有機・無機複合型物質における励起子緩和過程 A9874009 光物理研究室 猪股みほ <はじめに> 我々の扱っている有機・無機複合型物質(C4H9NH 3)2PbBr4 では、安定な励起子、励起子分子が 存在する。励起子や励起子分子といった素励起は過渡的に生成されたものであり、それらに起因 した物理現象は、緩和に伴って時々刻々と変化する。従って、励起子や励起子分子の物性を考え る上では、常に緩和の問題を念頭において議論を進めなければならない。本研究では、励起子、 励起子分子のエネルギー緩和、スピン緩和過程を明らかにする。 <実験と結果> ポンプ−プローブ分光法を用い、J z=±1 励起子の吸 形成による成分、10 ns の成分は、輻射寿命であると 考えられる。また、励起強度を変えて測定したところ、 励起子分子発光の 70 ps の成分は、励起強度に依存し ない事がわかった。このことから、これは励起子分子 輻射寿命であると考えられる。500 ps と 1 ns の成分 は、励起強度に依存し、同様の振る舞いを示すことか ら、励起子、励起子分子が準平衡状態に達した後の成 分に相当すると考えられる。 また、Jz=±1 励起子発光の温度依存性を測定したと ころ、高温で発光が強くなるという、非常に興味深い 現象が見られた。これは、高温では、熱励起により Jz =0 から Jz=±1 の準位へ移った成分から発光することに よると考えられる。詳細は当日報告する。 σ+ σ− + - σσ + + 0 2 4 6 time delay (ps) Fig.1 吸収飽和の遅延時間依存性 10 K Eexc = 3.542 eV EX(Jz=±1) 2 Iexc = 5.5 MW/cm PL Intensity (arb. units) 更に、励起子、励起子分子の発光の時間分解測定を、 ストリークカメラを用いて行った(Fig.2)。Table1 に結 果を示す。Jz=0 励起子の 30 ps の成分は、励起子分子 |EX(Jz=−1)> σσ Jz=1 励起子が、Jz=−1 励起子へスピン緩和したこと によると考えられる。スピン緩和時間を見積もると、 350 fs 以下と非常に高速であることがわかった。また、 それより遅い領域では、偏光依存性が見られなかった。 これは、Jz=1 励起子と Jz =−1 励起子が準平衡状態と なり、緩和していく成分であり、エネルギー緩和に相 当すると考えられる。この緩和時間は、4 ps であるこ とがわかった。 |EX(Jz=+1)> |G> ∆T circular 配置と、逆回り円偏光の counter-circular 配 置を測定した。co-circular 配置では、吸収の急速な減 少が見られ、counter-circular 配置の信号は徐々に立 ち上がっている。これは、ポンプ光により励起された 吸収飽和 収飽和の遅延時間依存性を測定した(Fig.1)。ポンプ光 とプローブ光のエネルギーは励起子共鳴に合わせた。 ポ ン プ 光 と プ ロ ー ブ 光 が 、 同 じ 回 り 円 偏 光 の co- M EX(Jz=0) 0.0 0.1 0.2 0.3 Time(ns) 0.4 0.5 Fig.2 発光の時間分解測定 速い成分 遅い成分 EX(Jz=±1) ∼4 ps ∼500 ps ∼1 ns EX(Jz=0) ∼30 ps ∼10 ns M ∼70 ps ∼500 ps Table1 時間分解測定結果 0.6
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