人間観察 ID:92997

人間観察
雨冠
︻注意事項︼
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す。
小説の作者、
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超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
ある日、勇樹︵ゆうき︶はバイト先の双葉︵ふたば︶に、自分のことを観察したいと
告げられる。
勇樹はそれが常軌を逸したことだと知ったが、彼は双葉に弱味を握られ、しばらく彼
女の観察に付き合うことになってしまう。
欲望のままに行動する女と、それによってもがき苦しむ男の物語。
※当初はR│15で投稿する予定でしたが、念のためにR│18にしたので、エロは
控えめです。
一日一話ずつ投稿していきます。全5話を予定しています。
この作品は﹃小説家になろう﹄にも掲載しています。
目 次 第1話 ││││││││││││
第2話 ││││││││││││
第3話 ││││││││││││
第4話 ││││││││││││
最終話 ││││││││││││
1
14
26
38
50
第1話
8月上旬、俺││西田勇樹︵にしだゆうき︶は今日もバイトに行く。バイト先は三番
手くらいに大手のチェーン店のカフェだ。今は大学2年の夏休みのまだ前半で、バイト
をするか遊んでいるかくらいしかやることがない。
﹂
今日は18時にバイトを終えると、俺は着替えて帰ろうとしていた。
﹁あのー、話がありまして。今、時間ありますか
﹂
つ年下の18歳。どちらかといえば地味な女の子だ。
俺は双葉︵ふたば︶ちゃんに呼び止められた。お団子ヘアーに赤縁の眼鏡、歳はひと
﹁お疲れさまです。西田さん、ちょっといいですか
?
ず話を聞くことにした。
俺は特に急いで帰る用もなかったので、双葉ちゃんが着替えるのを待って、とりあえ
?
俺はアイスコーヒー、双葉ちゃんはアイスティーを注文すると、それを持って店の奥
の席に座り、テーブルを挟んで向かい合った。
﹁私、人間観察が趣味で⋮⋮﹂
﹁話って何かな﹂
第1話
1
俺は双葉ちゃんの第一声に苦笑した。まあ、人間観察は好きにすればいいが、それを
趣味だと公言するのはやめた方がいいと思った。変な人だと思われかねない。現に今、
俺がそう思っている。
﹂
﹂
﹁よく解らないけど、観察って何をするの
﹁うーん⋮⋮解った﹂
3日後の昼、俺は双葉ちゃんに指定された駅で待ち合わせて、彼女の家に向かった。
度くらいは遊びに行ってもいいだろう。
俺は訳も解らず、双葉ちゃんの家に行くことになってしまった。バイト仲間だし、一
私のうちに来てください。そこで説明し
?
ます﹂
﹁そうですねえ。空いている日ありますか
?
な人間でもない。俺のどこをどう見てそう思ったのだろう。
わないが、俺は彼女もいないし、変わった趣味があるわけでもないし、特別目立つよう
この子は一体何を言っているのだろう。俺を観察するのは勝手にしてもらっても構
﹁西田さんを観察したら面白そうだなって思ったので﹂
?
﹂
﹁ああ⋮⋮うん。それがどうしたの
﹂
﹁西田さんを観察してもいいですか
?
﹁⋮⋮はい
?
2
俺たちが彼女の家に向かう間、彼女はバイト先のことを話すくらいで、人間観察のこと
を話すことはなかった。
家に入ると、俺は双葉ちゃんに彼女の部屋に連れてこられた。
﹁お邪魔します﹂
俺は部屋の中心にあるテーブルの前に座ると、双葉ちゃんは棚に置かれていた黒い麻
の袋を持ってきて、俺の横に座った。
﹁はい、どうぞ﹂
﹂
双葉ちゃんはそう言いながら、俺にその袋を差し出した。中にはDVDが3枚入って
いる。
﹁これは何
えっ﹂
?
似たような物だった。
﹂
AVだ。俺は何かの間違いだろうと思い、残り2枚のタイトルを確認したが、それも
﹁⋮⋮痴女
1枚取り出してタイトルを見た。
双葉ちゃんは俺がDVDを観ているところを観察したいのだろうか。俺はDVDを
﹁西田さんに観てもらいたくて、レンタルしてきました﹂
?
?
﹁双葉ちゃん⋮⋮これを今から俺が観るの
第1話
3
﹁そうですよ。何か問題でも
﹂
?
﹂
?
?
﹂
!
﹁もう帰るんですかー
残念です。でも私、西田さんの観察は続けますよ﹂
﹁帰る。こんなことだとは思わなかった﹂
俺は立ち上がった。
﹁するわけないだろ
からは目を逸らすので﹂
﹁良ければ、観ながらオナニーしてもらっても構わないですから。その間、私は西田さん
がる理由が全く解らなかった。
双葉ちゃんの意図がやっと解ったが、俺は彼女が何故、俺のそういうところを知りた
かったんですけどねえ﹂
﹁私は西田さんにそれを観てもらって、どういうところが好きとか興奮するとか、聞きた
俺は頭を抱えたくなった。
﹁いや、そういうことじゃなくて⋮⋮﹂
すか
﹁趣味じゃなかったですか SMとか熟女とか、もっとマニアックなのが良かったで
俺がそう言っても、双葉ちゃんは顔色ひとつ変えなかった。
﹁問題ありすぎ。女の子の前でこんなの観れるわけないよ﹂
4
?
俺は双葉ちゃんの家を出た。
俺は家に帰りながら考える。双葉ちゃんはおそらく、好奇心が人一倍強いのだろう。
しかし、普通はあんなことは言わないし隠すものだ。そして彼女は俺の帰り際、観察を
続けると言っていた。彼女がただ、俺を遠くから見ているだけだとは思えない。不安に
なってきた。
次の日、俺は朝からバイトだ。午前中はまだ客の数が少ないため、俺はのんびりと洗
い物をしていた。
俺が振り向くと、そこには滝本︵たきもと︶さんがいた。赤茶色のショートカットに
﹁西田君、おはよ﹂
白い肌、少し垂れた目が可愛らしい。同い年だ。
﹁おはよう﹂
た。
17時にバイトを終え、俺が更衣室から出てくると、そこには双葉ちゃんが立ってい
度食事にでも誘おうと思っている。
俺は滝本さんのことが気になっていた。彼女の方からもよく話し掛けてくれるし、今
滝本さんはそう言うと、自分の持ち場に向かった。
﹁今日は西田君と一緒かー。ふふっ、頑張ろっかな﹂
第1話
5
﹁西田さん、お疲れさまです﹂
﹁ああ、お疲れ。双葉ちゃんは今から
﹁いえ、今日は休みです﹂
﹂
?
﹂
﹂
?
﹂
?
だ。俺は嫌な予感しかしなかった。
?
﹁いや、いいよ。自分の力で頑張るから﹂
﹁西田さんって、滝本さんのことを想像しながらオナニーしたことあります
﹂
双葉ちゃん以外の人からこれを言われたら、それなりには嬉しいのだろうが彼女は別
﹁私、西田さんの恋を応援しますよ﹂
﹁だったら何
﹁西田さん、滝本さんと話している時は楽しそうですから﹂
双葉ちゃんは急に何を言いだすのだろうと、俺は立ち止まり、彼女の方を向いた。
﹁⋮⋮え
﹁西田さん、滝本さんのことが好きなんですよね
俺は双葉ちゃんから逃げるようにそこから離れた。
﹁俺、帰るから。じゃあ﹂
あって、今日は彼女とはあまり話したくなかった。
俺は双葉ちゃんがシフトの確認でもしにきたのだろうと思った。俺は昨日のことも
?
6
双葉ちゃんは何故、そういうことを普通に言えるのだろう。彼女は一体、俺にそれを
聞いてどうしたいんだ。そもそも、そんなことを聞くこと自体がおかしい。
それとも、エッチ││﹂
﹁ああ⋮⋮もう、いいから﹂
﹁滝本さんの裸ですか
﹁西田君も上がり
﹂
﹁そうだよ。滝本さんも
﹂
﹁西田君、この後、暇
﹂
﹂
﹂
3日後の18時、俺がバイトを上がろうとしていると、滝本さんに話し掛けられた。
俺は双葉ちゃんにうんざりしながら家に帰った。
こんなことで辞めたくない。
うしたいんだ。ここを辞めれば彼女と関わらなくて済むが、他に良い人は沢山いるのに
本当に嫌だ。双葉ちゃんは明らかに度が過ぎている。俺の性事情について知ってど
俺は双葉ちゃんの言葉を無視してその場を立ち去り、店を出た。
?
