第5編 各社のナノインプリント関連装置・部材 ●第5編●第4章● ナノインプリント装置・樹脂・モールド MEPJ 1. 日立のHDDをターゲットに開発 「㈱MEPJ」は、中小企業基盤整備機構の戦略的基盤 技術力強化事業の一環として、日立市内の中小企業を 軸に開発されたUVナノインプリント技術の事業化を目 的に、2005年12月に設立された。同プロジェクトにお ける開発内容は、石英金型の微細加工技術(担当企 業:日立電線)、転写装置(大貫工業所、河村製作所)、 樹脂の剥離・流動制御(茨城大学、山本理化工業、ハ イペック)、金型の高耐久化(産業技術総合研究所)、 プロセス開発・デバイス試作(日立製作所)となって おり、ターゲットは日立製作所グループのHDDと位置 づけている。 ナノインプリント技術を製品に適用するには、装置 以外にも、プロセス、金型、被転写材料、離型剤など、 広範な技術を最適化した上で、課題を解決していく必 要がある。そこで、MEPJが窓口となり、これらの関連 技術を融合し、総合的に技術的課題を解決する方法を 提供していく。 2. 開発の概要 具体的な開発の内容を以下に記 す。 ①石英ナノ金型の微細加工技術 の開発 加工精度の向上のため、エッチ ング条件を最適化し、基板内およ びバッチ間の加工のばらつきを 幅・深さともに±3%以内に留め た。また、金型の中心部より、30 mm外周での孔径の誤差が1μm角 領域全面で±5nm以内の50nm径ホ ールパターンを形成した。 ②金型表面でのUV硬化樹脂の流 動制御 スチレン系オリゴマー型の光重 1 2007 ナノインプリント技術大全 合開始剤の採用による、高エッチング耐性の高速硬化 組成物の調製(ナノキャビティへの充填が可能な程度 の低粘度組成物の実現)、金型の洗浄方法として酸素付 加による加熱処理、高出力の赤外線照射、酸素プラズ マ処理の3種の方法を検討した。 ③石英ナノ金型の高耐久化技術の開発 剥離処理剤の不均一性により、離型阻害がある一方、 剥離剤の凝集部により耐久性が実証された。石英金型 の脆弱箇所においても欠損がなく、設計通りの形状に、 均一な剥離剤処理を施すことで耐久性が確保されるこ とがわかった。 ④ナノ金型のハンドリング・実装技術の開発 石英金型を、緩衝材で支持した状態で、2.5型範囲内 の平面度を0.1μmレベルの精度で測定する方法を試作 し、金型実装時の平坦性で10μm以下を確保できること を確認した。 ⑤ナノインプリントプロセス・評価技術の開発 直径100nmの微細構造体の転写が可能なことを確認 しており、50nm金型を用い、最終目標の50nmの転写を 検証した。 標準仕様 ・モールド:100mmφ石英ナノ金型 ・ハンドリング治具:応力緩衝式、たわみ調整式 ・転写方式:空気加圧式 ・ステージ昇降機構:ステッピングモータ式 ・転写ステージ開閉:ステージ降下開放式 ・転写室雰囲気調整:真空、減圧、不活性ガス ・石英金型位置認識:レーザ変位計式 ・装置サイズ:400(W) ×400(D)×900(H)mm 図1 自立型UVナノインプリント装置 第4章 MEPJのナノインプリント装置・樹脂・モールド 3. 平行度調整機構が不要で自動 離型も実現 標準仕様 ・モールド:100mmφ石英ナノ金型 開発したUVナノインプリント装 ・ハンドリング治具:応力緩衝式、たわみ調整式 置は、自律型と卓上型の2種類であ ・転写方式:空気加圧式 ・ステージ昇降機構:ステッピングモータ式 る(図1、図2) 。光源にはUV-LED ・転写ステージ開閉:ステージ引き出し方式 の適用も可能で、直径100mmの一 ・転写室雰囲気調整:真空、減圧、不活性ガス ・石英金型位置認識:レーザ変位計式 括転写に対応した他、ドライフィ ・装置サイズ:400(W) ×400(D)×300(H) mm ルムへの転写も可能である。