光誘起電子移動を利用した 蛍光性水センサー色素の開発 広島大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 助教 大山 陽介 教授 播磨 裕 1 研究背景 有機溶剤、食品、医薬・化粧品をはじめと する各種の液体や固体材料、および大気 中に含まれる微量水分を検出できる蛍光 性水センサー色素の開発は、生物工学、 工業製品や食品の品質管理、環境モニタ リングなどの自然環境や人間生活の面で 非常に重要である。 2 有機溶媒中の水分量測定法 カールフィッシャー法 ・高精度 ・バッチ分析法 カールフィッシャー反応に要した電気量から水分量を求める。 水1 mg = 10.71クーロン I2 + SO2 + 3Base + ROH + H2O ⇒ 2Base・HI + Base・HSO4R ・・・・・・・(1) 2I- − 2e ⇒ I2 ・・・・・・・(2) 蛍光法 ・蛍光測定を使用 → 高感度 ・リアルタイムで測定可能 3 新技術の基となる研究成果・技術 光誘起電子移動(Photo-induced Electron Transfer) ehν 電子供与 部 N Spacer 蛍光母体 +M n+ Cation + M N hν M n+ = H +, Na+, Ag+, Ca2+ , Hg2+ LUMO LUMO hν HOMO HOMO hν HOMO 電子供与部 蛍光母体 (光励起状態) (アミノ基 等) 蛍光母体 HOMO (光励起状態) カチオンが付加した 電子供与部 4 新技術の概要 PETを利用した蛍光性水センサーの開発 アミノ酸構造 ‐ O OH O O + N + H2O PET活性(蛍光性なし) NH 双性イオン構造 PET不活性(強い蛍光性) 有機溶媒中の水分の検出 吸収スペクトル、蛍光スペクトル 5 800 Fluorescence Intensity Fluorescence Intensity 800 pH 3.4 pH 6.9 pH 11.0 600 400 200 0 400 440 480 消光 200 2 4 6 8 10 − OH − O 中性 + O + NH NH PET不活性 12 pH 色素水溶液のpHを変化させたときの 蛍光強度の変化 pHによる蛍光スペクトルの違い O 400 0 520 Wavelength/nm 酸性 600 O 塩基性 O N PET活性 6 Et O O O O H+ 水を加えてもプロトン の解離が起きない N Et N 500 Fluorescence Intensity Fluorescence Intensity エステル体 1,4-dioxane 400 300 200 100 0 0 5 10 15 20 H2O/wt% 水分量が増加しても消光したまま 25 500 1,4-dioxane 400 300 200 100 0 0 5 10 15 20 25 Acetic acid/wt% 酸を加えると蛍光強度が大きくなる 7 吸収スペクトル 0.2 Absorbance 1,4-dioxane 0.024 wt% 0.27 wt% 0.46 wt% 0.65 wt% 0.84 wt% 1.0 wt% 5.1wt% 10 wt% 20 wt% 40 wt% 59 wt% 81 wt% 100 wt% 0.15 0.1 0.05 350 400 Fluorescence Intensity 1000 0.25 0 300 蛍光スペクトル 800 600 400 200 0 450 0.024 wt% 0.27 wt% 0.46 wt% 0.65 wt% 0.84 wt% 1.0 wt% 5.1wt% 10 wt% 20 wt% 40 wt% 59 wt% 81 wt% 100 wt% 400 Wavelength/nm 520 0.15 0.1 0.05 350 400 Wavelength/nm 450 Fluorescence Intensity 1000 0.045 wt% 0.28 wt% 0.47 wt% 0.63 wt% 0.83 wt% 1.0 wt% 4.8 wt% 9.7 wt% 20 wt% 40 wt% 61 wt% 81 wt% 100 wt% 0.2 Absorbance acetonitrile 480 Wavelength/nm 0.25 0 300 440 0.045 wt% 0.28 wt% 0.47 wt% 0.63 wt% 0.83 wt% 1.0 wt% 4.8 wt% 9.7 wt% 20 wt% 40 wt% 61 wt% 81 wt% 100 wt% 800 600 400 200 0 400 440 480 520 Wavelength/nm 8 水分量増加に伴う蛍光強度の変化 1000 1000 acetonitrile Fluorescence Intensity Fluorescence Intensity 1,4-dioxane 800 600 400 200 0 0 20 40 60 80 800 600 400 200 0 100 0 20 H2O/wt% 800 600 400 200 0 20 80 100 80 100 ethanol Fluorescence Intensity Fluorescence Intensity THF 0 60 H2O/wt% 1000 1000 40 40 60 H2O/wt% 80 100 800 600 400 200 0 0 20 40 60 H2O/wt% 9 Fluorescence Intensity 250 200 150 1,4-dioxane THF Acetonitrile Ethanol 100 50 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 H2O/wt% 低水分量領域の蛍光強度変化の様子 10 溶媒極性と蛍光強度の関係 Fluorescence intensity 1000 Organic solvent Water Acetic acid 800 1. 