俺と滝本さんは更衣室の前に着き、話した。
﹁うん
?
?
?
﹁そうなんだ。じゃあさ、一緒にご飯でも⋮⋮どう
?
!
﹁特に予定はないけど﹂
第1話
7
俺はこの時、平静を装いながらも内心はかなり嬉しかった。まさか滝本さんの方から
食事に誘ってくれるなんて、思ってもみなかった。俺は二つ返事で了承した。
食事は滝本さんの希望でパスタになった。女の子らしい。
俺と滝本さんが席に着いて注文を済ませると、彼女の方から話しだした。
だしね﹂
﹁おっ⋮⋮俺も前から同じこと思っていたよ
!
それなら良かったー
じゃあ、そのうちまた行こうね。バイバイ﹂
!
﹃そのうちまた行こうね﹄
滝本さんはそう言いながら改札を潜っていった。
﹁そう
?
﹁いやいや、そんな⋮⋮楽しかったよ﹂
﹁今日は付き合ってくれてありがとね﹂
での間、緊張であまり何を話したのか覚えていなかった。
食事を終えて俺と滝本さんが店を出ると、駅に向かいながら話した。俺は駅に着くま
俺は緊張して仕方がなかった。
バイト先にいる時は普通に話せるのだが、こうやって改まって二人で話すとなると、
﹁そうなんだ。なんだか嬉しいな﹂
﹂
﹁私、一度こうやってプライベートで西田君と話してみたかったんだ。せっかく同い年
8
俺は頭の中で滝本さんの言葉を反芻しながら、上機嫌で家に帰った。
次の日、俺は今日はバイトが休みだ。昼から友達と遊ぶ予定がある。
で﹄
﹂
﹄
﹁俺、今日は友達と遊ぶ予定があってさ、何時に帰るか解らないからまた今度でいい
話したいこと││おそらく、観察のことだろう。
﹂
話したいことがあるの
俺が昼食を摂っているとスマホが鳴った。俺は一旦席を立って画面を確認すると、そ
れは双葉ちゃんからの電話だった。
﹁はい﹂
シフト代わってほしいとか
﹃お疲れさまです。急にすいません。今いいですか
﹁どうしたの
?
﹃そうではないです。今日、少しでいいので時間ないですか
?
場所を指定してもらえれば私、そこまで行きま
?
俺はラーメンを食べている間、双葉ちゃんのことを思い出して電話をしようと席を
俺は友達数人とボーリングやカラオケに行き、その後はラーメン屋に向かった。
た連絡すると言って電話を切った。
ここまで言うなら、もしかしたら真面目な話なのかもしれない。俺は少し悩んで、ま
すから﹄
?
?
?
﹃30分でいいので⋮⋮ダメですか
第1話
9
立った。
﹂
そもそもいないし。ちょっと電話してくる﹂
﹁なんだ、彼女に電話か
!
札の前で待っていた。
﹁こんなに遅い時間でも来るなんて⋮⋮よっぽど大事な話なの
﹂
﹁ええ、私にとっては。とりあえずここではなんなので、近くに公園でもあります
?
?
﹂
?
ているところは見たことはあったが、仲がいいということは知らなかった。本当かどう
何を言いだすのかと思えば、滝本さんのことか。俺は双葉ちゃんが滝本さんと話をし
﹁西田さんは知らないかもしれないですけど私、滝本さんと仲いいんですよ﹂
﹁大事な話って何
公園に着くと、俺と双葉ちゃんはベンチに座った。
の公園に向かった。
双葉ちゃんの大事な話というのが全く検討もつかなかったが、俺は彼女を連れて近く
こで話しましょう﹂
そ
友達と解散して22時、俺はさっき双葉ちゃんに指定した駅前に向かった。彼女は改
が、彼女はそれを気にすることはなかった。
俺は双葉ちゃんに、俺の家の最寄り駅の場所と時間を指定した。遅い時間にはなる
﹁違うから
?
10
かは解らないが。
﹁それがどうしたの
思っています﹂
﹁うん⋮⋮それで
﹂
﹂
﹁私 は 滝 本 さ ん の こ と が 好 き な の で、滝 本 さ ん に は 良 い 男 の 人 と 付 き 合 っ て ほ し い と
?
﹂
?
で送るから帰って﹂
﹁適当な理由つけられても、俺は双葉ちゃんの観察に付き合う気はないから。ほら、駅ま
俺はベンチから立ち上がった。
やはり、結局はこうなるのか。
﹁はい﹂
﹁知りたいって、俺の性癖のことだろ
﹁だから私は西田さんのことが知りたいんです﹂
とっても大きなお世話だろう。
こ の 子 の 言 う こ と は 本 当 に よ く 解 ら な い。何 を 確 か め る と い う の か。滝 本 さ ん に
﹁西田さんがその良い男の人かどうか、確かめたいんです﹂
?
﹂
俺がそう言うと、双葉ちゃんは俺の腕を掴んだ。
﹁何
?
第1話
11
﹂
﹁私の観察は、西田さんを馬鹿にするためにしているわけじゃないです。興味があるん
です﹂
﹁興味があったとしても、これは度が過ぎている。やめてくれ、迷惑なんだ﹂
﹁⋮⋮私、滝本さんに西田さんの悪い噂を流すくらい、簡単に出来るんですよ
﹂
し、今はこんなことより滝本さんのことを優先したい。双葉ちゃんの要求にはさっさと
俺は自分が嫌になった。年下の女の子に脅されるなんて、かなりみっともない。しか
双葉ちゃんはそう言うと、ベンチから立ち上がって公園を出ていった。
﹁そうですか。では、また連絡します。駅までは一人で大丈夫です。明日バイトで﹂
﹁解った、観察に協力する。だから滝本さんに変なことを吹き込むのはやめてくれ﹂
くらいなら││
双葉ちゃんはおそらく、俺の性癖について解れば満足なのだろう。悪い噂を流される
俺はベンチに座り直した。
﹁あー⋮⋮ちょっと考えさせてくれ﹂
ように協力します﹂
﹁西田さんが私の観察に付き合ってくれるなら、私は西田さんが滝本さんと上手くいく
双葉ちゃんのまるで熱の籠っていない目に、俺は少し恐怖を感じた。
﹁今度は脅しか⋮⋮
?
?
12
第1話
13
応えて解放されよう。
俺は無理矢理自分を納得させ、家に帰った。
第2話
次の日、俺は朝からバイトだ。
双葉ちゃんだ。今日は彼女と最初から最後まで同じシフトで、俺はげんなりした。
﹁おはようございます﹂
17時、バイトを終えて俺が更衣室に向かっていると、背後から双葉ちゃんがついて
きた。
﹂
更衣室の前に着くと、双葉ちゃんが俺に話し掛けてきた。
﹁西田さん、今日はこの後、時間ありますか
﹁うーん⋮⋮まあ、あるけど﹂
ンを持ってきて、それを置いた。
俺が座ると、双葉ちゃんはテーブルの上に、ポータブルDVDプレーヤーとヘッドホ
女は、俺を彼女の部屋に連れてきた。俺はテーブルの前に座った。
18時前、俺と双葉ちゃんは彼女の家に着いた。この前と同じように、家に入ると彼
俺は双葉ちゃんの家に行くのは了承したが、ご飯は断った。
﹁じゃあ、私のうちに来てください。良ければご飯を食べていってくれてもいいですし﹂
?
14
﹁中にDVDが入っているので、観てください。気になるところがあったら、その都度止
﹂
めて私に報告してください﹂
﹁これ⋮⋮AV
﹁はい﹂
﹂
?
﹂
!
