PFM と FEM を用いた二次元セル固体の圧縮変形応答解析 - J

PFM と FEM を用いた二次元セル固体の圧縮変形応答解析
Computational Study of Mechanical Response in Two-dimensional Cellular Solids
by Phase-Filed Method and Finite Element Method
諏訪 嘉宏(東大・先端研)
向井 敏司(NIMS)
相澤 龍彦(Asia SEED)
Yoshihiro SUWA, The University of Tokyo
Toshiji MUKAI, National Institute of Material Science
Tatsuhiko AIZAWA, Asia SEED
FAX: 03-5452-5116
E-mail: [email protected]
A new computational mechanics model was proposed to describe the compression response of 2-D cellular materials
with consideration of microstructural development. In this modeling, processing conditions to fabricate cellular materials
are taken into account as a cell-growth mechanism. Representative volume elements (RVE) are generated with use of
phase-filed model. Numerical simulations of compressive deformation are performed to the obtained RVE with use of
finite element analysis. The cell size distribution significantly affect on the first maximum in stress (limit stress) and the
densification process.
1.緒言
セル構造体は,超軽量構造であるがゆえに省エネルギー
を必要とされる構造部材への適用が期待されている.また,
高体積率の気孔の存在により,機能性を付与することが可
能であるため,今後の適用範囲拡大が期待されており,特
に,その特有の応力-歪応答により,衝撃時のエネルギー吸
収材として期待されている.現在のところ,セル構造体は
鋳造法や粉末冶金法の応用により製造されており,大量生
産に向けた生産技術の開発や,機械的性質を改善するため
の母材料の検討などが試行されている.しかしながら,そ
の製造には手間と時間を要するため,数多くの実験的検証
を行うことは困難であり,FEM 解析等の計算機シミュレー
ションによる,セル構造体設計支援が必要不可欠である.
現在まで,周期境界条件を持つ理想的な構造についての
変形応答解析は数多く報告されているが,不規則セル構造
体に対する解析は Voronoi 分布やそれに類する数種類の
tessellation を用いたものにとどまっている 1).
そこで本研究ではセル形状の決定要素としてもっとも
重要な役目を担うといわれている界面張力を考慮して,
phase-field 法により解析モデルを構築し,得られた RVE
に対して圧縮変形シミュレーションを行うことで,衝撃吸
収に適するセル構造を探索する.このように,RVE を組織
形成のシミュレーションにより構築することで,形状決定
要因が分離可能になり,個々の要因の定量的な評価が可能
になると考えられる.
2.解析モデルの作成
応力解析モデルは,phase-field法(PFM)により作成する.
PFMは,Onsagerの線形非可逆熱力学に基づくモデルで,組
織形成を表すのに十分な秩序変数を用いてその組織の全自
由エネルギー汎関数を定義し,秩序変数の時・空間的発展
として,組織の発展を記述する方法である.本研究では簡
単のため,セルの成長を石鹸泡に代表され,セル壁の相対
密度を近似的に0と考える,ドライフォームとみなしモデ
ルを構築する.この場合,セルの成長過程は,セルの交点
である三重点による界面の釣り合いとセル間の界面エネル
ギーの減少を駆動力とするセルの粗大化で表現できる.PFM
を用いて,この現象を再現するために必要な自由エネルギ
ー汎関数は形式的に多結晶組織における結晶粒成長に対す
るモデル2)と同等とおける.
セルの成長を考える場合,セルの核形成サイトが重要と
なる.そこで,本研究では核形成サイトの空間分布を制御
することで広範囲に及ぶサイズ分布を持つセル組織をシミ
ュレートする.図1にその例を示す.図(A)はセルが完全六
角形ハニカムになるように核形成サイトを配置した場合の
組織図である.この場合,全ての交点で界面のバランスが
成り立っているので,セル壁の移動はほとんど起こらない
3)
.
3.有限要素法による圧縮変形応答解析
Phase-field 法で得られたセル組織に対して有限要素法
を用いて圧縮変形応答解析を行う.セル形状の幾何学的デ
ータは閉曲線の集合として ANSYS®に受け渡し,ANSYS®上で
幾何学モデルに対する操作を行い,自動メッシュ機能を用
いて有限要素メッシュを構築した.使用した要素は PLANE2
で 6 節点-三角形要素であり,自由度は 2 である(X軸方向
とY軸方向の変位).各モデルともセル壁に対して,節点数
は約3万,要素数は約1万となるように有限要素分割を行
った.その後に,荷重条件,接触条件等を設定した.また,
計算に用いた RVE の大きさは全て 1.0x1.0 とした.
