「アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう」273号特集 p11-29

[特集1]
アナリーゼで
自分の演奏表現を
見つけよう
近頃、ピアノ指導の現場で注目されはじめたアナリーゼ。
「ミュッセ」からアナリーゼ楽譜も発売されますます注目度が高まりつつありますが、
アナリーゼというとどうしても難解なイメージがつきまとい、敬遠しがちなこともまた事実。
しかし、レッスンの中に上手に取り入れて、
小さいうちから生徒にアナリーゼの習慣を身に付けさせている先生もいらっしゃるようです。
アナリーゼをすると演奏はどのように変わるのでしょうか?効果的なアナリーゼの方法とは?
今回はまずアナリーゼとは何か、つまりアナリーゼの基礎と実践について作曲家の先生方から、
そしてアナリーゼを生かし、よりよい演奏表現に生かす方法について指導者・演奏者の先生方に
お話をうかがいました。
取材・編集 永田夏樹・菊池朋子
アナリーゼは、演奏行為にいたるまでの作品への
アプローチそのものです。まず、楽曲の構造を正
しく理解すること
(楽曲分析)から始まり、それを
自分なりの演奏表現に結び付けていきます。
■アナリーゼ(=楽曲分析)
演奏へのアナリーゼの効果とは?
指導者・演奏家の立場から
◎秋山徹也先生:
常識的な表現方法を身に付ける
アナリーゼとは?作曲家の立場から
◎喜多村知子先生:指導の現場から①
◎鵜﨑庚一先生:
曲の構造、響きを身体で感じ取る
◎大石由起子先生:指導の現場から②
・押さえておきたいアナリーゼの基礎
(嵐野英彦先生)
◎松﨑伶子先生:演奏家の立場から
・実践!アナリーゼ(佐々木邦雄先生)
◎嵐野英彦先生:
作曲者のメッセージを正しく読み解き
最大公約数的な音楽を見つける
11
■演奏表現
読譜力と演奏の判断力を育てる
子供の作品への興味を刺激する
詩的な言葉で置き換えイメージを膨らます
・ステップ参加でアナリーゼ力を鍛える
作曲家の立場から
先生(国立音楽大学名誉教授、日本作曲家協議会会員、日本音楽著作権協会会員)
音楽が成り立つかというと、そうで
りにきれいに弾いていったとしても、
曲の構造、響きを身体で感じ取る
鵜﨑庚一
和声は実習
作曲家の知恵による﹁工夫﹂や﹁どう
一つ一つの音は瞬間でしょう。
ピアノを専門に勉強していると、 はない。
演奏すること、指を動かすことにど
のメッセージが感じられる音楽にす
いう音楽にしたいか﹂という作曲家
るためには、例えば横のつながりが
うしても一生懸命になってしまいま
ているのか知ることとは、本当は一
必要です。永遠に続く時間の中で始
すが、弾くこととその曲がどうなっ
緒なのです。同時進行して曲に取り
大変必要な基礎力として、和声が
これは、全てのことに最優先する原
メッセージが込められて作品になる。
組まなければいけない。そのために、 まりと終わりで区切られ、作曲家の
あります。僕は和声をフランスで勉
理原則です。
得てして大事なものは頭にあること
特に、始まりはとても大切ですね。
があります。
場・終わりという横の構造の 原則
その原理原則の一つに、始まり・山
横の3原則
強したのですが、フランスでは﹁ハー
モニー﹂は理論ではなく実習でした。
和音をピアノで弾くとか、どんどん
書き取るとか、あるいは作るとか、
正にトレーニングです。
作品の原理原則
音が並んでいて、それを指使い通
3
12
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
の盛り上がりであれば軽い終止だっ
いく。結末もとても重要です。少し
に向かっていき、結末へと終結して
が多い。そして一番盛り上がる山場
も、どの程度、どのようにするかは
ラートといった指示は書いてあって
でしょうか。クレッシェンドやモデ
える。そこに個性が出るのではない
れをメロディーにして流れを牽引し
るからです。バスラインを強め、そ
のかというと、低音を大事にしてい
のです。なぜショパンは豊かに鳴る
しているのかという気持ちで取り組
とを癖にし、作曲家がどんな工夫を
いいから曲の作りを確かめていくこ
分で譜面を読んで、間違っていても
ていき、その上に和音の響きを重ね
むことで、自分の感性を高めること
決まっていない。テーマをしっかり
きれいなメロディーをぽんと乗せる。 いと思っている方も多いようですが、
たり、その規模が大きければ終わり
本当は耳と頭、目と、みんなつながっ
ができます。音楽は耳を鍛えればい
ていく人もいるかもしれないし、多
支えるものがあり、充填するものが
ていますから、耳で聴いて、目で譜
て伴奏部分の土台を作り、その上に
少のんびりそこへ持っていく人もい
あって、その上にメロディーがある
も大きな終わりになりますね。この、 出し、悠々と弾いて山場へ一気に持っ
けることは、どんな作品にも共通す
る。それらはピアニストの裁量です
始まり、山場、終わりの 点を見つ
る原則になると僕は思います。
面を読んで、頭で考えて、手の感触
でそれを確認し、総合力つまりこれ
ものですが、じゃあ理論を最初から
間が生まれ、色々なものを作り出し
自然なものなのです。自然の中で人
音楽というのは、もともととても
が本当の感性じゃないですか。
というのではなく、わかりやすい小ぶ
和声のトレーニングは欠かせない
音楽は総合的な感性
というのは、大原則なのです。
縦の 原則
うものが出てくる。
自分としての表現、そして個性とい
ふまえて曲の内容がつかめていると、
ね。音楽作品の原則原理をきちんと
個性とのバランス
作曲家はメッセージを発信する人
ですから、その思いを理解するには
共通の約束事、音楽の言葉を知らな
いと難しいでしょう。その中でもソ
い色があり、花にも色々な形があり、
りな楽曲から取り組むので十分です。 てきた。自然のなかに明るい色、暗
例えば左手の伴奏型をよく弾いてみ
人間にも足・胴体・頭がある。自然や
