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薬物の副作用
副作用
・どの薬物も望ましい主要な作用(主作用)は、患者の病
気によって引き起こされた症候を和らげるように生体機
能を変えることである。
・薬物は主作用の他にも愁訴の原因となり、病気を誘発し、
死に至るような望ましくない作用(副作用)も引き起こす。
・副作用の原因
1. 過剰投与
2. 感受性増大
3. 選択性不足
出典:これならわかる薬理学p70-71
過剰投与
主要な効果に必要量より高い用量の薬物が投与されると、直接
的あるいは間接的に他の生体機能に影響を及ぼす。
例)モルヒネの場合
・モルヒネは、適切な用量を与えると中枢神経系の侵害受容経路に影響を与え、
優れた鎮痛作用をもたらす。
・過量では、呼吸中枢に作用し、呼吸抑制作用が出現する。
・両作用の濃度依存性は、用量反応曲線で示すことができる。2つの用量反応曲
線の距離は、治療用量と中毒用量の違いを示している。この安全域(治療指数)
は通常用量を超えたときの中毒の危険性を示している。
出典:これならわかる薬理学p70-71
感受性増大
もし生体の機能が過剰反応を起こすと、通常用量レベルでさえ
望ましくない作用が起こる。
例)モルヒネに対する呼吸中枢の感受性の増大が認められる場合
慢性肺疾患
参考:覚せい剤乱用
新生児
覚せい剤精神病
その他の呼吸抑制薬との併用
フラシュバック
薬物代謝酵素の遺伝的異常など
用量反応曲線は左に移動し、低用量のモルヒネが呼吸麻痺を引き起こす。
出典:これならわかる薬理学p70-71
選択性不足
適切な用量と正常な感受性であるにも関らず、薬物が非選択的に標的(病的)組織
や臓器に作用すると、望ましくない作用が起こる。
・臓器選択性の不足
例) 抗コリン薬であるアトロピンはムスカリン型アセチルコリン(mACh)受容体に
のみ結合するが、mACh受容体は多くの異なる臓器に分布している。
・受容体選択性の不足
例) 神経遮断薬のクロルプロマジンは、多くの異なる受容体と結合する。
選択性不足の重大性は、もし薬物が標的器官に到達するために血液経路を
必要とせず、代わりに点眼薬や吸入エアロゾールでの副交感神経遮断薬のよ
うに局所投与できれば回避できる。
薬物を使うときは、望ましくない作用を考慮しなければならない。したがって、
処方薬のリスク利益分析が重要である。
出典:これならわかる薬理学p70-71
口渇、便秘、尿閉、
頻脈、記憶障害
錐体外路症状X
抗コリン薬
免疫系と薬物アレルギー
・免疫系は通常、生体に取り込まれた高分子の異物を不活化
し除去するように働く。
・免疫反応は妥当な原因なしに過剰な強さで起こり、生体に
害を及ぼすことがある。
・薬物アレルギーは薬物の活性成分または医薬品の賦形剤に
よって引き起こされるアレルギー反応である。
・薬物アレルギーを全く起こさない薬物はないが、ある化学構
造はアレルギー反応を起こしやすい傾向にある。
例)抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬など
出典:これならわかる薬理学p72-73
免疫系の感作
ーーー
アレルギー反応
T型とB型
ーー
・薬物やその代謝物(いわゆるハプテン)は、まず体内のタンパク質に結合することによって
抗原に変換される。
例)ペニシリンG:切断された産物(ペニシロイル残基)がタンパク質と共有結合する。
・薬物との最初の接触で免疫系が感作される。すなわち、T型とB型の抗原特異性リンパ球
がリンパ組織で増殖し、記憶細胞として残る。通常、この過程は臨床的に無症状である。
・2回目の接触で抗体は既に存在し、記憶細胞が急速に増殖する。検出可能な免疫反応
(アレルギー反応)が起こり、このアレルギー反応は1型-4型の4種類に分類される。
出典:これならわかる薬理学p72-73
アレルギー反応の様式
1型:アナフィラキシー反応
2型:細胞障害反応
IgEタイプの薬物特異的抗体は、そのFc
部分を介して肥満細胞表面の受容体と結
合する。薬物の結合はヒスタミンや他のメ
ディエーターの放出を刺激し、低血圧、喘
息発作、咽頭浮腫、蕁麻疹、アナフィラキ
シーショックを引き起こす。
薬物抗体(IgG)複合体は、循環している
薬物分子または既に薬物抗体複合体が
蓄積している血球表面に接着する。これら
複合体は補体とよばれるタンパク質を活
