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2016 年 7 月 20 日
マーケットアウトルック
悲観論の後退と楽観的な見方を裏づける 9 つの根拠
要点
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過去 1 年を振り返ると、多くの株式市場が下落基調
となり、債券利回りは過去最低水準まで低下するな
ど、投資家にとって懸念が尽きない環境が続いてい
ました。
しかしながら、分散投資を行っていた場合の投資リタ
ーンは悪くなく、過去数年を振り返っても良好な投資
環境が継続しています。
また、楽観的な見通しを裏づける 9 つの根拠があり
ます:緩やかなペースで続く景気拡大、さらなる緩和
と長期化が予想される金融政策、グローバルでの財
政拡大機運の高まり、コモデティティ市場最悪期が終
わりを迎えた可能性が高いこと、デフレリスクの後
退、グローバルにおける企業収益鈍化の終焉が近
いと思われること、株式市場の割高感のないバリュ
エーション、中国人民元の下落が織り込み済みにな
りつつあること、株式市場において、上昇相場の末
期に見られる過度に楽観的な見方はみられないこ
と、などです。
引き続き、投資リターンが抑制されボラティリティの高
い展開が続くと予想されますが、適切な水準の投資
リターンを期待することができると見ています。
はじめに
過去数週間、Brexit(英国におけるEU離脱の国民投票結果)
や豪州の選挙、フランス南部のニースでおきたテロ、トルコに
おけるクーデター未遂など様々な出来事に見舞われました。
また、約1年前は、ギリシャの債務再編を巡る交渉の難航や、
中国株式市場の大幅下落といった出来事に見舞われました。
これらを背景に金融市場は混乱に陥り、殆どの株式市場が過
去1年の間に弱気相場(高値からの下落幅が20%以上)入り
を経験し、債券利回りが過去最低を記録するといった状況に
至っています。このレポートでは、過去12ヵ月における懸念事
項を振り返り、投資リターンの検証を行い、今後の見通しにつ
いて考えていきます。
懸念事項のリスト
過去1年の懸念事項のリストは以下の通りです:

昨年の6月から7月にかけて起こったギリシャの債務再編
を巡る交渉の難航

49%にも及んだ中国株式市場の大幅下落、債務と成長に
対する懸念と人民元の切り下げに伴う資本流出
 不安定なコモディティ価格
 デフレに対する懸念の高まり
 ブラジルとロシアにおける景気後退、新興国発の債務危
機再発に対する懸念
 エネルギー関連企業のデフォルト懸念
 豪州経済における資源ブーム終焉の逆風と不動産バブ
ルのリスク
 米国と中国をはじめ、グローバルに見られる製造業の不
振
 FRB(連邦準備制度理事会)による利上げが米ドル高を
引き起こし、中国や新興国、コモディティ価格の重石となる
可能性についての懸念
 今年の米国の経済成長が、緩慢なペースのスタートだっ
たこと
 米国、豪州、その他の多くの地域で減益となっている企業
収益
 IS関連の多数のテロ攻撃
 米大統領選でのドナルド・トランプ氏の善戦
 予想外の結果となった英国におけるEU(欧州連合)離脱
の国民投票の結果を受けて、他のEU加盟国においても
離脱の機運が高まるリスク
 豪州における総選挙の結果を受けて上院運営がさらに難
しくなり、政府にとって歳出や構造改革などに対するコント
ロールがより一層困難となること
 南シナ海における緊張の高まり
 トルコにおけるクーデター未遂
ドナルド・トランプ氏の善戦やBrexit、豪州の接戦となった選挙
などは、格差に対する不満の高まりと、グローバル化や規制
緩和、民営化を推し進めてきた経済合理主義に基づいた政策
運営に対する支持が後退していることを表しています。ポピュ
リストが掲げる政策は、長期的に経済成長の足かせとなり、投
資リターンの低下に繋がります。
抑制され、ばらつきが大きい投資リターン
過去12ヵ月における混乱は、大波乱となった株式市場(足元
のリバウンドに転じる前、多くの市場が弱気相場入りとなって
いた)や、過去最低水準の利回りまで低下した債券市場など、
影響は金融市場に広がりました。しかしながら、商業用不動産
やインフラストラクチャーといった非上場資産クラスや、REIT
のように上場資産で’利回り資産’の性質を持つ資産クラスは、
堅調な推移となりました。
府や中央銀行によるインフレ政策によって、今後2-5年のうち
にデフレリスクからインフレリスクへと転換がおこる可能性があ
ります。
6)企業収益の鈍化は終焉を迎えつつあります。米ドルと原油
価格が安定化に向かっていることで、米国企業の収益は底入
れしつつあります。豪州についても、コモディティ価格の低迷が
資源企業の収益を押し下げていた状況が終わりを迎え、年後
半には企業収益が増加に転じると見られます。
7)直近の債券利回りの更なる低下によって、株式の相対的な
投資妙味が高まり、イールドハントの傾向が再び強まる可能
性があります。
8)投資家は最近の人民元の下落に寛容に受け止めており、
それは、資本流出に歯止めがかかっていることや、当局者の
自信などに表れています。
悲観論の後退を裏づける9つの理由
振り返ってみると、先に挙げた懸念事項は今に始まったことで
はなく、過去数年に渡って続いているものです。例えば、20142015年にかけては、FRBによるテーパリング(量的緩和政策
の終了)、ウクライナ紛争、ISによるテロの台頭、エボラ出血熱、
デフレ、2015年始めに見られた米国経済の緩慢なペースでの
回復、中国に対する懸念、欧州経済の脆弱性、豪州における
不動産バブルと景気後退等に対する懸念がありました。実は、
これら全て、今に始まったことではないのです。以下が、楽観
的な見通しを裏づける根本的な9つの根拠です。
1)グローバル経済に景気後退の兆しはなく、緩やかなペース
での成長が続いています。グローバルの企業景況感は、グロ
ーバル経済が3%程度のペースで成長を続けていることを示
唆しています。
9)Brexitの混乱、中国の債務、米国の減速、混戦となった豪
州の選挙に対する今までの議論を背景に市場が弱気に傾き
過ぎであったように思われたことから、かえって市場が大きく
反発するきっかけとなったようです。
今後の投資リターンの見通しについて
一般的に、8月から10月にかけて、株式市場は乱高下する傾
向があります。しかしながら、短期的な不確実性と前のセクシ
ョンで述べた考察を踏まえても、過去12ヵ月の低迷から株式
市場が反発に転じる中、ここから金融市場の状況が悪化する
要因は見当たりません。力強さには欠けるも緩やかなペース
で続く景気拡大、低いインフレ率、緩和的な金融環境が続いて
います。主な資産クラスについての見通しは下記の通りです:

