⟩ ∈ X × Y で定義する.
Z
h
q0
q1
X ×Y
X
p0
p1
Y
明らかに q0 = p0 ◦ h,q1 = p1 ◦ h を満たす.また可換性を満たす h がこれ一つしかない
ことも明らかである.故に ⟨X × Y, p0 , p1 ⟩ が X と Y の直積である.
例 2. 群の圏 Grp の直積は,通常の群の直積である.
例 3. 位相空間の圏 Top の直積は,通常の直積位相空間である.
例 4. 順序集合 (X, ≤) を圏とみなす.a, b ∈ X の直積を考える.a と b の直積 ⟨u, p0 , p1 ⟩
の定義を,圏 X の射の定義を使って書き直すと以下のようになる.
(1) u ∈ X である.
(2) u ≤ a,u ≤ b である.
(3) v ∈ X が v ≤ a,v ≤ b を満たすならば v ≤ u である.
即ち,u は {a, b} の下限 (= 最大下界) である.つまりこの場合,直積は存在しない可能
性がある.もし (X, ≤) が全順序集合ならば,直積は常に存在して,min{a, b} が a, b の直
積となる.
2
例 5. X を集合として冪集合 P(X) を考える.これは包含関係 ⊂ により順序集合とな
る.故に直積は下限だから,Y, Z ∈ P(X) の直積は共通部分 Y ∩ Z となることが分かる.
従ってこの場合は直積は常に存在する.
C を圏,a, b ∈ C を対象とする.このとき一般には a と b の直積は存在するか分からな
いし,例え存在したとしても唯一つとは限らない.しかし実は普遍性を使うと次の命題を
示すことができる.
命題 6. C を圏,a, b ∈ C を対象とする.⟨u, p0 , p1 ⟩,⟨v, q0 , q1 ⟩ を a と b の直積とする.
このとき同型 u ∼
= v が成り立つ.
証明. ⟨u, p0 , p1 ⟩,⟨v, q0 , q1 ⟩ を a と b の直積とすると次の 2 つの図式を得る.
u
a
p0
v
p1
q0
a
b
q1
b
さて,まず ⟨u, p0 , p1 ⟩ が a と b の直積だから,直積の普遍性により,射 h : v −→ u が一
意に存在して次が可換となる.
v
h
q0
q1
u
a
p0
p1
b
次に ⟨v, q0 , q1 ⟩ の普遍性から,射 k : u −→ v が一意に存在して次が可換となる.
u
k
p0
p1
v
a
q0
q1
3
b
この二つを組み合わせて次の可換図式を得る.
u
k
p1
p0
v
h
a
p0
u
p1
b
一方,次の図式は可換である.
u
p1
p0
idu
a
p0
u
p1
b
故に ⟨u, p0 , p1 ⟩ の普遍性から h ◦ k = idu でなければならない.同様にして k ◦ h = idv も
分かる.従って u ∼
= v である.
つまり,a と b の直積は,もし存在すれば同型を除いて一意的なのである.そこで a
と b の直積が存在するとき,そのうちの一つ ⟨u, p0 , p1 ⟩ を取り,この u を a × b と書く.
a × b は一意には定まらないけれども,どれを取ったとしても全て同型となっているので
特に困らないわけである.
さて,直積と同じように,普遍性を使って定義される概念は他にも色々あるので,代表
的なものを紹介する.
定義. 圏 C の終対象 (terminal object または final object) とは,以下を満たす u である.
(1) u は C の対象である.
(2) v が同じ条件 (即ち,v が C の対象となる) を満たすならば,射 h : v −→ u が一意
に存在する.
※ 直積の定義と同じ形式で書いたため少し分かりにくくなってしまったが,要するに
u が終対象 ⇐⇒ 任意の v ∈ C に対して射 v −→ u が一意に存在する
である.また,終対象は記号 1 で表すことが多い.
