地方都市の 不動産証券化について

Special
特集: 地方創生における不動産証券化の役割
地方都市の
不動産証券化について
松野 憲治
国土交通省
土地・建設産業局 不動産市場整備課
課長補佐
場の成長戦略 」においても、
「 地域を活性化する不
1.地方都市における
不動産証券化の意義
地方都市では、人口減少と少子・高齢化 、地場産
業の停滞などによる活力の低下が進む中で、コンパク
動産ストックの再生 」として、
「志ある資金等を活用し
て地域の空き家・空き店舗等を再生する「ふるさと再
生投資 」事業のための枠組みの整備 」や「耐震化 、
環境改修 、観光・物流・ヘルスケア施設の再生等を促
進するための不動産特定共同事業制度の充実 」、
ト化を図って機能的なまちづくりを進める地域や、イン
「 地方における不動産証券化に関する人材育成支
バウンド観光需要や地方移住等 、新しいニーズを背
援 」、
「 地域活性化に資するPRE( 公的不動産 )
の
景に成長を見せている地域もある。
民間活用の推進 」等が掲げられている。
このような経済・社会の動向に対応して地域の魅力
を高め、地方創生を進めるためには、再開発やコン
バージョン等により既存ストックの有効活用を進め、持
続可能な都市構造への再構築を行い、地域の生活
に必要な都市機能(医療・福祉 、商業施設等 )
の整
従来不動産証券化手法は比較的収益性が高い
備や、地域の魅力を高める施設(ホテル・旅館等 )
の
大都市における不動産への活用事例が中心となって
整備を進めていく必要がある。
いたが、平成 25 年の不動産特定共同事業法改正で
地方都市におけるこのような不動産の需要に対応
は、倒産隔離されたSPCを活用して現物不動産に投
するため、不動産証券化手法の活用の推進が期待
資することを可能とし、
これにより地方の老朽・低未利
されており、国土交通省では、制度整備 、人材育成
用不動産の再生を推進することとされた。しかし、地
等を通じて、地方都市における不動産証券化の普及
方都市ではまだ不動産証券化手法を担う人材が十
を促進している。本年 3月に不動産投資市場政策懇
分ではないという認識の下 、その附帯決議において、
談会において取りまとめられた提言「 不動産投資市
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2.地方都市における
不動産証券化の普及の取組
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.32
「 地域の金融機関等が積極的に事業参加し、有効
特集:地方創生における不動産証券化の役割
な不動産ストックの形成に資するよう、制度について
周知するとともに、地域の不動産投資市場を担う専
3.今後の取組
門知識を持った人材の育成に努めること。
」とされた。
平成 25 年に改正された倒産隔離型の不動産特定
これを踏まえ、平成 26 年度から「 地域における不
共同事業は次第に活用事例が現れ始め、平成 28 年
動産証券化手法の活用促進に向けた人材育成事
7月12日時点では特例事業者数 25 件 、総額約 743
業 」を実施し、地方都市におけるワークショップの開
億円となった。しかし、実際の運用が進められていく
催等を通じて、地方都市における不動産証券化手法
中で新たな課題も顕在化しつつある。
の活用を促進するための課題の抽出・整理を行った。
まず、地域で増加する空き家・空き店舗等の再生
同事業の中で、参加者からの意見として具体の事業
が課題になっている中、このような小規模の不動産の
を進める中でノウハウを習得したいという意見があっ
再生を行おうとする事業者にとって、不動産特定共
たことも踏まえ、平成 27 年度は同事業を発展させ
同事業の許可基準のハードルが高いため、小規模不
「 地方都市における不動産ファイナンスの環境整備
動産事業に不動産特定共同事業が活用されるよう、
事業 」を開催し、地元不動産会社 、地域金融機関
投資家保護とのバランスを斟酌しつつ、枠組みの検
等が連携して設置する協議会に対して、不動産証券
討を進める必要があると指摘されている。また、近年
化の知見を有する都市銀行や不動産運用会社等の
クラウドファンディングを活用して、事業を応援したいと
専門家を派遣し、実際の不動産証券化プロジェクトを
いう投資家から小口資金をインターネット上で募り地
進める中で課題の解決とノウハウの蓄積・共有を図っ
域活性化事業を行う事例が増えているが、不動産特
た。
定共同事業法では書面での取引が前提となってお
この事業では、地域ごとに異なる社会経済状況の
り、クラウドファンディングに対応していないため、電子
中で、事業の構想段階にあるものから着工に向けたス
化への対応を検討する必要があることも指摘されて
トラクチャーの検討に入るものまで幅広い段階の案件
いる。
が対象となったが、結果として案件形成のそれぞれ
次に、既存の不動産特定共同事業についても、倒
の段階における課題が明らかになった。詳細は同事
産隔離型の特例事業スキームについて、プロ投資家
業においてとりまとめた「 地方都市の不動産証券化
に限定されている事業参加者のあり方や、投資家の
ガイドブック」を参照されたいが、主なポイントとして
特性に応じた規制のあり方等 、良質な不動産ストック
は、利益率が必ずしも高くなりにくい環境でリスクを
の円滑な形成に向けて制度の柔軟化を図ることも求
とって事業主体となる事業者が現れない場合でも、
められている。
地域の関係者でリスクを分担して事業を構築すること
さらに、地方における不動産証券化に係る人材の
ができることから、行政も含めて地域の関係者の合意
育成についても継続して取り組んでいく必要があり、
の下でプロジェクトを進める際に不動産証券化手法
地方都市における不動産ファイナンスの環境整備に
が有効であることが確認されたことが挙げられる。
ついても、昨年度にとりまとめたガイドブックを活用して
引き続き取り組むとともに、平成 26 年度から取り組ん
でいる地方自治体向けのPREの活用に係る人材育
成についても、引き続き取り組んでいく方針である。
July-August 2016
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4.最後に
政府では経済成長の果実を地域の隅々にまで行き
渡らせることを政策の主要課題に位置づけ、国土交
用して、地域の行政 、住民 、企業 、金融機関が協力
して、リスクを分担し、地域に必要な基盤を整備する
手法である。
通省を始め関係各省がまちづくりや産業基盤の整
当課では不動産特定共同事業制度の充実や人材
備 、中小企業の振興 、新産業の育成等のための補
育成を中心として地方都市における不動産証券化の
助金 、税制、政策金融を始めとした各種支援策を講
活用を推進し、地方創生に貢献していく所存である。
じ、地方創生に向けた取組を進めているところであ
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る。不動産証券化手法は、このような各種支援を活
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