2016年6月号掲載

経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
シンポジウム
「産業の未来
(第四次産業革命)
と日本の経済成長」
IoT(モノのインターネット)は、生産性向上と新たな価値の創出をもたらし、経済構造にも影響を与えるこ
とから、世界的に大きな注目を集めている。そこで、経済広報センターでは3月18日、同分野の最前線で活躍
する専門家を招き、IoTをテコに経済成長を実現するための課題などに関するシンポジウムを開催した。
講演した東京大学先端科学技術研究センターの森川博之教授は、
「生産性を向上させれば、人口減の中でも経
済成長を実現できる。IoTはその手段」として、IoT活用の重要性を強調した。マッキンゼー・アンド・カ
ンパニーの加藤智秋アソシエイト・プリンシパルは、「将来の事業環境がどうなるか、現時点では不透明であるこ
め、生産性を向上させれば、人口減の中でも経済成
IoTの活用に際し、経営者が売り上げや収益へ
長を実現できる。特に地方では、業種を超えて経営
の影響を気にし過ぎるのはよくない。先陣を切っ
者のネットワークが構築されている。啓発をしっか
てIoTを活用していくという意識が必要だ。かつ
りと行い、IoTの活用を促せば、業種横断的に新
て、鉄道の登場が郵便、新聞、銀行業などの発展に
しい価値が生み出される可能性が高い。IoTの活
繋がった。IT/ICTも様々な新しい事業を生み
用は、地方活性化の大きなチャンスとなる。
出すが、時間がかかるのも事実であり、継続的な取
IoT は、 あ る 意 味、「 地 味 」な も の で も あ る。
り組みが重要である。
かつて工場の生産性を大幅に向上させたPLC
今後は、様々な企業が集まり、新たな価値を生み
(Programmable Logic Controller:自動機械の制御
出すエコシステムをどう作っていくかが重要にな
に使われる装置)と同様、裏方となって社会を変え
る。そのためには、しっかりとしたプラットホーム
ていく。そのような意味で、IoTは、地道な取り
の構築が必要となる。大企業はベンチャーとの協力
組みを得意とする日本人に向いている技術なのかも
関係を強化するとよい。ベンチャーと大企業の経営
しれない。
者を引き合わせると、意気投合するケースも多い。
とから、まずはIoTを活用してみるべき」、ダッソー・システムズの鍛治屋清二社長は、
「IoTは日本企業に
とって、グローバルにビジネスを拡大するチャンスをもたらす」と発言した。加えて、ダッソー・システムズか
らは、同社が海外で手掛けるプロジェクトの紹介があった。
また、東レの小泉愼一顧問がモデレーターを務めるパネル
ディスカッションでは、IoTの活用を進める上での企業の
姿勢、経営者の意識などについて、熱心な議論が交わされた。
各講演者の発言概要は次の通り。なお、本シンポジウムの内
まずはIoTの活用を
始めることが大事
加 藤 智 秋(かとう・ちあき)
容は、4月30日付けの
『ジャパンタイムズ』に特集記事として
マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・プリンシパル
掲載された。
(右端)モデレーターの小泉愼一氏
IoTの活用は、開発から生産・販売までのバ
IoTを活用し、生産性を
向上させれば、人口減の中
でも経済成長を実現できる
森 川 博 之(もりかわ・ひろゆき)
東京大学先端科学技術研究センター 教授
リューチェーンのオペレーションを改善する。
当社が昨年、日米独の企業を対象に実施した調査
結果によれば、
「インダストリー 4.0 /IoTへの備
えば、スペインには、センサーで顔の表情を読み取
な視点を提供している。
し、IoTを実際に使ってみることが重要である。
とにかく、具体的な行動を起こすことが大切だ。
中小企業のIoT活用については、最新の技術動
に上り、米国の2割、ドイツの4割を大きく上回っ
向や企業動向に関する情報不足が、ボトルネックに
た。日本企業からは、
「概念的には理解するが、まだ
なっているケースが多い。このため、中小企業に対
将来の話」「しばらくは動向を見極めたい」といった
する情報提供をしっかりと行っていけば、IoTの
声が多く聞かれる。同時に、IoT関連で米独企業
活用は広がっていくだろう。
となんらかの協力を進めることについては、
「かえっ
組み立てに使われ、観客にゲームをより楽しむ新た
てでも、自社の強みを発揮できる分野にフォーカス
えができていない」と答えた企業は日本では約7割
て将来の事業展開の選択肢を狭める恐れがある」と
IoTは、既に様々な分野で活用されている。例
る。従って、パイロット・プロジェクトと割り切っ
いった懸念も見られた。
IoTが将来の事業環境をどのように変化させる
のか、現時点では不透明である。
り、笑った回数に応じて課金するというシステムを
IoTは大きな生産性の向上と価値の創出をもた
持った劇場がある。米国では、アメフトの選手に電
らす。IoT活用の成否は、先端技術の採用うんぬ
そのような中、どのような事業機会が自社にある
子タグを付け、選手の動きをモニターするといった
んではなく、活用のためのアイデアや気づきによる
かを抽出し、どのようなプレーヤーになるべきかを
ことが行われている。この情報は、チームの作戦の
ところが大きい。日本の中小企業がデジタル化を進
見極めることが経営者にとっては喫緊の課題であ
クライアントの意向調査を見ると、主要各国のなかで日本は、
Industry 4.0の事業機会に対して「準備不足」だと考えている模様
Industry 4.0
はリスクより
事業機会を
もたらすと思う
その事業機会
に十分な備え
ができている
と思う
NO
〔経済広報〕2016年6月号
NO
YES
YES
YES
NO
NO
YES
SOURCE: McKinsey Industry 4.0 Global Expert Survey 2015
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NO
YES
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2016年6月号〔経済広報〕
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経済広報センター活動報告
IoTはグローバルにビジネスを
拡大するチャンスをもたらす
鍛 治 屋 清 二(かじや・せいじ)
ダッソー・システムズ(株) 社長
野 崎 省 二(のざき・しょうじ)
ダッソー・システムズ(株) テクニカル・ディレクター
鍛治屋清二氏
野崎省二氏
IoTは、日本企業がグローバルにビジネスを拡
再現することにより、自然災害の影響や新規インフ
大するチャンスをもたらす。経営者は、IoTの活
ラ整備に伴う経済効果などのシミュレーションがで
用を積極的に進めて新たな価値を創造し、ビジネス
きるものである。
チャンスをつかむという姿勢を持つ必要がある。
このような取り組みは、日本の地方都市でも実施
現在、当社がサポートするメーカーでは、3D技
可能である。都市整備に関してデジタル技術を使
術を活用することで試作のパターンを大幅に増やす
い、シミュレーションを元に市民と対話を進めな
とともに、開発スピードを上げている企業もある。
がら、最良なプランを検討していくのである。これ
製造段階においても、バーチャル空間での工程設計
は、
「地方創生」
にも繋がっていくだろう。
と現実の製造オペレーションを連携させ、効率を大
きく向上させている。
一方、デジタル化が進むとデータハッキングな
ど、セキュリティー上のリスクも高まる。クラウド
また、当社では3D技術を駆使した「バーチャル
の活用など、外部との連携と共に、セキュリティー
シンガポール」というプロジェクトを行っている。
人材を社内でしっかりと育成することも重要だ。k
これは、人口動態、気象状況、交通量などのデータ
をインプットし、シンガポール全体をバーチャルに
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〔経済広報〕2016年6月号
(文責:国際広報部主任研究員 村松康平)