『社会保障と財政再建の危機』 学習院大学 経済学部 鈴木 亘 1 財政審「長期推計」の衝撃 • 2014年、4/28に、財務省・財政制度等審議会が、 「財政の長期推計」を公表。2060年度に1京円(1 万兆円)超の債務残高という荒唐無稽なマスコミ 報道。 • 2020年度のPB黒字化達成をしても、一般政府の 債務残高対GDP比は2060年時点で450%。 現状 のままだと608%。ちなみに、現在は230%。 • 2060年度までに比率を100%に抑制するための 収支改善幅は、PB黒字化達成後のケースでGDP 比8%(2020年から消費税率26%固定)。現行の ままでは12%( 2020年から消費税率32%固定) 2 史上最悪の水準に達している債務対GDP比率 % 250 200 150 100 50 0 • 前提はGDP成長率3%(実質2%、インフレ 1%)、名目金利3.7%とやや問題あり。10%へ の予定通りの消費税引き上げを目指す、財務 省の陰謀との見方もある(多少はそうだろう)。 • しかし、概ね妥当な予測と評価可能。 GDP500 兆円、政府債務1100兆円、財政赤字は毎年 50兆円発生。インフレ無し、成長無しで単純に 考えると2060年には債務GDP比率は680%。 • 重要なインフォメーションは、次の通り。 • 1)目途の立たない2020年のPB黒字化目標は、 財政再建のための単なる一里塚。それからが 大変。 4 • 2)2060年等と言う遠い先の話ではない。GDP 比608%の債務をファイナンスできるはずはな いので、小手先の改革程度では、遠くない将 来、日本は必ず財政危機(デフォルト)となる。 GDP比300%を超えるのは2025年ごろ、400% を超えるのは2040年ごろ。 • 3)改革が遅れれば遅れるほど、過酷な改革 が必要となり、手がつけられずにデフォルト確 率が増す(例えば、2040年ごろにデフォルトを 回避するには、必要な消費税率は100%を超 える(ブラウン(2013))。 5 • そうなる原因は、社会保障費の大膨張。少子高 齢化の問題なのでアベノミクスでは解決しない。 • 財政再建が難しい理由、今後も恐らく必要な改 革ができないという理由も、政治的に社会保障に 手を付けるのが難しいから。特に、アベノミクスは、 社会保障改革を完全に無視・放置。歳出膨張。 • 歳出膨張と実質「日銀引き受け」は財政危機のリ スクを拡大。今こそ、本当は社会保障の抜本改 革に手をつけなければならない。 • ということで、今日のお話は、社会保障改革。特 に、財政という観点から社会保障の現状、改革 方針を説明する。 6 大膨張する社会保障費 • マスコミの言う年間1兆円の社会保障費増はウ ソ。実際には3~4兆円(決算ベースの過去5年 では年3.44兆円)。 • 社会保障給付費の規模は110兆円。自己負担等 を入れると、GDPのおよそ4分の1の規模。 • 失われた20年の間に(成長しないのに)倍増。 • 社会保険(年金、医療、介護、失業)の保険料は 料率引き上げても収入増につながらず、第二の 「ワニの口」化。現在、約50兆円の赤字でますま す拡大。これが、国の財政赤字の主因。 7 2013年度(当初予算ベース)社会保障給付費 の内訳 注)厚生労働省資料(社会保障の給付と負担の現状(2013年度予算ベース))を筆者加工。 8 社会保障収支差の推移 兆円 160 140 120 社会保障赤字額 100 公債発行額 80 社会保障給付費 保険料収入 60 40 20 0 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2025 出典)国立社会保障人口問題研究所「社会保障費用統計」(各年版)、財務省「財政統計」(各年版)、2015年、2025年 の社会保障給付費は厚生労働省による予測値。 9 何が原因か? • いわずと知れた少子高齢化が原因。世界最速 (世界史最速)で、しかも大規模に進む日本の高 齢化。今後100年以上続くと予想されている。少 子化対策では対処不能。 • 社会保障制度は全て賦課方式(仕送り方式)な ので、高齢者と現役の比率がそのまま負担増へ つながる。 • 別の見方をすれば、これは暗黙の債務発生。 1100兆円の政府債務とは別に、1500兆円の社 会保障純債務が現在発生。オフバラはオンバラ になってゆく。これを必ず返済する必要があるた めに、財政危機か世代間不公平が高まる。 10 おみこし社会から肩車社会へ 高齢者比率(高齢者数/現役数)推移と予測 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 実績値 予測値 0.0% 注)2013年度までは実績値(総務省統計局「国勢調査」および10月1日時点の「人口推計」)、それ以降は予測値(国立社会保障・人口 問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」)を筆者加工。 