変形応答解析は変位制御で行い,反力から応力-歪曲線
を求めた.荷重条件は以下の通りである.荷重方向に垂直
な2辺に関して,固定端に属する接点の,荷重方向の変位
を固定し,中心付近の一点は,荷重に垂直方向の変位も固
定する.その辺に属する他の点は,固定端におけるセルの
局所変形を防ぐため,さらに,反力の計算を簡単にするた
めにセル壁に比べやわらかい材料(ヤング率はセル壁の
1/500 に設定)で連結する.その反対の“荷重をかける側”
の辺に属する接点の荷重方向に強制変位(-0.7)を与える.
中心付近の一点については荷重と垂直方向変位も固定し,
他の点は,セル壁に比べやわらかい材料で連結した.
荷重方向に水平な2辺に関しては,まったく拘束を与えな
い場合(a)と,荷重方向の変位のみに周期境界条件を与え,
荷重と垂直方向に無限に長い状態を考えた場合(b)の2種
類の境界条件を与えて解析を行った.
本研究では稠密化領域まで解析を行うことから,接触条
件の考慮が不可欠である.接触判定アルゴリズムは面-面接
触を利用し,接触の判定はセル壁面に貼り付けた接触要素
のガウス積分点で行った.接触挙動のアルゴリズムは
Penalty 法を用いた.巨視的な応力-歪曲線の Penalty 係数
依存性を調べ,パラメータ FKN=0.1 という値を選択した(こ
の時,実際の Penalty 係数は 105 オーダーであった).また,
セル壁同士の摩擦も考慮にいれ,クーロン摩擦モデルを用
いて,摩擦係数は 0.2 としている.
シミュレーションにおける,セル壁の材料はアルミニウ
ム合金を考えており,ヤング率 E=70GP,ポアソン比γ=0.3
とした.また,塑性モデルは降伏判定に Mises 応力を用い
た2直線近似の等方硬化則モデル(BISO)を用いており,実
験結果の値から降伏応力は 70MP,接線硬化係数は 125MP と
した.また,セル壁の相対密度は 0.1 である.本報では,
全てのシミュレーションで同一の材料定数,相対密度を用
いている.
4.シミュレーション結果
図 2 に六角形ハニカムを変形させた場合の巨視的な応力歪曲線を示す.図中の(a),(b)は境界条件の種別を表す.
特に,(b)の境界条件を用いた場合,セルの一列単位の崩壊
に起因する応力-歪曲線の振動が見られる.この振動の周期
は,荷重方向のセル数に依存しており,セル数を増加させ
るに従い,周期は短くなると考えられる.しかし,プラト
ー応力の平均値に対しては,さほど影響を与えないと考え
られる.
圧縮変形応答に対するセルサイズの分布の影響につい
て考察するため以下のようなシミュレーションを行った.
2.5 節で述べた,セルの核形成サイトの制御法を用いて,
図 3 に挙げた,様々なサイズ分布を持つ RVE を構築した.
セルのサイズ分布が広がるほどシミュレーション結果にば
らつきが出ると考え,(B)については各三回,(C),(D)につ
いては 5 回,核形成サイトの配置を変えてシミュレーショ
ンを行った.Fig.3 に(C)-Type の分布を持つ RVE の応力歪曲線を示す.規則的な六角形ハニカムに比べ初期の最大
応力が低下し,プラトー領域では巨視的な応力-歪関係が d
σ/dε>0 となり加工硬化挙動が観察される.
規則ハニカムでは,荷重方向に垂直な一列が同時に崩壊
する.しかし,不規則ハニカムにおいては,組織の不規則
性(セルのサイズ分布)に起因する応力集中により,ある点
で降伏が生じると,その部分で加工硬化を伴いながら塑性
変形が進展する.ある程度塑性変形が進展すると,局所的
な崩壊によるセル壁の接触により,応力の伝達経路が大幅
に変化する.それにより,他の場所で変形が顕著となり,
同様のメカニズムを繰り返しながら,RVE の崩壊は進展す
ると考えられる.この加工硬化を伴った連続する局所崩壊
により,見かけの加工硬化が生じていると考えられる.
(A)
(B)
(C)
(D)
Fig.1 Examples of 2-D cellular structures with the
variety of topological distributions
Fig.2. Stress-strain response of (A) type (regular)
cellular structures
Fig.3. Stress-strain response of (C) type cellular
structures
参考文献
1) M. J. Silva, L. J. Gibson and W. C. Hayes: Int. J.
Mech. Sci., 37, 1161 (1995)
2) D. Fan and L.-Q. Chen: Acta mater., 45, 611 (1997)
3) D. Weaire and S. Hutzler: “The Physics of Foams”,
Oxford University Press, (1999)