研修会報告書 - 保健事業の研修手法と評価に関する研究

平成 28 年度「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」研修会
報告
1.参加状況
職種
人数(名) 割合(%)
保健師
40
56.3
保健師
事務
21
29.6
事務
管理栄養士
10
14.1
合計
71
14.1
(10名)
29.6
56.3
(21名)
(40名)
管理栄養士
2.アンケート結果 (参加者 71 名中 69 名回収、回収率 97.2%)
①本研修会の内容は全体を通じていかがでしたでしょうか。
(大変参考になった・参考になった・あまり参考にならなかった・参考にならなかった)
1.4%
大変参考になった
参考になった
46.4%
52.2%
あまり参考にならなかった
参考にならなかった
②本研修会にご参加いただき、不安や疑問は解決されましたでしょうか。
(該当するものに○)
(解決できた・おおむね解決できた・少し不安が残る・解決できなかった)
1.4%
解決できた
46.4%
おおむね解決できた
52.2%
少し不安が残る
解決できなかった
3.研修日程
【日
時】7 月 7 日(木)10 時 00 分~16 時 30 分
【場
所】アットビジネスセンター東京駅 302 号室
【日程表】
時
間
内
容
9:30
受付
9:55
オリエンテーション
10:00
「糖尿病性腎症重症化予防プログラムについて」
厚生労働省保険局 国民健康保険課
(10 分)
10:10
羽野 嘉朗
概論
(110 分) 「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの概要と事業のねらい」
「重症化予防事業の進め方と進捗管理方法」
あいち健康の森健康科学総合センター
津下 一代
各論
「糖尿病の地域連携の進め方」
関西電力病院糖尿病・代謝・内分泌センター 田中 永昭
「病期に合わせた保健指導と行動変容」
広島大学大学院医歯薬保健学研究院
森山 美知子
「糖尿病性腎症の食事指導のポイント」
神奈川県立保健福祉大学大学院
佐野 喜子
12:00
昼食
13:00
「国保データベース(KDB)システムの活用について」
(10 分)
国民健康保険中央会
13:10
「研究班へのデータ登録方法」
(10 分)
13:20
あいち健康の森健康科学総合センター
村本 あき子
「糖尿病性腎症の病態と対策」
(30 分)
名古屋大学大学院医学系研究科
安田 宜成
グループワーク 「進捗状況の確認と情報交換」
13:50
(130 分)
<テーマ 1> 保健事業の実施体制づくり
<テーマ 2> 医師会等との調整
休憩(10 分)
<テーマ 3> 事業計画、運営マニュアル
糖尿病性腎症重症化予防プログラム研究班
16:00
全体のまとめ、質疑応答
16:25
諸連絡・アンケート記入
16:30
終了
4.研修内容
前半は厚生労働省および研究班より、これから事業を進めるにあたっての講義を行った。
後半は被保険者数が同等の自治体ごとにグループを組み、意見交換を行った。
(※各先生方の講義資料を HP に掲載します。詳細は講義資料をご確認ください)
【各講義の内容】
「糖尿病性腎症重症化予防プログラムについて」
厚生労働省保険局
国民健康保険課 羽野嘉朗
課長補佐
・本プログラムを全国で推進するにあたり、日本医師会、糖
尿病対策推進会議、厚生労働省の三者で協定を結んだ。
・研究班ではプログラムが効果的か検証する。研究にご協力
いただく自治体には、データを提供してもらうだけではな
く、研究班のサポートによって事業実施のノウハウも学ん
でもらいたい。
・国ではプログラムを作成するだけではなく、保健事業がど
のように動いていくか評価を行うことが重要と考えている。
・日本健康会議で採択された宣言にも、重症化予防について明記されている。
・自治体と医師会の連携は厚労省からも医師会へ依頼し、国レベルでもフォローしていく。
・今回の研究では横の関係を作れることが有意義だと考えている。本日の研修では他の自治体と