大原則といえば、例えば縦の大原
て、分散和音だったら和音の原型に
人間と全く関わりのないところに音
ルフェージュはまず前提としてあり、
まとめて弾いて聴いてみる。例えば
楽はありません。必ず、自然や生活
則というのももう一つの大切な原則
例えば和音を弾くと、響きは縦に
メジャーで明るい感じがする、あるい
その延長線上として、ハーモニーや
を身に付けるべきです。僕はやはり
なっているはずですね。下の音から
はマイナーで沈んだ陰りがあるとか、 の中のことと一緒に考えていきたい、
です。
ハーモニーはとても大切だと思いま
順番に音が乗っているのです。ビル
楽典に関する必要最小限の約束事
す。リズムや単音であってもそれら
いろいろな和音の響きを聴いてみるの
階の上にあるから 階ですか?い
いえ、地面に対しての4階ですね。 るとかして、その響き、つまり音色
ということをいつも意識しています。
が4階あるとするでしょう。 階は
の変化を感じ取ります。そうすると、
です。そうして例えば音を変えてみ
を立体的に構成したのがハーモニー
とで、人間の持っている感性が活性
和音の場合も、どこが全体を支えて
簡単なところからでいいから、自
化してたくましくなっていく。
例えば僕は何十年も講座をやって
これはもう立派な和声学なんですよ。
でしょう。響きの面白さを感じるこ
4
分でやってみることが大切です。自
◎ カワイ出版「トレーニング・
オブ・アナリーゼ ブルクミュ
ラー 25 の練習曲編」
◎ カワイ出版「こどものための
ピアノ曲集 風がうたう歌」
◎ カワイ出版コンサートピアノ
ライブラリー「夢の国から
/ オーバード」
◎ カワイ出版「144 の新曲練習
(伴奏付)」
◎レッスンの友社「おさらい会
のためのピアノ小品集」
◎レッスンの友社「視唱 73 の
練習曲」
◎日本作曲家協議会「ピアノの
ための譚詩」
4
いますが、ショパンはやはりすごい
ソルフェージュ、ピアノ関連著作より:
鵜﨑先生著作
3
いるかというと、低音なんです。
作曲家の知恵や工夫を理解したう
えで、その事をふまえて全体をどう
弾くかをそれぞれのピアニストが考
13
3
3
楽譜はメッセージ
記号の解読
古典作品
ロマン作品
(情報量少ない)
(情報量多い)
押さえておきたいアナリーゼの基礎
音楽作品を書き表した楽譜には、作曲者
からのメッセージが込められています。そ
のメッセージは、音楽上の共通のルールに
基づいて記号化︵=コード︶されて表されて
います。発信者︵=作曲家︶からのメッセー
ジを受信者︵=演奏者︶が誤解なく受け取る
ためには、そのコードを正しく理解する必
要があります。
※情報量は作品によって異なる
2
楽譜には、記号を使って音楽的メッ
セージが書き表されています。それを
解読して演奏表現を作っていかなけれ
ばいけません。
メッセージの分量は作品によってま
ちまちです。例えば、古典時代は楽譜
に書かれている情報量は少なく、演奏
する人が音楽作りに関わっていかなけ
ればなりません。ロマン派へと時代が
進んでいくと、楽譜に細部まで緻密に
表されていることが多いので、楽譜を
正しく理解して表現すると作曲家の意
図した音楽に限りなく近づけます。
もちろん、メッセージの書き方はそ
れぞれの作曲家によって異なるので、
時代だけで変わってくるわけではあり
ません。
記号化された音楽的メッセージを解読
1
発信者(作曲者)
メッセージ
コード
受信者(演奏者)
14
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
記号の基本認識として重要なこと
音楽素材における三度目の変化
不安定と安定 安定する箇所が複数の音で構成されて
を伴
いると、最初の音から次の音の移行には必ず dm.
うという演奏様式がある。
音楽の始まり方と終わり方
上拍始まりと下拍始まり、他
音楽の抑揚
主抑揚、表情抑揚、固有抑揚、独自の抑揚、強調の抑
揚 その中で、主抑揚、表情抑揚は、そのように演奏
するのが共通感覚。わざわざ楽譜に書くまでもない、
当たり前の事柄。
機能和声法
アナリーゼ
(楽曲分析)
のポイント
動機の素材的分析
テーマがどういう要素でできているか。例えば、リズ
ム型の観察や、最初の音から次の音にどのように進行
しているか。
動機浸透の状態
楽曲全体の中で動機がどのように用いられているか。
動機浸透が徹底されることにより、音楽がまとめられ
ていく。
統一要素と対照要素
動機浸透の確認。動機をまとめていくために、どのよ
うに同一/異質な要素が用いられているか。
和声分析
どの箇所の和声分析をすればいいかがポイント。そも
そも、和声法という理論が最初にあったわけではなく、
すでに存在している実作品の音の響きを体系化して
いったものが和声法である。全ての箇所を和声分析す
ればいいというわけではない。
形式
15
a
b
最後に楽曲全体の形を把握する。楽曲の表層から深層
までその構造を掘り下げていき、再び元の形に戻す、
それが演奏行為である。
嵐野英彦先生:アナリーゼ講座のレジュメより →嵐野先生のインタビューは P18 へ
4
これら4つの要素は、ピアノを習い始めたときから
親しんでいたほうがよい知識と感覚です。レッスンの
中で自然に取り入れていくと良いでしょう。指導者は、
テクニック、ソルフェージュ、楽典的な知識の つを、
バランスよくきっちりと教え込んでほしい。
3
c
d
e
3
a
b
c
d
B
【この曲の構成】
A
の変形
B
の変形
■要点
・転調は近組調の中の属調
(G dur)
、下属調の平行調
(d moll)
、平行調
(a
、下属調
(F dur)
。
moll)
・転調の見分け方:臨時記号の付いた音がヒント。その音が3度以上跳躍した
時が決定的。
A
メロディーはリズムパターンの他に音程が大きく跳ぶ時
(4度以上)
にその曲
・
B は C.P
(コン
トラプンクト・・・・ 対旋律)
.
