近づきたい、けど、傷つくのは怖い。 ヤマアラシのジレンマ 「近づくと痛く

こころのビタミン
第4号 H28 7月
助け合うということ
~人を信じられる自分になろう~
発行:諫早商業高校教育相談部
期末考査も終了して、いよいよ体育祭ですね。
合同体育も始まり、応援、行進、ダンスといった団の人と協力して、1 つのものを作り上げ
ていく団活動もスタートしました。体育祭を通じて、クラスだけでなく、他学年との絆も深ま
ることでしょう。他学年との人間関係も広がるこの時期に、人間
関係をめぐるこころの葛藤の一つをテーマに取り上げます。
近づきたい、けど、傷つくのは怖い。
★ヤマアラシのジレンマ★
「近づくと痛くて、離れると寒い」のジレンマ
むかしむかしあるところで、2 匹のヤマアラシが出会ってお友達になりました。その日はと
たりしましょう。このテ
ても寒い日だったので、2 匹は近づいてお互いの体温で温まろうとしました。
キスト ボックスは、ドラ
しかし、近づくと相手の体に生えているトゲが刺さって痛くて仕方ありません。そこであわ
ッグしてページ上の好き
てて離れてみましたが、それだと寒くて、耐えられそうにありません。
な場所に配置できます。]
2匹のヤマアラシは、近づいて相手のトゲで痛い思いをし、離れて寒さに耐えるということ
を繰り返していましたが、お互いに協力し合って、ついに、痛みを我慢でき、お互いのぬくも
りで温まれる距離を探し当てました。その後、2 匹はいつまでも仲良く暮らしました。
これはドイツのショーペンハウエルという哲学者が作った寓話です。離れていると寒い。だ
からと言ってくっつきあうと、お互いのトゲで相手を傷つけてしまう。「これは人間関係にお
けるこころの葛藤そのものでは!」と感じた心理学者ベラックが提唱した概念が「ヤマアラシ
のジレンマ」です。この言葉は、1990 年代に社会現象を巻き起こしたアニメ「新世紀エヴ
ァンゲリオン」の中で使われたことで有名になりましたので、知っているという人もいるので
はないかと思います。
私たち人間も、誰かと親しくなると、時には甘えたり遠慮がなくなったりして、相手を傷つ
けたり、逆に傷つけられたりすることがあります。でも、傷つくのが怖いからと、誰とも親し
い関係にならなければ、とてもさびしいですよね。
痛みが気にならず、しかも相手のぬくもりを感じるこころの距離は、人によっても状況によ
っても違うので、ちょうどいい距離を見つけるのは、とても大変なことだと思います。でも、
お互いが相手を思いやって、協力し合えば、ちょうどいい距離が見つかること、そして、見つ
けることができれば、いつまでも仲良しでいられることを、このお話は私たちに教えてくれて
いるのだと思います。
人と人とが関わっていく限り、きっと避けることのできない「ヤマアラシのジレンマ」です。
でもお互いの痛みを分かりあってこそ、初めて気づく暖かさがきっとあるはずです。
ちなみに動物のヤマアラシは、仲間と一緒にいるときは本当はトゲを寝かせているそうです。
自分の持つトゲの寝かせ方を知っておくことも、とても大事かもしれませんね。
日本には、「困った時はお互いさま」という言葉があります。自分ひとりではどうにもで
きないような困った事が起こったら、お互い助け合うのは当たり前、という意味です。
助けてもらった側が恐縮したりしないように、「自分も同じようなことがあったら、お世
話になるのだから、気にすることはありませんよ」といっているわけです。
一方、人は誰でも、「自分の力で何かができる」ということに喜びを感じます。子どもも
若者も体の不自由な人も老人も同じ気持ちです。だから、助けを必要としていない時に、何
もかもしてあげたりすると、その喜びを奪うことになってしまうかもしれないわけです。
例えば、子どもがまだ小さいからといって、親があれもこれも世話を焼いてあげたとした
ら、その子はいつまでたっても「自分でできる」喜びを味わうことができません。親から認
められるという感覚もわかないはずです。親は愛情一杯でかわいがっているとしても、子ど
もの方は自立からどんどん遠ざかってしまいます。
「なんでもしてあげる」タイプは、「やってもらう」ことが苦手です。やってあげること
は苦にならないのだけれど、何かをやってもらうと相手に悪いとか、迷惑をかけているので
はないかと思ってしまいます。
「なんでもしてあげる」と「相手に悪い」は、実は全く同じ気持ちからきています。意識
はしていませんが、こころの奥でどこか相手を信頼できずにいるのです。こころから信頼で
きないから、相手のことでは、目に付いたことすべてに手を差し伸べてしまうし、自分が困
った時には「悪いから」といって、相手に頼ることができないというわけです。
サポートシステム(助け合い)は、普段からの信頼関係があって、初めて成り立ちます。
上も下も、貸し借りもなく、いざというときは、お互いに、
「手を貸すよ」
「頼りにしている
よ」という、対等の関係であることが基本のスタンスです。
人生で味わう「楽しいこと」が人を大きくし
「つらいこと」が人を優しくします。
もし、あなたが人に頼ることが苦手だったら、自分が親しくしている人たちの顔を思い出
して、
「みんなのことを信頼しよう」と声に出して 3 回言ってみましょう。そして、実際に
心から信じて誰かに頼ってみます。
自分が辛い時、困った時誰かに頼ると、相手が辛い時の気持ちも理解できるということに
気がつきます
「私だけじゃない」という気持ちを共有することは、こころに勇気を与えます。
自然と「お互いさま」の関係に感謝する気持ちが湧いてきます。