年金コンサルティングニュース みずほ総合研究所株式会社 年金コンサルティング部 03-3591-8990 CopyrightⒸみずほ総合研究所 2016 無断転載を禁ず 2016.7 リスク分担型DB 2015年9月11日、厚生労働省が確定給付企業年金(DB)の新たな制度設計案として、(1)拠出弾力化、(2)リ スク分担型DBの2つを社会保障審議会に示しました。2016年6月には、企業会計基準委員会より、会計処理等 に関する公開草案が公表されています。新制度案の内容に加え、その取扱い・手続きについて解説いたします。 ■ 新制度案の内容 現行制度では、予測をもとに年金財政が均衡するよう掛金を拠出しますが、予測と実績は通常一致しないため、 ほとんどの場合年金財政の均衡は崩れます。特に積立不足が発生するような状況では一般的に不況で、企業業績 が悪化しているにもかかわらず、掛金を増加する必要があり、安定的なDB運営の観点から問題があります。 (1) 拠出弾力化 安定的なDB運営のためには、景気変動に左右されない、ある程度平準的な掛金拠出が必要となります。そこ で考えられるのが、あらかじめ積立金運用の変動等の「将来発生するリスク」を測定し、その水準を踏まえてリ スク対応掛金の拠出を行う仕組みです。リスク対応掛金の拠出を行って給付現価を上回る財源を手当てしておき、 積立金と掛金収入現価の合計額が「将来発生するリスク」の範囲内にある限りは、 「財政均衡」の状態にある、と することで、安定的な財政運営が可能となります。 現行の財政均衡の考え方 ①=②+③ 新しい財政均衡の考え方 財政均衡の状態に ②+③が許容範囲内 「幅」を設ける 将来発生する リスク (基準ライン) ③掛金収入現価 ③掛金収入現価 (リスク対応掛金を 含む) 一致 ①給付現価 範囲内 (許容範囲) ①給付現価 ②積立金 ②積立金 (2) リスク分担型DB DBおよび確定拠出年金(DC)では、事業主と加入者どちらか一方にのみリスクが存在しています。 (1)の 拠出弾力化に加え給付調整の仕組みを取り入れることで、労使合意の上でリスクを労使間で分担できる、リスク 分担型DBの実施が可能となります。 加入者等の給付調整 により対応する部分 事業主の掛金負担 により対応する部分 リスク対応掛金 将来発生する リスク ③掛金収入現価 あらかじめ労使合意により 固定されたリスク対応掛金 を拠出 ①給付現価 ②積立金 事業主は固定のリスク対応掛金を拠出することで追加的な拠出義務を負わなくなり、加入者はDCに比べ安定 した給付が受けられます。ただし、 「将来発生するリスク」を見積ったとしても、積立剰余や積立不足が発生する 場合があり、その際には以下のような給付調整が行われます。 リスク分担型DBにおける給付算定式=従来のDBにおける給付算定式×当該年度の調整率 ※ ※調整率は積立状況により以下のとおり。(複数年度で平滑化することも可) 剰余が生じている場合 → 調整率=(積立金+掛金現価-将来発生するリスク)/調整を行わない場合の給付現価 財政均衡している場合 → 調整率=1.0 不足が生じている場合 → 調整率=(積立金+掛金現価)/調整を行わない場合の給付現価 剰余が生じている場合 ③掛金収入現価 (リスク対応掛金を 含む) 財政均衡している場合 不足が生じている場合 将来発生する リスク 増額 ③掛金収入現価 (リスク対応掛金を 含む) 将来発生する リスク 調整なし ②積立金 ①給付現価 ②積立金 将来発生する リスク ①給付現価 減額 ③掛金収入現価 (リスク対応掛金を 含む) ①給付現価 ②積立金 ■ 取扱い・手続き ①会計上の取扱い 公開草案では、 「企業の拠出義務が、制度導入時の規約に定められた拠出に限定され、この他に拠出義務を実質 的に負っていないリスク分担型DB」を確定拠出制度に分類し、それ以外のリスク分担型DBを確定給付制度に 分類します。ただし、確定拠出制度に分類されたリスク分担型DBについては、制度導入後に新たな労使合意に 基づく規約の改定等がなされた場合、会計上の退職給付制度の分類の再判定が必要となります。 ※「確定拠出制度」とは、一定の掛金を外部に積立て、事業主である企業が、当該掛金以外に退職給付に係る 追加的な拠出義務を負わない退職給付制度(退職給付債務の計算が不要) ②移行時の手続き リスク分担型DBへ移行する場合、移行時に給付は減額されませんが、将来的に加入者・受給者の給付が減額 調整される可能性があるため、(ⅰ)給付減額の判定基準、(ⅱ)移行時の手続要件の整理が必要となります。 A (ⅰ)給付減額の判定基準 将来発生する X リスク 左図 X のラインは上下に変動しますが、 「将来発生するリスク」の2分の ③掛金収入現価 B (リスク対応掛金を 1の水準にあれば、将来的に増額調整、減額調整のいずれも等しく起こ 含む) り得ると考えられます。そこで、X が「将来発生するリスク」の2分の1 ②積立金 ①給付現価 を下回っている場合に給付減額に該当する、として扱うこととされてい ます。 (ⅱ)移行時の手続要件 (ⅰ)で給付減額に該当する場合 移行時の手続要件は、現行DBで給付減額を行う場合の手続要件と同様です。 加入者の給付減額 受給者の給付減額 ・加入者の3分の1以上で組織される労働組合がある場合は、 ・全受給者に対する、事前の十分な説明 当該労働組合の同意 ・受給者の3分の2以上の同意 ・加入者の3分の2以上の同意 ・希望者に減額前の給付を一時金で支給すること (ⅰ)で給付減額に該当しない場合 給付減額には該当しないと整理されますが、受給者の既裁定給付を変更するものであるため、受給者に対す る手続として以下を課すこととされています。 ・全受給者に対する事前の十分な説明 ・希望者に対し年金給付に代えて移行前の給付を一時金で支給 ③意思決定のあり方 リスク分担型DBは運用の結果により加入者・受給者の給付が調整される可能性のある仕組みです。そのため、 制度開始時のみならず、制度実施後も加入者等が適切に意思決定に参画できるための仕組みが必要となります。 例として、制度開始時の給付設計やリスク対応掛金の水準等の労使合意、加入者の代表が参画する委員会の設置 及び当委員会から理事会または事業主への運用の提言、受給者への加入者と同様の周知などが挙げられます。 本件に関してご不明点、個別ご相談等ございましたら、ご遠慮なく下記電話番号までお問い合わせください。 みずほ総合研究所株式会社 年金コンサルティング部 ℡.03-3591-8990(下野) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できる と判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容 は予告なしに変更されることもあります。
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