﹁その⋮⋮絡みがどうしたの
﹂
双葉ちゃんは下ネタを言うことに全く抵抗がないようだ。今さらだが。
﹁言わなくても解っているから
﹁男女が繋がっている時のことです﹂
﹁絡み⋮⋮﹂
﹁西田さんは絡みは好きですか
た。感想は適当なことを言って誤魔化せばいいだろう。
俺は嫌で嫌で堪らなかったが、拒否したらまた何か言われそうなので従うことにし
?
?
とした。
は一秒でも早くこの時間が終わってほしかったので、飛ばしていいと言われて少しほっ
双葉ちゃんはまだ18歳で、しかも女の子なのにAVに詳しいなあと思いながら、俺
どのAVでも絡みのシーンは、どれも似たようなものですから﹂
﹁西田さんが特別観たくないなら、時間が掛かるので飛ばしてもらってもいいですよ。
第2話
15
俺はヘッドホンを付けるとDVDを起動した。双葉ちゃんは俺の横に座り、一緒に観
るようだ。全く落ち着かない。
俺はAVを観ながら、時々適当なところで止め、適当な感想を双葉ちゃんに言った。
その度に彼女はDVDを巻き戻し、俺からヘッドホンを奪い取ってその場面を確認して
いた。
﹂
﹁西田さん、どうしたんですか
﹁何が
﹂
?
﹂
﹁体育座りなので。あ、もしかして股間が反応しちゃいましたか
﹁していない
?
?
ルの上に置くと、それを注いだ。
スポーツドリンクを持って双葉ちゃんが戻ってきた。彼女はコップをふたつテーブ
が休まって、大きく息を吐いた。
それから双葉ちゃんは、ジュースを持ってくると言って部屋を出た。俺はようやく気
!
﹂
30分程してDVDが終わった。俺はこの時間が気が遠くなる程に長く感じた。
﹁言わなくていいから⋮⋮﹂
Sっ気があるんですね﹂
﹁西田さんはヤダって言われながらも、受け入れられるのが興奮するんですか。意外と
16
﹁どうぞ﹂
﹁ありがと﹂
俺はスポーツドリンクを一気飲みした。俺はここにいるだけで、喉が渇いて仕方がな
﹂
?
かった。
﹂
﹁ふー⋮⋮双葉ちゃんってさ、なんでカフェで働こうと思ったの
うん⋮⋮まあ﹂
﹁それ、興味あります
﹁ん
?
うだ。
?
と考えてもらえると、しっくりきますか
﹂
俺は双葉ちゃんの冗談にツッコミを入れるのも面倒だった。
﹁⋮⋮小学生じゃないんだから﹂
﹁答えられることなら﹂
﹂
?
?
﹁西田さんは滝本さんのどこが好きなんですか
?
﹂
﹁そうですねえ、夏休みが終わるくらいまでですかね。これを私の夏休みの自由研究だ
﹁俺、いつまでこんなことをしないといけないの
﹂
俺は雑談でもしないと息が詰まりそうだったが、双葉ちゃんはそれをする気もないよ
?
﹁今日はとりあえず、AVはもういいです。私の質問に答えてもらってもいいですか
第2話
17
俺は双葉ちゃんの質問に拍子抜けしてしまった。これまでの彼女とは打って変わっ
﹂
て普通の質問だ。俺は何か裏があるようにしか思えなかったが、答えることにした。
﹁明るくて優しいところかなあ﹂
﹁そうですか。でも、そんな人なら他にいくらでもいますよね
﹁それはそうだけど、滝本さんは可愛いし﹂
る理由としては充分だと思うが。
?
﹂
?
エッチ出来そうだから、とりあえず口説いとこうって﹂
双葉ちゃん今、自分で何を言っているのか解ってる
?
を言われたところで、観察にはなんの意味もないですから﹂
﹁解っていますよ。私はもっと、西田さんに心の中を曝け出してほしいんです。綺麗事
俺は怒りが爆発しそうだった。双葉ちゃんの言うことはあまりに失礼すぎる。
﹁はあ⋮⋮
﹂
﹁はっきり言ってくださいよ。近くにいて、自分に好意を持ってくれて、顔は悪くないし
俺は腹が立った。嘘は言っていない。双葉ちゃんは何が不満だと言うのか。
﹁はい、応援しますよ。西田さんが本当のことを言わないので気になっただけです﹂
﹁双葉ちゃんって、俺のことを応援してくれるんだよね
﹂
双葉ちゃんは何が言いたいのだろう。明るくて優しくて可愛いというのは、好きにな
﹁滝本さんくらいの可愛い人なら、他にいくらでもいますよね
?
?
18
俺はこの時、双葉ちゃんの目的が少し解ったような気がした。おそらく、彼女は羞恥
﹂
や世間体などを全部取り払った、俺の言葉を聞きたいのだろう。そうしない限り、俺は
解放されることはない。
﹁⋮⋮解ったよ。言えばいいんだろ
﹁やっと私の気持ちを汲み取ってもらえましたか 遅すぎですよ。私は西田さんから
?
﹁普通で悪かったな﹂
﹁そうですか。やっぱり、西田さんも普通の男の人なんですね﹂
られた。
俺は半ばヤケになってそう言った。言った後、滝本さんに対する激しい自責の念に駆
するね﹂
エッチしたい。話している時も、滝本さんが全裸でよがっているとこを想像していたり
を想像しながら、今まで何回もオナニーしていたから、もう我慢出来ないし、さっさと
﹁滝本さんは見た目がいいから、横に連れて歩くには良い女だね。俺は滝本さんのこと
俺はひとつ息を吐いて話した。
聞いたことは絶対に口外しないですから、思っていることを言ってください﹂
?
俺はとりあえず、今日は解放されたことに安堵しつつも、観察がまだ続くことに気が
﹁今日はもう、帰ってもらっていいですよ。観察の続きは今度ということで﹂
第2話
19
重くなりながら家に帰った。
一週間後、18時にバイトを終え、俺は更衣室に向かった。
﹂
?
﹁あっ、双葉ちゃん
どうしたの
﹂
?
﹁ま⋮⋮まあ、そういうことになっちゃってね。滝本さん、お疲れ﹂
双葉ちゃんの言うことは嘘だろうが、俺はそれに合わせることにした。
らうんです﹂
﹁大きい本屋に行きたいんですけど、場所が解らないので今から西田さんに案内しても
を振り解いた。
滝本さんだ。従業員室に何かを取りにきたのだろうか。俺は慌てて双葉ちゃんの手
!
双葉ちゃんはそう言うと、俺の腕を引いた。
﹁観察再開です。迎えにきたんですからね﹂
﹁今日は何
俺はとりあえず服を着替えて更衣室から出てくると、双葉ちゃんに話し掛けた。
ために来たのだろう。
そこには双葉ちゃんが立っていた。彼女は今日はバイトがない。また俺を観察する
﹁西田さん、お疲れさまです﹂
﹁わっ⋮⋮﹂
20
﹁そうなんだ。お疲れー﹂
俺 と 双 葉 ち ゃ ん は 店 を 出 た。俺 は 彼 女 に ど こ に 連 れ て い か れ る か の 検 討 も つ か な
﹂
かったが、ついていった。
﹁さっきの、嘘だよね
﹁歌を唄うのが目的ではないよね⋮⋮
﹁さあ、入りましょうか﹂
﹂
俺は双葉ちゃんにカラオケ店の前に連れてこられた。
から﹂
﹁嘘ですね。西田さんと滝本さんには上手くいってほしいので、怪しまれたくないです
?
﹁双葉ちゃん⋮⋮ちょっと近すぎない
﹂
付いてきた。肩と肩が触れ合いそうな距離だ。
故か俺の隣のかなり近くに座ってきた。俺が少し彼女から離れると、彼女はまた俺に近
俺と双葉ちゃんがテーブルの上にジュースを置き、俺がソファーに座ると、彼女は何
ろうと、不安しかなかった。
俺と双葉ちゃんはジュースを持って部屋に入った。俺はこれから何が行われるのだ
俺は﹃密室﹄という言葉に背筋が寒くなりながら、双葉ちゃんと共に店に入った。
﹁はい。密室ならどこでもいいので﹂
?
?
第2話
21
﹁近い方が観察しやすいですから﹂
﹂
俺は今日も、この時間が早く終わるのを願うしかなかった。
﹁西田さんって、私に観察されるのは恥ずかしいですか
﹂
?
