2015年春学期 「現代の経営」 第13回 SCM 樋口徹 1 6-2-1 SCMの定義(p.147) 全米サプライチェーン・マネジメント協会の定義 • 全米サプライチェーン・マネジメント協会(CSCMP:Council of Supply Chain Management Professionals)は、SCM(Supply Chain Management:供給網管 理)を「調達や加工などの全 ロジスティクス 管理の計画や管理を含む活 動」と定義している。 • 全米サプライチェーン・マネジメント協会は、供給業者、仲介業者、サードパー ティー業者、そして顧客との 調整 と 協働 を重要視している 。 • SCMは、 顧客 に価値をもたらしている製品、サービス、情報を提供してい るビジネスの諸過程(関連企業)を 統合的 に管理する活動である。 2 類似の概念 • 物流は、生産から消費または利用に至るまでの財貨の移動および取り扱いを管理する ことである。物流活動においては、荷物を確実かつ効率的に 運ぶ ことが中心となる。 • ビジネス・ロジスティクスは「 サプライチェーン ・プロセスの一部で商品・サービス・ 情報の産出地点と消費地点の間の効率的かつ効果的な流れと貯蔵を消費者の要求を 満たすように計画、導入、そして管理すること」とである。 • ロジスティクスは軍事用語で、宿営、兵站、後方支援活動を意味する言葉である 。戦争 用語であるので、 敵 の存在を前提としている。特に、物資や兵隊の輸送力を強化す ることによって、戦局を有利に導こうとするものである。ロジスティクスをビジネスに応用 したのが、ビジネス・ロジスティクスである。 • 自社の収益を最大化するために、消費者の動向に合わせて、製品やサービスを効率的 かつ効果的に補充・供給することが重要となる 。ビジネス・ロジスティクスでは、会社の 一部機能を最適化(部分最適)するのではなく、会社全体の最適化( 全体最適 )を 志向している。 • グループ経営は、中核となる企業が系列企業あるいは企業集団を管理し、グループ全 体としての最適化をはかるものである。資本関係や長期取引関係などの 強固 な関 係に基づいており、戦略の円滑な実施や重要機密の保護には適している。 3 類似概念の比較 4 SCMの目的; 顧客満足とサプライチェーン全体の利益の増加 • サプライチェーンが活動を維持していくためには、顧客を満足さ せつつ、サプライチェーン全体での 利益 を確保することが必 要となる。 • それを実現するためには、製品設計や調達・生産・流通などのレ ベルで 関連企業 の連携が必要となる。需要に応じて確実か つ効率的に調達・生産・流通させることが必要となる(=仕組み 作り)。 • SCMでは、 消費者(顧客) が欲する製品を確実・効率的に 供給することが大前提である。 サプライチェーン内の多様な活動 (原材料の収穫や採掘⇒加工・組立⇒商品の流通) ※消費者が支払う代金(金銭)で全ての活動費が賄 えていなければ、長期的には存続できない。 品質・価格・ サービス 代金 消 費 者 5 工業製品のサプライチェーンの枠組み 協力 企業 協力 企業 協力 企業 協力 企業 協力 企業 協力 企業 協力 企業 卸売 協力 企業 小売 卸売 組立 工場 協力 企業 部品・半完成品 費 小売 小売 卸売 消 小売 直販 卸売 協力 企業 調 達 ・ 製 造 活 動 川上 (上流) 原材料 小売 者 小売 流 通 活 動 製品 川下 (下流) 6 日常的なSCMの活動内容 • サプライチェーンの各段階および各場所で適切な 在庫水準 を維持する(販売するため)。 • 需要予測に基づいた生産計画を確実かつ効率的に実行する。 • 拠点間で物資の移動を確実かつ効率的に行う(物流共同化・配 送ルート)。 ※そのためには、情報システムを活用し、売れ筋と在庫量を適宜 チェックし、簡単に間違いなく受発注可能かつ材料や商品の運 送状況が把握できるシステムが必要となる。 ※近年、 電子商取引 の普及に伴って、在庫と配送までの時 間を即座に回答することが求められるようになっている。 ※例えば、ネット上で注文しようとしたら、販売可能かどうかを1週 間後に回答し、それから1か月後に配送すると言われたら? 