悩みや実施方法等を共有し、つながりを持って今後も積極的に情報交換してほしい。
「糖尿病性腎症重症化予防プログラムの概要と事業のねらい」
「重症化予防事業の進め方と進捗管理方法」
あいち健康の森健康科学総合センター
津下 一代
<背景、ねらい>
・透析は医療費を増大させ、糖尿病性腎症はその原因とし
て最も多く、生活習慣の影響が大きい。
・各自治体においても様々な問題意識があると思うが、事
業評価ができていない現状があるため、健診データの推
移や透析が減ったのか等を確認する必要がある。
・本研究では評価項目を標準化して効果検証を行い、全国
で実現可能なプログラムを広める事が目的である。
・日本医師会、糖尿病協会、厚労省のバックアップがあり、本事業の重要性を関係の先生方
からご理解いただいている。
<実施体制について>
・課題解決の戦略として、どのような社会資源が活用できるかを考える。課題によってアプ
ローチ方法は違うため、決まったプログラムではなく、各自治体で実現可能なものを選択、
実施していただく。そのために実施体制がしっかりできていることが必要。事業の流れや
抽出基準を明確にし、専門職がかかわることが本事業では重要である。
・研究班では研修会の実施、HP による情報公開や参考様式の掲載、各種相談を受け入れる等
のサポート体制をとる。
<具体的方法について>
・事業を進めるにあたり、まず事業全体の数を把握する必要がある。そのうえで、予算や社
会資源を考慮して何から行うかを検討し、実施、評価を行う。
・事業計画の際、レセプト、健診結果があるのが保険者の強みである。
・どの病期をターゲットにするかで作戦が変わる。例えば、過去にレセプトがあった人は治
療中断の可能性が高く最もハイリスクである。このような場合は確実な受診勧奨が必要と
なる。
・医療機関との連携がしやすいよう、日本糖尿病対策推進会議、日本医師会、厚労省が三者
協定を結び、今後は郡市医師会にも周知される予定。
・介入方法はいくつかある。受診勧奨、保健指導のいずれにおいても、コントロールが悪い
対象には個別面談や訪問などを検討し、コントロールが比較的良い対象には広くアプロー
チする。受診勧奨はハガキの勧奨だけでも受診につながる可能性はある。
・地域では高齢者が対象として想定されるため、フレイルには注意が必要。QOL を下げすぎ
ないように、活動量の確保や認知機能を低下させないことが重要である。
・事業をアウトソースする場合も、保険者自らの目的や理念を事業者に伝える必要がある。
・今後はこのような視点を踏まえて、各自治体で事業計画をして進めてもらいたい。
「糖尿病の地域連携の進め方」
関西電力病院糖尿病・代謝・内分泌センター
田中 永昭
・新規発症糖尿病患者の継続受診率は 4 割未満である。
・患者数に対する人材の不足等もあり、医療連携は重要である。
・地域連携を強化している地域では、連携パスの認知度も高
まり、通院状況もよい傾向がある。
・医療連携をすすめるために、糖尿病協会から「糖尿病連携
手帳」が発行されている。指導内容や検査結果を共有でき、
患者自身の負担はないため、活用していただきたい。
・
「糖尿病療養指導カードキット」は指導の効率化や標準化につなげることができ、
「カンバセーショ
ンマップ」を用いた効果は従来の指導より高いため、参考にしていただきたい。
「病期に合わせた保健指導と行動変容」
広島大学大学院医歯薬保健学研究院
森山 美知子
・糖尿病学会、腎臓学会等、各学会ガイドラインを活用し、
エビデンスに基づいた指導を行うことが必要。
・腎症患者への介入効果のエビデンスがあるが、血管イベン
トも多いハイリスクな集団のため、指導においてはリスク
マネジメントが重要である。
・対象者の行動変容ステージに合わせた指導を行う。
・検査値や疾病のメカニズム等について、対象者が理解でき
るように分かりやすい教材を使う。
・アセスメントを対象者と一緒に進めることで、気づきを促すことができる。
・近年は肥満者が多く、血管イベントのリスクの高さと対応方法には留意が必要である。
・対象者のモチベーションを高めるためには、賞賛や生きがいを考えてもらう事が大切。