﹂
?
﹂
?
﹁聞こえていましたよね 女の子にこんなことを何回も言わせたいなんて、西田さん
双葉ちゃんは一体、何を言っているんだろう。
﹁⋮⋮はあ
﹁西田さん、私とエッチしてくれませんか
﹁それを言ったからといって、協力出来ないことは出来な││﹂
などあるのだろうか。
双葉ちゃんは今まで散々下ネタを言ってきたのに、俺に対して恥ずかしいと思うこと
らえませんか
﹁そうですか。じゃあ、私も恥ずかしいことを言うので、もっと観察に協力的になっても
﹁そりゃあそうだよ⋮⋮オナニーしたとか普通、女の子に言いたくないよ﹂
?
22
﹂
は言葉責めが好きなんですか﹂
?
﹁私、いろいろ考えたんですけど、やっぱり西田さんと一回エッチするのが早いかなって
俺は双葉ちゃんの意図が全く解らなかったので、考えるのをやめた。
﹁違うから
!
思いまして﹂
﹁しないし⋮⋮早いって何が
でしょ
﹂
﹂
双葉ちゃんはそう言いながら、俺の両肩に手を置き、目を見つめてきた。
﹁⋮⋮西田さんはまた、そうやって気持ちを隠すんですね﹂
﹂
﹁西田さんだって可愛い女の子が相手なら、好きじゃなくてもエッチ出来るくせに
自分だけが高尚な人間だなんて思わないでください。綺麗事言うな
して。俺は双葉ちゃんとエッチはしたくないし、双葉ちゃんも俺のことは好きじゃない
﹁双葉ちゃん⋮⋮そういうことは興味だけで言わない方がいいよ。自分をもっと大事に
する意味が解らなかった。
双葉ちゃんは俺の観察のために、自分の体を許すつもりなのだろうか。俺はそこまで
いかなあと﹂
﹁西田さんはどんな愛撫をして、どんなことに興奮するのか、自分の体を使うのが一番早
?
のを思い出した。
俺は双葉ちゃんの手を振り払い、頭を掻いた。
﹂
俺は双葉ちゃんの迫力に圧倒されながらも、彼女にまともなことを言っても逆効果な
!
!
?
﹁それは認めるから⋮⋮双葉ちゃんは俺とエッチするのに抵抗はないの
?
第2話
23
﹁ないです。西田さんのことは嫌いじゃないですから。してくれます
﹂
?
にします﹂
﹁今日はもう、西田さんの情けない姿を見れただけで充分です。観察の続きはまた今度
双葉ちゃんはそう言いながら、急に立ち上がった。
﹁私は今日うちに帰ったら、今の西田さんの顔を思い出しながらオナニーしますね﹂
ぎった自分に嫌悪した。
俺は双葉ちゃんから慌てて目を逸らした。俺は彼女の言うことが、一瞬でも頭によ
なって顔に書いてありますよ﹂
﹁ふふ、また嘘ですか。私を彼女にはしたくないけど、一回くらいはエッチしてもいいか
﹁⋮⋮そもそもしたくないし﹂
わせる顔がないですしね﹂
﹁まあ、断られることは最初から解っていましたけど。私とエッチしたら、滝本さんに合
俺はなんとも言えない気持ちになった。
﹁う⋮⋮うん。そうなんだ﹂
ですけど、気持ち良かったです﹂
﹁私、最近は西田さんのことを想像しながらオナニーしているんですよ。昨日もしたん
﹁いや⋮⋮しないけど﹂
24
﹁俺を馬鹿にしているのか⋮⋮
﹂
俺は力なくそう言うことしか出来なかった。
?
双葉ちゃんは部屋を出た。俺は酷い疲労を感じながら、彼女についていった。
思っていませんから。西田さんが下手な嘘を吐くからいけないんですよ﹂
﹁馬鹿にはしていません。私は最初から、西田さんに心の中を曝け出してほしいとしか
第2話
25
第3話
﹄
3日後、今日はバイトが休みだ。朝、俺はスマホの着信音で起こされた。双葉ちゃん
からの電話だ。
﹁あー⋮⋮もしもし﹂
﹂
﹃朝早くからすいません。寝ていましたか
﹁うん。どうしたの
﹄
?
﹁それって俺じゃないとダメ
﹂
双葉ちゃんの声は珍しく何か不安そうだ。
﹃ダメです。西田さん以外に話せる人がいないです⋮⋮﹄
いた話だけど。相談なら滝本さんの方が、俺より親身に聞いてくれそうなものだが。
双葉ちゃんは滝本さんと仲がいいって言っていたし、っていっても双葉ちゃんから聞
?
言っている。
相談したいこととはなんだろう。観察なら観察と言いそうだが、双葉ちゃんは相談と
いですか
﹃相談したいことがありまして⋮⋮私、今日はバイトが昼に終わるので、その後、会えな
?
?
26
俺は双葉ちゃんのバイト終わりに、彼女と会う約束をした。
15時半、俺は双葉ちゃんと約束をしたカフェの前に来た。俺はバイト先まで行くと
言ったが、彼女の希望で別の場所になった。
しばらくすると双葉ちゃんが来た。
﹁観察でもないのに、わざわざすいません﹂
﹁観察の方が嫌だけどね⋮⋮﹂
俺と双葉ちゃんは店に入った。
俺はアイスカフェラテ、双葉ちゃんはアイスレモンティーを注文すると、それを持っ
て二階に上がり、テーブルを挟んで席に着いた。
﹂
俺がそう言うと、双葉ちゃんは少し俯きながら話しだした。
﹁俺にしか相談出来ないことって何
?
うん。それってデート
﹂
﹁私⋮⋮昨日、同じ大学の男の人とご飯を一緒に食べたんです﹂
﹁ん
?
双葉ちゃんはその人と上手くいきそう
﹂
?
﹁うーん⋮⋮自分で言うのもなんですけど、好意を持たれている感じはします﹂
?
双葉ちゃんは何故、そこまで言いにくそうにするのか俺は解らなかった。
﹁まあ、そんなところですね⋮⋮﹂
?
﹁で、どうだったの
第3話
27
双葉ちゃんは何が不安なのだろうか。彼のことが好きなら好意で返せばいいし、嫌な
らもう会わなければいいだけのことだ。俺としては彼と彼女が付き合って、観察が終
わってくれればありがたいのだが。
﹁私がもし彼と付き合ったら、西田さんの観察をやめないといけないですよね
ますけど、普通の人は絶対に嫌がります﹂
俺は改めて、双葉ちゃんの犬のようになっている自分にげんなりした。
﹁俺も出来ればしたくないんだけどね⋮⋮﹂
﹁私が今、西田さんにしていることを彼にしたとしたら、彼はどう思います
?
てありがとうございました﹂
﹂
﹁そうですよね⋮⋮じゃあ、私はもう彼と会うのはやめます。西田さん、話を聞いてくれ
﹁それは彼に聞いてみないと解らないけど⋮⋮普通は引くね﹂
﹂
﹁そんなこと出来るわけないじゃないですか⋮⋮西田さんは私の言うことを聞いてくれ
﹁そりゃあそうだね。俺の代わりに、彼のことを観察すればいいんじゃないかな﹂
?
彼の好意を無下にする理由が解らなかった。
俺は遠回しに自分のことを貶されていることが気になったが、それより双葉ちゃんが
す﹂
﹁彼、西田さんよりカッコいいし面白いんですけど⋮⋮私は多分、付き合わないと思いま
28
双葉ちゃんはそう言うと、俺に頭を下げ、飲みかけのドリンクを持って席を立った。
彼女はそれを返却口に置くと、足早に階段を下りていった。
俺は双葉ちゃんと彼がどうなろうと関係はないのだが、彼女がまだ俺に話していない
ことがあると思い、彼女を追いかけた。
﹂
﹂
﹂
もしかしたら彼、受け入れて
﹁あります。私は自分を偽ってまで彼と付き合いたくないんです﹂
くれるかも﹂
﹁だったら、双葉ちゃんの気持ちを彼にぶつけてみたら
俺がそう言うと、双葉ちゃんは黙り込んだ。
?
確か、バイト入っていないですよね
?