7 日常的なサプライチェーンの活動(日や週単位) 部品・半完成品 川上 原材料 (上流) 調 達 ・ 製 造 活 動 採取 受注 協力 梱包 在 庫 出荷 発注 受注 協力 加工 在 庫 出荷 発注 受注 工場 組立 在 庫 出荷 製品 川下 (下流) 流 通 活 動 発注 受注 卸売 受領 在 庫 出荷 発注 小売 販売 受領 消 費 者 ※サプライチェーン内の各段階における マーチャンダジング ・ サイクルを統合的に表現したものである。 8 【消費者優位の見方】 9 図(消費者優位の見方)の説明 消費者の視点;どこであるいはどのように購入するかが重要に なっている(スーパー、コンビニ、雑貨屋、ネット等多様な選 択肢が存在)。 販売する側;小売店あるいはインターネット、あるいはミックス化 を検討する;消費者が購入する場所にどのように商品を提 供するか(あるいはネット上で受注し、配送するか)が重要 になった。 物流センターの役割;効率的に商品の品揃えを確保するため、 物流センターの設置・運営あるいは物流機能のアウトソー シングが重要となる(例えば、自社はサイト運営だけで、運 送事業者に商品の保管・発送・集金などを依頼)。 ※消費者が優位になった背景には、小売りの チェーン化 、長引く不況、 情報技術の進展などで市場での競争が激化したことがある。 10 6-2-2 サプライチェーンの機能(p.149) サプライチェーンの構造 • サプライチェーンとは、消費者に製品が届くまでに関連する企業の集まりである。 その構造は、チェーン(鎖)というより、 ネットワーク 構造をしている。 • 最適な原材料や部品が世界中から工場(一ヶ所)に集められ、 完成品 となる。 完成した製品は、流通チャネルを通して、国内外に点在する顧客に提供されること になる 。 ※現代では、企業の間で市場において競争を行っているというより、サプライチェー ン対 サプライチェーン で競争が行われるようになっている 11 サプライチェーンの図 12 サプライチェーン内のプレーヤーの思惑 • サプライチェーンは、川上から川下までの多数の 段階 から構成されている。そ の中には、利害関係が異なるものが数多く含まれている。例えば、セットメーカー、 協力企業、消費者の間では、それぞれの売りたい価格と買いたい価格が異なるの は当然である。 • さらに、それぞれが行うコスト削減やリスク回避のための行為は、 他社 にとっ て、費用やリスクの増加につながることがある。このような関係は、垂直方向だけ でなく、水平方向でも成立する。例えば、ある小売店が販売量を増やすための値 引きなどの販売促進行為は、他の小売店の販売量に悪影響を及ぼすかもしれな い。 • サプライチェーンの中では、色々な 思惑 に基づいて様々な行為が行われるの で、サプライチェーンの挙動は カオス (混沌あるいは無秩序)のようだと形容さ れることがある 。このようなサプライチェーンを統合的に管理しようとするのもSCM の課題の一つである。 13 サプライチェーン内のマーチャンダジング・サイクル • 以下の図はサプライチェーン内の各段階で行われるマーチャンダジング・サイクル を統合的に表現したものである。 • マーチャンダイジングとは、商品の販売と 補充 のことである。マーチャンダイジ ング・サイクルは、販売と補充の 繰り返し とそれに関連する一連の活動のこと であり、発注(受注)、受領(出荷)、 在庫 などが含まれる。第一次および第二 次産業に属する企業では、生産(加工)や採掘(採取)などの活動も行われる。 14 サプライチェーン内部の連動 • 最終消費者が小売店で製品を購入することによって、小売店の在庫が 減少し、卸売り(問屋や物流センター)からの 補充 が必要になる。 そして、卸売りも製品を出荷した後は、在庫が減るので、セットメーカー (工場)からの補充が必要になり、注文を行う。工場が注文を受けた場 合、新たに生産するか保有している在庫で対応する。 • 工場でも、材料や部品あるいは製品の在庫が減るので、協力企業から 補充が必要になる。 • サプライチェーンでは、消費者の購買(需要)から補充(供給)の 連鎖 が始まる。