4
定義. C を圏,a, b, c ∈ C を対象,f : a −→ c,g : b −→ c を射とする.
b
g
a
c
f
f と g の pullback とは,三つ組 ⟨u, p0 , p1 ⟩ であって以下の条件を満たすものである.
(1) u は C の対象である.
(2) p0 : u −→ a,p1 : u −→ b は C の射で,f ◦ p0 = g ◦ p1 を満たす (即ち次の図式が
可換である).
p1
u
b
p0
g
a
c
f
(3) ⟨v, q0 , q1 ⟩ が同じ条件 (即ち,v が対象で q0 : v −→ a,q1 : v −→ b が射で,f ◦ q0 =
g ◦ q1 となる) を満たすならば,射 h : v −→ u が一意に存在して q0 = p0 ◦ h,
q1 = p1 ◦ h となる.即ち次の図式が可換である.
v
q1
h
u
q0
p1
p0
g
a
f
u を記号 a ×c b で表す.
※ 図式
u
p1
b
p0
g
a
b
f
5
c
c
において u が pullback になっていることを表すために
u
p1
p0
c
f
b
p.b.
p0
g
a
p1
u
b
a
g
c
f
などのような表記を使うことがある.
定義. C を圏,a, b ∈ C を対象,f, g : a −→ b を射とする.f と g の equalizer とは,二
つ組 ⟨u, e⟩ であって以下の条件を満たすものである.
(1) u は C の対象である.
(2) e : u −→ a は C の射で,f ◦ e = g ◦ e を満たす.
f
e
u
a
b
g
(3) ⟨v, e′ ⟩ が同じ条件 (即ち,v が対象で e′ : v −→ x が射で,f ◦ e′ = g ◦ e′ となる) を
満たすならば,射 h : v −→ u が一意に存在して e′ = e ◦ h となる.即ち次の図式
が可換である.
e
u
h
f
a
g
b
e′
v
終対象,pullback,equalizer も,直積と同様の方法で,存在すれば同型を除いて一意と
なることが分かる.
例 7. 集合の圏 Set の場合.終対象は一元集合 1 = {∗} である.
f
g
X, Y, Z を集合,X −
→Z ←
− Y を写像とするとき pullback X ×Z Y は X ×Z Y :=
{(a, b) ∈ X × Y | f (a) = g(b)} と定義すればよい.(p0 , p1 は射影とする.)
f, g : X −→ Y を写像とするとき,f, g の equalizer は U := {a ∈ X | f (a) = g(a)} と
して,包含写像 i : U −→ X で与えられる.
例 8. アーベル群の圏 Ab を考える.終対象は自明なアーベル群 0 である.A, B をアーベ
ル群 (演算は加法で書く) として,f : A −→ B を準同型とする.また準同型 0 : A −→ B
6
を 0(x) := 0 で定義する.このとき i : ker(f ) −→ A を包含写像としたとき図式
f
i
ker(f )
A
B
0
を得る.このとき ⟨ker(f ), i⟩ が f と 0 の equalizer であることが分かる.
練習のため,普遍性を使って示せる命題をいくつか示してみる.
命題 9. 図式
a
f
b
g
y
x
c
z
において右の四角が pullback を与えているとする.このとき
左の四角が pullback を与える ⇐⇒ 外側の四角が pullback を与える
証明. (=⇒) 左の四角が pullback を与えるとする.外側の四角が pullback を与えること
を示すため,次の射を可換になるように取る.
d
a
b
c
x
y
z
図式を可換にする射 d −→ a が一意に存在することを示せばよい.
まず射の存在を示す.右の四角が pullback だから,射 d −→ b が一意に存在して可換
となる.
d
a
b
c
x
y
z
7
よって,左の四角が pullback だから,射 d −→ a が一意に存在して可換となる.
d
a
b
c
x
y
z
故に射が存在することは示せた.一意性を示すため,h, h′ : d −→ a を,次の図式を可換
にする射とする.
d
h, h′
a
f
x
b
c
y
z
右の四角が pullback だから,その普遍性より f ◦ h = f ◦ h′ でなければならない.
k := f ◦ h とすれば次の可換図式を得る.
d
k
h, h′
a
f
x
b
c
y
z
左の四角が pullback だから,その普遍性より h = h′ が分かる.
