特集:地方創生における不動産証券化の役割 特集: 地方創生における不動産証券化の役割 事例紹介 : 株式会社青山財産ネットワークス 東川 亨 中内 啓貴 不動産特定共同事業法特例事業 スキームを活用した再開発 株式会社青山財産ネットワークス 不動産事業本部 アドバンテージ事業部 部長 (ARES マスター M1204926) 株式会社青山財産ネットワークス 法務部 (ARES マスター M1305395) 平成 28 年 6 月30 日 、石川県小松市の JR 小松駅前で 、市長や市議会議長をはじめとする小松市・市議 会関係者 、また事業関係者が列席する中 、 ( 仮称 ) 小松駅南ブロック複合施設新築工事の起工式が執り行わ れ、約 16カ月間の工事が正式に開始されました。 この事業は、JR 小松駅前に位置する市有地に公共施設 、教育施設 、宿泊施設 、商業施設などを配した複 合施設を建設し、小松市のまちづくりの一端を担おうというものです。建物完成後は小松市の都市再生整 備計画の重点施策である「 JR 小松駅前周辺を核としたまちづくり」の重要施設となるものと期待されます。 起工式:弊社蓮見社長による鍬入れ 起工式:和田愼司 小松市長による挨拶 July-August 2016 13 Special 不動産特定共同事業法 3 号事業スキームの採用 3 号事業スキームを採用したことです。 個人資産家の財産コンサルティングを主な業務とし 弊社は平成 26 年 6月に行われた小松市による民 ている弊社がなぜ不動産特定共同事業法第 3 号事 間事業者公募に、清水建設株式会社と共同(以下 、 業(特例事業 ) を行うことになったのか、その経緯とス 「弊社グループ」) で事業提案を行い、同年 10月に優 キームの概要を記します。 先交渉権を取得しました。その後 、行政をはじめとす る関係者との多岐にわたる協議・折衝 、市議会の承 認等を経てようやく着工を迎えたものです。 弊社が本事業に携わるきっかけは、平成 26 年春 、 今回建設される複合施設は百貨店撤退後の更地 清水建設株式会社から「 北陸地方で駅前再開発 を市が取得し、その土地( 約 1,000 坪 ) を借地し、地 事業が検討されているが、地方創生の一環として青 上 8 階建 、延床面積約 2,850 坪の建物を建築し、市 山財産が得意とする個人資産家の資金を活かすス 民が利用できる施設やブックカフェ、物販店舗 、加え キームが使えないだろうか?」というお問い合わせを頂 て新たに開設される大学施設 、さらには100 室程度 いたことです。 のホテルなどが入居する計画です。 弊社は平成 14 年から継続して、提携会計事務所 今回の事業者公募に対して弊社グループが行った の関与先を含む全国の個人資産家からの出資を基 事業提案の特徴は、複合施設の建設と保有(その に、任意組合型不動産特定共同事業商品(アドバン 後の賃貸 ) を、平成 25 年 12月に施行された改正不 テージクラブ) を組成・提供しています。このスキーム 動産特定共同事業法( 以下 、 「 改正不特法 」) で認 に清水建設株式会社が注目されたものです。 められた特例事業者が行う不動産特定共同事業法 図1 パース 14 1.事業提案に至る経緯 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.32 一方 、弊社も全国に拡がる税理士・会計士のネット 特集:地方創生における不動産証券化の役割 ワークとその関与先である資産家の資金を活用して 改正不特法が施行されたころから、3 号及び 4 号 「地方創生 」に貢献できる事業を行いたいと考えてお 事業の許可取得に向けた準備を開始してはいたもの り、お互いのニーズが合致したと言えます。 の、東京都知事許可から金融庁長官・国土交通大 臣許可への許可替えとなるため、新たに取得する3 2.事業スキームの選定 号及び 4 号事業だけでなく、従来から許可を受けて こうした経緯から、当初は任意組合スキームを検討 いた1 号及び 2 号事業についても新たに審査を受 したものの、事業主体を任意組合とした場合 、①事 け、許可を取得しなければならないといった手間が生 業資金の借入が可能か、②市との借地契約の当事 じ、平成 27 年 6月にようやく第 1 号から第 4 号までの 者になれるか、③建築工事の発注者になれるか、と 許可を取得するに至りました。 いった課題をクリアできず、任意組合スキームの採用 3.事業スキームの概要 (図2スキーム図参照 ) は見送りました。 一方で全国の個人資産家に出資を募り不動産特 今回の事業スキームは、改正不特法が想定してい 定共同事業を数多く実施してきた経験を活かす弊社 るものとほぼ同じスキームとなっており、改正不特法の なりの提案を検討した結果 、TMKや通常のGK-TK 特例事業者となる「 資産保有 SPC 」が小松市から スキームではなく、改正不特法 3 号事業( 特例事 市有地を50 年間借地し、複合施設の建設 、完成後 業) スキームを採用することになりました。 