タイの産業高度化へ向けたビジネス環境の整備に関する提言 2015年11

タイの産業高度化へ向けたビジネス環境の整備に関する提言
2015年11月
盤谷日本人商工会議所
在タイ日本国大使館
JETROバンコク事務所
JICAタイ事務所
タイでは盤谷日本人商工会議所の加盟企業数が1670社を超え、東南アジア最
大の日系企業の製造拠点・輸出拠点となっており、地域拠点・研究拠点をタイに移
す動きも出始めている。このような中で、タイ政府の目指す産業高度化による経済
発展を実現するためには、日系企業からの投資を継続的に呼び込める魅力的なビジ
ネス環境を整備することが不可欠である。日系企業のビジネス環境の整備がタイの
産業高度化につながる「Win-Win」の関係が構築できるよう取り組むことが望まれ
る。こうした観点から、以下の5項目について提案する。
1.産業クラスター政策等のタイの投資促進策について
タイ政府が新たに打ち出した産業クラスター政策については、タイの産業高度化
へ向けた重要な政策であると認識しているが、投資家側の視点を意識して、よりわ
かりやすい体系的な制度設計とするとともに、投資家への丁寧な説明を行って頂き
たい。タイ側の考える政策について日本側が十分に理解することや、それに対する
日本側の考えについてタイ側へ伝えること、すなわち双方向の十分なコミュニケー
ションが必要であり、産業界の意見も十分に加味しつつ、日タイの関係者による対
話を継続して頂きたい。短期的なスパンでの投資の増加を望むのではなく、長期的
な視野で産業高度化を図っていくことが肝要であり、そのような哲学と整合性のあ
る制度設計をお願いしたい。
また、日系企業は税制インセンティブの側面のみを考慮して投資を決定するわけ
ではなく、本提言に掲げられているような、産業高度化へ向けたR&Dや人材育成
のあり方、さらには関税・税制・労務など様々な観点からのビジネス環境整備など
総合的な観点から投資を決定するということを併せて考慮することが肝要である。
インフラ整備も重要なポイントであり、産業クラスターとの連携を視野に入れた沿
線拠点都市開発も行って頂きたい。
2.「タイの産業高度化に向けた日タイ共同政策提言」について
タイの産業高度化に向けて、本年9月に在タイ日本国大使館、ジェトロバンコク、
タイ経済社会開発庁、タイ科学技術省が「タイの産業高度化に向けた日タイ共同政
策提言」が取りまとめた。本提言は、自動車産業についてタイの製品開発力の向上
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を実現させる観点から、国立の自動車試験場の設立や各種税制面での優遇措置など
具体的な提言が盛り込まれている。企業の自由競争・柔軟な経済活動を推進すると
いう基軸を十分に考慮することを前提に、本提言を着実に実行して頂きたい。また、
右提言にもある通り、こうしたタイの産業高度化へ向けた議論及び提言は、農業・
食品加工や、ICT、健康・医療を含むサービス産業等様々な分野でも検討される
べき。今後とも日タイがこうした分野における議論を行うことを呼びかける。
3.産業高度化を支える産業人材育成について
「人材」はビジネス環境を考える上で非常に重要な要素である。当地の日系企業
の経済活動を支えると同時に、タイ政府の目指す産業高度化を支えうるのは、タイ
国内に存在する有能な人材にほかならない。タイ国内で、研究者、エンジニア、マ
ネジメント人材等、各場面で産業を支える人材が不足する中で、タイが更なる経済
的飛躍を遂げるためには、こうした人材の育成に力を入れていくことが必要不可欠
である。産業高度化へ向けた日タイ協力による産業人材育成が必要との認識のもと、
人材の質と量の十分な確保、各種主体による「点」の支援からそれらを結びつけた
「面」での支援、イノベーション推進のための研究開発人材の育成、タイを域内人
材育成のハブととらえるといった視点が重要である。こうした視点から、「日タイ
人材育成イニシアティブ」を開始したところであり、タイの人材育成へ向けて協力
を進めていきたい。
4.関税・税務・労働分野等のビジネス環境改善について
企業が安心して経済活動を行えるとともに、タイが投資環境として魅力を保持し
続けるためには、関税、税務、労務といった様々な制度やその運用について、安定
した透明性の高いビジネス環境が確保されていることが重要である。「日々必要と
なる手続が簡素であること」、
「手続が明確であること」、
「手続や制度の変更が十分
な時間をもって周知されること」、
「担当当局内における見解の統一の徹底と画一的
な対応」「情報の開示」などは、予定どおりに手続を進めることできる点で、企業
にとって安心して事業を実施できる要素の1つとなる。また、タイが投資を促進す
る一方で、関税等に関する日系企業との個別問題により投資が阻害されるケースも
みられることから、投資促進策と政策一貫性をもったビジネス環境を整備頂きたい。
さらには、個別の企業では対応が困難なリスクの低減について政府として取り組
み、市場全体としての投資収益の不確実性を低減することが重要である。とりわけ、
大規模な洪水や渇水等の自然災害に対し、水資源管理戦略等に基づき、JICAが
提案した洪水マスタープランに沿った効果的・効率的な洪水対策等の着実な実施を
お願いしたい。また、「日タイエネルギー政策対話」でも提唱されたような、資源
確保の円滑化や最先端の発電所・ガス関連施設の整備など、エネルギー源の多様化
や供給源の多角化を着実に実施願いたい。
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5.タイプラスワン・AECへ向けたビジネス環境の改善について
タイプラスワンの方向性やAEC創設を見据え、広域な観点からのビジネス環境
の改善も重要である。タイでは少子高齢化を目前に迎えている一方、周辺国では豊
富な若年層による今後の大いなる発展が期待される。すでにASEAN内での経済
発展において一日の長であるタイは、自国の潜在的なマーケットを開拓しつつ、周
辺国の勢いを取り込み、ビジネスチャンスにつなげる必要がある。周辺国の健全な
発展をタイが積極的に支援することで、在タイ企業のビジネスチャンスの拡大を強
力に推進されることを提案したい。
また、域内のコネクティビティを高めるため、鉄道やダウェー開発をはじめとし
たハード面でのインフラ整備については、これまで両国で締結された各種覚書を基
本として着実に進めて頂きたい。また、ソフト面のインフラ整備として、特に通関
手続きの簡素化については、AECに向けた各種統合措置の中でも、最も強く要望
したい。そのカギとなるASEAN single window(ASW)の構築に向け、タイ
国内における single window の構築を早期に実現して頂きたい。
さらには、自動車安全基準や燃料・排気ガスについて、各国がそれぞれ異なる規
格・基準を導入すれば、膨大な人的かつ資金的な開発コストが必要になる。他のグ
ローバルな市場との競争を勘案すると、また単一市場としてのASEANにおける
スケールメリットを獲得するためには、ASEAN域内で可能な限り規格・基準を
統一することを求めたい。また、新たな規格・基準の導入に際しては、最大のステ
ークホルダーである日系企業を含めた産業界と適切に調整するプロセスが確保さ
れることを求めたい。
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