Title 糖タンパクにおける糖とアミノ酸の結合様式に関する研 究

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糖タンパクにおける糖とアミノ酸の結合様式に関する研
究( Abstract_要旨 )
牧野, 真弓
Kyoto University (京都大学)
1968-03-23
http://hdl.handle.net/2433/212848
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
】
21
2
C
g
弓
一幕
野
学 位 の 種 類
薬
学
学 位 記 番 号
諭 薬 博 第 6
0号
学位授与の 日付
昭 和 43 年 3 月 23 日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 5条 第 2項 該 当
学位論文題 目
糖 タンパ クにお け る糖 とア ミノ酸 の結合 様式 に関す る研究
論 文 調 査 委員
教 授 山科 郁 男
の
(主
的士
まき
ま博
牧
氏)
査)
論
文
内
教 授 高 木 博 司
容
の
要
教 授 冨 田謙 書
旨
糖 タ ンパ クはすべての動物細胞 に存在 し, 種 々の生物活性を有す るが, その構造 については未知の点が
多い。
糖 タ ンパ クの構造 において特徴 的な ことは糖 とア ミノ酸の問 に共有結合 の存在す ること, および糖部分
が変 化に富む複雑 な構造を もつ ことで ある。 この うち糖部分 の構造 は個 々のタ ンパ クに固有であると考え
られ るが, 糖 とア ミノ酸 の結合様式は多 くの糖 タ ンパ クに共通であると予想 され るので, 著者 は研究の主
眼を糖 とア ミノ酸 の結合様式を明 らかにす ることに置 いた。
材料 としてはまず比較的単純な構造を もち, かつ調製 の容易な糖 タ ンパ クで ある卵 アル ブ ミンを選んで
糖 とア ミノ酸の結合様式を明 らかに し, 次いでよ り複雑 な糖 タ ンパ ク, 例えば α1- 酸性糖 タ ンパ ク等 につ
いてその一般性を確かめた.
構造 の決定 は化学的および酵素的方法 によ って行な った。 すなわち, 一つは糖 タ ンパ クを タ ンパ ク分解
酵素 によ って糖ペプチ ドとし, これを酸加水分解 または過 ヨーソ酸分解す ることによって β- アスパ ラギ
ニル ー
N - アセチル グル コサ ミンを単離 したのち合成物 と比較す る方法であ り, 他 は この結合を特異 的に
分解す る酵素 (グ リコペプチダーゼ) を用 いて直接糖 ペプチ ドについて結合様式を決定す る方法である。
その結果, 次 の ことが明 らかにな った。
1. 卵 アル ブ ミンおよび
α1-
酸性糖 タ ンパ クの糖 とタ ンパ クとの結合 は, N - アセチル グル コサ ミンと
アスパ ラギ ン酸 との N配糖体結合である。 すなわち, その結合 はトLβa
s
pa
r
t
a
mi
d
02a
c
e
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d0
1
,
2
di
de
o
xyβ-D-g l
uc
o
s
e(p-As
pNHGI
c
NAc
)の形で存在す る。
CH2 0H
H柁
I
i
CO.
CH2 °
慧 oo"
-5
3
8-
この後 の多 くの研究 は, この結合 が多 くの糖 タ ンパ クに存在 す る最 も一般 的な形 で あ る ことを示 して い
る。
2・ 卵 アル ブ ミンか ら得 た糖 ペプチ ドの過 ヨー ソ酸酸化 によ り, 上 の結合 の存在 を証 明す ると同時 に,
卵 アル ブ ミンの糖部分 の構造 に関 して次 の如 く推定 す ることがで きた0
4(3)
GI
c
NAc
去-
3Man去-
GI
c
NA。
一-
GI
cNAc
NH-As
p
4 1
Ma
np
Ma
np
1-
;f
Ma
np
:J
Ma
np
3・ 合成物 βAs
pNHGI
c
NAc を基質 と して酵素 を探索 し, 新 酵素 グ リコペプ チダーゼを発見 し, そ
の作用機作 を明 らか に した。 す なわ ち, 反応機作 は次式 のよ うで あ り, (1)の反応 が この酵素 によ り触 媒 さ
れ , (2)の反応 は非酵素 的 に進む。
CH2
0f
i
CH2 0H
・
CH・
COOH +
NHCO・
CH2
H
2
0
一
一
一
一
一
一
■
■
-
H.G
D
NHCOCH2
.
