電話会話に見られる談話特徴の地域差

電話会話に見られる談話特徴の地域差
18110087
主担当教員
神門
千郎
伊藤 紀子 准教授 副担当教員 鄭 躍軍 教授
1. はじめに
方言の語彙やアクセントに関する研究は多く見
られるものの、話の組み立て方といった部分に焦
点を当てた研究は、ようやく進められてきたもの
であり[熊谷, 篠崎, 2006]、どのような地域差があ
るのか明らかとなっていない。そこで、本研究で
は中国地方出身者と関西地方出身者による電話会
話を収録し、それぞれの言葉の持つ働きかけの機
能と、発話重複と無音区間というパラ言語的特徴
に見られる地域差を明らかにすることを目的とす
る。
2. 先行研究
[熊谷, 篠崎, 2006]によれば話者は「当該の言語
行動の目的を効果的に達成すること」と「相手と
の対人関係を良好に保つこと」に配慮している。
そこで本研究ではこの 2 つの配慮に着目して分析
を進めることとした。
3. 分析
3.1. 分析データ
[井上ほか, 2014]のペア入れ替え式ロールプレイ
会話に追従する形で、電話による会話収録を行っ
た。実験協力者は大学在学中の同郷出身者同士の
同性かつ友人同士のペア 14 組である。実験ではす
べてのペアに対して「依頼」と「勧誘」の 2 つの
異なる場面設定で会話をさせた。
3.2. 分析方法
収録した音声データを[熊谷, 篠崎, 2006]を参考
に、
「行為的機能」という概念で分類を行い、各行
為的機能の数量を調べた。行為的機能の表出回数、
表出時間は各会話で異なるため、行為的機能の表
出回数、表出時間ともに、行為的機能の表出回数
の合計及び、表出時間の合計に対する各行為的機
能の数量の割合を算出し、標準化を行った。その
後、場面×出身地を独立変数、行為的機能の数量
を従属変数として二元配置分散分析を行った。次
に発話重複と無音区間の数量を抽出した。発話重
複、無音区間もともに各会話の時間の差異を考慮
し、発話重複と無音区間の数量を全体の会話時間
で割り、それに 60 を乗じ、標準化した。その後場
面×出身地を独立変数として、発話重複、無音区
間の数量を従属変数として二元配置分散分析を行
った。
3.3. 分析結果
それぞれの談話特徴に関して、行為的機能の数
量に場面差のみならず、地域差が見られた。また
無音区間の数量にも場面差、地域差が見られ、電
話会話における談話特徴には場面差のみではなく、
地域差が見られるという結論に至った。
4. 考察
相手に対する配慮の言葉が中国地方出身者の掛
け手において機能を持つ言葉が多く見られた。こ
れは相手に配慮した言葉が多く見られるという結
果となっている。また、場面差(依頼>勧誘)が
出ているが、「依頼」という、
「勧誘」に比べ電話
の受け手にメリットがない会話をする立場上、相
手に対する配慮を伝える必要性があり、そのため
の言葉が多くなったためであると考えられる。こ
れは [井上ほか, 2014]で述べられている、依頼行
為を目立たせず、相手に対する配慮の言葉を繰り
返すことで相手を納得させ、好意的な気持ちにさ
せようとしていると考えられる。無音区間の表出
に関しては[小林, 澤村, 2014]で述べられているよ
うに、関西出身者が沈黙を嫌った結果、有意傾向
(中国>関西)が見られたといえるだろう。
5. おわりに
本研究では主に行為的機能、発話重複、無音区
間に関して分析を行ったが、行為的機能と無音区
間の数量に地域差が見られた。これは話の組み立
て方や、間の取り方といった、談話特徴に地域差
があると考えられる根拠となった。本研究では各
ペアの会話時間に差が見られたため、分析対象の
時間をある程度統一するための教示や、ある程度
長時間会話させ、そのうちの実験に適した単位時
間を抽出するなどの工夫が必要であると感じられ
た。
参考文献
井上文子編 (2014). 方言談話の世代差と地域差に関す
る研究報告書 共同研究報告 13-04..
熊谷智子, 篠崎晃一. (2006). 依頼場面での働きかけ方に
おける世代差・地域差. 国立国語研究所編, 言語行動
における「配慮」の諸相 (ページ: 19-54). くろしお出
版.