PDF/602KB - みずほ総合研究所

 福祉サービスの総合的な提供へ
晩婚化が進展するなかで、現役世代が育児と親の介護を同時に担うケースが着実に
増えている。
「ニッポン一億総活躍プラン」には、現役世代を働きやすくし、また的確
な福祉サービスを提供するために、高齢者、障害者、児童、生活困窮者への福祉サービ
スを総合的に提供するための施策が盛り込まれた。
みずほ総合研究所 調査本部 副本部長 木曽琢真
番が女性ではこの通り、
男性では②-①-③)
。
育児期にある者(世帯)が、親の介護も同時に担う
ことを「ダブルケア」と言う。この問題の重要性につ
いては、介護保険が導入された数年後には既に積極
本年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活
的に取り上げる人たちがいた。だが、このダブルケア
躍プラン」
(以下、プラン)のなかに、この問題への具
に関わる人の数を政府(内閣府男女平等参画局)が具
体策が盛り込まれた。ここではそれらを紹介したい。
体的に推計して発表したのは、本年 4 月が初めての
プランは新たな三本の矢からなるが、そのひとつ
ことだ。
が「介護離職ゼロの実現」である。その対応策として
これは、
「就業構造基本調査」
(平成24年)から推計
9 つの施策が挙げられているが、そのひとつが「地域
されたもので、ダブルケアを行う者が 25 万人(うち
共生社会の実現」である。そこでは主として①総合的
女性 17 万人、男性 8 万人)という結果になった。この
なサービスの提供と、②人材の育成により地域の福
人たちが15歳以上人口に占める割合は0.2%だが、育
祉サービスを充実することとされている。
児を行う者に対する割合では2.5%、介護を行う者に
対する割合では4.5%となる。
総合的なサービスの提供では、厚生労働省が既に
数年前から取り組み始めた施策を着実に進めること
この調査では、さらにインターネットでアンケー
がうたわれている。具体的には、高齢者、障害者、児
トが実施されて、ダブルケアの実情や負担感、問題
童、生活困窮者への福祉サービスを総合的に提供す
点、充実してほしい支援策などが確認されている。
るという施策である。
このうち「ダブルケアを行う者が行政に充実してほ
初めに見たように、育児と親の介護の両立を必要
しいと思う支援策」に対する回答を見ると、
11 の選択
とする人は確実に存在する。なかには、さらに配偶者
肢の中で、男女を問わずトップ3は、①育児・介護の費
や兄弟姉妹の面倒も見ているトリプルケアの状態の
用負担の軽減、②保育施設の量的充実、③介護保険が
人もいる。また福祉の対象者として、高齢者かつ障害
利用できる介護サービスの量的拡充となっている(順
者、児童かつ障害者、高齢者かつ生活困窮者など、複
1
数の分野の施策により対応をしなければいけない人
一つの専門資格を持つ人が他の専門資格を取りやす
がいる。高齢者を中心に福祉の対象者は増えている。
くなる。具体的には、まず介護福祉士と准看護師の養
こうした状況に政府がようやく本格的に対応しよう
成課程での相互の単位認定や、福祉系国家資格の保
という訳だ。
持者への保育士養成課程・保育士試験科目の一部免
従来、これらの人たちへの各種の福祉サービスな
除が検討されることになった。
どは、個々の根拠法に基づき別々の施設や事業者な
また、医療・福祉の業務独占資格の対象範囲の見
どにより提供されてきた。これは、それぞれの根拠法
直しは、医療・福祉の現場において効率的、効果的な
において施設ごとに物理的あるいは人員的な面で
サービス提供が進むようにすることが目的とされ
様々な基準が設けられているためだ。
る。残念ながらプランには具体的な記述がないもの
厚生労働省はプラン決定前の本年 3 月に「地域の
の、この方向での施策は既に検討が大詰めであった
実情にあった総合的な福祉サービスの提供に向けた
り、既に一部が実施されていたりする。例えば、厚生
ガイドライン」を発表して、高齢者介護や、障害者福
労働省では 2010 年から「チーム医療の推進」の議論
祉、子育て支援などの複数分野の支援サービスを総
を進め、医師以外の医療スタッフである看護師など
合的に提供する場合に、事業者が複合サービスを提
に医師の業務の一部を担ってもらうことで法改正が
供しやすいように、各福祉制度の人員配置基準、設備
進んでいる。また、2012 年からは一定の研修を受け
基準などについて現行規定においても運用上対応可
た介護職がたんの吸引と経管栄養という看護師の業
能な事項を整理して示した。そしてこの方針を早期
務の一部を行うことが出来るようになっている。
に徹底していくことがプランに盛り込まれた。
今後もこの方向で議論がさらに進むことになると
筆者は昨年 11 月号の本欄で、介護離職ゼロに向
思われる。ただ、医師・歯科医師の業務の一部をその
けては、複数のサービスが同時に提供できる小規模
他の医療スタッフに担わせたり、看護師の業務の一
多機能型居宅介護サービスの整備・拡充が求められ
部を介護職に担わせたりすることには、慎重な議論
ると書いた。介護を受ける人やその家族が状況に応
を求める声が少なくない。他方で、医療現場や介護現
じて様々な事業者と連携することには、たとえ地域
場では、医師の業務の一部を看護師に担ってもらっ
包括支援センターやケアマネージャーを通しても、
たり、看護師の業務の一部を介護職に担ってもらわ
色々と面倒だからだ。プランでは、高齢者のみなら
ないと、各職種における人手不足などから、業務が回
ず、子育てや障害者の支援を含めて一体的に福祉
らないという現実もある。
サービスを提供しようとしている。この方向は高く
評価すべきであり、今後の進展を注視したい。
今後地域共生型サービスが拡充される一方で、関
係する各職種の専門家の不足が続く見込みであれ
ば、いくつかの専門分野を併せ持つ人材を育成する
のは一つの対応方法であろう。ただし、その際には業
務範囲の拡大などを果たした人材がそれに見合う処
遇を受けられるようにすることが、大事だ。保育士や
人材の育成という点からは、医療・介護・福祉の専
介護職の処遇改善は、資格を持ちながら保育や介護
門資格における、共通の基礎課程の検討と、医療・福
以外の職に就いている人を呼び戻すという点からも
祉の業務独占資格の対象範囲の見直しを紹介してお
重要だ。それゆえ、プランには処遇改善についても盛
きたい。
り込まれている。
このうち、医療・介護・福祉の専門資格に共通の基
礎課程を設けるのは、複合的な課題に対するアセス
プランにより、高齢者、障害者、児童、生活困窮者の
メント(評価)や、様々な支援のコーディネート(調
いずれに対しても総合的な対応が出来るようになれ
整)、種々の福祉サービスの一体的な提供に資するた
ば、ダブルケアの担い手をはじめとする現役世代の
めとされる。実務的には、基礎課程が設けられると、
働きやすさは、大きく改善すると考えられる。
2