C
i:∠
NHAc
NH2+ As
p
a
r
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i
ca
c
i
d
′
(1 )
NHAc
CH20 fI
H.O
N rI2
NHAc
十H ・0
→
'
・Na
c
e
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y
l
g
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c
o
s
a
in
m
e 十 NH3
(
2
)
2
この酵素 は動物組織 に広 く分 布 し, 針As
pNHGI
c
NAc に特異 的で あ る。 この特異 性 を利用 して 天 然
物 中の糖 とア ミノ酸 の結合様式 の決定 に利用す ることがで きた。
論 文 審 査 の 結 果
の 要
旨
糖 タ ンパ クは動物体 内に広 く分 布 し, と くに細胞表面 の性質 にかかわ る重要 な物質 で あ るが, 構造 に関
す る基礎 的知識 は極 めて不十分 で あ った。
本論文 は糖 タ ンパ クの構造 の うち最 も重要 な, 糖 とア ミノ酸 との結合 様式 の決定 に関す る もので あ る。
まず
比較 的構造 の簡単 な卵 白アル ブ ミンを と り上 げ, これ を強力 な タ ンパ ク分解酵素 , プ ロナーゼ,
によ って反復 消化 して, アスパ ラギ ン酸 を唯一 の ア ミノ酸 と して含む糖 ペ プチ ドを調製 した。 次 いで, 酸
によ る部分 的加水分解 によ って アスパ ラギ ン酸 と N - アセチル グル コサ ミンよ り成 る化合物 を単 離 し, こ
-5
3
9-
れを合成物 と比較す ることによ って そ の 構 造 を LL一
針a
s
par
t
a
mi
d02a
c
e
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-1
,
2
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de
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xy一針D-
guc
o
s
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N(
βL-アスパ ラテル)-β-D - グ リコ ビラノシラ ミンと略称) 決定 した.
酸 によ る部分加水分解 によ っては, 目的 とす る化合物を高収量で得 ることが困難で あることか ら, 上記
糖ペプチ ドに段階的過 ヨーソ酸分解を施 して, 目的 とす る化合物をほぼ理論的収量で得 ること に 成 功 し
て, 上記 の結論を さらに確実な ものとした。
構造決定 と同時に, 糖 タ ンパ クの異化の機作 に も考察を加 える目的で, 針 アスパ ラチルグ リコシラミ
ンに働 く分解酵素を探索 して, 哨乳動物の諸組織 に広 く分布す る新 らしい酵素, すなわち, N -(針L - ア
スパ ラチル)
-β
-D -
グ リコビラノシラミンア ミダーゼを発見す るに至 ったO この酵素 はアスパ ラギ ン酸を
唯一 のア ミノ酸 として含む種 々の糖ペプチ ドに作用 して, アスパ ラギ ン酸を遊離 させ る作用を有 し, 生成
す る ト ア ミノ糖 は非酵素的にア ンモニアを遊 離す ることが明 らか とな った。
この酵素 はアスパ ラチルグ リコシラミン型 の結合の決定 に用い得 るのみな らず, 糖 タ ンパ クの異化 に関
与す る, 生理 的に重要な意義を有す るもので ある。
以上, 本論文 は先ず糖 タ ンパ クにおける糖 とア ミノ酸 との結様式 を 明らかにす るに当 って, プ ロナーゼ
消化法が極 めて有用であることを示 し, 次 いで, 糖 とア ミノ酸の結合が N -(β-レ アスパ ラチル)
-β
-D -
グ リコシラミン構造を有す ることを化学的, 酵素的方法 によ って明 らかに した もので あって, 最近 の糖 タ
ンパ クの研究 における最 も顕著な成果である。 とりわ け, 新酵素の発見 は糖 タ ンパ クの研究 の レベルを著
るしく高 めた もので ある。
最近 の諸知見 は, 細胞 の表面 の有す る諸性質 に糖 タ ンパ クが重要 な役割を果 していることを示 している
が, 薬物の作用点が しば しば細胞表面 にあることか ら, 糖 タ ンパ クについての基礎的知見 は薬学上に も貢
献す るところが少 な くない。
よ って本論文 は薬学博士の学位論文 として価値 あるものと認める。
- 54
0-