(⇐=) 外側の四角が pullback であるとする.左の四角が pullback を与えることを示す
ため,次の射を可換になるように取る.
q
d
a
b
f
y
x
8
g
c
z
図式を可換にする射 d −→ a が一意に存在することを示せばよい.
まず射が存在することを示す.合成 g ◦ q を考えれば次の実線の可換図式を得るから,
外側の pullback の普遍性により点線の射 h : d −→ a を得る.
g◦q
d
h
a
b
f
c
g
y
x
z
よって次の二つの可換図式が得られたことになる.
g◦q
d
g◦q
d
h
q
a
x
f
b
c
g
y
b
z
g
y
x
c
z
右の四角が pullback だから,その普遍性により f ◦ h = q であることが分かる.即ち次の
図式は可換であり,d −→ a の存在が分かった.
q
d
h
a
b
f
g
y
x
c
z
一意性は外側の pullback の普遍性から明らか.
定義. C を圏とする.
(1) C が直積を持つ ⇐⇒ 任意の対象 a, b ∈ C の直積が存在する.
f
g
(2) C が pullback を持つ ⇐⇒ 任意の射 a −
→c←
− b の pullback が存在する.
(3) C が equalizer を持つ ⇐⇒ 任意の射 f, g : a −→ b の equalizer が存在する.
命題 10. 圏 C が直積と equalizer を持つとき,pullback を持つ.
9
証明. f : a −→ c,g : b −→ c を C の射とする.a と b の直積 ⟨a × b, p0 , p1 ⟩ を取り,
f ◦ p0 , g ◦ p1 : a × b −→ c の equalizer を ⟨u, e⟩ とする.
u
e
p1
a×b
b
g
p0
a
c
f
⟨u, p0 ◦ e, p1 ◦ e⟩ が f と g の pullback であることを示そう.
その為に f ◦ q0 = g ◦ q1 を満たすような v, q0 , q1 を取る.
v
q1
e
u
q0
a×b
p1
b
g
p0
a
f
c
v −→ u が一意に存在すればよい.
まず射の存在を示す.直積 a × b の普遍性から,h : v −→ a × b が存在して p0 ◦ h = q0 ,
p1 ◦ h = q1 となる.
v
q1
h
u
q0
e
a×b
p1
b
g
p0
a
f
c
よって (f ◦ p0 ) ◦ h = (g ◦ p1 ) ◦ h となるから,equalizer e の普遍性により,k : v −→ u
10
が存在して e ◦ k = h となる.
v
q1
h
k
e
u
a×b
q0
p1
b
g
p0
a
c
f
故に存在が分かった.
一意性を示す.k, k ′ : v −→ u を次を可換とする射とする.
v
q1
k, k′
e
u
a×b
q0
p1
b
p0
a
直積 a × b の普遍性から e ◦ k = e ◦ k ′ である.よって h := e ◦ k とすれば次の図式が可
換である.
v
h
k,k′
u
e
a×b
p1
b
p0
a
equalizer e の普遍性から k = k ′ が分かる.
命題 11. C を直積を持つ圏として,対象 a ∈ C を取る.このとき「右から a を直積する
関数」F : Ob(C) ∋ b 7−→ b × a ∈ Ob(C) は関手 F : C −→ C を定める.
証明. まず関手 F を定義しよう.f : b −→ c を C の射とするとき次の図式の実線部分を
考えれば,直積 c × a の普遍性から,図式を可換にする点線の射が一意に存在する.これ
11
を F f と定める.
b×a
a
Ff
b
c×a
f
ida
c
a
この定義により F が関手となることを示せばよい.
