実践教育に必要な教育用の放射線検出器の開発

安価な教育用放射線検出器
の開発
立教大学理学部
川茂唯順
高橋達矢*,竹谷篤*A,村上浩之A ,二宮一史*A ,足利裕人B,
今井憲一C ,大倉宏D ,久保野茂E ,中川和道F ,福井孝昌G ,
円尾豊H ,森本雄一I ,和田道治A ,関本美知子J
立教大理* , 理研A ,鳥取環境大B ,日本原子力研究機構C ,大阪市立科学館D ,
東京大原子核科学研究セE ,神戸大人間発達環境F , 三木学園白陵中・高G ,
兵庫県立上郡高H ,兵庫県立東播工業高I ,高エネルギー加速器研究機構J
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開発目的
福島の原子炉事故から、放射線に対
する不安を抱えている人が増えている。
知識を得ることによって、
事故に対する適切な対応
自分で適切に判断でき、
行動するための教育
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教育用放射線検出器に要求される仕様
① 安価で、誰にでも扱いやすい
• 半導体センサー(低電圧、安定性)
• 使用するフォトダイオードは浜松ホトニクスs6968(800円)
• 低雑音のアンプ(OPアンプ500円×4個)
② エネルギー解析のための波高分析器
• Peripheral Interface Controller ボード(PIC)(1100円)
• 1チップでADC、コンパレータ、USBのインターフェイスを含むチップ
• 初心者でも再現できるもの
③ 自分の手で作ることによって理解できる構造
• はんだ付けなしのはめ込み式キット
• 中学生の授業時間内に制作可能なもの
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検出器の全体構成
①電荷信号
検出の流れ
②電圧信号
③ピーク保持
電圧信号
④リセット
パルス
1) 放射線がフォトダイオードに入射
2) 増幅器に電荷信号が生じる
3) 増幅器で電圧信号に変換し、増幅
4) アナログデジタル変換(A/D変換)のた
めにピーク電圧を保持
5) コンパレーターでA/D変換すべき信号
の波高弁別
6) A/D変換を行い、デジタル値をPCに表示
7) A/D変換後はピーク保持を初期化
各信号の波形
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半導体検出器原理
高速荷電粒子
• 使用したフォトダイオードの容
①半導体に高速荷電粒子が入射
量から空乏層の厚さを計算
②経路に沿ってたくさんの電子が励起
• その空乏層を通過する最小
③電子が同数の正孔とともに電界に引
電離粒子(MIP)のフォトダイ
かれて移動
オード内のエネルギー損失
④電荷信号を電圧に変換し、増幅
は約40keV(励起する電荷
1.8fc)
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増幅器、波形整形回路原理
①電荷有感増幅器
• 入力電荷に比例し
た電圧を出力
• 増幅率は帰還容量
によって決まる
②波形整形増幅器
• 微分積分回路に
よるアクティブフィ
ルタ
• 2.2μsecのとき最
大値
③ピークホールド
• 最大電圧値を
保持
• AD変換後には
ピーク保持電
圧を初期化
MIP入射時の出力波形
1.8mV
6.6mV
664mV
6
波高分析
PIC
アナログ
入力
起動命令
①
①
②
③
④
②
リセット
命令
閾値
ピークホールド
をリセット!
③
④
ピークホールドされたアナログ入力と閾値をコンパレーターで比較。
閾値を超えた電圧信号のみA/D変換を行う。
デジタル値に変換された波高値をUSB経由でPCに転送し、スペクトラム表示。
PICからリセットパルスを発生させ、ピークホールドの初期化を行う。
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接続テスト
• 制作した装置を全て接続
CsIシンチレーターと
フォトダイオード
増幅器
ピークホールド回路
PIC
交互に6回
それぞれ計60分
間の計測
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波高分析結果
450
137Cs波高分析
400
350
[
300
イ
ベ
ン 250
ト
数 200
回
150
]
100
50
0
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
エネルギー[相対値]
線源からの信号-BG
バックグラウンド(BG)
• 入射γ線エネルギーに相当するピークが見えない
• 主にコンプトン電子による波高分布を表していると考えられる
• 実際に環境放射線を測定したときには核種の特定は難しい
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まとめ
プロジェクトとして出来たこと
・放射線検出から波高分析に必要な基本的な装置を、ほぼ
安価で入手しやすい部品だけで制作し、波高値をグラフに
して評価出来た。
これからの展望
・検出器部分では、1つの基板に収め、キット化にむけてそ
れぞれの機能の精度を向上をする。
・波高分析では、カウンターの作成、グラフ表示部の組み込
みを行い、PCを使わず波高値の評価をすることを検討中。
・大量生産を行い、教育現場で放射線教育に役立てる。
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付録
半導体検出器原理
結晶内電子のエネルギー準位
電
子
の
エ
ネ
ル
ギ
ー
最小電離粒子(MIP)のフォトダイオード
s6968内でのエネルギー損失
フォトダイオードの容量から
空乏層の厚さdを計算
(1)
電子
エネルギーを受け取り、伝導帯に励起
• 伝導帯電子は電場の力を受けて移動し、
電荷信号を生じる。
S
C *
d
その厚さをMIPが通過するときの
エネルギー損失ΔEを計算
(2)
dE
E 
d 
dx min
シリコンの誘電率   1.05 10 F / m
フォトダイオードの有効面積 S  25mm2
フォトダイオードの容量
C  25 pF
Siに対するMIPの dE
 1.66MeV / g / cm3
エネルギー損失 dx min
  2.33g / cm3
Siの密度
10
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付録
増幅器原理
電荷有感増幅器と波形整形回路(アクティブフィルタ)で構成
微分積分回路による
アクティブフィルタ
V2  Q / C f
Rf t
 t
V4  
exp   
Rin 
 
