11Prego

Prego
08240011
uno
おれ:10歳前後。
やつ:20代後半くらい。
due
一緒に暮らしているが、親子でも兄弟でも親戚でもない。
でも、家族。
tre
かわいくない子どもとふつうの大人のお話。
焼けた空を追いかけるように見つめていると、視界の隅で月がすこし光った気がした。
そうか、もうこんな時間か。
随分と長い間こうしている気がする。
目が合ったねこに向かってお前は帰らないのかとつぶやくと、
ねこは慌てたように路地裏に消えてしまった。
ため息をつくと、重みを孕んでいた空気がさらに重くなったのを感じた。
———— 今度こそ、もう見つけてもらえないのではないか。
―
不意にそんなおそろしい考えに行き着いて、
途端に見知っているはずの町の景色すべてが、まるでちっぽけな自分を
異分子として拒絶せんとしているような、そんな錯覚に陥りそうになる。
ゆっくりと、だけど確実に、闇はもうすぐそこまで迫ってきている。
今
度
こ
そ
、
も
う
見
つ
け
て
も
ら
え
な
い
の
で
は
な
い
か
。
つまさきから生まれた小さな恐怖は少しずつひろがって、自分のこの頼りない体を
着々と暗い色で蝕んでゆく。
もしもこのまま誰にも見つけられずに、ここで息を殺していたら。
もしもこのままあいつが見つけてくれずに、ここでじっと膝をかかえていたら。
おれはどうなってしまうのだろうか。
闇の中へと飲まれてしまうのだろうか。
おれが消えたことなんて誰ひとり気づかずに、
このまま、くらいくらい、闇の一部に。
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だ分
く捜
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奴た
はの
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を
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す
と
、
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底
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た
。
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が
「
こ
こ
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い
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を
つ
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の
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中
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う
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なのるか
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。た、て
たとい
かいる
いう。
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中さか
にしっ
しいて
が声い
みとる
つとの
くもに
瞬に。
間差
はし
、出
いさ
つれ
もる
泣
き
そ
う
だ何何い
。回回つ
だおも
っれと
てが同
ここじ
いんだ
つな。
はふ
、う
必に
ず家
こを
う飛
やび
っ出
てし
おて
れも
を、
見
つ
け
出
す
の
「今日の夕飯はなーお前の好きなオムライスだぞー」
「……アイスもつけろ」
「はいはい、じゃあ買って帰ろうなー」
「ハーゲンダッツ」
「げ、まじかよ」
おれをおぶって暢気に鼻歌を歌い、家路をのんびりと歩いていくこいつは、
思えば一度だっておれが家を飛び出す理由を訊いたりしなかった。
(どうしてお前は、)
だけどいつも、こわくて言えなかった。
こたえを聞くのが、こわかった。
なのに、背中から照らす夕陽は、いつも変わらずやさしい光でおれたちを包み、
おれはというと、奴の足の動きに合わせて単調なリズムで揺れる背中に、
心地よいまどろみの世界へ落ちていきそうになっている。
こうやっておれは、結局だまされてしまうのだ。
本当は、
何回おれが家を飛び出して、何回こいつがおれを迎えにきたところで、
何も変わらないことくらい、ばかなおれでも知っていた。
いくら自分がこいつを試しても、おれたちは本当の家族にはなれない。
いくら自分がこいつを試しても、決して自分を裏切らないこいつに、
その度安心し、同時に少し、絶望した。
こんなことに何の意味がある。
こたえはもう出てるんだ。
何の意味もないことなんて、おれも、そしてこいつも、きっと気付いてる。
簡単なこと難しくしているのは自分。
おれはこのあたたかい背中がすきで、奴の声がすきで、奴のつくるご飯がすきで、
たいせつ、なんだ。
だから、もう、これでいいのかも知れない。
町にはオレンジ色の灯が灯り、あちこちからおいしそうなにおいが漂ってくる。
おれたちをつないでいるものが、たとえどんなに危うく脆弱なものだとしても、
奴のそばにいるおれはこんなにも安心していて、
もう今にも眠ってしまいそうだ。
(スタンド・バイ・ミー)
(ああ、こんなおれをどうか嫌わないでくれ)