北陸地域における消費関連企業の販売動向と販売戦略・価格

2016 年 7 月 7 日
日本銀行金沢支店
北陸地域における消費関連企業の販売動向と販売戦略・価格設定行動
1.北陸地域における消費関連企業の販売動向
(1)消費財・サービス別の動向
・
北陸地域の個人消費は、高額品の販売など一部に鈍さがみられるものの、雇用・所
得環境が改善しているほか、北陸新幹線開業による交流人口の増加を受けて、地元消
費者を含めた域内の消費需要が拡大していることを背景に、持ち直している。
・
消費財についてみると、百貨店・スーパー等では、汎用品に対する消費者の節約志
向が根強いことや天候要因に伴う衣料品の苦戦などから、既存店ベースでは前年を下
回っているものの、新店舗の出店効果や取扱商品の拡充もあって、全店ベースでは前
年を上回っている。こうした中、雇用・所得環境の改善を背景に、自動車販売店や家
電量販店の販売は底堅く推移しているほか、コンビニエンスストアや土産物店、日本
酒製造業者等でも、北陸新幹線開業に伴う観光客等の増加を主因に売上が増加してい
る。また、近年、アウトレットモール等の大型商業施設が相次いで開業していること
も、当地の消費需要の喚起に繋がっていると考えられる。
・
サービス消費に関しては、雇用・所得環境の改善を背景として、旅行代理店やホテ
ルでは地元客の前向きな消費姿勢がうかがわれている。また、北陸新幹線開業に伴い
観光客等が増加していることを受けて、金沢市を中心に賑わいがみられ、地元消費者
の消費需要喚起にも繋がっている。
(2)顧客属性別の特徴点
・
顧客属性別にみると、富裕層の消費者マインドが改善していることに加え、中間層
や若年層による消費も底堅く推移している。
・
富裕層では、年初来の金融市場における不安定な動きを受けて、高級時計や宝飾品
等の販売など一部に鈍さがみられるものの、北陸新幹線開業の恩恵を受けている経営
者層では高級車を購入する動き等がみられており、引き続き前向きな消費姿勢がうか
がえる。
・
一方、中間層や若年層では、節約志向が依然として根強く、汎用的な商品・サービ
1
スは低調(百貨店・スーパー、ドラッグストア)ながら、雇用・所得環境の改善を背
景に、従来対比、「高付加価値・高価格帯の商品・サービスが好調」(家電量販店、飲
食店、ホテル、自動車販売店)との声が聞かれている。このようにメリハリ型の消費
行動がより明確になる中で、中間層や若年層の消費者マインドも全体として改善して
いるようにうかがわれる。
(3)インバウンド消費
・ インバウンド消費は、当地企業の売上に好影響を与えており、北陸新幹線開業後は、
ホテルや飲食店、ドラッグストア、タクシー会社等の増収に寄与している。なお、域
外からの観光客等を主要顧客とするホテル・旅館やタクシー会社からも、
「北陸新幹線
開業から1年が経過し、増勢は幾分鈍化しているものの、開業前と比べるとかなり高
い水準にある」との声が聞かれている。
2.販売戦略面と価格設定面
(1)販売戦略面の特徴
・ 北陸新幹線開業の恩恵を受けている業種では、観光客の需要を一層取り込むために、
顧客のニーズに沿った商品・サービスの開発・提供に注力している。具体的には、品
質に拘った地酒や SNS 等への投稿を意識した見栄えの良い食品の開発、観光客の利便
性向上を企図した IC カードの取扱開始等に取り組む先がみられている。
・
他方、地元客向けでは、消費需要を喚起する取組みに注力する先がみられている。
すなわち、安定的・長期的な収益が見込める地元客にメインターゲットを絞り、若年
層やファミリー層などの顧客階層別に人気の高い商品・サービスを提供する等、顧客
のニーズを確りと取り込むことで売上を大幅に増やしている先がみられている。また、
有名人とコラボした商品開発、競合他社との差別化を目的とした高付加価値商品の拡
充に注力する先や、新規顧客の開拓を目的としたオンラインショップ機能の拡充や近
隣商業施設との連携強化に取り組む先がみられている。
・
こうした中、6月3日には、日本海側では初めてとなる「ミシュランガイド富山・
石川(金沢)2016 特別版」が発売されるなど当地に対する注目度がますます高まって
いる。同ガイドブックの掲載店では、既に予約が大幅に増加しているとの声が聞かれ
るなど、当地に対する海外からの評価の高まりが、地元消費者における新たな消費行
動への動機付けとなっている。
2
(2)価格設定面の特徴
・ 15 年度は、北陸新幹線開業に伴う人手不足で人件費等が上昇したことから、ホテル・
旅館や飲食店を中心に販売価格を引き上げる先がみられた。
・ 16 年度については、新幹線開業効果の一服を懸念して販売価格を引き下げて客数を
増加させることで増収を図る先がみられる一方、需要好調な一部のホテル・旅館では、
客単価を上昇させるために宿泊料金を引き上げているほか、その他の業種でも競合他
社と一線を画すために、高価格・高品質路線を志向する先がみられており、価格設定
戦略の二極化がうかがわれている。なお、販売価格を据え置く先でも、
「追加注文を促
すことで客単価を引き上げる」(飲食店)や「問題解決型営業に一層取り組むことで、
他社との差別化を図る」
(家電量販店)など、従来以上に丁寧に顧客ニーズを取り込む
ことで、顧客満足度向上と自社収益増強の両立を図る動きがみられる。
3.先行きの見通し
・
世界経済や金融市場の先行き不透明感から、一部に鈍さがみられるものの、引き続
き、雇用・所得環境の改善と新幹線開業に伴う交流人口の増加を背景に、全体として、
当地の個人消費は持ち直しの動きが続くと思われる。また、当地の物価は、需要が好
調なホテル・旅館等を中心に全体として上昇基調を辿るものと考えられる。
・ ただし、当地では景気回復が続く中、人手不足感が一段と強まっており(就業地別
有効求人倍率は、福井県が全国トップ、富山県が3位、石川県が7位<16/5 月時点>)、
「依然として人材の確保が厳しく、営業時間を短縮している」とか「新規出店を断念
