【相談 66】手術中に医療機器が壊れました・・・ 【回答】

【相談 66】手術中に医療機器が壊れました・・・
キーワード:医療機器、製造物の欠陥、製造物責任、医療機器使用(操作)上の医師・医療機関の注意義務、不法行為責任、
債務不履行責任、損害賠償責任、使用者責任
開業医です。私立病院の勤務医です。
先日、心臓病の患者の手術中に人工心肺装置の送血ポンプが壊れ、血液に空気が入ったために患者に
脳梗塞の後遺症が残りました。現在、患者から訴えるといわれていますが、このような場合には医療機関
よりもむしろこの装置を作った会社を訴えるべきだと思うのですが、どうなのでしょうか。
【回答】
類似する【相談 38】でも回答しましたように、誰を被告として訴訟提起するかは、もっぱら原告のイニ
シアティブに委ねられています。もっとも、原告の請求に法律的な正当性がない場合は、請求は棄却され
ます。ご質問のケースでは、装置の製造業者等が責任を問われる可能性はありますが、事情によっては、
医師ないしその医療機関にも賠償責任が課せられる可能性も否定できません。
医療機器のような製造物に「欠陥」があり、これによって、当該機器自体が故障するなどの事態を超え
て、人の生命・身体・健康・財産などに損害(「拡大損害」
)を発生させた場合には、この製造物を製造ま
たは輸入して日本国内の流通に置いた事業者に無過失の賠償責任が問われます(製造物責任法第 3 条。な
お、賠償責任を問われる事業者については同法第 2 条第 3 項に定められています)
。
しかし、臨床医療の場における医療機器の「欠陥」の判断については、注意を要する問題があります。
当該医療機器の通常の適宜適切なメインテナンスを欠いていた場合や医科学的に通常予見される使用形態
と異なる不適切な使用によって臨床の場で患者に損害が発生した場合には、この事故は製造物責任法に規
定された「欠陥」がないにもかかわらず事故が発生したものとして、医師や臨床工学技師などの医療従事
者個人(民法第 709 条)
、ならびにこの医師らを雇用している医療機関設置者の責任(民法第 415 条、同第
715 条)が問われることになります。
さらに、当該医療機器に「欠陥」があり、当該医療機器の製造業者等とともに、医師・臨床工学技師な
どの医療従事者・医療機関設置者にも患者に対する賠償責任がある場合があるとする判例もみられます(東
京高裁平成 14・2・7 判決(判例時報 1789・78))
。
(回答者:山本隆司
立命館大学政策科学部教授)
(2016 年 6 月執筆)
*会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明を掲載しております。
*関連相談事例
・相談 38:医療機器の不具合を原因として医療事故が生じた場合の責任は、機器製造者と医師・医療機関のいずれにあ
るのでしょうか。
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.66, 2016, May. Kyoto Comparative Law Center