の特徴となる。
とも言える。また、 A B セットで大き
なテーマ・モティーフとも捉えられます。 ・メロディーの原則:大きく跳んだら反転する。増1度以外の増進行は基本的に
基本的にこの2つの素材だけで全曲が
用いず、転回音程の減進行を用いると良い。
作られています。
嬉遊部
(区)
上下声入れかえて出しています
Dm
(以下
d: Ⅰ
|Ⅴ|
7
■コードネーム:
E7
のモルデントは入れると音楽的に
「しつこい」
ので無しがベスト)
|Ⅴ|
7
Am
ここも転調を暗示
a:
a: Ⅴ7
|+Ⅴ|
|+Ⅴ||
Ⅴ|
7
Ⅰ
|
Ⅰ|
Ⅴ7 Ⅴ7
|
Ⅰ7|
Ⅰ Ⅴ7 Ⅰ'
Ⅴ Ⅴ
和音進行が半拍単位で変わります
ここも嬉遊部
(区)
と考えられます。
ここから高原の上を滑るように G
A7 Dm
イメージすると良いですね
Am
|
Ⅰ|
7
|Ⅴ| |
Ⅱ|
G7
d:Ⅴ
|+Ⅴ|
C
Ⅰ
C7
Ⅰ Ⅰ Ⅴ
この二つの相乗効果で
音楽が盛り上がります
Dm7
C dur を暗示しています
d moll を暗示しています
a: Ⅰ
|
Ⅰ|
この付近がこの曲のクライマックス
(頂点)
本来下声
D7 E7
Am E7 Am Dm E7 Am
AmE E7
部に入る
べき
な の で
この間のみ両声部に 16 分音符が連続
は?し か
し上声の
ほうが美
しい。
1
2
2
+
|Ⅴ|
F
|
Ⅰ7|
本来はここが最後の主題提示部ですが、
主調に戻っていません。
だから落ち着かないのです。
本来の1つの調に
対する 属7の
和音=ドミナント
セブ ンスは 1 つ
のみ。この曲の場
合はG7 です。他
の 7 が出たら全
て他調の属 7 で
あり、転調または
借 用和音として
原調にはない響
きがあることに注
意しよう。
■跳躍する音:
流れの中の自然な
強弱:跳躍する音
と上行形の音形に
はエネルギーを与
えよう
■トリル・モル
デント:
や の意味:
1つはアクセント
の一種として目立
たせる。1 つは音
形として目立たせ
るのですが、さら
に他声との同時発
音時の音程のきつ
さの中和として使
われるとも考えら
れます。
<総括コメント>
楽語に書き込む
アナリーゼにはや
はり限度がありま
す。詳しく解説(実
この音が主調に戻っていない証拠!!
演付)している講
Ⅰ
Ⅰ
F:Ⅴ7
Ⅴ
座のライブ録画の
6
|Ⅴ| |Ⅴ|
|
Ⅰ|
|Ⅴ|
|Ⅲ| |Ⅴ|
本来の
DVDがあります
(
)
本当はここは単旋律
ので是非ご活用
F G C FM7GSuS4 G7 C ではなく複旋律になっ ください。問合せ
F G7 C
C7
ド ソ ミ
ています
はケーエスミュー
ジックまでどうぞ。
一見増進行に見える
が、声部が違うと解 (佐々木邦雄)
C dur を暗示しています 主和音で C dur を強調しています。
釈できます
かなり強引なエンディングです
ここは C dur に一見戻ったように感じますが、 F dur を暗示しています
まだ転調の途中です
C:
F: Ⅰ C: Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅰ
やっと主調に戻ったのですが・・・
|Ⅴ|
7
F: Ⅴ7
|Ⅴ|
Ⅰ C:Ⅴ2ⅠⅤ7Ⅴ7
Ⅰ
和音が細かく変化(16 分単位)
が必要
=スピードダウン
(rit.)
ここも主音で始まらないテーマですね。
2度ズレてます。
でもC dur に感じるのは上声のド ソミ(主和音)
の流れが決め手。
16
特集1:
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
作曲家の立場から
アナリーゼ:佐々木邦雄 先生
実践!アナリーゼ
(指導法研究委員(アドバイザー)
、メディア
委員、船橋 KSM ステーション代表)
ケーエスミュージック主宰。現在インベンショ
ン 15 曲のアナリーゼ講座をシリーズで実施中!
www.geocities.jp/k_s_music/
一度じっくり取り組むと非常に収穫のあるバッハ / インベションの分析。今回のアナリーゼでは、大きな流れ
を感じることが大切なので細かい和声分析にはあえて深くは触れず、大きなカデンツ進行とメロディーライン
の作り方に主に着目しました。※なお楽譜は「ヤマハピアノプレーヤーレッスンライブラリーバッハインベンション」より装飾音(
)等を実音で実記したバージョンです。
★インベンション 第1番 アナリーゼ解説
B
このフレーズは C.P. としては特
徴に欠けるが ・・・ をつけると
少し目立つ動きになる
主調提示部
大きなコード
ネームの流れ
G B C
C
A
大きな
和声の流れ
これで機能が
わかります
■三度進行:
跳躍
拍頭を休符に感じるよう
に作ってあるテーマ
C dur Ⅰ
C
テーマの
や
の音形の意味:
3度進行は和音を
連想しやすくなる
ので、1拍が二つ
に分割された様に
感じます。これが
この曲の拍子感と
曲想を決めていま
す。
■3度以上の
跳躍進行:
跳躍する音
(3度
以上)はその大半
が音階の音であ
り、和音の音であ
ると思って良い。
(そうでない場合
を逸 音といいま
す)
跳躍
A'
下声部には B が無いので
これがフレーズを分けるサインです。 1小節目の反復に
感じます。
A'
A
Ⅴ
あえて
Ⅴ|
7
偶成和音的表示 |
ここから属調へ向かうつなぎの部分で
嬉遊部
(区)
とも言います。
|Ⅴ|
7
|Ⅴ|
7
|Ⅴ|
転調の瞬間はココ
D7
転調の予告
C::Ⅰ
|Ⅴ|
G: Ⅴ7
|Ⅴ||Ⅴ|
|Ⅴ|
|
Ⅰ|
|
Ⅰ|
C D7
上声階段状の造型=和音の変化を暗示 GONB
G
C
Em
D
D
G
C
本来はアルペジオの
イメージで。
32分音符は
装飾音の一種です
あえて作った
並達5度進行
(カデンツを明確
にするため)
この付近が前半のクライマックス
ここで改めて
新リズムで
転調完了!
