「だんだん どうも」

新潟方言・郷土史研究家
大 田 朋 子
プロフィール
新潟市出身(出生地は柏崎市)
東京で大学・研究室生活を経てUターン
雑誌記者、コピーライター、ライター、インタビュアーの仕事をす
るうちに、方言や習俗、歴史に魅せられ、研究、普及につとめる
心理学・新潟学等講師、経営学修士(MBA)、新潟郷土史研究会会員
著書「独断大田流にいがた弁講座」(新潟日報事業社)
「おもしろ えちご塾」(恒文社)
「郷土とことわざ」(人間の科学新社・共著)等
「だんだん どうも」
「だんだん どうも」「だんだん どうもお世話に
なります」
これは、県内の主に魚沼地方と頸城地方に残る挨
拶ことばです。
んだん おおきに」と感謝の意を伝えることばでし
た。それが江戸時代に京から近畿地方、そして周辺
地に広まりながら時代とともに「おおきに」が省略
化され「だんだん」になったとの説があります。
「こんにちは」程度の慣用句として、あるいは
一方、「だんだん」が新潟県内の「だんだん、お
「いつもお世話になっております」の気持ちを表す
世話になります」のように「いろいろと」「重ね重
句として、道端、田畑、軒先、店先など、日常のあ
ね」「たくさん」の意味で使われる地は、隣県山形、
らゆる場面で使用されています。さしずめ英語なら
富山、石川、滋賀、高知、宮崎、長崎にみられま
「ハロー!」、県内随所で耳にする「ごめんくださ
す。調べてみると島根では「ありがとう」の意で使
い」、さらにくだけて「ごめんなせ~」に該当するこ
われる地と「お世話になります」の意で使われる地
とばといったところでしょう。
があったのですが、おおむね海岸沿いの県に「重ね
なお、県内ではこの「ごめんください」や「ごめ
んなせ~」の挨拶ことばは、訪問時だけでなく、退
重ね」の使い方で残っているのも興味深く、ことば
の伝播の不思議を感じます。
散時の「失礼します」「さようなら」の意としても使
「段々畑」という語があるように、それこそ畑作
われています。そのため県外人には「すみません」
地を積み重ねるようにして「だんだん」という儀礼
と謝罪することばとして受け取られてしまい、「県
のことばも日々折々の中から生まれ育まれてきたの
外人泣かせの新潟ことば」のひとつになっていま
かも知れません。人々の交流の基本である挨拶と感
す。実際、県外から新潟にきた某氏から、某庁舎内
謝、「だんだん」の温もりある響きに込められてい
の廊下で顔見知りに出くわすたび「いゃ、ごめんな
るようです。
せ~」と言われるため、「なんか、謝られること
註:なお、「だんだん」の使用地には諸説ありますが、筆
者の調査と『全国方言辞典』
(東條操編)によるものと
します。
あったっけ?」と思っていたという話を聞きまし
た。「挨拶ことば」に地域性がみられる例といえま
しょう。
さて、以前、
「だんだん」という題名で島根を舞台
にした連続テレビ小説がありましたが、こちらは
「ありがとう」の意を伝える方言です。島根、鳥
取、山口、高知、愛媛、そして福岡、熊本、大分、
宮崎でかつて使われていたといいますが、本来「だ
ホクギンMonthly 2016.7