ただし、すべての活動を プル 型で行うこと(受注してから 生産などの活動を行うこと)は時間と手間がかかりすぎるので、ある程 度までは需要予測に基づいて プッシュ 型(予め生産しておき、在 庫で対応すること)で対応している 15 以下補足【 Shortage Gaming 】 品物が不足時に必要以上に購入しようとすること。 <必需品が手に入りづらくなくなるとしたらどうする?> この傾向が強まると甚大な パニック 状態になることもある。 事例:石油ショックなどが該当する。石油不足で、トイレット ペーパーの買いだめ。東日本大震災時には、スーパー やガソリンスタンドに長蛇の列。 不足状態なのに、 買いだめ 行為(=通常以上の需要発生) これを制御するためには、停止や割当制度など供給を管理するのも 有効。 16 【生産設備調整(完成)ラグ】 • 生産設備が完成するまでに短くても時間が 月 単位でかかる。 • 大きな リスク を抱えることになり、意思決定に時間がかかる。 • 設備が物理的に完成するまでに時間もかかる。 ※需要が急激に減少した場合、過剰な生産設備を長期間(数年 単位で)抱えることになる。 例。マンションの建設ラグなども似たような現象である。 好景気下で、高値でマンションが飛ぶように売れる ⇊ 土地を買収し、建設開始 ⇊ 不好景気下で、マンションが売れない ⇊ 建設を手控える ⇊ 景気が好転、売り物のマンションが無い 17 【ブルウィップ効果:】 • 牛鞭の効果?根元から離れる程よくしなる。 • 川下ほど 需要の変動 が大きくなる現象を指す。 その要因としては以下のものがある -多段階の意思決定(小売/卸売/工場が別々に注文) -意思決定ラグ(毎日/週/月などの意思決定間隔) -バッチサイズ(生産規模が1万個単位など)、 -製造と調達活動の調整スピードの違い。 • 品不足を解消するには、ボトルネックを早期に発見し、それに対応 することが必要となる。 • 製造設備の調整を 歪んだ情報 に基づいて計画すると、完成 ラグも加わって大変なことになることもある。 18 【タマゴッチを襲ったブルウィップ効果】 タマゴッチ(1997年に イグノーベル 賞の経済学賞を受賞) • バンダイが発売した仮想育成ゲームで、「たまごっち」と呼ばれ るキャラクターにえさを与えたりして、育成していくもの。 • 1996年11月の発売から2年間で、発売元のバンダイによれば、 これら第1期のたまごっちシリーズは全世界で約4000万個(日 本国内で約2000万個、日本国外で約2000万個)を販売した。 • しかし、1993年3月に在庫 250 万個を処分し、1993年度に は60億円の特別損失を計上し、その年の収支は45億円の赤 字となった。 • この原因は何か? 19 【タマゴッチを襲ったブルウィップ効果の原因】 直接的な原因 ・致命的な 需要予測 の間違い -消費者が熱しやすく、冷めやすかったから(ブーム)? -消費者が偽の需要を発生させたから? -小売や卸売が品薄商品を仕入れるために、大目に注文? ※タマゴッチのケースは単純な移り気な消費者の心情が原因で はなく、サプライチェーンの特性が要因で事態が悪化したケース である。 -品不足に起因するShortage Game( 液晶 部品がネック) -多段階でゲームが展開 -生産設備拡張・縮小ラグ(半年以上先の需要予測は低精度) -予想を超えるブルウィップ効果を生み出した。 20 【バンダイのその後の対応】 データベース 構築 -顧客に複数回注文をさせない(正確に需要を把握する) -情報やデーターを共有(流通業者と協力企業) 他の事例:PASMO(株式会社パスモが発行の公共交通機関共通乗 車カード・電子マネー)2007年3月18日からサービスを開 始したが発売当初は売れすぎて、在庫がなくなった。その 時の対応は? SCMの一つの解:TOC(制約理論);ボトルネックの緩和;ゴールドラッ ト著『ゴール』(物語調で経営戦略を語る) ・サプライチェーンの競争力は、一番 弱い 部分で決まる。 ・一番弱い部分(ボトルネック)を迅速に発見し、それを改善する。 ・ボトルネックの発見・改善がサプライチェーンの競争力を伸ばす。 ※それ以外の部分の活動を強化しても、無駄な在庫を作るだけ。 21
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