先進国国債インデックスのうち約1/3の債券の利回りがマ
イナス圏の水準にあり、豪州10年国債利回りも2%程度と、
債券から期待できるリターンは非常に限られています。

社債はある程度のリターンをもたらすでしょう。債券利回り
が上昇することで上値抑制要因となる可能性があるもの
の、緩やかな景気拡大が続いておりデフォルトリスクは低
く留まるでしょう。

非上場の商業用不動産とインフラストラクチャーは、「イー
ルドを求める投資家」からの需要が高まり恩恵を受ける可
能性があります。

株式市場は、割高ではないバリュエーション、緩和的な金
融政策、緩やかな景気拡大によって良好な収益環境が予
想されること等から、今後も上昇トレンドが続くと見ていま
す。グローバル株式市場において、米国よりも、欧州、日
本、中国とアジア株を選好します。
グローバルPMIは緩やかな景気拡大を示唆
グローバルPMI
(LHS)
世界GDP成長率%
(RHS)
(年)
出所:ブルームバーグ、AMPキャピタル
特に豪州では、先進国としては相対的に高い3%程度の堅調
な経済成長が続いています。豪州経済は、資源セクターへの
依存から転換しつつあり、また数量ベースでの輸出量の増加
など資源ブームの最終段階である第三のフェーズからの恩恵
を受けています。
2)Brexit後、中央銀行は流動性を維持するために緩和的な
金融政策を維持する姿勢を示しており、これは成長資産にと
って追い風となります。
3)欧米で見られる中道派だった有権者の左派傾斜を背景と
するポピュリズム政策は、長期的に見ると潜在的な経済成長
を押し下げる要因となりますが、短期的には緩和的な財政政
策が成長を促進(米国におけるトランプ氏も含め)します。
4)コモデティティ市場の最悪期は過ぎ去った可能性がありま
す。コモディティ市場で見られた50%を超える下落を伴う調整
によって、需給が均衡(特に原油と金属で)しつつあります。
5)デフレリスクには後退の兆しが見えます。デフレの最大の
要因だった原油価格が底入れし反発に転じており、各国の政
注視するべき事について
今後1年間注視すべきことについては、以下の点があげられ
ます:

グローバルの企業景況感(PMI)、直近の指標は力強さに
欠けるも緩やかな景気拡大を示していること

英国以外のEU加盟国における離脱追随の動きや、投資
家がイタリアなど金融システムや景気に脆弱性をはらむ
国に対して高い利回りを要求する動きなど、イタリアの銀
行に対するリスク

FRBが今年の後半に利上げを再開する場合、米ドルへの
影響について

中国の経済指標

豪州の非資源セクターが引き続きけん引役となるか
総括として
過去を振り返ると7-9月期は株式市場が荒れ模様となる年が
多く、米国大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の善戦や、
イタリアの銀行に対する懸念の高まりなどによって、市場が神
経質な展開となる可能性があります。しかし、短期的な不確実
性の先を見れば、相対的に魅力的な株式市場のバリュエーシ
ョン、緩やかなスピードながらも成長が続くグローバル経済、
緩和的な金融政策の継続などが金融市場をサポートしており、
投資家が過度に楽観的な見方を抱いていないことからも、過
去1年よりも高いリターンが期待できる環境であると考えてい
ます。
シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジーヘッド&チーフ・エコノミスト
AMP キャピタル
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