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高血圧の疫学 高血圧は若い人でも多いの?
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高血圧は日常診療で最も患者数の多い疾患で,高血圧はわが国の国民病で
ある.高血圧は診察室血圧で収縮期血圧(SBP)140 mmHg 以上,かつ/また
は拡張期血圧(DBP)90 mmHg 以上,あるいは,降圧薬服用がある場合に診
断される.また,家庭血圧測定では SBP 135 mmHg 以上,かつ/または DBP
85 mmHg 以上が高血圧と判断される.JSH2014 では 2010 年の循環器疾患基
礎調査成績より,わが国の高血圧有病者数は 4,300 万(男性 2,300 万人,女
性 2,000 万人)と記載され,30 歳以上の日本人男性の 60%,女性の 45%が
高血圧であるとしている.JSH2009 での記載より 300 万人の増加となってい
る.この高血圧有病者の増加は高齢者人口の増加によるものと考えられる.
原因が同定される二次性高血圧は 5%程度であり,それ以外が多因子の成
因による本態性高血圧となる.環境や遺伝により蓄積された加齢変化は解剖
学的・生理学的な血管,血行動態の変化をもたらし血圧は上昇する.本態性
高血圧は加齢により有病率は増加し,4,300 万人の高血圧患者のうち,60 歳
以上の者が 63%を占める.高血圧は高齢者の疾患である.
若年者の高血圧
図 1 に 20 歳以上の対象について性,年代別の高血圧者数を示した1).CQ1
の若年者の高血圧の頻度に関してはこれが回答となる.高血圧者数は男女で
20 歳代では 120 万人,30 歳代では 230 万人,40 歳代では 430 万人,50 歳
代では 840 万人であり,どの世代でも男性の頻度が女性に比し 1.5∼5 倍多
い(図 1).2010 年の NIPPON DATA 2010 の解析では 20 歳代男女では同世
代人口の 10%未満だが,30 歳代男性では同世代人口の 23%程度,同女性で
は 6%前後,40 歳代男性では同世代人口の 44%程度,女性では 13%前後,
50 歳代男性では同世代人口の 58%程度,女性では 38%前後である.経年変
化では,高血圧有病率は,女性では各年齢階級で低下傾向がみられるものの,
男性の 50 歳代では上昇傾向である(図 2).
血圧値の経年変化をみると,収縮期血圧の平均値は男女のいずれの年齢階
級においても過去 50 年間で大きく低下している(図 3).他方,拡張期血圧
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1
男性
女性
80 歳代
200
340
70 歳代
470
510
60 歳代
580
590
50 歳代
510
320
40 歳代
290
30 歳代
180
100
20 歳代
140
50
20
700 600 500 400 300 200 100 0
0 100 200 300 400 500 600 700
推計有病者数
(万人)
(万人)
図 1 ■ わが国の高血圧有病者推計数
(性・年齢階級別)
30 歳代
40 歳代
50 歳代
男性
(%)
80
60 歳代
60
40
40
20
20
1980
1990
女性
(%)
80
60
0
70 歳代
2000
2010(年)
0
1980
1990
2000
2010(年)
図 2 ■ 性・年齢階級別の高血圧有病率*1の年次推移(1980~2010 年)
第 3 次循環器疾患基礎調査(NIPPON DATA 80)
,第 4 次循環器疾患基礎調査(NIPPON DATA 90)
,第 5 次循環器疾
患基礎調査,NIPPON DATA 2010 より*2
*1 収縮期: 140 mmHg 以上または拡張期: 90 mmHg 以上または降圧薬の服用(2000 年・
2010 年は 2 回測定の 1 回目)
*2 第 6 次循環器疾患基礎調査は実施されず,厚生労働科学研究(指定研究)として NIPPON
DATA 2010 が実施された.
2
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(mmHg)
40 歳代
50 歳代
男性
60 歳代
女性
150
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
150
収縮期血圧
収縮期血圧
160
140
140
130
130
120
120
110
(年)
1961 1971 1980 1990 2000 2010
(年) 1961 1971 1980 1990 2000 2010
高血圧は若い人でも多いの?
110
70 歳代
(mmHg)
160
Que s tio n 1 -1
30 歳代
図 3 ■ 性・年齢階級別の収縮期血圧平均値(mmHg)の年次推移(1961~2010 年)
第 1 次成人病基礎調査,第 2 次成人病基礎調査,第 3 次循環器疾患基礎調査(NIPPON DATA 80)
,第 4 次循環器疾患基
礎調査(NIPPON DATA 90)
,第 5 次循環器疾患基礎調査,NIPPON DATA 2010 より
30 歳代
(mmHg)
95
40 歳代
男性
50 歳代
60 歳代
(mmHg)
95
90
女性
90
拡張期血圧
拡張期血圧
85
80
85
80
75
75
70
70
65
70 歳代
65
(年)
1961 1971 1980 1990 2000 2010
(年) 1961 1971 1980 1990 2000 2010
図 4 ■ 性・年齢階級別の拡張期血圧平均(mmHg)の年次推移(1961~2010 年)
第 1 次成人病基礎調査,第 2 次成人病基礎調査,第 3 次循環器疾患基礎調査(NIPPON DATA 80)
,第 4 次循環器疾患基
礎調査(NIPPON DATA 90)
,第 5 次循環器疾患基礎調査,NIPPON DATA 2010 より
は女性ではすべての年齢層で低下しているが,男性では 30∼50 歳代の拡張
期血圧平均値は過去 50 年間での低下は明らかではなく,高血圧有病者率の
変化と同様の傾向を示している(図 4).過去 50 年間に国民皆保険により医
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療機関への受診が容易になり,同時に有効な降圧薬が上市されたこと,さら
に減塩の有効性が普及したことが,国民全体の高血圧有病率低下,平均血圧
値の低下傾向に寄与したものと考えられる.しかしながら,50 歳代を中心と
する男性の高血圧有病率,拡張期血圧に低下がみられないのはこの群で肥満
者率の増加,平均 BMI の上昇が関与しているものと考えられる.
以上,高血圧は高齢者の疾患ではあるが,若年者でもある一定以上の患者
数が存在する.また,若年者高血圧の特徴として,二次性高血圧が多いこと
があげられ,若年者で治療抵抗性高血圧をみた場合は,二次性高血圧を疑う
ことが必要である.
参考文献
1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.高血圧治療ガイドライン
2014.東京:ライフサイエンス出版;2014.
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