• 入力電荷Qに比例した電圧を • 時定数τ=RinCin=RfCf
出力
• 出力電圧はt=τのときにピーク
• 増幅率は帰還部のコンデン
• 増幅率はRinとRfの比で決まる
サ容量Cfによって決まる
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付録
増幅器
電荷有感増幅器と波形整形回路(アクティブフィルタ)で構成
電荷有感増幅器
実際の回路の出力
(時定数τは2.2μsec)
アクティブフィルタ
VOUT  Q * exp 1*1013
VOUT
Q Rf t
 t

exp   
C f Rin 
 
MIPが入射した
場合の出力
VOUT  6.6mV
 Q * 3.67 *1012 V
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付録 キャリブレーションとノイズ評価
増幅器と波高分析器の
キャリブレーション
波高分析器MCA7600で得たグラ
フのFull Width at Half Maximum
(FWHM)からノイズ量を評価
入力電荷をエネルギーの値
に変換
キャリブレーション
1.40E+04
Energy[keV]
1.20E+04
1.00E+04
8.00E+03
6.00E+03
4.00E+03
2.00E+03
0.00E+00
16.00
1016.00
2016.00
Peak[ch]
E = 5.5*ch - 300
3016.00
Q=Vin*2pF
E=(Q/e)*W
Q:入力電荷
入力電荷(エネルギー)を変化さ
Vin:入力電圧 せエネルギーとピークチャンネル
E:エネルギー
の関係を一次関数に近似
e=1.6E-19c
W=3.6ev/pair
Β線MIPの
ノイズ量
エネルギー損失
FWHM
約40keV
約20keV
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付録
ピークホールド
入力電圧
VINが正に
なる
ダイオードは導通
コンデンサC’充電
VINが
V’より
小さくなる
ダイオードは逆バイアス
コンデンサの電荷によっ
てピーク値を保持
出力電圧
VOUT
VOUT
VIN
AD変換後
実際のピークホールド波形
パルスをFETのゲート
に加えC’の電荷放電
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付録 Peripheral
interface controller (PIC)
PICは、CPUを中心に、
A/D変換、コンパレータ、
USBインターフェース等を
実装しており、周辺機器の
インターフェースとして活
用できるマイクロコントロー
ラーである。
型式:PIC18F4550
データメモリ:2048bytes
プログラム使用言語:C
プログラムメモリ:32768bytes
A/D変換:10bit
A/D変換速度:約20μsec
コンパレータ実装数:2
価格:1100円(税込)
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