の建物保有と賃貸を行うことになります。 しかしながら、当時弊社は未だ3 号及び 4 号事業 建築費を含む事業費( 約 45 億円 ) は、以下の内 の許可は取得しておらず、小松市への事業提案は、 容で調達を予定しています。 事業確定までに3 号及び 4 号事業許可を取得するこ ①「資産保有 SPC 」が金融機関 2 行(みずほ銀行、 とを前提に行うと同時に、並行して3 号事業及び 4 号 北國銀行 ) から調達。 事業の許可を取得する手続きを進めることになりまし ②国と小松市から総事業費の約 25%に相当する補 た。 助金の交付を受ける。 図 2 スキーム図 (建物竣工時) 資産保有SPC 定期建物賃貸借契約 (不動産特定共同事業特例事業者) (賃貸人/営業者/賃料債権譲渡人) (1∼3階部分) に賃 よ料 る債 調権 達流 動 化 小松市 (承継賃借人) Hifリゾート株式会社 (賃借人2) 清水建設株式会社 (4∼8階部分) 借地契約 建築請負契約 対象不動産 (借地権付建物) 補助金 匿名組合出資 社員持分 株式会社 青山財産ネットワークス (三号事業者) 賃料債権譲渡 AM契約 一般社団法人 流動化SPV ABL みずほ銀行 ノンリコースローン 補助金 株式会社 青山財産ネットワークス ︵四号事業者︶ 小松市 (底地権者) 定期建物賃貸借契約 シニアローン 株式会社 こまつ賑わいセンター (賃借人1) 北國銀行 国・小松市 一般財団法人 (予定) 投資家 出資SPC 投資家 株式会社 青山財産ネットワークス July-August 2016 15 Special ③①②で不足する部分について投資家から出資を 受ける。 TMOに解除事由が生じた場合 、小松市が賃借 を継承することが取り決められています。 ところが、改正不特法では特例事業に参加できる 投資家は特例投資家(プロ投資家 ) に限られており、 弊社の得意とする個人資産家は本事業へ直接参加 ( 匿名組合出資 ) することができません。そこで金商 最後に 地方創生事業の中でも再開発事業等はいかに安 法上の特定投資家とみなされる法人「出資 SPC 」 定した収益を確保できるかが、民間の資金を呼び込 を活用し、その「出資 SPC 」が個人資産家等から む一つの目安になると考えます。そうした中、今回の 資金を集め、 「 資産保有 SPC 」へ匿名組合出資を 事業は、土地の権利者が小松市のみであること、国 行う、二段構えのスキームとなりました。 と小松市からの補助金が手厚く交付される予定であ ること、賃貸借に関しても行政機関が大きな割合を占 一方 、完成後の建物については以下の賃貸借 (期間 25 年 ) が予定されています。 ①1 階から3 階は、小松市が60%以上出資をする第 三セクター「 株 式 会 社こまつ賑わいセンター」 ( TMO ) に賃貸。 1 階の一部は「 幼児教育から生涯学習までの一 貫したひとづくり」をテーマとした「 子どもと市民の 学びゾーン」としてTMOが直接運営するほか、 物販店舗 、ブックカフェ等に転貸を予定。 き、個人資産家等の期待にも十分応えることのできる ものになっていると自負しています。 また、行政機関が賃借に関わることにより、その信 用力によって長期間の賃料債権を流動化するスキー ムを資金計画に組み入れることが可能になったこと も、本事業の特筆すべきことであると考えます。 本事業は、施設のプランニング、スキーム策定の段 階から施設の建設へステップは進みましたが、これで 2 階及び 3 階は2018 年春開校予定の( 仮称 )公 完了ではありません。完成後の施設が長期にわたり 立小松大学に転貸され、大学キャンパスや市民に 小松市や市民の皆様 、その他関係者のご期待に応 も開放される図書館などとして利用される予定。 えられる運営ができて初めて事業が成功したと言えま ②4 階から8 階は、地元のホテル運営会社である す。今後も関係者の皆様のご協力を仰ぎながら事業 「 Hifリゾート株式会社 」に賃貸。客室数 100 室の ビジネスホテル「ホテルグランビナリオKOMATSU (仮称 ) 」として営業予定。 なお、①の賃貸借に関して、将来賃借人である 16 めていることなどから、比較的安定した運営が期待で ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.32 を推進していきたいと思います。 また、弊社としましては本事業の経験を活かし、地 方創生に一層貢献していきたいと考えています。
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