しばらくして双葉ちゃんは口を開いた。
﹂
﹁⋮⋮西田さん、明後日、空いていますか
﹁そうだっけ
双葉ちゃんはそう言うと去っていった。
?
んなことある
﹁双葉ちゃん、さっきの意味解んないよ。観察が出来なくなるから彼と会わないって、そ
俺は店の前にいた双葉ちゃんの腕を掴んだ。彼女は振り向いてそれを振り解いた。
﹁なんですか
!?
?
?
﹁昼、私のうちに来てください。待っています﹂
第3話
29
2日後、俺は昼食を済ませると、双葉ちゃんに言われたとおりに彼女の家に向かった。
家の前に着くと、俺はインターホンを押した。
よね
アイスコーヒーでいいですか
﹂
?
﹁どうぞ﹂
を注いだ。
戻ってきた。彼女はそれをテーブルの上に置くと、氷の入ったコップにアイスコーヒー
しばらくして、双葉ちゃんはアイスコーヒーとリンゴジュースのボトルを盆に乗せて
が優しいような気がして、調子が狂いそうだった。
双葉ちゃんは部屋を出ていった。俺はとりあえず腰を下ろした。今日はやけに彼女
﹁ああ、うん。ありがと﹂
?
﹁適当に寛いでいてください。何か飲み物持ってきます。西田さん、コーヒー好きです
家に入ると、双葉ちゃんは俺を彼女の部屋に連れてきた。
少しして玄関の扉を開け、双葉ちゃんが出てきた。俺は彼女に家に招き入れられた。
﹁あ、そっちに行くので、ちょっと待っていてください﹂
﹁西田です﹂
スピーカーから双葉ちゃんの声がした。
﹁はい﹂
30
双葉ちゃんはそう言いながら、コップを俺に手渡ししてくれた。
﹁⋮⋮うん、ありがとう。今日は双葉ちゃん、なんか優しいね﹂
普通ですよ﹂
﹂
?
﹁え⋮⋮そうなんだ。双葉ちゃんはそれでいいの
﹁はあ⋮⋮﹂
﹂
?
﹁どうしたの
﹂
﹁私を後ろから襲ってもいいですよ
﹂
観察を優先するなんて⋮⋮﹂
双葉ちゃんはそう言いながら立ち上がり、ベッドの上に俯せになった。
言ってくれますからね﹂
﹁いいんです。西田さんはまだ躊躇しているところはありますけど、私に思ったことを
?
会いません﹂
﹁⋮⋮私、彼と一緒にいるより、西田さんを観察している方が楽しいんです。だからもう
﹁あ、そうだ。この前デートした彼とはどうするの
俺はこの空気に耐えられなくなり、何かを話そうと口を開いた。
俺と双葉ちゃんはそれから沈黙した。
﹁そうですか
?
?
!
俺は双葉ちゃんの相変わらずのペースに溜め息を吐いた。
﹁しないから
第3話
31
﹂
﹁もういいです﹂
﹁何が
﹂
?
﹂
?
﹁⋮⋮あまり見ないでください﹂
俺は双葉ちゃんに背を向けた。
?
﹁あ⋮⋮うん﹂
﹁ホント、私、訳解らないですよね
﹂
座った。彼女の目は赤かった。何故だかは解らないが、泣いていたのだろう。
しばらくすると、双葉ちゃんは目を擦りながら、また眼鏡を掛けて俺の横まで来て
るように見えた。
俺がそう言っても、双葉ちゃんからは返事がなかった。俺からは彼女の肩が震えてい
﹁急にどうしたの
双葉ちゃんはそう言いながら眼鏡を外し、枕に顔を埋めた。
﹁はい。滝本さんに悪いことも言いません﹂
のが楽しいと言ったばかりだろう。
俺はあまりの出来事に、それ以上言葉が出なかった。双葉ちゃんは今、俺を観察する
﹁⋮⋮マジで
﹁私、西田さんの観察をやめます﹂
?
32
﹁まあ、理由はよく解らないけど、俺としては観察から解放されるのは助かるかな﹂
俺は双葉ちゃんの様子がいつもとは違うことが気になったが、何よりもう彼女の言い
﹂
﹂
なりにならなくていいと思うと、気持ちは晴れ晴れとしていた。
大学のこととか
﹁西田さん⋮⋮なんでもいいので話をしてくれませんか
﹁話
?
?
﹁西田君って彼女いたっけ
﹂
﹁ううん、いない。いたら滝本さんとここにいないよ﹂
?
料理屋で食事をしていた。
次の日の20時、俺はバイトの後、滝本さんとファッションビルの7階にある、和食
い。
が、時々笑い声が聞こえた。俺が彼女となんでもない話をしたのは初めてかもしれな
話をしている間も、俺は双葉ちゃんに背を向けていた。彼女の表情は解らなかった
た。
双葉ちゃんの声は弱々しかった。俺はとりあえず、彼女に言われたとおりに話し始め
﹁ええ、なんでもいいですから⋮⋮﹂
?
食事を終えて店を出ると、俺は滝本さんと駅に向かおうとしていた。
﹁あ、そうなんだ。西田君って真面目だねえ﹂
第3話
33
﹁じゃ、帰ろっか﹂
﹂
俺が歩き出すと、滝本さんは突然、後ろから俺の手を握ってきたので振り向いた。
﹁えーっと⋮⋮こういうことされるの、嫌
滝本さんは少し俯きながらそう言った。
俺⋮⋮滝本さんのこと、好きだよ﹂
!
嬉しい。私も西田君のこと⋮⋮好き﹂
﹁嫌じゃない
!?
?
﹂
﹂
?
その⋮⋮付き合うことになった﹂
?
双葉ちゃんは元々あまり感情を表に出さないが、俺は今日は少しだけ彼女の声が明る
﹁そうですか。それは良かったですね﹂
﹁え
﹁西田さん、滝本さんとはどうですか
俺と双葉ちゃんは2階席のテーブルを挟み、向かい合って座った。
双葉ちゃんは俺に聞きたいことがあるということだった。
﹂
なんか用
﹁西田さん、今いいですか
?
﹁どうしたの
?
時間に上がった双葉ちゃんに話し掛けられた。
一週間後、俺は18時にバイトを終えた。着替えを終えて帰ろうとしていると、同じ
俺はそれから、滝本さんと付き合うことになった。
﹁ホントに
?
34
い気がした。
﹁私、西田さんが滝本さんのことを可愛いと言っていたので、滝本さんも西田さんのこと
﹂
が気になるなら、もう少し積極的になってみたらどうですかって言ったんですけど、意
味ありましたか
﹂
?
いね﹂
﹁私が聞きたかったのはそれだけです。西田さん、滝本さんを大事にしてあげてくださ
てもいなかった。
俺はこの前まで散々振り回されていた双葉ちゃんに、感謝をすることになるとは思っ
﹁いえいえ。それなら私も協力した甲斐があります﹂
﹁んー、あったかもしれない⋮⋮ありがと﹂
からかもしれない。
│沙世︵さよ︶ちゃんが俺の手を握ってきたのは、双葉ちゃんの言葉に背中を押された
俺はまさか、双葉ちゃんが本当に協力してくれたことに驚いた。あの時、滝本さん│
﹁そうなの
!?
三週間余りが経った。もう夏休みが終わり、大学が始まっていた。俺は沙世ちゃんと
双葉ちゃんは席を立ち、階段を下りていった。俺もそれから続いて家に帰った。
﹁あ、うん﹂
第3話
35
付き合い始めてから、一ヶ月くらいは仲良く過ごせていたが、ここ何日か彼女の様子が
おかしい。俺から連絡をしても素っ気なく、忙しいからという理由で、まともに話すこ
とすら出来なくなっていた。
4日後、俺は今日は18時にバイトを終えて帰った。
﹂
俺が駅の改札の前まで来た時、そこには沙世ちゃんがいた。
﹁沙世ちゃん
﹁この人⋮⋮誰
﹂
俺が沙世ちゃんに声を掛けると、彼女は気付いたようで俺の方を向いた。
!
﹂
?
﹁沙世ちゃん⋮⋮何言っているの
﹂
?
?
