Page 1 商学論集 第76巻第4号 2008年3月 【論 文】 定期発注方式

商学論集 第7§巻第壕号 2む§8年3月
︺
論
文
定期発注方式における安全在庫量の最適化
晶切れコストが所与の場合
尭ハ
玉
星
野
二
玉.はじめに
定期発注方式の研究は,R.A.S擁。躍i]による生産管理へのサーボメカニズムの応用研究が発端
となっている。この研究においては,発注量の変動と期末在庫量(品切れに関わる納入直前の在庫
量のことで,以下本論では最小在庫量と呼ぶことにする〉の変動とがトレード・オフの関係にある
ことを明らかにし,講者に対するコント冒一ルのためのパラメータを導入し,それらの性質を議論
したものである。生産管理の立場からすれば,できるだけ安定生産を維持したいために生産量の変
動に結びつく発注量の変動は小さく抑えたい。そのためには,在庫量の変動でそれに応えなければ
ならないが,在庫量の変動は結果として保持すべき在庫量の水準を押し上げ,保管費用を増大化す
ることになってしまう。こうした難しい問題に対して解決の見通しを与えるために,S雛。簸は新し
いモデルを提案し定式化を行い,一定の解析結果を示している。
その後,定期発注方式の研究はH.∫.V総s量議[2],衰.P塗簸3欝[3],十代田[娼等によって,精
緻な研究が積み重ねられていくが,飽の発注方式と比較した場合の特徴およびどのような状況や条
件のもとで定期発注方式が効果的であるかなど,発注方式という広い領域の中での当該方式の位置
づけについては,ほとんど手付かずのままであった。とりわけ,村松等[51,星野瞬が行ってき
た発注方式の比較研究という立場からは,必ずしも十分な検討がなされてきたとは言いがたい。発
注方式の比較研究においては,一定の評価基準を定める必要があり,それはしばしばトータル・コ
ストという統合的な尺度を用いてなされる場合が多い。定期発注方式は,上記のように主として物
量のコント冒一ルという問題関心から取り組まれてきた経緯があり,一元的にコスト尺度に変換し
て評慰することを「よし」としてこなかった。しかしながら,発注方式の比較概究では,同一のコ
スト条件を与えてはじめて比較分析が可能になる。
本稿では,K.」.A鴛ow,T、H鍵r量s,&麟 」、M&rsc紘k[7]が在庫管理の最適政策(‘‘Opt重盗盛
夏解ε厩ory P畷。ジ)として提案した<r,盆〉発注方式と定期発注方式とを比較するためのシミュ
レーシ3ン研究(星野[81)から派生した問題を取り上げる。<r,R>発注方式と定期発注方式との
比較研究を行うためには,コスト条件,とりわけ品切れコストを所与としてトータル・コストを比
較することが必要であった。そして,この比較分析の遍程で派生的に明らかになったことは,定期
発注方式の最終局面のコストの比較を行う場面において,当該方式には安全在庫量の設定というも
桝3
i
商 学 論 集
第驚巻第護号
うひとつの最終選択肢が残されている,ということであった。そうした安全在庫量の最適化を経て,
これらの2つの方式の比較分析が可能となる。そこで,今回の研究では,品切れコストが所与であ
る場合の定期発注方式における安全在庫量の最適な設定方法について議論する。すなわち,定期発
注方式におけるトータル・コストを最小化する安全在庫量の設定方法について提案する。
2.定期発注方式における安全在庫量の扱い
それでは,定期発注方式における典型的な安全在庫量に関する取り扱いについて見ておくことに
しよう。ただし,需要量に関しては,各類独立で定常分布に従うことを,また需要量予灘誤差に関
しても各類独立で正規分布に従うことを仮定する。
定期発注方式は,基本的に2つの構造方程式によって表される。ひとつは発注量計算式であり,も
うひとつは在庫量推移式である。いま,話を簡単にするため,発注間隔は磐,納入り一ドタイムは
ゼ冒伍罵㊧の場合を考えてみる。ここで,定期発注方式においてはたとえ納入り一ドタイムがゼ
霞の場合であっても,発注間隔丁㌦こ相当する期間の需要量予灘値に基づいて発注が行われること
に留意しておこう。
95オ)r1オー五+3 (i〉
1オ#1トi÷9r∂オ (2)
ただし,9孟:オ期の発注量,莇ゴ期の需要量予灘量,莇1ご期の需要量
ム:定期発注方式のズ期の最小在庫量,3:安全在庫量
いま注目している安全在庫量の水準は,一定のサービス率(二i一晶切れ率)を維持することを目
的に設定されることから,結果的には最小在庫量の変動の大きさに依存して決定されることになる。
そこで,最小在庫量の分散を求めるため,式(2〉を式①へ代入して整理すると,次の関係式が