性化し、血液細胞膜を障害する。血液細
胞の破壊によって溶血性貧血、顆粒球減
少症、血小板減少症が引き起こされる。
Fc部分↓
花粉症、アトピー
→微生物
出典:これならわかる薬理学p72-73
アレルギー反応の様式
3型:免疫複合体血管炎
4型:接触性皮膚炎
薬物抗体複合体は血管壁に沈殿し、補体
が活性化され、炎症反応が誘発される。引
き寄せられた好中球は血管壁を障害する
酵素(リソソーム)を放出する。症状として
発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節炎、腎炎、
ニューロパシーがある。
皮膚から投与した薬物に対して特別に
向かったTリンパ球の表面と薬物が結合
する。リンパ球はシグナル分子(リンホカ
イン)をその近傍に放出して、炎症反応
を引き起こす。
マクロファージの活性化
リソソーム放出
出典:これならわかる薬理学p72-73
副作用として観察される皮膚反応
・多くの薬物が全身へ分布すると免疫学的に生じる皮膚反応を引き起こす。
・皮膚の傷害は非免疫機序によっても生じる。
・皮膚反応は薬物副作用の一般的な形態である。
・多くの医薬品がリストに載り、5割が抗生物質またはスルホンアミドであり、3割が
非ステロイド性抗炎症薬によるものである。
臨床症状
中毒性紅斑:斑点状丘疹を伴う。かゆく腫脹した
蕁麻疹は、アナフィラキシーショック
など1型反応の一部として起こる。
固定疹(薬疹):薬疹の境界がはっきりしたものや、
痛みの伴うものは少ない。擦れ合う
ところに 皮膚炎が できやすく、反復し
て薬物に暴露されると同じ部位に再
発することが多い。
Steven-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症:
表皮のアポトーシスと真皮から水泡
性の表皮剥脱が起こる。
出典:これならわかる薬理学p74-75
・ペニシリンはβラクタム環の開口により生
じるペニシロイル基がハプテンとなって1型
反応を引き起こす。
ニューキノロン系薬剤
・チトクロム酸化酵素によってスルホンアミ
ドのパラアミノ基はヒドロキシルアミン基に
変換され、皮膚に4型反応を誘発するハプ
テンとして作用する。また、スルホンアミド
は表皮細胞のアポトーシスを誘導し表皮
/真皮境界部に水疱を形成する。
・リファンピシンやペニシラミンはまれに水
疱を形成する天疱瘡様の症状を起こす。
デスモソーム(2上皮細胞間の癒着部)接
着タンパクに対する自己抗体が水疱の形
成に関与している。
・光過敏症反応は日光、特に紫外線に暴
露した結果として生じる。光毒性反応では、
薬物分子(ニューキノロン系薬剤)は光エ
ネルギーを吸収して活性化合物に変化し、
その産生部位で皮膚細胞に傷害を及ぼ
す。光アレルギー反応では、光反応産物
がハプテンとして働き4型アレルギー反応
を引き起こす。
出典:これならわかる薬理学p74-75
、リファンピシン
妊娠と授乳における薬物毒性
母親の薬物摂取は、胎盤あるいは母乳を介して胎児または新生児
に悪影響を及ぼす。
妊娠期
・睡眠薬のサリドマイドによる手足の奇形。奇形を起こす可能性(催奇形
性)がある薬物として最初に注目された。
・胎児に対する薬物作用は2つの基本カテゴリーに分類される。
1.知られている薬物の薬理学的特性から予測可能な作用。
例)男性ホルモンによる女性胎児の男性化
経口抗凝固薬による脳出血
βブロッカーによる徐脈
2.臓器の発達に影響する作用。
知られている薬理学的活性プロフィールからは予測できない。
出典:これならわかる薬理学p76-77
妊娠中の薬物使用に伴うリスクの予測
1.薬物の使用時期
薬物への暴露による後遺症の
可能性は胎児の発達段階に依
存する。
例)テトラサイクリン:妊娠3ヶ月
後の石灰化の始まる時期に歯
や骨に対して色素沈着(歯牙黄
染)を起こす。
2.胎盤通過
多くの薬物は母体から栄養膜合胞体層
(胎盤関門)を通過して胎児循環へ移動することができる。
例)抗てんかん薬、抗不安薬、催眠薬、神経遮断薬
ーーー
出典:これならわかる薬理学p76-77
3.催奇形性
リスク推定値は、よく知られた薬物について入手可能であるが、新しい薬物の場合は、催
奇形性の危険を明確にすることは困難である。
例)サリドマイド、ビタミンA誘導体
特殊な例:ジエチルスチルベストロール(合成エストロゲン薬):妊娠中に投与を受けた母親