﹁あなた、あんまりしつこいと警察呼びますよ
﹂
俺の彼女││俺は今この状況を察して、膝から崩れ落ちそうだった。
らえます
﹁あの⋮⋮誰だか解らないですけど、俺の彼女が不安がっているので話し掛けないでも
沙世ちゃんは確かに、男にそう言った。
﹁⋮⋮誰だろうね﹂
かったが、彼女の横には俺の知らない男がいた。歳は多分、俺と同じくらいだろう。
男の声がした。俺は沙世ちゃんのことしか見ていなかったのと、人混みで気付かな
?
36
俺は何も考えられなくなり、その場から無言で立ち去って改札を潜った。
俺は沙世ちゃんに浮気をされた。その事実を今、真正面から受け止めると、俺の心は
バラバラに砕け散りそうだった。
﹄
5日後の昼、俺は大学の食堂で友達と昼食を摂っていると、双葉ちゃんから電話が
あった。俺は食堂を出てそれに出た。
﹁もしもし﹂
﹃西田さん今日、夕方から時間ありますか
﹁まあ⋮⋮あるかな﹂
?
﹃それじゃあ、私のうちに来ませんか DVD借りてきたんですけど、一緒に観ません
第3話
37
あっ、勿論、卑猥なのではなくちゃんとした映画です﹄
?
で、俺は彼女の言われたとおりに中に入り、彼女の部屋に向かった。
インターホンを押すと双葉ちゃんが出て、﹃私の部屋に来てください﹄と言われたの
17時半、俺は双葉ちゃんの家に着いた。
抵抗はない。俺は了承した。
俺と沙世ちゃんはもう終わっているようなものだし、特に双葉ちゃんの家に行くのも
?
第4話
双葉ちゃんの部屋に入ると、彼女はテーブルの前に座っていた。
﹂
?
﹂
?
﹂
?
?
俺は混乱した。何故、双葉ちゃんがこのことを知っているんだろう。
﹁⋮⋮え
したんでしょ
﹁西田さんこの前、滝本さんに駅で会ったんですよね 彼氏さんといるところに遭遇
知っているかには興味はあった。
俺は今は滝本さんという名前を聞くだけでも嫌だったが、双葉ちゃんが彼女の何を
うか﹂
剥き出しの心を見せようと思いまして。その前に⋮⋮滝本さんのことから話しましょ
﹁今まで私の観察に付き合ってくれたお返しと言ってはなんですけど、私も西田さんに
﹁そう⋮⋮今日はなんの用
たという事実が受け止められず、些細なことを考える余裕もなかった。
俺はこの時、そんなことはどうでも良かった。俺はまだ、沙世ちゃんが浮気をしてい
﹁あの⋮⋮私、嘘吐いちゃいました。DVDを一緒に観たいというのは嘘です﹂
38
⋮⋮ちょっと意味が解らない﹂
﹁滝本さんその時、西田さんの顔を見て、笑いを堪えるのが大変だったみたいです﹂
﹁は
相変わらず、西田さんは鈍感ですねえ。滝本さんは初めから、西
﹂
?
俺がしばらく黙っていると、双葉ちゃんはまた話しだした。
俺は言葉が出なかった。
た﹂
いることをもっと早く知っていれば、西田さんに伝えられたんですけどね。無理でし
が苦しむ顔を見るのが好きみたいです。私が滝本さんが、西田さんに悪戯しようとして
﹁滝本さんは人が傷付くことにあまり抵抗がありません。特に男の人を弄んで、その人
俺は双葉ちゃんの言うことが、耳に入ってこなかった。
思っている滝本さんは、本当の滝本さんではありません﹂
﹁私 が 滝 本 さ ん が 好 き な の は、私 に 思 っ た こ と を 言 っ て く れ る か ら で す。西 田 さ ん が
俺は双葉ちゃんが嘘を言っていると思いたかった。
﹁冗談じゃないです。私、昨日、滝本さんから聞きましたから﹂
﹁それ⋮⋮冗談だよね
田さんのことは少しも好きじゃなかったんですよ﹂
﹁まだ解りませんか
?
?
﹁私の話を信じるか信じないかは、好きにしてください。次は私の剥き出しの気持ちを
第4話
39
話します﹂
﹂
双葉ちゃんはそう言うと、俺の肩に左腕を回し、俺の唇にキスをした。
﹁⋮⋮何やっているんだよ
西田さんはおっぱいは好きですか
﹁するわけないだろ⋮⋮﹂
﹂
私のおっぱい、結構大きいですよ。Eカップ
あります。私の体、好きにしていいですよ
?
﹂
!
俺は双葉ちゃんの腕を掴んだ。
﹁やめろ
俺が振り向くと、双葉ちゃんは服の上から股間の辺りを触っていた。
う我慢出来ません⋮⋮あんっ﹂
﹁私の西田さんが好きという気持ちは嘘じゃないです。剥き出しの気持ちです。私、も
?
?
﹁私、西田さんのことが好きです。そのムシャクシャした気持ちを私にぶつけませんか
俺は双葉ちゃんに背を向けた。
﹁意味が解らん⋮⋮﹂
いまして﹂
﹁何って⋮⋮私、今凄い興奮しています。西田さんにキスしながら、オナニーしようと思
俺は双葉ちゃんの肩を押して、彼女を引き剥がした。
!
40
﹁今はもう、何も後ろめたいことはないですよね 私とエッチしても問題ないですよ。
3日後、俺は17時にバイトを終えた。昨日の夜に双葉ちゃんから電話があって、1
われた。
た。そしてこの時、俺は自分が失恋したという事実を思い知らされ、激しい喪失感に襲
俺はその言葉を信じたくはなかったが、なんとなくそれは本当なんだろうなと思っ
﹃滝本さんは初めから、西田さんのことは少しも好きじゃなかったんですよ﹄
俺は電車に揺られながら今日、双葉ちゃんに言われたことを思い出していた。
俺は双葉ちゃんの家を出た。
ですけどね。また連絡します﹂
から、今度ラブホに行きましょう。ホントは今のボロボロの西田さんとエッチしたいん
﹁そうですか。西田さんは今、頭が一杯でしょうしね。私、今日はオナニーで我慢します
﹁⋮⋮しないから﹂
ちゃう西田さんを﹂
剥き出しの西田さんを見せてください。滝本さんに振られた腹いせに、私とエッチし
?
8時半に待ち合わせしているため、それまで買い物や本屋で雑誌を立ち読みしながら時
間を潰した。
﹁お待たせしました。行きましょうか﹂
第4話
41
俺は双葉ちゃんを連れてラブホに向かった。その途中、彼女は俺に腕を絡めてきた。
俺はそれを振り解くこともしなかった。どうでも良かった。
﹂
コン
俺はラブホに向かいながらも、まだ迷っていた。俺がこのまま双葉ちゃんとセックス
をしてしまえば、自分が壊れてしまいそうだった。
ビニ寄ります
﹁西田さん⋮⋮私、ラブホに行くのは初めてなので、何か要る物ってありますか
好きな人の観察を自分の体で出来るなんて⋮⋮﹂
俺、双葉ちゃんに恋愛感情はないんだよ
?
?
?
を私にぶつけてください﹂
﹁それは少し残念ですけど、観察と考えると興奮してきちゃいます。滝本さんへの憎悪
﹁双葉ちゃん⋮⋮ホントにいいの
﹂
﹁西田さん今、どんな気持ちですか 私はすぐにでもエッチがしたくて堪らないです。
双葉ちゃんは部屋に着くと早速、ベッドに寝転がった。俺はその端に座った。
俺と双葉ちゃんは部屋に向かった。
﹁へー、従業員の人がいないんですね﹂
ラブホに着くと、双葉ちゃんは周囲を見回していた。
俺と双葉ちゃんはコンビニで、それぞれの飲み物とコンドームを買った。
﹁⋮⋮そうだね﹂
?
?
