リーフレット [Leaflet]

電力中央研究所報告
火 力 発 電
タービン翼の温度推定における不確かさ評価と
簡便な温度推定式の導出
キーワード:不確かさ,多項式カオス展開,数値流体解析,代理モデル,
タービン翼
報告書番号:M15004
背 景
当所ではガスタービン翼の寿命評価を目的に,数値解析を用いた翼温度推定に取
り組んでいる.推定された翼温度や寿命の信頼性を向上させるためには,TBC 厚さ
や燃焼ガス温度等の境界条件の設定値の不確かさ (注 1) が翼温度に及ぼす影響を評価
することが不可欠である.また,将来,ガスタービンは多様な形態で運用されるこ
とが予想されるが,ガスタービンの運用性向上の観点からは,運転条件の変化が翼
温度や寿命に及ぼす影響を迅速に推定することが必要になる.
目 的
タービン翼の温度解析に PCE(Polynomial Chaos Expansion)法 (注 2) を適用し,境
界条件の設定値の不確かさが翼温度に及ぼす影響を評価可能か明らかにする.また
運転条件が変化した際の翼温度を迅速に推定するために,翼温度推定に関する近似
モデルを PCE 法により導出し,数値解析との比較から,その精度検証を行う.
主な成果
1. PCE 法による翼温度のばらつき評価
タービン翼の 1 次元温度解析に PCE 法を適用し,MC 法 (注 3) との比較から,基材
温度のばらつき評価に対する妥当性を確認した.その上で,タービン翼の 2 次元温
度解析に PCE 法を適用したところ,境界条件(TBC 厚さ,燃焼ガス温度)の設定値
の不確かさが翼表面温度分布に及ぼす影響(標準偏差 σ (注 4) )を評価できた(図 1).
翼の温度解析に加えて,翼の応力解析や材料の破壊試験結果に対して PCE 法を適用
することで,寿命評価の信頼性を向上できると見込まれる.
2. 近似モデルによる翼温度推定
近似モデルにより推定した翼表面温度分布は,数値解析結果と良好に一致した(図
2).近似モデルを用いることで,運転条件が変化した際の翼温度を迅速に推定でき,
ガスタービンの多様な運用に対応して翼の寿命を評価できる可能性を見出した(図
3).
実機翼に対する PCE 法の適用には,TBC 厚さや燃焼ガス温度の他に冷却空気流
量等,不確かさを考慮する境界条件の数を増やすこと,また実機における運転条件
の変動範囲や分布を把握することが必要になる.
今後の展開
対象とする境界条件の数を増やして,タービン翼の温度解析に対する PCE 法の適
用性を評価する.
(注
(注
(注
(注
1)
2)
3)
4)
境界条件の多くは計測困難で,必ずしも明確でなく,翼温度推定や寿命評価における誤差要因となる.
境界条件の確率分布を仮定して,効率的に解析結果のばらつきを評価する手法.
解析結果のばらつきを厳密に評価する一般的な手法であるが,膨大な回数の数値解析を必要とする.
ばらつきを持つデータが正規分布に従う場合,平均値に対して ± 3σ の範囲に 99.7 %のデータが存在.
༓໲Ǭǹภࡇ
1500
ᎈᘙ᩿ภࡇ , K
平均:1500K
標準偏差:20K
༓໲Ǭǹ
0
Эጂ
Ꮡͨ
TBC厚さ
ᐃͨ
+3σ
࠯‫͌ר‬
1000
平均:500μm
標準偏差:100μm
−3σ
-1 1
ࢸጂ
ᐃͨ
Ꮡͨ
−1
ࢸጂ
−0.5
0
Эጂ
0.5
໯ഏΨុᩉ
1
ࢸጂ
図 1 翼表面温度分布のばらつき評価
タービン翼の温度解析に対して PCE 法を適用したところ,境界条件(TBC 厚さ,燃焼ガス温度)の設定値の不確
かさに起因する翼表面温度分布のばらつきを評価できた.
ᎈᘙ᩿ภࡇ , K
1500
ᡈ˩ȢȇȫƴǑǔਖ਼‫ܭ‬
ૠ͌ᚐௌ
426μm
1453K
1000
Ꮡͨ
ᐃͨ
−1
−0.5
ࢸጂ
図2
0
0.5
Эጂ
1
ࢸጂ
໯ഏΨុᩉ
近似モデルによる翼表面温度分布推定の一例
PCE 法により導出した近似モデルを用いて推定した翼表面温度は,数値解析結果と良好に一致した(0.3% 程度の
差).
通常の翼温度推定
近似モデルによる翼温度推定
運転条件の変化
運転条件の変化
λщ
λщ
数値解析
翼温度推定に関する
近似モデル
数値解析
1 ケース
数日程度
数値解析
Јщ
翼温度
1 ケース
数秒
2%' ඥƴǑǓ
ʖNJ‫ݰ‬Ј
数値解析
Јщ
翼温度
翼温度
翼温度
翼温度
翼温度
図 3 迅速な翼温度推定のイメージ
通常の翼温度推定では,運転条件が変化する毎に数値解析を行い翼温度を推定する必要があるが,少数の数値解析
結果を用いて近似モデルを予め導出しておくことで,運転条件が変化した際の翼温度を,新たに数値解析を行うこ
となく,例えば発電所において,迅速に推定することが可能になる.運転条件を変更する際に,タービン翼の温度
や寿命に及ぼす影響を把握できるようになるため,ガスタービンの運用性向上につながると考えられる.
研究担当者
酒井 英司(エネルギー技術研究所 高効率発電領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 エネルギー技術研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 046-856-2121(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
c 2016 CRIEPI 平成 28 年 6 月発行
[非売品・無断転載を禁じる]