1 医学部 神経遺伝情報学研究室 実習研究テーマ 軟骨無形成症モデル

医学部 神経遺伝情報学研究室 実習研究テーマ 軟骨無形成症モデルマウスに対する、薬剤治療効果の検討 以下の実習内容を 5 日間で行います。
1)軟骨無形成症マウスの遺伝子型分析
2)CT 画像から、各骨長の測定
3)CT 画像から、骨量の測定
4)データーのまとめ、考察
5)発表 ppt 作成、発表練習
日程:(実際には時間が前後する可能性有り)
8 月 1 日 12:00-15:00 学食で学生チューターと昼食後、研究説明、実験スタート
8 月 2 日 休み
8 月 3 日 10:00-15:00 PCR, 泳動
8 月 4 日 10:00-15:00 CT 画像解析
8 月 5 日 10:00-15:00 CT 画像解析 データまとめ
8 月 8 日 10:00-16:00 PPT 作成、発表練習
詳細は初日に説明しますが、事前勉強として以下の資料に目を通しておいて下さい。
理解しにくい部分は、実習中に説明しますので心配しないで下さい。
1. 軟骨無形成症 (1) 概要と症状
本症は「内軟骨性骨化の異常により長管骨の成長障害をきたす疾患」である。長管骨の成
長障害を反映して、四肢短縮型低身長 (成人後も身長は 120-130 cm と低く、特に手足が短
く座高は比較的保たれる)を呈することを特徴とする。頭蓋骨は膜性骨化という別の機序で
骨化するため、障害されない。よって相対的に頭蓋骨は大きくなる。
他にも「大きな頭蓋、鞍鼻、三尖手、O 脚、肘関節の伸展制限などを特徴とする」とされ、
「乳児期に運動発達の遅延はあるが知能は正常である」ということが知られている。
(2) 原因と疫学
本症は FGFR3 (線維芽細胞増殖因子受容体 3)の変異により生じる疾患である。最も頻度の
高い変異 (98%)は FGFR3 の G380R 点変異 (380 番目のグリシンがアルギニンに置換され
る変異)である。
本症は、2 万人に 1 人の割合で発生するとされ、日本には約 6000 人の患者がいると推定さ
れている。
(3) 治療法
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本症に対する根本治療は未だ存在せず、対症療法として、例えば、低身長に対しては成長
ホルモン注射などが行われる。
参考資料
難病情報センター 軟骨無形成症
http://www.nanbyou.or.jp/entry/2443
2. 遺伝子型分析 (1) Genotyping
Genotyping とは、ある個体の DNA 配列を分析し、基準となる個体の DNA 配列と比較す
ることによって、遺伝子型の違いを検出する方法である。具体的な方法には、PCR 法や DNA
シークエンシングなどがある。
今回の研究においてはマウスの Genotyping を行うが、その際にはマウスの尾から DNA を
抽出し、PCR 法を用いて行う。
(2) DNA 抽出
マウスの尾は簡便に示せば、細胞と結合組織からなる構造体である。細胞も結合組織も基
本的にはタンパク質によって構成されている。よって、マウスの尾にタンパク質を分解す
る酵素を加えることにより、DNA を取り出すことができる。今回の研究では、この酵素と
して proteinase K を用いる。
マウスの尾からの DNA 抽出の模式図
(3) PCR 法の原理 PCR (polymerase chain reaction, ポリメラーゼ連鎖反応)は DNA を複製するために用いら
れる原理及び手法である。
(3-1) DNA は DNA polymerase によって合成される
細胞が分裂するためには、DNA を複製して、同じ DNA を二つずつ用意する必要である。
細胞内で DNA の複製反応を担っているのは DNA polymerase と呼ばれる酵素である。
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(3-2) 細胞内での DNA 複製には多数の酵素が関与する
DNA を合成するのは先述の通り、DNA polymerase であるが、DNA を複製するためには、
実際には複数の酵素が関与している。まず、DNA は二本鎖構造を取っているが、これをほ
どく酵素 (DNA helicase)が必要となる。また、DNA polymerase は直接 DNA を合成する
ことはできず、目印となる primer が必要となる。よって、この primer を作る酵素 (primase)
も必要となる。
細胞における DNA 複製の過程
(3-3)PCR(polymerase chain reaction: ポリメラーゼ連鎖反応)
DNA は二本鎖構造をとっているが、およそ 95℃になると、特に酵素などがなくとも、二本
に分かれ、一本鎖となる性質を利用する。
PCR では primer と polymerase と増幅させたい DNA を混ぜて、温度管理を行う。まず、
約 95℃にすることで、DNA を一本鎖にする(変性・解離)。次に、約 60℃にすることで、
primer が結合できるようにする(アニーリング)。最後に約 70℃にすることで、DNA を合
成させる(伸長)。このようなサイクルを一回行うと、DNA の量は反応前を a とすると、2a
となる。この状態からもう一度、反応を行うと次は 4a となる。即ち、n 回の反応を行えば、
2 の n 乗倍の DNA が複製できることとなる。
PCR 反応の模式図
3. CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影法)
検査対象の周囲を線源と検出器が回転し、検査対象は X 線を全方位から受け、照射された
X 線は検査対象を通過し、対象に一部吸収されて減衰した後、線源の反対側に位置する X
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線検出装置に到達し記録される。それぞれの方向でどの程度吸収されたかを記録したのち、
コンピュータで画像をフーリエ変換で再構成する。
(1) 単純 X 線写真の原理
X 線が物体を通過すると、その物体によっていくらか X 線は吸収される。この吸収される
度合いは物質によって異なる。これを利用した最も単純な例が単純 X 線写真である。
単純 X 線写真の原理を提示するために、簡単な例を示す。リンゴの X 線吸収量が 1 でバナ
ナの吸収量が 3 であったとする。ここで、ある箱の中にどちらかの果物が一つ入っている
とする。その箱に X 線を 10 当てると 7 の X 線が出てきたとする。すると、箱を開けなく
とも、バナナが入っていることが分かる (ただし、箱は X 線を吸収しないものとする)。
このような原理を使って人体の内部を観察するのが、単純 X 線写真である。
(2) CT の原理 (立体画像の構築方法)
先ほどの例で、箱の中を、箱を開けずにみることができるようになったが次のような場合
はどうであろうか。条件は先ほどと同じだが、箱の中には複数の果物が入っている可能性
もある場合である。この場合、バナナが一つなのか、リンゴが三つなのか分からない。
この問題を別の例でみてみることにする。下の表のようにマス目に数が入っているとする。
1
9
7
5
ここで、各マス目の数字は見えないが、X 線を当てるとその数字の分だけ、X 線を吸収する
とする。
A
B
←
C
D
←
↑
↑
ここで矢印の位置から 20 の X 線を当てられるとすると、20-A-B=10, 20-C-D=8, 20-A-C=12,
20-B-D=6 の値が計測できる。すると、表の数字がこの連立方程式を解くことで求められる。
即ち、CT は色々な角度から X 線を当て、それぞれの値を計測し、その値を解析して内部構
造を示している。
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