和音進行が半拍単位で変化しています
新リズム予告掲示をしておいて
G:
G
Ⅴ Ⅴ
Ⅰ
属調提示部
(上下声を入れ換えてます)
A
|Ⅴ|
|Ⅴ|
Ⅴ
今度は
上声部に B
がない
A
|Ⅴ
|
A'
ここもあってもいい所です
|Ⅴ|
7
A7
ここは掲示部のスタイルを転調してゆく過程の中で繰り返しています。
(
G:Ⅰ C:Ⅴ7
)
(
Ⅰ'
)
ここも同じ…
くどくなるだけ…
ここも…
でも
(
) を入れると
かなりしつこい。
|
Ⅰ|
'
B'
) は入れると重いイメージあり
私の印象:下声部の
(
C
Ⅴ Ⅰ2 Ⅴ
Ⅰ
この は付いていない版もある
ので基本的には無くても可
プラルトリラーが
あってもいい所です。
A
G:Ⅰ
Ⅴ Ⅴ17 Ⅰ Ⅴ
D7
B
G7
17
F B' G7
G
|Ⅴ|
7
Ⅴ d: Ⅴ
|+Ⅴ|
作曲家の立場から
先生(作曲家、当協会理事)
ピアノ指導していらっしゃる先生
感じたのです。
面したとき、アナリーゼの必要性を
伝わるものが感じられない演奏に直
作曲者のメッセージを正しく読み解き
最大公約数的な音楽を見つける
嵐野英彦
先生は指導者や若い演奏家
"最大公約数的な"音楽
︳
向けのアナリーゼの講座やセミナー、
それを始めたきっかけは何でしょう
〝点〟としての記憶にとまってしまっ
強しているはずです。しかしそれは
レッスンを各地でされていますが、 方も学生時代に音楽理論などを勉
か?
も、そこばかりに意識が集中してお
事な音や主題はわかっているけれど
フレーズ感のない演奏だったり、大
化に乏しかったり、歌心を感じない
ることが多かったのです。音色が変
かけるものが不足しているなと感じ
出てくる音に伝わるもの、うったえ
て人に伝わる、つまり〝最大公約数
ることです。それが鍛えられて初め
を崩さずに、バランスよく発達させ
音楽理論﹄
、このトライアングルの形
は、
﹃テクニックとソルフェージュと
ばと思っています。音楽学習の理想
うにする、私はその手助けができれ
し、一連の知識として理解できるよ
学生たちの演奏を聴いていると、 ている場合が多く、それを呼び覚ま
り、ほかの部分が無造作になってい
たり。物理的に音は正しいのですが、 的な〟音楽となるのです。
18
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
しなければならない。そうすると小
手先のアナリーゼではなく奥の深い
自分で簡単な楽譜を
書いてみる
的にやるべきだと思います。楽譜は
アナリーゼはやるとなったら徹底
らなければメッセージは理解できま
ちは、能動的に、文字通り﹁熱く﹂な
と言えるのです。それを受取る私た
られるメッセージは熱いメッセージ
いった意味でバッハの楽譜から発せ
ナリーゼの必要性を感じは
最近は、指導者たちがア
必要でしょうか?
いくにはどのようなことが
リーゼを生徒たちに伝えて
ピアノ指導者がアナ
アナリーゼが必要となります。そう
作曲家のメッセージが記号化された
せん。逆に譜面に何もかも書いてあ
じめてきて、少しずつ変わっ
熱いメッセージと
冷たいメッセージ
︳
ものと思っていますが、そのメッセー
冷たいメッセージと言えるでしょう。 てきているかなと思うとこ
る楽譜から発せられるメッセージは
生徒たちに今ひとつ伝わら
ろもあります。でもそれが
先生のアナリーゼについての
ジの分量は時代様式によってかなり
深く考えなくても楽譜に書かれてい
︳
異なります。例えばバッハの作品と
るとおり弾けばそれなりの演奏がで
としています。ですから、楽譜に書
の指示を事細かに楽譜に書き込もう
合わせると、バッハにこそアナリー
的にならざるを得ません。そう考え
きる補償があるので、演奏者は受動
ことをそのままの言葉で伝
たときに、自分が習得した
ない。それはなぜかと考え
考えをお聞かせください。
しょう。リストの作品は、演奏表現
リストの作品を見比べても明らかで
かれたことを正確に再現すれば、そ
えてしまっていて、生徒た
嵐野先生のアナリーゼ講座
アナリーゼと言えるでしょう。最近、
ゼの本質があるのではないかと考え
結果敬遠してしまうということが挙
ピティナの
﹁新曲課題曲﹂として応募
う間違った演奏にはならないんです
ピティナから発行したミュッセの
げられるのではないしょうか。生徒
してくる作品にも、ピアノレスナー
ちにとっては理解が困難で、
ほとんどない。これはバッハからハイ
アナリーゼ楽譜でも私は必要最低限
たちに理解できる言葉に翻訳して適
からの作品が徐々に増えてきている
られます。
ドン、モーツァルトにかけての古典
のことしか書き込んでいません。考
んですよ。それはとても嬉しいこと
ね。一方バッハはそのような指示は
の時代は、
﹁こういう和声進行はこ
す。
ですね。
切な言葉、平易な言葉で伝えるので
また指導者にとって何よりも効果
えるヒントを提示しているだけ。な
をもとに考えてほしいからです。ア
的なのは、自分で楽譜を書いてみる
ぜならば、勉強する人はこのヒント
たのでしょう。楽譜にその共通認識
ナリーゼとは思考力を養うこと。自
ことですよ。小さな形式や昔の古典
音楽家の間で暗黙の了解としてあっ
をわざわざ書き込むのは無意味なこ
分なりの方法論、つまり楽譜を読み
のように弾く﹂と言った共通認識が
とだったのです。ですから、逆に私
自分で作曲できれば、それが一番の
和声など簡単なものでいいのです。
解くプロセスですね
を持ってほ
たちがバッハの音楽を演奏するとき
