論文内容要旨 論文題名 Sleep bruxism model using neural cells derived from patient-specific iPS cells with 5-HT2A polymorphism (5-HT2A 遺伝子多型をもつ疾患特異的 iPS 細胞を用いた睡眠時ブラキシズム の疾患モデルの確立) 掲載雑誌名 PLOS ONE (投稿中) 歯科補綴学 帆足 有理恵 内容要旨 【目的】 睡眠時ブラキシズム(SB)と遺伝的要因の関連については,血縁関係を基 盤とした研究より推論されていたものの,その発症メカニズムの解明には 至っていない.先行研究により我々は環境要因と遺伝的要因を包括した SB リスク因子の探索的研究により,セロトニン関連の遺伝子多型,セロ トニン 2A 受容体遺伝子 5-HT2A の SNP(一塩基多型)rs6313 が SB と 有意に関連し,rs6313 の C アレル保因者の SB 発症リスクが約 4 倍であ ること報告した. しかし,前頭前皮質や前頭葉などの脳内に広く分布する セロトニン 2A 受容体と SB との機能的な関連性を生体で検証することは 不可能である.近年,急速に進展した人工多能性幹細胞(iPS 細胞)技術 は,再生医療や創薬,疾患の基礎的研究などに応用可能である.本研究の 目的は,SB 患者および健常成人から iPS 細胞を樹立し,5-HT2A を発現 する神経細胞を誘導して,機能的関連性を検討可能な SB 疾患モデルを構 築することである. 【方法】 問診,口腔内検査により SB 臨床診断を行い,咬筋筋活動測定を含む睡 眠ポリグラフ検査によって確定診断のついた,SB ならびに Control 被験 者群を対象として SNP 解析を行った.SB 群から rs6313 の C アレル保因 者 2 名,Control 群から SB 群と年齢がマッチする C アレル非保因者 2 名 を選択した.これらの被験者の末梢静脈血から血球細胞を採取し,初期化 因子(OCT3/4,SOX2,KLF4,LIN28,L-MYC)を用いて iPS 細胞を樹立 した.樹立した iPS 細胞からそれぞれ 3 つのセルラインを選択し,品質チ ェック(未分化マーカー発現,三胚葉分化の解析,核型解析)を行った. iPS 細胞から神経細胞への誘導は,Wnt,RA,Shh シグナルを調節する薬剤 の濃度を変化させることで,中枢神経の前後軸,背腹軸に沿った領域特異 的な神経細胞を誘導する Imaizumi 等の方法を用い,セロトニン神経細胞 が多く存在する縫線核領域に寄せた神経細胞を誘導した.誘導した神経細 胞に対して,免疫染色を行いセロトニン神経細胞を確認し,qRTPCR と 免疫染色により 5-HT2A の発現を確認した. 尚本研究を行うにあたり昭和大学ヒトゲノム・遺伝子解析倫理審査委員 会 (承認番号 179 号)及び,慶應大学医学部倫理委員会 (承認番号 20080016 号)の承認を得て行った. 【結果】 SB ならびに Control の全被験者(4 名)の末梢静脈血,血球細胞から iPS 細胞を樹立することに成功した.また,樹立した iPS 細胞より誘導し た神経細胞に 5-HT2A 発現神経細胞が含まれることが qPCR により確認 された.さらに,これらの神経細胞の rs6313 遺伝子型が保存されている ことが確認された. 【考察】 本研究により iPS 細胞を用いたヒト SB 疾患モデルが初めて構築された. 本モデルは SB の疾患メカニズム解明のために大きな役割を担うと期待さ れ,今後,このモデルを用いて遺伝子型に特異的な細胞の機能特性や表現 型を検討する予定である.さらに,5-HT2A の遺伝子多型は様々な精神神 経障害や睡眠障害との関連が報告されており,本研究成果はこれらの領域 への応用が可能であり,その波及効果も大きいと考えられる.
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