村育通信 - 佐那河内村

Vol.
村育通信
村誌を紐解く
教育長
福
岡
俊
和
佐那河内村のホームページを見ました。
「の
る。もしも 落ちぶれて 地元でない土地で物
んびり」をテーマにした動画が再生されていま
乞い者になったとしても決して帰るところでは
す。心が落ち着く絵たちです。まさに里山の佐
ないだろう。一人で都の夕暮れに故郷を思い出
那河内村です。
しながら涙ぐむ そんな気持ちで遠い都に帰ろ
う 遠い都に帰ろう』
故郷への思いは二つあるように思います。一
ふるさとは遠きにありて
室生
犀星
つは童謡「ふるさと」の歌詞にあるように高野
辰之の思い。もうひとつは室生犀星の詩「小景
ふるさとは遠きにありて思ふもの
異情その二」のふるさとは遠きにありて……に
そして悲しくうたふもの
描かれた思いです。
つまり成功者と敗北者の思いの違いです。ど
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
ちらも郷愁は同じですがふるさとの人々がどう
帰るところにあるまじや
評価するかが違っています。
ひとり都のゆふぐれに
どんな人生になろうとも大切なことはふるさ
ふるさとおもひ涙ぐむ
との人々がいつでも受け入れてくれることだと
そのこころもて
思います。そんな人間関係ができることが大切
遠きみやこにかへらばや
です。人は結局自分の力で成長するしかないの
遠きみやこにかへらばや
です。そうすると教育の目的はただひとつ自立
[小景異情−その二]より
心を育てあげることしかありません。
だからふるさとの誇れることを見つけて自信
室生犀星(むろうさいせい)
の有名な詩です。
これは遠くにいて故郷を思う詩ではありませ
そのヒントは村の村誌の中に隠れているかも
間を往復していた苦闘時代、帰郷した折に作っ
知れません。村育は原点に帰って「村のヒスト
た詩です。故郷は孤立無援の青年には懐かしく
リー」
「村の誌」にもう一度目をむけてみる必
忘れがたい。それだけに、そこが冷ややかであ
要があるかも知れません。
思いを、感傷と反抗心をこめて歌っています。
実の両親の顔を見ることもなく、生まれてす
ぐに養子に出されたことは犀星の生い立ちと文
学に深い影響を与えました。
この詩の意味は『故郷とは遠くにいて思い出
すものである。そして悲しくうたうものであ
.
と思います。
ん。上京した犀星が、志を得ず、郷里金沢との
る時は胸にこたえて悲しい。その愛憎の複雑な
sanagochi
につなげていくことは学校教育の重要な役割だ
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