得られる。
1オー3罵オ)ま一P言 (3〉
さらに,ピ期の需要量予灘誤差を島で表せば,式(3〉は次のように書き表すことができる。
1rs=島 (逢)
ただし,島瓢以一琵
ここで,安全在庫量3は計画期間では一定と考えられることから,次式が成立する。
γ(1,〉=γ(麟〉 (5)
また,(5/式は,上で述べた定常性の仮定より,次のように表すことができる。
蓄!(1〉二γ(E〉 ⑥
さらにしがT*と等しい場合(しについては丁寧をi単位として整数表現すれば為㍊となる)は,
定期発注方式においては予灘対象期間が乙丁二L+T*瓢2T*となる。この予灘対象期間の長さ
LTを管理上のり一ドタイムと呼ぶことにする。この場合も定期発注方式における発注量計算式と
一i6一
星野:定期発注方式における安全在庫量の最適化
在庫量推移式から,同様の論理展開によって,1の分散は次式で表される。また,上で述べた需要量
予灘誤差が各類独立であるという仮定から,分散の擁法性を適濡することができ,次が得られる。
馴(1〉=2γ(E〉 (7)
以上から,一般のL轟々T㍉こ対しては管理上のり一ドタイムの長さがしT盤韓+i〉丁零とな瓶次
のような一般式で表すことができる。
γ(1〉二(海+i)γ(E) (8)
このことから,最小在庫量の変動に依存して設定される定期発注方式の安全在庫量の水準は,結
論的には,管理上のり一ドタイム中の需要予灘誤差の変動に依存して決定されることが分かる。こ
の変動については分散あるいは標準偏差という統計量で越理することが自然であ甑上述の正規分
布に従うという仮定から,所与の晶切れ率を維持するための安全在庫量の水準は正規分布表の
鵬%分位点を調べることによって容易に決定することができる。
定期発注方式における安全在庫量の扱いについては,このように品切れコストを明示的に与えて
水準を決定するのではなく,品切れ率を考慮しながら政策的に処理されることが一般的となってい
る。あるいは,発注量変動や在庫量変動に関してのコスト・パラメータを導入し,それらの相対的
な比率によってシステムをコントロールしょうと考えている。
3.品切れコストが与えられた場合の安全在庫量の最適化
ところで,<r,R>発注方式においては,保管費用,発注(補充〉費屠および品切れ責馬が明示的に
与えられることで,あるいはコスト・パラメータとして与えられることで,最適なrと盆が同時決
定されるシステムになっている。醗に述べたように,<r,R>発注方式と定期発注方式との比較を行
う際には,同様に品切れ費用を明示的に与えなければ分析は困難になる。本節では,定期発注方式
においてもそのように品切れ費罵が与えられれば,安全在庫量を最適化する方法が提案可能である
ことを示してみよう。
さて,簡単のため計画対象難問を一年として,定期発注方式の給費絹関数を定式化すれば次のよ
うになる。
TC二C毎十Cぴ十C、 (9)
ただし,TC:年間総在庫費罵
Cゼ年間在庫保管費罵
C。1年間発注費用
C。1年間贔切れ費用
さらに,C毒,C.およびC、については,一般に次のように定式化される。
(憩)
α江海・ρくE(の十3〉
一17一
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第76巻第4号
ここで,勘年間保管費率
露玉単位当たりの懸格
E(の:安全在庫量分を除く発注量の期待値
S:安全在庫量
c。ニθ・(留磐〉 (ii)
ここで,o:亙回当たりの発注費用
鼠期間i年の長さ
丁寧:発注間隔の長さ
Cε貫E(ぎiズ<§)・ε・(κ/T*〉 (i2)
ここで,E(ぎ珍くの:発注当たり品切れ量の期待値
s:品切れi単位当たりの損失
以上から,年間総在庫費用は次式のように表すことができる。
TC=かか(E(の十S〉十〇・(一厚/丁零〉十E(ガi J〈G〉壌・(召γ7聴〉
一妙(齢3〉+・・鴛+{だ(ズーs〉φ(ゴ〉小・鯵 ⑬
ただし,鰍発注回数
ぎ:最小在庫量の水準
φ(の最小在庫量の確率密度関数
式(i3)において安全在庫量に関係するところは第i項と第3項であり,前者はSが大きくなる
につれて増加し,後者は3が大きくなるにつれて減少する。そこで,最小値をを与える条件を求め
るために,上式を3で微分してゼロと置いてみる。
響一勧一sぜ脚〉脚 (i尋)
これより以下の条件が得られる。
r脚〉謄紹 (i5/
婆.数値例による検証
さて,上記の最小化条件を実際の数値例に基づいて検証してみよう。数値例は北原・児玉団が
<r,R>発注方式を説明する際に使馬したものを屠いることにする。この数値例は,慶に先行研究と
