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ルミテスターを活用した食品取扱施設における自主管理の推進
名古屋市中村保健所 青木 誠 氏
現場における検査
因を推測します。原因の除去対策を実施した後、再検査を行っ
て対策の有効性を従事者自身に確認してもらいます。
ATP ふきとり検査に最初に出会った 15 年前、当時私は指導
食品取扱施設の従事者に " 手洗いの励行 " を口頭指示した
検査のあり方に疑問を持っていました。例えば調理従事者の手
場合、直後は確実に手洗いを行いますが、次第におざなりに
指の細菌検査を行った場合、結果を伝える頃には検査を受け
なり長続きしません。しかし従事者が手洗いの重要性を理解し
た本人は、あの時どのような手洗いを何時したか、どのような
て正しい手洗い方法を習得すれば、適切な手洗いを継続して
食品を取り扱っていたかなど、詳しい状況をほとんど覚えてい
実施します。なぜ手洗いが必要なのか、手指のどこがどのくら
ません。そのため検査の結果について説得力のある説明をす
い汚れているのか、どのような方法で手洗いをするとどれだけ
ることが難しく、結果に基づく指導もピントのずれた内容となり
汚れが落ちるのかを、従事者自身が確認することは非常に重
かねませんでした。これでは折角実施した検査が衛生改善に十
要です。指導検査を従事者の目の前で実施して適切なアドバイ
分反映されず、検査を行った意味が薄れてしまうケースも多い
スすることで、従事者は衛生改善の重要性を認識し、施設の
ように思われました。指導検査の理想は、検査したその場で結
衛生が継続的に保持されます。こうした指導そして確認する手
果が判明し、結果に基づく改善をその場で行い、再検査により
段として「汚れの量」を迅速に数値で示すことができるルミテ
改善の効果をその場で確認できることです。従って、指導検査
スターは大変有効です。
を有効な衛生改善につなげるには、短時間で結果が得られる
検査法の導入が必要と考えていました。
ルミテスターを活用した自主管理の実施
そこで出会ったのがルミテスターでした。しかし私がルミテス
ターを使用して最初に行った仕事は、恥ずかしながら RLU 値
中村保健所でのルミテスターの活用法を表 1 に示しました。
と一般細菌数の比較検討でした。結果は弱い相関が見られま
細菌による汚染は細菌検査により確認できます。しかし間接的
したが、当初は病原微生物そのものでなくATP 量を測定する
な方法で推測せざるを得ないノロウイルスの汚染を疑う場合な
ことに強い戸惑いを感じていました。長年細菌検査により汚染
どには、可能性を判断するひとつの手段としてルミテスターを
状況を確認してきた食品取扱施設の従事者も、ルミテスターを
活用しています。
初めて使用する場合には少なからず同様に戸惑うものと思いま
様々な活用法のうち今回は自主管理の推進事業についてお
す。いわゆる「汚れの量」を測定することで、病原微生物の
話しします。保健所が管轄する食品取扱施設は、ホテル、弁
存在の可能性、危険性を推測し、細菌増殖の要因となる汚れ
当製造施設などの大規模施設から個人経営の小料理店、喫茶
の存在を確認します。検査により洗浄消毒のポイント、実施時
店などまで様々であり、業種も飲食店、菓子店、精肉店など多
期、実施方法などの有効なデータが得られることから、適切で
種多様です。また管内の施設は 8,000 以上と多く、これら施設
効率的な衛生管理が可能となります。食品取扱施設でルミテス
を画一的なマニュアルで衛生管理することには無理があり、保
ターを用いて指導検査を行う場合には、まず従事者に「汚れ
健所による指導にも限界があります。施設の規模、業種そして
の量」について十分説明し、検査の意味を理解させたうえで検
施設数に加えて、施設のリスクは施設ごとに大きく異なること、
査を行うことが重要です。
一方、汚染原因すなわち感染源や感染経路の究明のために
は、確認検査を実施します。現場においては、目的に応じて
指導検査と確認検査を使い分けることが大切です。
指導検査は現場の衛生管理に不可欠
指導検査の目的は汚染の現状把握と改善効果の確認です。
まず検査を行って従事者に汚染の現状を確認させ、汚染の原
1.自主管理の推進
1)名古屋市食品衛生協会中村支部
2)名古屋駅前ビル街保健衛生協力会
2.保健所が実施する衛生指導
1)各種食品衛生講習会 ・・・・・・ 手洗い効果の判定 など
2)調理場内の汚染状況把握 ・・・・・・ 清掃後の改善確認 など
表 1 中村保健所におけるルミテスターの活用
従業員の衛生レベルは様々であること、従業員の健康状態など
らに厳しい目標値を設定して衛生管理の向上を目指します。
を毎日チェックするのは営業者や施設責任者であることなどか