・セルフモニタリングを促すことで、モチベーションを高め、気づきを促すことができる。
・目標設定は具体的に行い、長期目標、短期目標を対象者に意識してもらう。
「糖尿病性腎症の食事指導のポイント」
神奈川県立保健福祉大学大学院
佐野 喜子
・まずは、対象者がどのような食生活をしているか把握する事
が必要である。
・体重管理も重要であり、食事摂取基準も改訂されたため、
エネルギー収支は体重の変化にて評価を行う。
・食生活は様々な改善点があるので、その人の状態を考慮して、
指導の優先順位をつけていく。
・タンパク質の制限は低栄養が懸念されるため、過度に行う必
要はない。
・地域の場合は高齢者が多いが、近年は低栄養だけでなく、肥
満者も増えているので注意したい。
・アルコールの指導は重要だが難しい部分もある。メンタル面が関与する部分もあるので、AUDIT
を活用してシステマティックに指導をするとよい。
・減塩に関しては対象者に可視化することが大事。
・対象者の生活に合った指導をするため、宅配食の利用や成分表示の見方、食べ方等についても
提示できるよう準備をしておくと良い。
・目標設定が重要であるが、
「何をどれくらい」と具体的に目標を立てることが重要。
「国保データベース(KDB)システムの活用について」
国民健康保険中央会
・実際の画面を用いた資料にて、具体的な使用方法を説明。
・参考資料も配布テキスト内に添付している。
・研修会後、各自治体において実際に使用し、どのような帳票が
出るのか等をご確認いただきたい。
・何か不明点等があれば国保中央会にお問い合わせいただく。
「研究班へのデータ登録方法」
あいち健康の森健康科学総合センター
村本 あき子
・受診勧奨事業では過去データで概数を把握し、ベースライン
として登録いただく。その後、追跡データをご提出いただく。
・保健指導の場合は受診勧奨事業での項目に加え、アンケート
の提出等が追加されている。
・具体的な書式は別添資料を参照いただきたい。
・最初の提出は様式 A、その後 9 月に様式 B を提出する。
・詳細は順次案内していくため、HP を参照していただきたい。
・倫理審査を個別に通す可能性があるところは、早めに申請していただきたい。
「糖尿病性腎症の病態と対策」
名古屋大学大学院医学系研究科
安田 宜成
・糖尿病性腎症による透析患者は約 4 割であり、透析導入年齢
の平均は 69 歳である。
・糖尿病腎症では早期からタンパク尿が出始めるため、初期の
スクリーニングと介入が重要である。
・多くの場合、網膜症が先行するので、網膜症が出ていると腎
機能の低下も進行している可能性が高い。
・糖尿病腎症は遺伝の要因も大きいが、生活介入のエビデンス
もある。運動介入については、運動制限がない場合を除き、激しいスポーツでなければ可能。
・糖尿病は血糖コントロールが重要であるが、血糖の下げすぎは低血糖などの問題になるため、
低血糖への適切な対処方法をおさえておく。
・指導の際は服薬に対する知識も必要。かかりつけ医や薬剤師の関与が重要となる。
・高カリウム血症には気を付ける。バナナ等の果物はカリウムが多い。エネルギー管理という点
でも果物量には注意したい。野菜ジュースや青汁等の健康食品には注意が必要。
・糖尿病患者は血管イベントのリスクも高いため、血圧、脂質の管理も総じて行うことが重要。
・治療が基本となるため、まず受診勧奨が重要。早期介入は可逆的であり、透析確率は早期介入
で低下するエビデンスもあるため、本事業における自治体の役割は重要と考えている。
グループワーク 「進捗状況の確認と情報交換」、全体のまとめ、質疑応答
糖尿病性腎症重症化予防プログラム研究班、厚生労働省
被保険者数の近い自治体でグループを分け、進捗状況や課題等を共有した。テーマを①「保健
事業の実施体制づくり」
、②「医師会等との調整」とし、研究班ならびに厚労省担当者のアドバ
イスを受け、各グループにて意見交換を行った。また、講義、グループワークが終了したとこ
ろで、質疑応答を行い、参加者の疑問解決につなげた。
※グループワーク、質疑応答の内容については、別途 HP にアップいたします。