して,〈r,R>発注方式と定期発注方式の比較研究の際に星野18]が取り扱っているものでもある。
この数値例では,需要については○から欝の問の連続的な一様分布に従うことを想定し,以下の
ような経済的諸条件を仮定している。
hψ二驚・鳶㌧か二惣。.鋳・2馨倉§○儒〉
一i8一
星野二定期発注方式における安全在庫量の最適化
ただし,露/注期間当たり保管費率
〇二45倉倉(円/i回〉
ε篇9§倉○(円/i単位)
図iは,以上の仮定のもとで,<r,R>発注方式と定期発注方式のシミュレーシ3ン結果を比較し
たものである(詳しいシミュレーシ荘ンの条件は[8」を参照されたい〉。これによれば,需要量と
需要予灘量との相関係数ρが§.9というような需要予灘の精度が極めて高い場合において,定期発
注方式は<r,R>発注方式よりも経済的に有利になる場合があることを示している。さらに,図茎
は,もうひとつの重要なことを教えている。定期発注方式の在庫費用が安全在庫量水準の変化に対
して下に凸のグラフとなることから,適切な安全在庫量水準を設定する必要があるということであ
る。本稿の研究関心はこのことに端を発している。
式(i5)に前述の経済的条件を代入すると以下が得られる。
∫oゴφ(麺ぞ霧ユ蒲禦食毒iH ⑯
そこで,正規分布表から品切れ率倉.iHなる分位点を求めると次が得られる。
ξ⇒.22 (鶏
一方,今回の定期発注方式のシミュレーシ葺ン結果からは,表iに示すように,需要予灘の精度
在庫費用
身請.1
織㈱ ρ毒讐
ρ、β
禰瑠
難、雛簿
尋)壕.馨
<歎R〉発注方式
董
馨
量 藩 毒 藝
園i
安全在庫量と総在庫費濡の関係
一ig一
暮靄嚢蓬灘嚢
第76巻第暴号
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表董定期発注方式の発注量および最小在庫量に関するシミュレーシ欝ン結果
最小在庫量
発注量
相関係数
平均値
標準偏差値
平均値
標準偏差値
ρ瓢§.i
6.総
6.総
一§.4§
5.2§
ρエむ.3
§.77
6、2茎
一§、艇
逢.75
ρ鶯§.5
§.83
5.56
§.縣
3.§§
ρコ§.7
6.83
5、絡
一§.i2
3.§7
ρ二§.9
6.縫
婆.33
巷.鱒
i.77
を示す需要量と需要量予灘値との問の各相関係数ρに対する発注量および最小在庫量の標準偏差
が求められている。
表iの最小在庫量の分布に基づいて,式(i7〉の関係を溝たす総在庫費用を最小化する安全在庫
量の水準3を標準正規分布から実際の分布に変換することによって求めてみよう。ρ=§.参のときは
以下の計算で求められる。
S二二ξ・σ(ゴ〉+μ=i.22×i.77+〔}.{}{妻二2.25 α8〉
同様の手順を各相関係数に対応する最小在庫量の分布に適弔し,表2が得られる。
表2最適な安全在庫量水準
相関係数
安全在庫量
ρ瓢馨.i
6.45
ρ二§.3
5.総
ρ瓢§.§
尋.76
ρ工む.7
3.75
ρ罵§、§
2.2§
ここで求められた総在庫費溺を最小化する安全在庫量の水準は,図嚢こ照らしてみると,各相関
係数に応じたグラフの最小値を与えるポイントになっていることが確認できる。
5.おわ琴に
本稿では,定期発注方式の運用に際して品切れ費罵が明示的に与えられるならば,総在庫費罵を
最小化するための安全在庫量の設定が,一定の合理的手続きを踏むことによって可能であることを
示した。典型、的な定期発注方式の運屠においては.最小在庫量の変動の大きさを踏まえながら,品
切れ費罵と保管費爾の大きさを麟酌しながら政策的に決定することが行われてきている。今回の研
究では,そうした安全在庫量の設定に関する考え方そのものは正しいものの,それを一歩踏み込ん
一2§一
星野:定期発注方式における安全在庫量の最適化
で具体的な方法論として活絹できることを示した。また,今騒紛提案は,シミュレーシ滋ンによる
数値例の結果と符合するものとなっている。
参考文献
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[71Arr・w,K.」.,銭翻s,T、麟臨rs撫k,」.:“0欝tl灘麺ve簸t磁y麟。ジ,&欝羅翻細,V擁灘欝2籏272
(欝騒〉
181 星野瑛二:‘‘<r,R>発注方式と定朔発注方式の比較欝究一シミュレーシ3ンによる一つの接近ゴ㌔商学論集
(福島大学〉,V鍵、鑓,餐。、3,鐙、磐講7(欝§§/
1鱗 詫原貞輔.晃玉正憲:「0嚢紅よる在庫管理システム輩,九州大学出叛会(i露2〉
一2i一