せざるを得ない」といった声が聞かれるなど、一部では人手不足の弊害により事業計
画が予定どおり実行できない先もみられている。このため、当地では、サービス業を
中心にパートやアルバイトに替えて正社員、とりわけ新卒採用を増やす先が増加して
おり、腰を据えて中長期的な観点から人材育成に取り組む姿勢が強まっているが、今
後、そうした取組みが成果に繋がる前に供給制約のリスクが一段と顕現化することが
ないかを確認するとともに、こうしたリスクに対する企業側の生産性向上・業務効率
化に向けた取組みを併せて注視していくこととしたい。
以
上
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いたします。なお、本ペーパーは日本銀行金沢支店のホームページ(http://www3.boj.or.jp/kanazawa/)
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3
(参考図表)
▽北陸3県の百貨店・スーパーの売上高前年比
20
(%)
▽北陸3県の温泉地宿泊客数前年比
40
(%)
北陸
北陸(既存店)
15
6か月後方移動平均
30
北陸(全店)
10
20
5
10
0
0
▲5
▲ 10
▲ 10
▲ 20
▲ 15
10/1
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
16/1
16/4月
10/1
資料:中部経済産業局
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
16/4月
16/1
資料:北陸観光協会
▽北陸3県の観光入込客数の推移
石 川 県
(千人)
30,000
25,000
22,596
19,668
19,466
「
20,000
N
利H
家 K
と大
ま河
つ ド
ラ
放マ
映
15,000
10,000
5,000
」
全北
線陸
開自
通動
車
道
北
陸
新
幹
線
開
業
東
日
本
大
震
災
能
登
半
島
沖
地
震
25,010
(前年比
+15.7%)
0
82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
年
35,000
福 井 県
(千人)
30,000
23,367
25,000
20,000
福
井
県
立
恐
竜
開博
館物
館
15,000
10,000
5,000
0
25,342
越
前
4 大
3 野
0 城
年築
祭城
の
開
催
東
日
本
大
震
災
舞
鶴
若
狭
自
全動
線車
開道
通
29,956
(前年比
+14.1%)
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
年
35,000
富 山 県
(千人)
30,000
26,997
25,000
北
陸
小東
矢海
部自
間動
開車
通道
福
光
・
20,000
15,000
10,000
5,000
0
28,514
25,955
能
越
自
小動
矢車
部道
間福
開岡
通 ・
29,036
東
日
本
大
震
災
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
年
備考:観光入込客数の推計方法は各県において全く異なるため、水準の比較ができない点に注意。なお、
富山県の 2010 年と 2011 年は、調査地点等を一部整理しているため、連続していない。
資料:統計から見た石川県の観光、富山県観光客入込数、福井県観光客入込数
4
▽北陸3県の雇用環境
2.40
2.20
2.00
1.80
1.60
1.40
1.20
1.00
0.80
0.60
0.40
北陸
全国
1.67
1.36 87
2.00
有効求人倍率
(季調済倍)
90
93
96
99
02
05
08
11
14
就業地別有効求人倍率
(倍)
(2016 年5月時点)
順位
(単位:倍)
1 福井 1.89
2 岐阜 1.81
3 富山 1.81
4 香川 1.70
5 福島 1.65
6 三重 1.63
7 石川 1.62
8 愛知 1.62
9 広島 1.57
10 島根 1.57
富山県
石川県
福井県
全国
1.50
1.00
0.50
0.00
05/2月 06/1
05/1
07/1
08/1
09/1
10/1
16/5月
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
16/1
備考:就業地別有効求人倍率とは、実際に就業する都道府県ごとに集計した求人を用いた都道府県別の有
効求人倍率。
資料:厚生労働省「職業安定業務統計」
雇用者所得の寄与度分解
▽北陸3県の所得動向
6.0
6.0
(前年比%)
(前年比%)
名目賃金
(寄与度)
4.0
4.0
3.7
常用雇用
(寄与度)
1.5
雇用者所得
(前年比)
2.0
2.0
0.0
16/ 1 2 3 4 月
0.0
名目賃金の寄与度分解
4.0
▲ 2.0
名目賃金
(寄与度)
常用雇用
(寄与度)
雇用者所得
(前年比)
1-3
15年
10-12
7-9
4-6
1-3
14年
10-12
7-9
4-6
1-3
13年
10-12
7-9
4-6
1-3
10-12
7-9
4-6
1-3
12年
4 月
▲ 4.0
1.6
3.0
16年
所定内給与
所定外給与
2.0
2.2
1.0
0.0
備考:名目賃金と常用雇用の実数を基に算出。なお、12/1 月~14/12
月に関しては 15/1 月のサンプル替えに伴い、ギャップ修正を
施している。
資料:富山県、石川県、福井県
特別給与
現金給与総額
▲0.1
▲ 1.0
16/1 2 3 4 月
所定内給与の寄与度分解
3.0
(前年比%)
パート
比率要因
2.0
1.0
0.0
▲ 1.0
5
(前年比%)
▲ 2.0
2.1
▲0.0
▲0.3
16/1 2 3 4 月
パート
賃金要因
一般労働
賃金要因
所定内給与