まず f : b −→ c,g : c −→ d とする.F (g ◦ f ) = F g ◦ F f を示す.定義から,F (g ◦ f )
は次の左の図式を可換とするような射である.一方,F f と F g の定義から右の図式も可
換である.
b×a
b×a
a
b
F (g◦f ) ida
f
c
ida
a
d×a
g
a
d
Fg
c
ida
a
c×a
f
a
d×a
g
Ff
b
ida
a
d
故に直積 d × a の普遍性から F (g ◦ f ) = F g ◦ F f が分かる.
後は F (idb ) = idF b を示せばよいが,図式
b×a
idb×a
b
a
b×a
idb
ida
a
b
が可換だから,普遍性により F (idb ) = idb×a = idF b となる.
以上の様な概念を一般化したものが,圏論における「極限」である.上で述べてきた概
念は,どれも次のような形の定義をしている
(1) まず対象・射がいくつか与えられている.これを「図式」と呼ぶ.
f
g
• pullback であれば a −
→c←
− b である.
12
f
• equalizer であれば a
• 直積の場合は
a
g
b
b である.
を (射のない) 図式とみなす.
• 終対象の場合は空な図式とみなす.
(2) 対象が一つと,そこから図式の各対象への射が与えられて,可換となる.
(3) 同じ条件を満たす対象と射があったとき,一意に射が存在して可換となる (普遍性).
このように定義される概念を「極限」と言う*1 .つまり図式が一つ与えられると,その極
限が定義されるのである.
例 12. C を圏として,{ai }i∈I を C の対象からなる族とする.{ai }i∈I を射のない図式
だとみなしたときの「極限」を {ai }i∈I の直積といい,記号で
ば,{ai }i∈I の直積とは組
⟨∏
⟩
∏
ai と表す.正確に書け
i∈I
ai , {pi }i∈I であって以下の条件を満たすものである.
i∈I
(1)
∏
i∈I
(2) pi :
ai は C の対象である.
∏
ai −→ ai は C の射である.
i∈I
∏
ai
i∈I
pi
pj
pk
aj
ai
ak
(3) ⟨v, {qi }i∈I ⟩ が同じ条件を満たすならば,射 h : v −→
···
∏
ai が一意に存在して
i∈I
qi = pi ◦ h となる.
v
h
qi
qj
∏
pj
*1
ai
i∈I
pi
ai
qk
aj
pk
ak
極限の正式な定義は第一章の「極限」を参照.
13
···
a と b の直積 a × b は |I| = 2 の場合である.また圏 Set, Grp, Top などにおいては,通
常の直積がこの意味での直積となる.
例 13. 実数の減少列 x0 ≥ x1 ≥ · · · を取る.順序集合 R を圏とみなせば,無限個の対
象・射からなる次の図式が得られる.
x0
x1
···
x2
この図式の極限は次の条件を満たす x ∈ R である.
(1) 任意の n ∈ N に対して xn ≥ x である.
(2) y ∈ R が「任意の n ∈ N に対して xn ≥ y 」を満たすならば,x ≥ y である.
x0
x1
x2
···
y
x
つまり,この図式の極限とは数列 {xn }∞
n=0 の下限 inf xn である.故にこの図式の極限は
n∈N
数列の極限 lim xn である.
n→∞
例 14. p を素数とする.n > 0 に対して写像 fn : Z/pn+1 Z −→ Z/pn Z を
fn (x mod pn+1 ) := x mod pn
で定義すると Set における次の図式が得られる.
Z/pZ
f1
Z/p2 Z
f2
Z/p3 Z
f3
···
この図式の極限*2 を p 進整数環といい Zp で表す.正確に書けば,この図式の極限とは組
⟨Zp , {pn }n>0 ⟩ であって以下の条件を満たすものである.
(1) Zp は集合である.
*2
通常この極限は Set ではなく可換環の圏 CRing で考えることが多い.つまり Zp は可換環となる.た
だどちらの圏で考えても集合としては同じものになることが分かるので,ここでは簡単のため Set で考
える.
