論 文 審 査 の 要 旨

別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲 第 2800 号
論文審査担当者
氏 名
的場
主査
教授
美島
健二
副査
教授
代田
達夫
副査
教授
嶋根
俊和
祐子
( 論 文 審 査の 要 旨)
学 位 申請 論 文「 Pituitary Adenylate Cyclase-Activating Polypeptide (PACAP) Enhances
Saliva Secretion via Direct Binding to PACAP Receptors of Major Salivary Glands in Mice」
に つ い て , 上 記の 主 査 1名 , 副 査2 名 が個 別 に 審査 を 行 った .
下 垂 体ア デ ニル 酸 シ クラ ー ゼ 活性 化 ポリ ペ プ チド( PACAP)は , 外分 泌腺 の 分 泌亢 進 作用 を有
す る 神 経ペ プ チド で あ るこ と か ら , 経 鼻投 与 法 を用 い PACAPの 唾 液腺 分 泌制 御 に つい て 研究 を
行 っ た . す な わち , 8週齢 ♂ C57BL/6マ ウス の 鼻腔 に PACAP38を 含む 生 理食 塩 水 を投 与 し 唾 液 分泌
量 の 変 化を 測 定し た . その 結 果 , 投 与 後 1時 間 で有 意 な 唾液 分 泌量 の 亢 進が 認 め られ , この 分
泌 亢 進 はア ト ロピ ン の 腹腔 内 投 与 に よ り抑 制 さ れな い こ とよ り 中枢 神 経 系を 介 さ ない こ とが 明
ら か と なっ た . さ ら に , PACAPの 受容 体 であ る PAC1Rの 局 在は 耳 下腺 と 舌 下腺 で は , 主 に 線条 部
導 管 で あり , 顎下 腺 で は , 顆 粒 性導 管 にあ る 細 長い 細 胞 (ピ ラ ー細 胞 ) であ っ た . ま た , PACAP
刺 激 に より 分 泌さ れ る 唾液 中 に は高 濃 度の EGFが含 ま れ てい る こと よ り ,
PCAPは ピラ ー 細胞 に
よ る EGF分泌 制 御に 関 与し て い る可 能 性が 示 唆 され た . 以上 の 結果 よ り , PACAP経 鼻投 与 で有 意
な 唾 液 分泌 亢 進が 認 め られ , ま た ,
PAC1Rの 局 在は 主 に 線条 部 導管 で あ るこ と か ら , 唾 液分 泌
量 の 亢 進は , 腺房 か ら の唾 液 分 泌促 進 では な く , 再 吸 収 の抑 制 によ る も のと 考 え られ る . ま
た , 顎 下腺 で のピ ラ ー 細胞 の PAC1Rの 強 い発 現 と唾 液 中 の EGF濃 度の 上 昇は , ピ ラー 細 胞に よ る
EGF分 泌 制御 の 可能 性 を示 す も のと 考 える .
本論文の審査において, 副査の代田委員および嶋根委員から多くの質問があり, その一部とそ
れ ら に 対す る 回答 を 以 下に 示 す .
代田委員の質問とそれらに対する回答:
1. 下 垂 体 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ 活 性 ペ プ チ ド ( 以 下 PACAP ) の 作 用 に つ い て 説 明 せ よ . 特 に 現
在 ま で に報 告 され て い る , 他 の 腺組 織 に対 す る 作用 に 関 する 知 見を 説 明 せよ .
( PACAP は ホ ル モン 作 用の ほ か に , 神 経伝 達 物 質・調 整 因子 と して 働 いてい る と 考え ら れ , 中 枢 ・
末梢神経系においては, 神経細胞の分化・生存維持や神経分泌系の活性化などに関わっており ,
そ の 他 多く の 生理 作 用 があ る . PACAP の 遺伝 子 欠損 (KO)マウ ス にお い て , 涙 液 分 泌量 が 顕著 に 減少
し 角 膜 が肥 厚 する と い うド ラ イ アイ 様 症状 を 見 出し , PACAP に よ る涙 腺 分泌 効 果 を確 認 する ととも
(主査が記載)
に , PACAP-KO マ ウ ス が シ ェ ー グ レ ン 症 候 群 様 モ デ ル 動 物 と し て 有 用 で あ る . PACAP-KO マ ウ ス に
PACAP を点 眼 す ると 1 時間 以 上 にわ た って 涙 液 分泌 が 促 進さ れ てい る こ とが 証 明 され て いる . )
2. 本 実 験 にお け る PACAP の 投 与 濃度 ,投与 量,およ び 唾 液採 取 のタ イ ミ ング は ど のよ う にし て 決
定 さ れ たの か 説明 せ よ .