しいと思います。
︳
には、作曲家と一緒に音楽づくりを
19
演奏へのアナリーゼの効果とは
先生(文京アナリーゼステーション代表、指導法研究委員(中級グループ)
)
常識的な表現方法を身に付け、
自分で音楽を表現する
秋山徹也
のように弾きなさい﹂と先生に言わ
れたとおりに再現して弾いたとして
も、それは生徒の音楽ではなく先生
音楽的自立を促すアナリーゼ
先生は以前からアナリーゼ
の音楽でしかありません。その先生
︳
を重視した指導を実践されています
決めるための根本的手段です。アナ
音楽を読み取って音楽表現方法を
アナリーゼとは、自分で楽譜から
自力で見つけて自らの演奏につなげ
な根拠を持って説明し、逆にそれを
うに弾くのか?﹂を楽譜から客観的
まうでしょう。そこで﹁何故そのよ
うに弾けばいいのか途方にくれてし
が、何故アナリーゼが大事なのか、 から離れたときにその生徒はどのよ
リーゼの力をつけると、読譜力がつ
ていくことが必要になりますが、そ
まずそこを教えてください。
いて譜読みが早くなる、初見に強く
力を獲得できます。このことが一番
自立して音楽を表現できるための能
いう色で弾く﹂という常識的な表現
う弾く﹂﹁こういう和音が来たらこう
です。
﹁ここはこうなっているからこ
なるなどの効果も勿論ありますが、 の手段としてアナリーゼが有効なの
大事だと考えます。
和音や調性の変化、全体の構成が見
これは私の経験でもあるのですが、 方法を身につけてアナリーゼすると、
本人が何も分からずただ﹁ここはこ
20
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
の統一感がないと、演奏者のしたい
てこの部分もこのようにする﹂など
をこのように崩したら、それに応じ
保たれなければなりません。
﹁ここ
ではなく、曲全体を通して一貫性が
合に。ただしその崩し方はデタラメ
ぱりこう弾きたいなぁ﹂といった具
に弾くかもしれないが、自分はやっ
特別なんだ﹂﹁普通はここはこのよう
通と違った指示が書いてある。何か
も見えてきます。
﹁あれ?ここは普
と逆に曲の個性や自分なりの崩し方
常識的な表現方法を理解しておく
けです。
えてくるのでおくと極めて有効なわ
のかを実際の演奏を聴いて教師側が
の変化によって音色が変化している
めなければなりません。例えば和音
に反映しているかどうかを常に確か
ます。またアナリーゼが実際の演奏
のかが即座にわかるまで繰返しさせ
えこみ、今何度の和音を弾いている
が完成したら、それを弾いて体で覚
得することです。例えば、和声進行
は、頭だけで理解するのではなく体
せて構成も学ばせます。重要なこと
ガ形式のものなど簡単な曲をつくら
に、ソナタ形式の簡単なもの、フー
そのあと対位法も学ばせます。同時
旋律線をラインとして拾ってきて弾
あります。我々が気づかないような
思いがけない発想をしてくることが
レッスンをしていると生徒が時々
ん。最も重要なのは、アナリーゼの
それでいいというものではありませ
単純に和音記号や調性を書き込めば
けとなる方法でもあります。ですか
を判断してそれを改善するための助
リーゼは、教師側が何が足りないか
ローチが考えられます。つまりアナ
現場で実践的なアナリーゼ指導をさ
の現場にあたってからです。今では
性に気づいたのは、こうやって指導
思います。私自身アナリーゼの必要
釈するときに必要となることを問う
の楽典の問題でも、実際に音楽を解
いうことは画期的でした。音大入試
めの目的を持ってやるものであって、 ナでアナリーゼ楽譜が制作されると
らアナリーゼは、何かを解明するた
れている先生も増えているのではな
結果が実際の音に結びつくことです。 現実的な問題が増えてきたようにも
のレッスンではまず和声法は必修で、 法的に音型の整理するといったアプ
対位法の学習が極めて有効です。私
いたりして、
﹁常識的には考えられな
なことは少なくなりました。ピティ
があったのですが、今ではこのよう
二の次﹂という雰囲気を感じること
は、言葉には出さなくても﹁理論は
くなってきたように思います。以前
要性を認識していただく機会が多
す。したがって常識的表現方法を理
で個性的な演奏につながるわけで
ためにもアナリーゼは有効です。
﹁表
で、教師側がその演奏を改善させる
ある程度曲が仕上がってきた段階
個性の芽を摘むことだけは絶対に避
いけれどこれもアリか﹂なんておも
が、両者が歩み寄って交流する場が
徒の個性としてそのまま生かします。 を併せ持つ先生が理想ではあります
しろいですよね。このような時は生
あるということがこれから重要にな
いでしょうか。
いろいろな場面でアナリーゼの重
ことは伝わってきません。表現全体
チェックする必要があります。
ランスが悪いというときには、対位
を通して一貫した崩し方が、音楽的
解してアナリーゼの力をつけておく
情豊かにきれいに弾いているが、何
けたいと思いますから。
けるようになるといいですね。
るのもいいと思います。分業してい
導の現場に理論の先生が立会ってい
るのではないでしょうか。ピアノ指
演奏指導と理論、その両方の専門
ことは、音楽的で個性的な表現にも
か単調な演奏でまとまりがない﹂と
いう生徒には形式の分析をさせて構
必要なのです。
成感をもたせるようにするといいで
しょう。また﹁同じ単調な演奏でも
指導現場のアナリーゼ実践法
演奏指導と理論指導が
歩み寄り交流できる場を
実際のレッスンの中でどのよ
︳
ありますか?