14
(2) pn : Zp −→ Z/pn Z は写像であり,任意の n > 0 に対して fn ◦ pn+1 = pn となる.
f1
Z/pZ
f2
Z/p2 Z
Z/p3 Z
f3
···
pn
p3
p2
p1
Zp
(3) ⟨X, {qn }n>0 ⟩ が同じ条件を満たすならば,写像 h : X −→ Zp が一意に存在して,
n > 0 に対して pn ◦ h = qn となる.
Z/pZ
f1
Z/p2 Z
f2
Z/p3 Z
f3
···
pn
Zp
この極限 ⟨Zp , {pn }n>0 ⟩ が存在したとする.
⟨∏
qn
h
X
⟩
Z/pn Z, {πn }n>0 を {Z/pn Z}n>0 の
n>0
直積とする.n > 0 に対して pn : Zp −→ Z/pn Z が写像だから,直積の普遍性により写像
h : Zp −→
∏
Z/pn Z が一意に存在して次の図式が可換となる.
n>0
Zp
pn
Z/p Z
n
∏
h
pm
Z/pn Z
n>0
πn
πm
Z/pm Z
この h は単射である.
. .
. ) x, y ∈ X で h(x) = h(y) となるものを取る.1 = {∗} を一元集合として,x, y を
15
写像 x, y : 1 −→ Zp と同一視すると pn ◦ x = πn ◦ h ◦ x = πn ◦ h ◦ y = pn ◦ y である.
1
y
x
Zp
pn
Z/pn Z
∏
h
pm
Z/pn Z
n>0
πn
πm
Z/pm Z
qn := pn ◦ x (= pn ◦ y) とおく.fn ◦ qn+1 = fn ◦ pn+1 ◦ x = pn ◦ x = qn である.
よって Zp の普遍性から 1 −→ Zp が一意に存在して次の図式が可換となる.
Z/pZ
f1
Z/p2 Z
f2
Z/p3 Z
f3
···
pn
Zp
qn
1
ところで x, y : 1 −→ Zp はこの条件を満たすから,一意性により x = y である.
故に Zp ⊂
∏
Z/pn Z としてよい.このとき x = ⟨xn mod pn ⟩n>0 ∈ Zp とすると
n>0
pn = πn ◦ h より pn (x) = πn (x) = xn mod pn となる.
また fn ◦ pn+1 = pn だから xn+1 mod pn = xn mod pn である.そこで
{
}
∏
n
n n
n
Zp := ⟨xn mod p ⟩n>0 ∈
Z/p Z n > 0, xn+1 mod p = xn mod p
n>0
と定義して pn : Zp −→ Z/pn Z を射影とする.このとき,この ⟨Zp , {pn }n>0 ⟩ が「極限」
となることが分かる.故にこの「極限」は存在し,それは上記のように書き表せる.
例 15. X を位相空間,P : O(X)op −→ Set を X 上の前層とする.P が層であるとは,
U ⊂ X を開集合,U =
∪
Vi を開被覆とするとき,次の 2 条件が成り立つことをいう:
i∈I
(1) f, g ∈ P (U ) が「任意の i ∈ I に対して f |Vi = g|Vi 」を満たすならば f = g である.
∏
(2) 族 ⟨fi ⟩i∈I ∈
P (Vi ) が「i, j ∈ I に対して fi |Vi ∩Vj = fj |Vi ∩Vj 」を満たすならば,
i∈I
f ∈ P (U ) が存在して,任意の i ∈ I に対して f |Vi = fi となる.
16
実は,この条件は equalizer を使って表すことができる.U ⊂ X を開集合,U =
∪
Vi を
i∈I
開被覆とする.i ∈ I に対して制限写像 ρi : P (U ) −→ P (Vi ) が与えられる.よって直積
の普遍性から e : P (U ) −→
∏
P (Vi ) が得られる.
i∈I
P (U )
ρi
∏
e
ρj
P (Vi )
i∈I
P (Vj )
P (Vi )
この e は f ∈ P (U ) に対して e(f ) = ⟨f |Vi ⟩i∈I で与えられる.