42
俺が振り向くと双葉ちゃんと目が合った。彼女は俺に向かって両手を広げた。
俺は様々な思いで頭の中がグチャグチャになりながら、双葉ちゃんとセックスをして
しまった。
俺は使用済みのコンドームをゴミ箱に投げ入れると、布団に潜り込んで双葉ちゃんと
見つめ合った。
﹁西田さん⋮⋮凄く気持ち良かったです﹂
﹁そう⋮⋮﹂
は、私みたいな変な趣味の女の子は嫌なんでしょうけど﹂
﹁もし私が西田さんと付き合えるなら、いっぱい尽くすんですけどね。まあ、西田さん
双葉ちゃんは話しだした。
﹁そもそも、双葉ちゃんはなんで俺が好きなの ⋮⋮こんなにどうしようもないのに﹂
なったという。
そして、俺がカフェで彼女の相談を受けた日、追いかけてきて腕を引かれた時に好きに
を想像しながらオナニーをしだしてから、俺のことをよく考えるようになったという。
双葉ちゃんは元々、俺のことを観察対象としてしか見ていなかった。彼女は俺のこと
?
﹁いいじゃないですか。私、激しい感情が表に現れている人を見ると興奮するので、どう
﹁オナニーがきっかけって⋮⋮﹂
第4話
43
しようもない西田さんも好きですよ﹂
﹂
﹁双葉ちゃんって、なんでそこまで出来るの⋮⋮
?
﹂
俺は双葉ちゃんには、思っていることだけを言おうと決めた。
﹁そうですか。じゃあ、まだ時間もありますし、もう一回しましょう﹂
﹁セフレ⋮⋮いいよ﹂
た。
彼女の掌の上で転がされているだけなのかもしれない。でも今は、それは嫌ではなかっ
剥き出しの気持ち││双葉ちゃんは、よくこの言葉を口にする。俺はもしかすると、
ください﹂
だまだ西田さんの観察がしたいですから。今の西田さんの、剥き出しの気持ちを教えて
﹁本音を言うと西田さんの彼女になりたいですけど、それは無理みたいなので⋮⋮私、ま
?
せん。オナニーよりはましでしょ
でいいですし、もし西田さんにまた新しく好きな人が出来たら、捨ててもらって構いま
﹁私を都合のいい女にしてください。したくなったら呼んで、エッチだけしてさよなら
双葉ちゃんは急に寂しそうな目をした。
﹁西田さん⋮⋮﹂
﹁あー⋮⋮そうなんだ﹂
44
それから一ヶ月、俺は時々双葉ちゃんに会っては、体だけの関係を続けていた。俺は
バイト先で滝本さんに会っても、今は特に何も思うことはなくなっていた。
20時、俺はまた双葉ちゃんとラブホに向かっていた。
﹁双葉ちゃんってホント、可愛くないよね﹂
言ったら西田さん、興奮しますか
﹂
﹁酷いです⋮⋮あ、でも私、貶されるのも興奮しちゃうダメな女の子なんですー⋮⋮って
﹁うん。悪くないかも﹂
﹁今日の観察はどうだった
﹂
セックスを終えると、俺と双葉ちゃんは布団も被らず、横になって見つめ合った。
た。
部屋に着くと早速、俺と双葉ちゃんは服を脱ぎ、全裸になった。俺は彼女を押し倒し
?
﹁そうなんですか
なんだか嬉しいです⋮⋮あっ﹂
﹁俺、したいようにしかしていないよ﹂
﹁そうですねえ⋮⋮いつもより少し強引だったような気がします。でも興奮しました﹂
?
ダメな子だなあ﹂
双葉ちゃんは俺を気にすることなく、オナニーを始めた。
!
?
﹁⋮⋮ は い。ん っ ⋮⋮ 私 ⋮⋮ 嬉 し ⋮⋮ く な る と ⋮⋮ あ あ ⋮⋮ オ ナ、ニ ー し ち ゃ う ⋮⋮
﹁またオナニーしているの
第4話
45
はー⋮⋮ダメな、子⋮⋮なんです﹂
俺は双葉ちゃんを抱き締めた。彼女はオナニーをしている間、何度も﹃ごめんなさい﹄
もうこんな時間ですね。お腹も空きましたし、早くうちに帰らないと﹂
と言っていた。
﹁はー
﹁そう⋮⋮だね﹂
?
嬉しいです﹂
!?
﹁双葉ちゃん﹂
﹁はい、なんですか
?
﹁からかわないでください⋮⋮さっきは可愛くないって言っていたのに﹂
俺がそう言うと、双葉ちゃんは慌てて俺から目を逸らした。
﹁⋮⋮可愛いよ﹂
﹂
は、最近はますます女の子らしい。
バイト先では氷のように感情を押し殺した双葉ちゃんだが、俺と二人だけでいる時
﹁ホントですか
俺は双葉ちゃんの目を直視出来なかった。
﹁うん⋮⋮今日、いつもより気持ち良かったなって思って﹂
﹁西田さん、どうかしましたか
﹂
ラブホを出ると、双葉ちゃんは伸びをしながら歩きだした。
!
46
そんなこと言われると私、西田さんに期待しちゃいますよ
﹁いや、からかっていないよ。俺の剥き出しの気持ちだから⋮⋮﹂
﹁ああ⋮⋮もう
﹂
?
﹁双葉ちゃんって、くっつくの好きだよね﹂
に寄り添って、肩に頭を乗せてきた。
家に着くと、俺と双葉ちゃんは彼女の部屋に入り、テーブルの前に座った。彼女は俺
かった。
二週間と3日後、俺と双葉ちゃんは17時にバイトを終えると、一緒に彼女の家に向
歩いていった。
双葉ちゃんは恥ずかしそうにしながら、俺の手を握った。俺と彼女はそのまま駅まで
﹁⋮⋮は、はい﹂
いけど、付き合ってくれないかな﹂
﹁俺、双葉ちゃんのことが好きなんだと思う⋮⋮エッチしてから告白って順序がおかし
双葉ちゃんはそう言いながら、俺に笑い掛けた。
!
撫でた。
女は甘えん坊なところがあるのか、俺によくくっついてくる。可愛らしい。彼女の頭を
付き合いだしてから、双葉ちゃんは俺のことを﹃勇ちゃん﹄と呼ぶようになった。彼
﹁だって⋮⋮勇ちゃんにくっついていると、安心するんだもん﹂
第4話
47
﹁ねえ、今度どこかに出掛けない
﹂
?
?
﹂
?
潜り込むと、彼女は俺に抱きついてきた。
一週間後の18時半、俺と双葉ちゃんはラブホにいた。俺と彼女が服を脱いで布団に
でもこういうところを出せば、彼女はもっとモテそうな気がするが。
は、想像出来ない程の彼女のベタベタ振りに、俺は吹き出しそうになった。普段、少し
双葉ちゃんが考えていることも、俺とほぼ同じようだ。観察したいと言った時から
たいな﹂
﹁私、そういうことにお金と時間を使うなら、もっと勇ちゃんにこうやってくっついてい
い。この辺に気を遣わなくていいのは、双葉ちゃんの良いところかもしれない。
まあ、そう言ってくれると男としては助かるが。デートは金が掛かるし正直、面倒臭
﹁私は勇ちゃんとイチャイチャ出来たらそれでいいからなあ⋮⋮﹂
行きたいと思わないの
﹁せっかく付き合っているんだし、双葉ちゃんは遊園地とか、オシャレなレストランとか
とがない。彼女と会うのは決まって、彼女の家かラブホだ。
俺は双葉ちゃんと付き合いだしてから、一日丸々空けて、彼女とどこかに出掛けたこ
ころ苦手だし⋮⋮﹂
﹁んー⋮⋮私は勇ちゃんと一緒にいれるなら、別にどこだっていいよ 私、人の多いと
48
﹁双葉ちゃんはホントに甘えん坊だね﹂
﹁⋮⋮西田さん﹂
先輩と後輩のプレイ
﹂
俺は双葉ちゃんが今、﹃西田さん﹄と言ったことに違和感があった。
?
?
俺は冗談でそう言ったが、双葉ちゃんはそれからしばらく黙り込んだ。
﹁なんで急に敬語
第4話
49
最終話
俺は双葉ちゃんの様子がおかしいと思いながらも、彼女が何かを言うまで待ってい
た。
﹁ふっ⋮⋮ふ﹂
﹂
ふふ⋮⋮﹂
全部、嘘。私は
あー、もう我慢出来ない。西田さん、最高です。西田さんは本当に観察
双葉ちゃんは俯きながら肩を震わせていた。
﹁⋮⋮あはは
﹁観察⋮⋮
少しも西田さんのことは好きじゃないです﹂
﹁西田さんって、本当に私に愛されていると思っています
嘘です
俺は何故、双葉ちゃんが急に笑いだしたのかが解らなかった。
のし甲斐があります
!