から生まれた娘が20歳になると子宮がんおよび膣がんの頻度が増加する。米国では
1971年に禁止。
授乳における薬物毒性
・母体の体内にある薬物は、母乳に分泌され新生児に経口摂取される。
・リスクに基づいて薬物の投与を評価すべきである。
1. 薬物の母乳への移行の程度
2. 小児の薬物分布
3. 小児の薬物排泄速度
・疑わしい場合、母乳を与えないことで新生児に対する危険性は回避できる。
出典:これならわかる薬理学p76-77
薬物作用の遺伝的変異
遺伝薬理学
・遺伝薬理学は、薬物作用の遺伝的変異性を取り扱う学問。
・少なくとも1%の頻度で起こる遺伝子配列の違いは多型性とい
われている。
・多型性は薬物動態に影響を及ぼしたり、薬物の治療効果に関
係している標的遺伝子におこる。
・薬物治療開始前の遺伝子検査は、安全域が狭く半減期の長
い薬物を固定した投与方法で使うときには賢明な予防処置で
ある。
→ Tailor made medecine
出典:これならわかる薬理学p78-79
遺伝的変異と薬物動態
・多型性は薬物の吸収、分布、生体内変化、排泄に関与している全ての遺伝子に
起こりうる。
・薬物動態学的分類
Normal metabolizers:代謝の正常なヒト
Poor(slow)metabolizers:遺伝子欠損のため代謝の遅いヒト
例)免疫抑制薬(アザチオプリン、メルカプトプリン)
・有害作用を避けるために、赤血球のTPMT活性を測定することができる。
Poor metabolizers
・TPMT多型性は治療に導入された最初の遺伝薬理学的検査法として用いられてい
Normal metabolizers
る。
・TPMTの完全欠損者への処方では、アザチオプリンの濃度を90%下げる。
他の例
TPMT
TPMT
(TPMT)
有害作用増加
N-アセチルトランスフェラーゼ2欠損:
イソニアジド、ヒドララジン、
クロナゼパムなど
チトクロムP450CYP2D6欠損:
フレカイニド、デシプラミンなど
Poor metabolizers
不活性代謝物
(メチルチオプリン)
Normal metabolizers
(90%)
Poor metabolizers
(10%)
Normal metabolizers
出典:これならわかる薬理学p78-79
遺伝的変異と薬力学
・遺伝子多型は、薬物の作用にも関与して、薬力学を変える。
・この場合、薬物の血漿濃度は変化しないが、生物学的作用が変化する。
例)アドレナリンβ1受容体の多型と降圧薬(メトプロロール;β1受容体拮抗薬)の作用
Arg389; アドレナリンβ1受容体の389番目のアミノ酸がアルギニン
Gly389; アドレナリンβ1受容体の389番目のアミノ酸がグリシン
メトプロロールの血漿中濃度
Arg389 = Gly389
Gly389
メトプロロールに対する反応性
Arg389 > Gly389
Arg389
出典:これならわかる薬理学p78-79
薬物非依存性作用
プラセボ効果
医師から患者への対話
・プラセボは、活性成分が全くない剤型(ダミー薬物)である。
患者
・意識的あるいは無意識に患者の問題に関心を持っているか
・プラセボの投与は望ましい作用(症状の緩和)、あるいは治療によってもたらされ
・医師の暖かさ、受容能、自身を投影する医師の治療
る患者の心理学的状態を反映して、望ましくない作用を引き起こすことがある。
・診断は正しいか
・患者は元気づけられ、安心し、回復を楽観的に考える。
・治療手段はどうか
・身体状態が精神的素質を決定し、精神的素質が身体状態を決定する。
出典:これならわかる薬理学p80-81
治験
・個々の症例では、治療の成功が薬物によるものか、治療という状況によるもの
か決めることはできない。
・統計学的手法(プラセボ対照試験)によって、薬物とプラセボの効果を比較して
検討する必要がある。
・重大な病気では、比較群はプラセボよりもその時点で知られている最善の治療
(アクティブプラセボ)を行うべきである。
・前向き試験:あらかじめ計画されている試験方法。
・後ろ向き試験:時間を遡って患者を追跡し、分析の判定は治療が完了したあとに
行われる。
・二重盲検試験:患者も治療を行う医師も、どの患者が薬物とプラセボのいずれか
を投与されたか知らない。どちらが効果があるか判定する。
・クロスオーバー試験:同じ患者で薬物とプラセボを切り替えて効果を判定する。
出典:これならわかる薬理学p80-81