最近、アナリーゼがピアノ指
何か色の変化に欠ける﹂という場合
︳
うにアナリーゼを取り入れていけば
は和音の分析といったアプローチが、 導の現場で浸透してきている実感は
バッハなどの対位法を用いた曲でバ
よいのでしょうか?
まずトレーニング面では和声法や
21
演奏へのアナリーゼ効果とは
指導の現場から①
先生(演奏研究委員、課題曲選定委員)
などとみんなで考えたりします。す
ると意外にも、作曲家の指示がその
解決策になることも。そして﹁楽譜
をよく読み込んで、それが人に伝わ
うです。さらに、〝○○ちゃんバージョ
演奏が出来ないんだな﹂と気付くよ
3名∼6名のソルフェージュのグ
グループレッスン×
アナリーゼで効果倍増
読譜力と演奏の判断力を育てる
喜多村知子
年齢の小さな生徒でも
新しい曲は
必ずアナリーゼから
書き出しながら、楽曲構成や和声の
は、
﹁次回レッスンしてほしい曲は、 心です。ハイスピードで和音記号を
ン〟などアナリーゼそのものや演奏
るように弾かないと人を満足させる
アナリーゼしてきてね﹂
。年齢の小さ
流れを把握していきます。
﹁モチーフ
表現の違いに触れ、それを受け入れ
ループレッスンでもアナリーゼが中
な生徒でも、ブレス、フレーズ、拍
はどこかな?﹂と問いかけると、子
初回のレッスン日のお約束。それ
子、アフタータッチなどの特殊な奏
認めることにも繋がりますね。また
アナリーゼの効果
~読譜力と演奏の判断力
ということも学んでいきます。
釈では、聴く人が納得してくれない
供たちは宝探しのように探し出しま
アナリーゼと奏法の結びつきはと
法の部分の書き込みを。また、伴奏
てもらいます。ですから、まずアナ
ても重要。分析した曲でお互いの演
逆に、説得力の無い独り善がりの解
リーゼするということは生徒にとっ
奏を聴き合う時間では、自主的なコ
す。
て習慣になっていますね。私があれ
音が変わっているのに音色が変わっ
メントが飛び交います。例えば、
﹁和
形が出てきた曲からは和声分析をし
をどう弾きたいか、自分なりの設計
てなく聴こえるよ﹂﹁ここは半終止な
これ手助けする前に、自分がこの曲
図を描いてきてもらうようにしてい
のに、そう聴こえない。なぜかな?﹂ リーゼすると、指導のアドバイスを
まず生徒を見て思うことは、アナ
ます。
。
22
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
より理解し納得しやすくなるという
ようになることです。例えばコンクー
塾通いに忙しい今時の子供達にとっ
表現を一人でも多くの人に伝えられ
となく、
﹁自分で分析して見つけた
ことと、ピアノ練習の時間短縮です。 ルの結果や先生の反応に囚われるこ
て、楽しく続けられるきっかけにな
奏そのものより即興演奏が自分の得
も欠かせません。結果的に、楽曲演
付けなど、和声に親しむための訓練
アナリーゼと同時にカデンツや伴奏
りたい表現に自信を持って、自発的
も、アナリーゼすることで自分のや
しれません。生徒の笑顔を見ていて
チャンスがアナリーゼにあるのかも
う自分の中の価値観に変換していく
りえるのではないかと思っています。 て共感してもらえたら満足だ﹂とい
意分野になる子もいますね。
に表現することに喜びを感じている
ように思います。
23
「バッハ インヴェンション」
5年生。初めてグループレッスンでバッハ分析。市販の分析書をみんなで読ん
で、これまでと少し違ったアナリーゼの記入方法を学びます
「かわいいピアニスト」
4年生。グループレッスンでは初見で演奏可能な楽譜を分析。それを音として
表現できているか聴き合います。
もうひとつは、自分なりの演奏に
対する判断基準を持つことが出来る
「ダンス」
3 年生。普段のピアノレッスンの分析。フレーズのイントネーションや、裏拍などの音
色を変化させたい音にシェードが掛かっている。自分で記入することで、指導者は生徒
の理解度を知ることが出来ます。2段目の "P" は生徒の案。"mf" で弾く解釈と " 討論(
" ?)
3段目、ベースのラインを発見!(折角見つけた音、きれいに響いているかな?)