俺は思考が追いつかなかった。
?
?
かったです
﹂
?
!
﹁⋮⋮冗談だろ
﹂
﹁私の今までの行動は全部、観察のためです。西田さんを好きな振りするの、とても楽し
!
!
50
心がガサガサになっちゃいました
﹂
私、楽しくて仕方がないです﹂
﹁冗談じゃないです。西田さん、滝本さんだけじゃなく、私にも騙されてどんな気分です
か
俺は言葉が出なかった。
﹁ほら、今の気持ちのままエッチしましょう
?
﹁あん⋮⋮私、今凄く敏感になっています。早く 西田さん、もう好きとか好きじゃな
双葉ちゃんは俺の腕を掴んで、自分の胸を触らせた。
!
?
﹁西田さん、私とまだ体だけの関係を続けてくれますよね 西田さんのことは全然好
は俺の腕を抱き締めているが、俺は彼女とは目を合わせなかった。
今はただ、股間が怠い以外、何も感じない。俺と双葉ちゃんは布団に潜り込み、彼女
││俺の気持ちはどこにあるんだろう。
いとかどうでもいいじゃないですか。気持ち良くなりましょうよ﹂
!
双葉ちゃんは気持ちが昂りすぎているのか、オナニーをしだした。
きじゃないですけど、エッチだけは本当に気持ち良くって⋮⋮んっ﹂
?
﹂
?
い。
俺の心は前のように、いつか元どおりになるのだろうか。今はそれが全く想像出来な
けるより、あっ⋮⋮自分に素直になった方が楽しいですよ
﹁はあ⋮⋮西田さん、気持ちなんて目に見えないものを、いちいち気にしてショックを受
最終話
51
﹁勇ちゃん⋮⋮大好き。嘘です、あはっ。彼女じゃなくなるだけで、といってもそう思っ
ていたのは西田さんだけですけど。今までと何も変わらないですよ。私たち、エッチく
らいしかしていなかったですからね﹂
俺はどういうわけか、双葉ちゃんが羨ましくなってきた。彼女は本当に自分の気持ち
を曝け出して、その欲望のままに行動しているし、それがとても楽しそうだからだ。
あ ー ⋮⋮ そ ん な 西 田 さ ん を 想 像 し た だ け で
?
泊まって、朝からバイトに行くつもりだ。夕飯を彼女の両親と一緒に摂ったが、その時
一週間後、俺は双葉ちゃんの部屋にいた。今は0時を過ぎた頃だ。今日は彼女の家に
が好きなんだ││
も好きじゃないと言われようと、俺の気持ちは変わらなかった。俺はまだ、彼女のこと
しかし悔しいが、双葉ちゃんとのセックスは気持ちがいい。そして、俺は彼女に少し
今すぐにでも双葉ちゃんとの関係をやめた方がいいのは、頭では解っていた。
俺はこれだけ傷付きながらもいつかまた、きっと恋をする。その時のためを思うと、
の俺の剥き出しの気持ちは、それでもいいと思ってしまっている。
俺は双葉ちゃんと快楽に溺れたまま、いつまでも心の傷を隠すのだろうか。ただ、今
私、興奮しちゃいます﹂
﹁欲 望 に 身 を 委 ね る 気 に な り ま し た か
﹁そうだね⋮⋮今日はもう時間がないから、また今度﹂
52
は彼氏の振りをして凌いだ。
﹁西田さん、もう両親も寝たみたいですし、エッチしますか
﹂
﹂
?
﹁⋮⋮なんですか
﹂
﹂
俺は双葉ちゃんを抱き締めた。
ち良くなりたいですし﹂
﹁まあ⋮⋮雑談はそうですね。でもどういうエッチをしたいかとかは話しますよ。気持
﹁双葉ちゃんってさ⋮⋮俺とエッチさえ出来れば正直、話すことすら面倒
セックスを終えると、俺と双葉ちゃんは布団に潜り込み、見つめ合った。
ちが微塵もなくても、やはり彼女のこういう仕草は可愛く思えた。
双葉ちゃんはそう言いながら、バツの悪そうな顔をした。俺は彼女に俺を好きな気持
﹁もう⋮⋮あんまり言わないでください﹂
﹁そろそろいいかな。双葉ちゃん、珍しくオナニーもせずに我慢していたみたいだし﹂
た。セックスがしたくて堪らないのだろう。
双葉ちゃんは30分程前から何か落ち着きがなく、俺とあまり話すことすらしなかっ
?
西田さんのことは少しも好きじゃないって﹂
﹁双葉ちゃんって俺のこと好き
?
?
?
﹁俺は双葉ちゃんが好きだよ﹂
﹁前、私言いましたよね
最終話
53
俺はそう言いながら双葉ちゃんにキスをした。
﹂
?
?
双葉ちゃんは黙り込んだ。
﹂
?
﹂
俺、凄く気持
双葉ちゃん、もっと興奮したいし、気持ち良くなりたいんだよ
?
﹁私⋮⋮好きという気持ちがよく解らないんです。今までそういう気持ちになったこと
てことはないと思っていた。
俺はこんなことを言ったところで、双葉ちゃんが俺のことを好きになってくれるなん
双葉ちゃんは複雑な表情になった。
﹁それは⋮⋮﹂
ね
れたら最高じゃない
ちいいし。双葉ちゃんが俺のことを好きになれるかどうかは解らないけど、もしそうな
﹁それに多分、エッチは好きな人とした方がもっと気持ちいいと思うよ
?
?
剥き出しの気持ちを曝け出せるって言ったら、双葉ちゃんはどうする
﹁例えば、そうだなあ⋮⋮俺は双葉ちゃんに愛されているって感じる方が、今よりもっと
﹁⋮⋮何を言っているんですか
らこうやって、俺に好きって言われるのが迷惑だとしても、突き放せない﹂
﹁双葉ちゃんは俺を最高の観察対象、性的興奮の対象として見ているんだよね だか
﹁んっ⋮⋮そんなこと言われても、私はどうも出来ないですからね﹂
54
がないので﹂
﹁そっか、解らないかあ。なんか寂しいね﹂
好きという気持ちとは違う気がするんですよね⋮⋮﹂
﹁西田さんに対してドキドキしたことはあります。でもそれって、興奮しているだけで
かもしれないよ
﹂
﹂
﹁そうなんだ。解らないってことはさあ、もしかしたらそれが好きっていう気持ちなの
﹁⋮⋮そうなんですか
﹂
?
﹁今日はしないよ
﹂
双葉ちゃんから俺を誘ったのにもかかわらず、彼女は少しも楽しそうではなかった。
﹁えっと⋮⋮暇だったので﹂
﹁なんで誘ってくれたの
だし、どういう風の吹き回しだろう。
どこかご飯に連れていってほしいとのことだった。彼女から外食に誘うなんて初めて
19時半、俺は双葉ちゃんと洋食屋で食事をしていた。今日は彼女から連絡があり、
けで良かった。それと同時に、俺は快楽に溺れている自分に酔ってもいた。
まってセックスをする時だけだ。彼女に気持ちがなくても、俺は彼女と一緒にいれるだ
それから一ヶ月余りが経った。その間、俺が双葉ちゃんと二人きりで会うのは、決
?
?
?
最終話
55
﹁⋮⋮解っています﹂
双葉ちゃんはセックスをする以外、俺に会ったり、なんでもない話をするのは嫌だっ
たはずだ。
しかし今日は、俺が話し掛けると、なんでもない話にもそれなりに付き合ってくれた。
どうしたの
﹂
﹂
俺と双葉ちゃんは店を出ると、彼女は少し俯きながら腕を絡めてきた。
﹁ん
それとも、家まで送っていこうか
﹁いえ、その⋮⋮﹂
﹁駅で解散する
?
﹁⋮⋮家までお願いします﹂
?
俺は双葉ちゃんとこのまま歩き出した。
││Fin.
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