食品衛生協会では、自主管理推進事業以外に独自でルミテ
ら、各施設の衛生保持は自主管理で行うのが最も効果的である
スターを使用して自主管理を希望する営業者、組合員へルミテ
と思います。
スターの貸し出しを行っており、地下街商店街、大規模弁当製
中村保健所が推進する自主管理事業は、食品関係の業態組
造施設、生菓子組合などが随時活用しています。また必要な
合が組織する名古屋市食品衛生協会中村支部(以下食品衛生
ルシパックの費用は食品衛生協会が全額補助して自主管理の
協会)および名古屋駅前の地下街、デパート、ホテル、飲食
推進を図っています。
店がテナントとして入るビルの管理者などで組織する名古屋駅
駅前協力会の会員である一部のビル管理者は、自主管理推
前ビル街保健衛生協力会(以下駅前協力会)の協力を得て、
進事業で使用したルミテスターの有効性を認識し、独自にルミ
4 年前からスタートしました。合言葉は " 自分の施設は自分で
テスターを購入して積極的な自主管理に取り組んでいます。ま
守る " です。
た保健所は両団体へ研修、助言、情報提供などを行って自主
食品衛生協会を対象とした自主管理推進事業は前任地の南
管理の推進を支援しています。
支部、港支部においても実施しましたが、何れの支部でも自主
管理の意味、必要性について会員の理解を得ることに大変苦
ルミテスターを活用した自主管理の効果
労しました。一方、駅前協力会の施設には以前から保健所が
毎年定期的に立ち入り指導をしていましたが、自主管理という
ルミテスターは積極的自主管理の推進に不可欠なツールであ
形で取り組むのは初めてでした。これまでの経験から成功の鍵
り、食品取扱従事者の危機意識の向上に非常に有効です。自
は、現場で自主管理の推進役となる食品衛生協会の指導員お
主管理にルミテスターを取り入れることで、営業者、施設管理
よび駅前協力会の衛生委員の育成であると考えました。
者そして従事者に対して説得力のある衛生管理の動機付けとな
自主管理は本来、営業者自身が営業する施設で独自に実施
ります。また自主管理事業を実践する指導員、衛生委員の研
するものですが、それぞれの団体の組合員あるいは会員に自
鑚にもつながります。各施設では汚染部位、汚染程度が把握
主管理の目的を理解してもらい自主管理の普及を図るため、保
でき、衛生管理のポイントが明確になることから、効果的で効
健所と両団体が共同して業態組合、ビル、地下街などを単位
率的な衛生対策が可能となります。両団体に対して行ったアン
として実施しています。事業の目標は指導員あるいは衛生委員
ケート調査でも「わかりやすい」「汚染部位が確認できた」「清
が施設を巡回する際にルミテスターにより汚れをチェックし、そ
掃、消毒の重点ポイントがよくわかった」などの感想が寄せら
の場で営業者に改善指導することです。そこで保健所は両団体
れました。
の組合長、役員、指導員そして衛生委員を対象に講習会、研
修会を繰り返し開催し、自主管理の必要性、重要性を理解して
自主管理のさらなる推進に向けて
もらいました。またルミテスターの実技指導、「汚れの量」の
意味そして現場での改善策についても研修を行いました。ス
今後は自主管理の定着が課題です。そのためには営業者、
タート当初は巡回に保健所職員が同行したため、保健所に "
管理者などの意識改革を行い、日常の衛生管理すなわち積極
おんぶに抱っこ " の状態でしたが、徐々に指導員、衛生委員
的な自主管理が施設に起因する感染症、食中毒の発生予防に
を中心とした本来の形になりつつあります。因みに毎年、食品
つながることを認識させます。そして " 自分の施設は自分が守
衛生協会、駅前協力会をあわせて 100 施設以上を巡回し、約
る " を合言葉にルミテスターを活用した自主管理を推進します。
400 ヶ所のルミテスターによる指導検査を実施しています。
またこの活動を通して、指導員そして衛生委員の質をさらに高
指導検査を行うにあたり「清浄度基準値をいくつにするか?」
という質問をよく受けますが、私は " 清浄度基準値は一律であ
め、正しい知識と科学的データに基づいた衛生管理の向上を
図っていきたいと思います。
る必要はない " と考えます。業種や取扱い品目(例:飲食店
と魚屋、精肉店と八百屋)あるいは検査時の状況(例:用便
後と調理中の手指)で数値が異なるのは当然です。また数値
は基準値ではなく、あくまで「目安値」、「目標値」と捉えてい
ます。目標値が最初から厳しい数値ではやる気が削がれ、反
対に達成すれば衛生意識の高揚を促すことから、達成後にはさ
2011 年 5 月発行のルミテスター通信 vol.3 より抜粋
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