演奏へのアナリーゼの効果とは
指導の現場から②
先生(コンペ課題曲選定委員)
と思っています。
思う?どう弾きたい?と聞いて、子
り。曲の構造が見えてきたら、どう
ンだけ取り出したり、段落で分けた
曲の大きな特徴を見ることができる
さな曲の時に楽譜をよく見て、その
普段弾いている曲で、できるだけ小
いいのだと思う。曲についても、一つ
うに、その子らしい表現ができれば
うな効果をもたらしているのか、ま
く、分析の結果がその音楽にどのよ
機械的な分析に終わるのではな
自分らしい演奏をめざして
ように習慣づけます。
します。
どもの中から出てくるものを大切に
子どもの作品への興味を刺激する
大石由起子
アナリーゼ力がつくと譜読みのス
ピードが格段に上がりますが、ただ
音符を一つ一つ追うのではなく、大
楽譜を大きく見る
のではなく、その曲にふさわしい楽
きく楽譜を見て欲しい。例えばライ
素早く音を並べることを目的にする
譜の読み取り方を身に付けてほしい
の弾き方が絶対とか、一つの見方が
た、自分はどのように感じたか、そ
一つの弾き方に凝り固まらないよ
正解などとは絶対に言わないように
してそれをどんな風に人に伝えるの
いと自発的に思ってもらうためのも
アナリーゼは、こんな演奏がした
かというところが大事です。
しています。
小さな曲から
子どもの場合、ハーモニーの正確
をいつも探しています。
を耳や身体で感じさせることが先で、 の。子どもの感覚に訴えかける言葉
くなって知りたくなったときに頭に
理論的なことや細かい知識は、大き
入れてあげればいいと思うのです。
24
特集1:
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
大石先生のポイント
生徒が言い出す前に曲についての説明はしない。
子どもは知りたがりなので、うまく刺激して興味
を持たせます!例えば、次のようなポイント。
・「色分け」
同じところ、似ているところを探す。
・「音楽の骨」バスのラインだけ弾かせる。
・「犯人探し」1 小節に出てくる音を一度に鳴らして
みて、ギャッと汚い音にびっくり。
「犯人」
である非
和声音を除くとシンプルな和音になる。
・「和音の表情」ホッとするね、怒っているね…など
感じさせる。
・「調判定」調名がまだ難しい子には、例えば移調し
たときに
「いつもと違う公園にお散歩に行くよ」
など
と声をかける。
51 番
小学 1 年生。骨の音を取り出す。同じ音型(モチーフ)を探す。
55 番
小学 1 年生。楽語に注目。1拍目の音が骨の音。分散和音をハーモニーに
して色分け。Ⅳの和音を意識。
25
75 番
小学 1 年生。調性、転調を書き込む。バスが保続する所と、動きが出る所
を探す。複雑なメロディーの中にもハーモニーを見つける。
演奏へのアナリーゼの効果とは
演奏家の立場から
先生(洗足学園音大教授、当協会理事)
成がABAだ﹂とか﹁ここが大事な音
て有効なアナリーゼだな、と。
﹁構
詩的な言葉で置き換えイメージを膨らます
松﨑伶子
演奏者のためのアナリーゼ
を膨らますとそこに世界が出来てき
私は必要だと思うんです。イメージ
だ﹂とかそれだけでなく、楽譜から
アナリーゼというとまずかたいイ
まずは、松﨑先生の考える
︳
メージがつきまとうと思うのですよ
ますよね。それを音にしていく。楽
読み取れることを言葉に置き換えイ
ね。しかし、アナリーゼと言っても
譜の裏から引っ張り出すんです。曲
アナリーゼについてお聞かせくださ
難解で専門用語がずらりという類の
の構造を演奏者はわかっていなけれ
メージを膨らますこと、その両方が
ものではなく、楽譜から読み取れる
ばなりませんが、それをわかってい
い。
ことを文学的で詩的な言葉で表現す
難解なイメージを払拭する易しくわ
ゼとは、音楽的いきさつを自分で見
もうひとつ、私にとってのアナリー
作曲家の意図を読みとり、
大胆に表現する
るアナリーゼもあるんです。それは、 るだけでは音にはなりませんから。
ある作曲家の方が﹁演奏者のための
アナリーゼ﹂という方針のもとにし
かりやすいもので非常に感心したこ
つけていくことで、作曲家の思いや
てくださったものだったのですが、
とがあります。これは、
演奏者にとっ
26
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう
特集1:
くい音楽になってしまうでしょう。
感性と理論のバランス
アナリーゼをやってみようと思った
アナリーゼの重要性に気づくまで
のがきっかけですね。
アナリーゼに着目した
きっかけ
松﨑先生がアナリーゼに着目
︳
なってから私の演奏表現や理念のよ
は、わりと感性にたよる演奏をして
それは、以前ピティナで実施して
うなものがより強固なものになった
するようになったのは、何かきっか
に表現していきます。それが演奏の
いました土田英介先生のアナリーゼ
のではないかと思います。感性と理
いました。アナリーゼをするように
意図を読み取っていくことです。そ
個性につながるのではないでしょう
講座をお聞きしてからですね。バッ
けがあるのでしょうか?
の作曲家の特徴、作品の時代背景な
か。
﹁作曲家の思いを読み取って演奏
論とがバランスよく意識
理想的ですが、これは言
されているような演奏が
葉で言うほど簡単では
ないですよね。勿論、そ
の つを明確に分けるこ
とはできないですが、感
て異なるのですから、
演奏は勿論違っ
りません。音楽の読み方は、
人によっ
かもしれませんが、そんなことはあ
うんじゃないか﹂と考える人がいる
するとみんな同じ演奏になってしま
曲家の方のような演奏がしたい、作
わる演奏でした。私は前々から﹁作
説得力があって、音楽が立体的に伝
奏が素晴らしかったんです。非常に
てくださったのですが、とにかく演
ハの2声インベンションを取り上げ
は考えます。でもいきなりその段階
奏者のものになるのではないかと私
には作曲家を通り越して、私たち演
ます。 本当にいい演奏というのは最終的
なアナリーゼであってほしいと思い
性がわき出て来るよう
てきます。そして誰にもまねできな
に到達するのではなく、まず通るべ
います。
曲家のアプローチがしたい﹂という思
お聞きして、その演奏がどこから来
いその人だけの演奏となってそれは
私は演奏家はアナリーゼすべきと思
るのかというのがわかり、自分でも
き道筋はアナリーゼではないかと思
いますね。でないと非常にわかりに
むしろ個性豊かになると考えます。 いがあったので、土田先生の講座を
アナリーゼによって
演奏表現や理念がより
強固なものになったと思います