最大 の特徴は、空圧を用いた高速・高 図2 卓上型UVナノインプリント装置 精度な転写技術にある。ナノイン プリント装置では、金型が歪んで 設置された場合、加圧・形状の面 高分子緩衝材 内均一性を保つことができない。 このため、装置に求められる要素 薄型ハンドリング治具 としては、金型と基板の平行度を 金属ばね式緩衝材と高 分子緩衝材の両方を装 維持し、転写する面内を均一な応 着可能な薄型構造 力で加圧することが最重要となる。 金属ばね式緩衝材 この傾き調整と加圧均一性を実現 するため、ある一定期間ごとに金 型の平行度を調整する平行度調整 機構、さらに、空圧/液圧などによ り傾きを吸収しながら加圧できる 機構などが用いられている。 図3 石英金型ハンドリング治具の構造 今回開発した装置では、平坦度 を±6μmに抑制できる治具に1mm厚の石英金型をセッ ら外周部に向かう順序で加圧が進む。外周部まで加圧 された状態でUV照射による転写後、空圧をオフにする トして転写する。図3は治具の構成部品の画像で、金属 と、外周部から中央部へと自動的に剥離が進む仕組み ばね/樹脂製の応力緩衝材を配置しており、金型を歪ま せながら加圧しても、金型が破損しない構造を採る。 である。 また、ナノインプリント技術では、転写後の気泡の 転写時には、ステージを上昇させて金型と接触させる 含有も課題の1つだが、樹脂が気泡を含有している場合 が、空圧により均一に接触・加圧する技術(パスカル の原理)を用いているために、平行度調整が不要で、 でも、加圧時に中央部から外周部に向けて気泡が押し 出され、転写した形状には含まれないという。通常の 加工の再現性に優れている。 具体的には、レーザ変位計による位置計測により、 液状レジストだけではなく、図4に示したように、ドラ イフィルムへの転写も実証している。さらに、図5のよ 金型と基板の間が10μmになったところで、金型に空圧 うに、転写時には上下の治具の接続により真空状態を を印加すると、金型と被転写樹脂が接触し、中央部か 2007 Nanoimprint Technology Outlook 2 第5編 各社のナノインプリント関連装置・部材 光インプリント 1.5μmφ 石英金型 1.0μm 離型 感光性ドライフィルム 1.5μmφ 石英基板 機能デバイスの完成 図4 ドライフィルムへの加工例 石英金型 (100mmφ) 空気加圧室 ステージ 基板 ハンドリング治具 実装治具 ギャップ (100μm時) (a)構造 (b)特徴 ①均一な転写圧力 (インプリント圧力) が得られる ②大口径一括転写 (100mmφ) が可能 ③離型(石英金型の基板からの剥離) が容易 図5 空気加圧室の構造 確保できる機構とするなど、装置の低コスト化を図っ 3 2007 ナノインプリント技術大全 た。価格はレーザ変位計込みで800万円台となってい る。 一方、金型では、エッチング条件の最適化などによ り、加工のばらつきを幅・深さともに±3%以内とし、 金型中心部∼30mm外周での孔径誤差が1μm角領域全 面で±5nm以内の50nm径ホールパターンを形成した。 また、スチレン系オリゴマー型の光重合開始剤の採用 による高エッチング耐性の高速硬化組成物の調製によ り、ナノキャビティへの充填が可能な程度の低粘度組 成物を実現した他、金型の洗浄方法としては、酸素付 加による加熱処理、高出力の赤外線照射、酸素プラズ マ処理の3種の方法を検討している。 注:本稿は、㈱MEPJ 取締役 御田護氏への取材に基づき構成した。
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