( 涙 腺 の実 験 で濃 度 を 細か く 振 って い るの で , それ を も とに 投 与濃 度 を 決定 し た .
投 与 量 はこ れ まで の 経 鼻投 与 法 を用 い た実 験 結 果を も と に , 左 右鼻 腔 内 にそ れ ぞ れ2 l と し てい
る . 2 l 以 上 で は , 鼻 腔 よ り 漏れ る 可能 性 が ある . 唾 液採 取 の時 間 に つい て は 涙腺 で の実 験 結果
を も と に , 振 って 実 験 し決 定 し た . )
3. 本 実 験に お ける マ ウス 唾 液 の採 取 方法 お よ び実 験 に 使用 し たマ ウ ス のn 数 を 説明 せ よ .
(マウスの唾液腺へのカニュレーションは , 動物が小さくできないので, 歯科用綿球を使用し口
腔 内 の 唾液 を 採取 し た . マ ウ ス の n 数 は , そ れ ぞれ の 投 与群 に つい て 30 匹 使 用 して い る . )
嶋根委員の質問とそれらに対する回答:
1. 経 鼻 的 投 与 に お け る 唾 液 腺 へ の 直 接 作 用 の 経 路 は ど う な っ て い る と 考 え ら れ る の か , ま た 経
口 投 与 との 違 いは ど う なの か .
( 経 鼻 投与 に よ る PACAP は , 鼻 腔 粘膜 か ら血 流に 乗 っ て , 直 接唾 液 腺 に作 用 し てい る と考 え て い
る . こ れま で に , PACAP を ア イ ソト ー プで ラ ベ ル化 し , 経鼻 投 与し 唾 液 腺へ の 移 行を 調 べた 結 果 ,
PACAP が 唾 液 腺 に 到 達 し て い る こ と が 明 ら か に さ れ て い る の で , 経 鼻 投 与 が 有 効 と 考 え ら れ る .
経 口 投 与に つ いて は そ の効 果 に つい て 解析 し て いな い の で不 明 であ る . )
2. 長期投与や濃度で有害事象の可能性は考えられるか?
(PACAP は, 体内にも多く存在するため , 高濃度でも人体への有害性はないと考える . また,
点眼薬として使用されており, 長期間投与でも人体への有害性はないと考える . )
3. 顎下腺・耳下腺・舌下腺の PAC1RC の局在の違いをどう考えているか .
( 基 本 的 に PAC1R は 線条 部 導 管に 発 現し て い るこ と か ら , 腺 房か ら の 唾液 分 泌 促進 で はな く , 導
管内での再吸収の抑制によるものと考えられる . また, 唾液中の成長因子は消化管粘膜の維持や
修復に重要であること, ならびに, 顎下腺には成長因子を含む顆粒性導管があることから , ピラ
ー 細 胞 がこ れ らの Growth Factor の 分 泌を 制 御し て い ると 考 える . )
美島委員の質問とそれらに対する回答:
PACAP に よ り間 接 的に 蛋白 分 泌 が誘 導 され て い る可 能 性 はな い か .
( PACAP レ セ プ タ ー の 局 在 が 耳 下 腺 と 舌 下 線 で は 線 条 部 導 管 に あ る こ と か ら 唾 液 の 再 吸 収 だ け で
な く , 蛋 白 質 の 分 泌 に 関 係 し て い る 可 能 性 は あ る と 考 え る . 顎 下 腺 で は 顆 粒 性 導 管 中 の Pillar 細
胞 に レ セプ タ ー発 現 が あり , PACAP 刺 激 に よ り 唾 液 中 の成 長 因子 の 濃 度が 上 昇 した こ とは , Pillar
細 胞 が 顆粒 性 導管 細 胞 から の 成 長因 子 の分 泌 を 誘導 し た と考 え る . )
主 査 の 美島 委 員は , 両 副査 の 質 問に 対 する 回 答 の妥 当 性 を確 認 する と と もに , 本 論文 の 主張 を
さ ら に 確認 す るた め に 上記 の 質 問を し たと こ ろ , 明 確 か つ適 切 な回 答 が 得ら れ た .
以 上 の審 査 結果 か ら , 本 論 文 を博 士 (歯 学 ) の学 位 授 与に 値 する も の と判 断 し た .
(主査が記載)