ど様々な側面をふまえつつ、楽譜を
見ながらものすごく考えます。
﹁こ
れはどういうつもりで書いたのだ
ろうか?どういう意味なんだろう
か?﹂と。そして﹁作曲家はこういう
ことをしたがっている、こういうこ
とを曲の中に取り入れたいんだな﹂
ということが自分なりに見えてきた
ら、それを絶対の自信を持って大胆
松﨑伶子先生のリサイタルプログラム
27
2
ステップ参加でアナリーゼ力を鍛える
昨年度、東京での文京春日ステップ(文京アナリーゼステーション/秋山徹也先生代表)
を皮切りに、今年も 5/3
文京春日ステップ、5/24・25 神戸中央ステップ(神戸中央ステーション/石井なをみ先生代表)
でアナリーゼ企画が
行われた。アナリーゼ企画とは、希望者が自分の演奏曲目をアナリーゼした楽譜を提出し、それをアドバイザーの秋
山徹也先生が事前に添削し返却してくださるというもの。そして、秋山徹也先生はじめアドバイザーの先生方が当日
の演奏を聞いてアナリーゼが演奏に反映されているかどうかをチェックする。
文京春日ステップから参加者の岸川薫さん、神戸中央ステップからステーション代表の石井なをみ先生、参加者の
龍田陽香莉さんにお話を伺った。
東京編
うと型にはまった無味乾燥なものとい
の謎を解いていくようで、作曲家を身
意図でこの曲を書いたのかという作曲
と思っています。
﹂
うイメージがわくのですが、それが払
から﹄と秋山徹也先生に解説していた
近に感じるようになりました。今で
だいたときは、普段教えていただいて
拭されました。例えば、
﹃Ⅴ度とⅠ度
﹁楽曲分析に関心を持つようになっ
いる先生の
﹃揺れ動くような心模様で﹄
をするための道しるべのようなものだ
たのは、暗譜で苦労したのがきっかけ
は、アナリーゼというのは、良い演奏
でした﹂と岸川さん。音大でピアノ専
という言葉にぴんと結びつきました。
が交互に出てくるのは、Ⅴ度の緊張と
門に学んでいた岸川さんだったが、育
和音によって証明されたのがとてもお
Ⅰ度の弛緩を揺らぎとして表現したい
児などで長らく人前での演奏からは遠
もしろかったですね。作曲家がどんな
今までコンペ・ステップ
に22回出場。ご自宅で
生徒さんも指導されて
いる。
暗譜のために始めた
アナリーゼ、その副産物
ざかっていた。最近では、演奏の機会
も増えてきており、そのうち楽譜があ
るといまひとつ曲に没頭できないよう
な不完全燃焼のようなもどかしさを
感じるようになっていたという。
﹁音
の記憶には絶対音感の有無が影響し
ている﹂と聞いたが、晩学の岸川さん
る。楽譜に調性を書き込むことによっ
は、別の方法で暗譜する手段を模索す
て暗譜につなげるという方法をとった
がこれが有効で、それ以来調性だけに
なった。暗譜のために始めたアナリー
とどまらず和声分析も始めるように
ゼだったが、文京春日ステップのアナ
副産物があったという。
﹁分析、とい
リーゼ企画の参加を機に、暗譜以上の
岸川薫さん
28
特集1:
和音記号、ハーモニーをきれいに色分
けした楽譜が多数寄せられた。中には
自分の弾きたいイメージを言葉や絵、
田さんの書き込みが見られる。龍田
さんによると、アナリーゼをすること
﹁アナリーゼは普段からレッスンで意
な方法で表現しているものもあった。
かされていた﹂と評価された龍田陽香
也先生からも﹁アナリーゼが演奏に生
アナリーゼ楽譜を添削した秋山徹
マと対旋律とのバランスがアナリーゼ
なりました。バッハの平均律も、テー
ときの音色の違いを意識するように
と。
﹁例えば長調から短調に変化する
きり理解できるようになったとのこ
によって強弱や音質の変化をよりはっ
この5月に、ご自身が代表をつと
識してやっていて生徒も慣れているの
莉さん
︵中 ︶
。
、ピティナのコンペティ
オーケストラの楽器に
置き換えて
音色や表現をイメージする
める神戸中央ステップ
︵神戸中央ス
で、提出する楽譜については基本的に
楽器の音色、物語など自分なりの様々
テーション︶でアナリーゼ企画を取
歳から大人まで 名が
アナリーゼに挑戦
29
ゼは絶対必要だと石井先生。
﹁アナ
学生時代の留学経験からアナリー
は、1年前からの構想だった。
り入れた石井先生。アナリーゼ企画
は良い効果があったと思います。特に
出する機会を得たことで、生徒たちに
錯誤しながらきちんとかたちにして提
生徒に任せました。今回、自分で試行
楽の専門用語になるとまだよくわか
央ステップアナリーゼ企画に参加。﹁音
る石井なをみ先生の薦めもあり神戸中
びつけばとの思いで、現在師事してい
ション前のこの時期よりよい演奏に結
となったようだ。
演奏を客観的に振り返る格好の機会
れていたので嬉しかったです。
﹂自分の
うだと思った表現に二重丸をつけてく
秋山先生の添削を見ると、自分がこ
後の方がより良くなったと思います。
わけではなく、道筋は人
らないので、オーケストラの楽器に例
それぞれで良いのです。
大きな生徒になると、アナリーゼをす
五感をフル活動させて
るしないではかなり違いが出ましたね。
分の距離を縮めるべく、
とは、例えば英語が読めて発音でき
まっています。作品と自
えて音色や表現をイメージして書き
い、曲の特徴を考えると
例えば 級課題曲のカバレフスキーの
ころからアナリーゼは始
てもその意味がわからないようなも
しい方法が決まっている
ました﹂と言う。 級課題曲のハイド
然と行われてきた取り組
ソナタを弾いた生徒では、アナリーゼ
みです。どんな演奏を
のです。
﹂と話す。小さい子どもにも
いものと考える必要はな
ンのソナタの提示部では、
﹁金管楽器
く、演奏に不可欠な、自
してみると隠れている音型に気づくこ
のテーマとしても人気で
龍田陽香莉
取り組んでみてはどうで
D
す。しかしことさら難し
﹁どこまでがひとつの文章かな?﹂﹁同
今、何かと注目されて
のような堂々とした感じで﹂という龍
しようかと作品に向き合
リーゼをしないで演奏するというこ
2
いるアナリーゼ。講座
とができて、それが演奏につながって
編集後記
じところはどこかな?﹂と質問して楽
兵庫県立西宮高非常勤
講師、ステーション育成
委員、神戸中央支部運
営委員長、神戸中央ス
テーション代表、当協会
正会員
いました。
﹂
から大人まで 名の参加者がアナリー
石井なをみ先生
さん
しょうか。そのための正
F
譜を注意深く読み込む習慣をつけさ
せる。 ABA
の構成の曲では、サンド
ウィッチに例えることも
7
今回のステップでは、最年少は 歳
!
ゼ企画に参加した。時期的にコンペ参
29
加者が大半を占めた。曲の全体の構成、
29
7
神戸編
アナリーゼで自分の演奏表現を見つけよう