1.4-dioxane 2. THF 3. Ethyl acetate 600 4. DMSO 5. Acetonitrile 400 8 6. 2-Buthanol 7 200 7. Ethanol 5 8. Methanol 6 1 2 3 0 35 4 40 45 50 55 60 65 Solvent polarity 溶媒の種類によってプロトン解離の程度が異なる 11 比誘電率と蛍光強度の関係 Fluorescence intensity 1000 800 600 400 200 0 1,4-dioxane acetonitrile 0 20 40 60 80 Relative permittivity 12 比誘電率と蛍光強度の関係 Fluorescence intensity 1000 800 600 400 1,4-Dioxane Acetonitrile THF Ethanol 200 0 0 20 40 60 80 100 Relative permittivity 13 有機溶媒/H2O混合溶媒の水分量と比誘電率の関係 100 Relative permittivity 1,4-dioxane acetonitrile 80 H H J H J H 60 40 HH H H H H H H JH OH O J N J J J 20 J J 0 J 0 J 20 40 60 80 100 H2O/wt% 14 各溶媒を用いたときの検出限界(DL)、定量限界(QL) 水分量1%以下の検量線から検出限界(DL)、定量限界(QL)を求めた。 DL = 3.3σ / slope QL = 10σ / slope ただし σ = ブランクの標準偏差 slope = 検量線の傾き Wt% 1,4-Dioxane Acetonitrile THF Ethanol Wt% 検出限界DL 定量限界QL 0.1 0.3 0.001 0.004 0.1 0.4 0.001 0.002 15 従来技術とその問題点 従来の蛍光性色素では、蛍光強度は試 料中に含まれる水分以外の極性物質に 強く影響を受けるため正確な水分量を 検出することが困難であった。⇒ 極性 溶媒(媒体)中では使用できない。 16 従来の蛍光性水センサー:水 分量が増加(極性が増加)する と蛍光強度が減少する。 蛍光強度 ⇒蛍光強度は、試料中に含ま れる水分以外の極性成分に強 く影響されるため、試料中の正 確な水分量を検出することが 非常に困難 。 水分含有量の増加に 伴って蛍光強度が減少 400 蛍光強度の減少 蛍光性 蛍光性色素 波長/nm 700 Water (H2O) H2O H2O H2O H2O H2O (試料の)極性 小 従来の蛍光性水センサー 蛍光性色素 H2O H O H2O 2 H2O H2O (試料の)極性 大 極性溶媒(媒体)中では使用できない。 17 新技術の特徴・従来技術との比較 • 本発明のPET型蛍光性色素の蛍光強度は試 料の極性にあまり影響されない。 • 理論的に、水1分子に対して蛍光性の双生イ オンを一個形成するために定性・定量性に優 れている 。 • PET型蛍光性色素をフィルム化することも可 能である(直接ポリマー化・ポリマーに分散な ど)。 18 想定される用途 • 有機溶剤や大気中の水分検出、食品や製品 中の水分検出剤 • 除湿剤(保湿剤) • 医療、医薬、化粧品や衛生材料 • トンネル用セグメントや下水道用ヒューム管 の漏水検出シーリング材料 (土木・建築関 連) • 農園芸用フィルムとしての応用 19 想定される業界 • 利用者・対象 食品、精密機械、製造メーカー 医療、医薬、化粧品、衛生材料研究所およびメーカー 土木、農園芸関連 フィルム関連 20 実用化に向けた課題 • アセトニトリル中における水分量の検出限界と 定量限界は、それぞれ0.001wt%と0.004wt% である 。しかし、溶媒の極性(媒体)によって検 出限界と定量限界が異なる。 • 分子設計(蛍光発光母体やプロトン供与性基) を工夫することで、より実用的な水センサーの 開発が期待できる。 • フィルムへの分散性の改善、ポリマー化(フィルム 化)。 21 企業への期待 • フィルムへの分散性の改善、ポリマー化(フィ ルム化)。 • 医療、医薬、化粧品、衛生材料への展開。 • 微量水分検出センサーの開発。 22 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :蛍光性化合物およびこれを 用いた水分検出法 • 出願番号 :特願2009-249484 • 出願人 :広島大学 • 発明者 :大山陽介、播磨 裕 23 お問い合わせ先 広島大学 産学連携センター 産学連携部門コーディネーター 榧木 高男 TEL 082−421−3704 FAX 082−421−3788 e-mail kayaki@hiroshima-u.ac.jp 24
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