次に i ∈ I とする.このとき j ∈ I に対して制限写像 ρiij : P (Vi ) −→ P (Vi ∩ Vj ) が与
えられるから,直積の普遍性から pi : P (Vi ) −→
普遍性から p :
∏
P (Vi ) −→
i∈I
∏
∏
P (Vi ∩ Vj ) が得られる.よって再び
j∈I
P (Vi ∩ Vj ) が得られる.
i,j∈I
∏
P (Vi )
i∈I
P (Vi )
∏
pi
∏
P (Vi′ )
p
P (Vi ∩ Vj )
pi′
i,j∈I
∏
P (Vi ∩ Vj )
j∈I
j∈I
同様にして,i ∈ I に対して普遍性から qi : P (Vi ) −→
q:
∏
i∈I
P (Vi ) −→
P (Vi′ ∩ Vj )
∏
∏
P (Vj ∩ Vi ) が得られて,
j∈I
P (Vi ∩ Vj ) を得る.こうして次の図式を得る.
i,j∈I
P (U )
e
∏
p
P (Vi )
i∈I
q
∏
P (Vi ∩ Vj )
i,j∈I
この図式が equalizer となる必要十分条件が,上記の条件 1 2 である.
17
まず equalizer であることを仮定して条件 1 2 を示そう.f, g ∈ P (U ) が「任意の i ∈ I に
対して f |Vi = g|Vi 」を満たすとする.1 = {∗} を一元集合として写像 k : 1 −→
∏
を k(∗) := ⟨f |Vi ⟩i∈I で定義すると明らかに k ◦ p = k ◦ q である.
P (U )
e
∏
p
P (Vi )
q
i∈I
∏
P (Vi )
i∈I
P (Vi ∩ Vj )
i,j∈I
h
k
1
故に equalizer の普遍性から,h : 1 −→ P (U ) が一意に存在して e ◦ h = k となる.とこ
ろで h1 , h2 : 1 −→ P (U ) を h1 (∗) := f ,h2 (∗) := g で定義すれば明らかに e ◦ h1 = k ,
e ◦ h2 = k である.故に一意性から h1 = h2 となり,従って f = g である.
∏
次に 2 を示すため,⟨fi ⟩i∈I ∈
P (Vi ) が「i, j ∈ I に対して fi |Vi ∩Vj = fj |Vi ∩Vj 」を
i∈I
満たすとする.つまり p(⟨fi ⟩i∈I ) = q(⟨fi ⟩i∈I ) である.よって写像 k : 1 −→
k(∗) := ⟨fi ⟩i∈I で定義すると明らかに k ◦ p = k ◦ q である.
P (U )
e
∏
p
P (Vi )
i∈I
q
∏
∏
P (Vi ) を
i∈I
P (Vi ∩ Vj )
i,j∈I
h
k
1
故に equalizer の普遍性から,h : 1 −→ P (U ) が一意に存在して e ◦ h = k となる.この
とき f := h(∗) ∈ P (U ) と置けば e(f ) = ⟨fi ⟩i∈I だから f |Vi = fi である.
逆に条件 1 2 から equalizer であることを示す.X を集合,k : X −→
∏
P (Vi ) を
i∈I
写像として k ◦ p = k ◦ q を満たすとする.x ∈ X として k(x) = ⟨fi ⟩i∈I と書けば
⟨fi |Vi ∩Vj ⟩i,j∈I = p(k(x)) = q(k(x)) = ⟨fj |Vi ∩Vj ⟩i,j∈I となるから fi |Vi ∩Vj = fj |Vi ∩Vj で
ある.よって条件 2 から fx ∈ P (U ) が存在して fx |Vi = fi とできる.故にこの fx を
使って h(x) := fx と定義すれば写像 h : X −→ P (U ) が得られて,これは e ◦ h = k を満
たす.条件 1 から fx は一意だから,h も一意であることが分かる.以上により equalizer
であることが分かった.
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