研究紹介

BRST対称性とカイラル対称性の破れの
格子QCDシミュレーションによる検証
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帝京大学理工学部 古井貞隆
素粒子の標準模型のLagrangian は高エネルギーでは、BRST(Becchi-Rouet-Stora-Tyutin) 対称
性と呼ばれるグルーオン場とゴースト場の混合をおこすようなゲージ変換に対する対称性が成り
立っている。 ゴースト場はグルーオン場の余計な自由度を相殺させるために導入された仮想的
な粒子で、BRST対称性が成り立っているとすると、ゴースト伝搬関数から計算される九後・小嶋
カラー閉じ込めパラメータと呼ばれる量 u(q) の運動量 q=0 の極限で -1 になることが予測される。
10年程前に私たちはクォーク-反クォークの対生成を無視したquench近似では u(0)が -0.7 程度し
か出ないことを Quark Nuclear Physics 2000 国際研究集会で発表した。(H.Nakajima and S.Furui,
Nucl. Phys.A680 (2001)151c)
赤外領域では質量の軽いクォーク場がカイラル対称性の破れをおこしているのと同様にBRST対
称性が破れている可能性がある。千葉大学の近藤慶一氏は、ランダウゲージ固定した場合に生
ずるグリボフ問題を回避し、ゲージ配位の唯一性を導くために考えられた fundamental modular
region へのゲージ配位への制限を詳しく検討すると、赤外領域ではBRST対称性が破れることを
示した。(K-I.Kondo, Phys.Lett. B 678(2009) 322; arXiv:0907.3249)
九後・小嶋パラメータはクォーク反クォークの対生成を考慮したfull QCDのゲージ配位を用いて計
算すると、-1と矛盾しない結果が得られている。このことは、ボーズ粒子であるグルーオンの性
質を調べるとき、その周りにあるフェルミオンであるクォーク場も考慮した超対称性理論の枠組み
で考察する必要を示唆しており、その理論が予言するself-dual なゲージ場(インスタントン)の効
果をうまく取り入れて低エネルギーでのカイラル対称性の破れを考慮したシミュレーションが必要
なことを示している。(S.Furui, Few-Body Syst. 46(2009)221, arXiv: 0903.3793(hep-lat); S.Furui, PoS
Lattice2009, arXiv: 0908.2768(hep-lat))
そのためにDomain Wall Fermionを用いて生成されたゲージ配位を使った格子シミュレーションを
行い理論の検証を試みている。