12 社会保障純債務(暗黙の純債務)とその内訳 年金(厚生、共済、国民) 医療保険 介護保険 暗黙の純債務合計 約900兆円 約380兆円 約230兆円 約1500兆円 政府債務(2013年度末) 1107兆円 社会保障純債務は筆者推計。 13 社会保障全体の世代間損得勘定(生年別の 生涯純受給額) 単位:万円 1940年生まれ 1945年生まれ 1950年生まれ 1955年生まれ 1960年生まれ 1965年生まれ 1970年生まれ 1975年生まれ 1980年生まれ 1985年生まれ 1990年生まれ 1995年生まれ 2000年生まれ 2005年生まれ 2010年生まれ 年金 3,170 1,930 1,030 470 40 -380 -790 -1,160 -1,510 -1,790 -2,030 -2,230 -2,390 -2,500 -2,550 医療 1,450 1,180 930 670 520 380 260 130 -40 -240 -410 -480 -620 -720 -830 介護 300 260 190 130 50 0 -40 -80 -120 -150 -180 -210 -230 -250 -270 全体 4,930 3,370 2,150 1,260 610 0 -570 -1,120 -1,680 -2,180 -2,620 -2,920 -3,240 -3,470 -3,650 1940年生まれと 2010年生まれの差 額は、8,580万円 注)厚生年金、健保組合に40年加入の男性、専業主婦の有配偶者のいるケース。厚生年金は、現状では100年後までの財政均 衡は達成されていないため、保険料率は2017年度に18.3%に達して以降も引上げ続け、2032年度に23.8%まで引き上げてそ の後固定する改革を行なうと想定した(それに伴って、マクロ経済スライドも2041年度まで適用)。生涯賃金を3億円として 計算している。 14 ではどうすべきか? • 財政上できることは2つしかない。負担を引き上 げるか、給付をカットするか。もちろん、名目経済 成長率を高められれば、その程度を緩和できる (潜在成長率増とインフレで)。 • 負担増は既定値だが、それだけでは生き地獄の 未来。徐々に行っていては世代間不公平も膨大 な規模に。 • 消費税は社会保障財源に向かない。課税ベー スを広げた新型相続税創設など、資産からの課 税にシフトする必要がある。 15 将来の社会保障給付費、消費税率、国民負担 率の予測 単位:兆円 2013 2025 2035 2050 2075 (1)社会保障給付費 110.6 148.9 189.6 257.1 340.9 (2)国民所得 358.9 373.1 401.2 412.2 473.6 (3)対国民所得比率 30.8% 39.9% 47.3% 62.4% 72.0% (4)国民負担率 40.0% 49.1% 56.4% 71.6% 81.2% (5)消費税率 5.0% 19.3% 23.4% 30.7% 41.5% 注)2013年度の社会保障給付費は、厚生労働省による当初予算ベース推計値。2013年度の国民所得、国民負担率は財務省による見通し(国 民負担率及び租税負担率の推移(対国民所得比))。2025年度の社会保障給付費は、厚生労働省による予測値(社会保障に係る費用の将来推計 の改定について(平成24年3月))。それ以降の予測値は、厚生労働省の予測手法を踏襲して筆者独自に予測を行った。2025年度以降の国 民所得、国民負担率、消費税率も筆者独自の予測。 16 今後の展望 • 社会保障と税の一体改革、社会保障国民会議案 は、財政改善効果なし。エビ・タイ戦略であったが、 結局は、貴金まで作っての医療・介護へのバラマ キ拡大に。給付カット策はいずれも小粒で、竹や り戦術。さらに、診療報酬、介護報酬も引き上げ が実施される。 • 待機児童対策は、幼稚園と既存の認可保育所の 補助金分捕り合いになり、バラマキ色濃い。 • 年金の抜本改革は全否定。財政検証も、今後100 年近い長期的な積立金利回りを4.2%と想定し、 粉飾決算が続く見込みで、GPIF資金も政治利用さ れる可能性大。 • 財政破綻に向かっての動きは、むしろ加速中。 17 <参考>厚生年金積立金の推移(3年に1 歳の引き上げペース) 兆円 150.0 100.0 50.0 現状(改革なし) 0.0 2038年 2054年 -50.0 支給開始年齢70歳 -100.0 -150.0 支給開始年齢75.5歳 -200.0 -250.0 2100 2095 2090 2085 2080 2075 2070 2065 2060 2055 2050 2045 2040 2035 2030 2025 2020 2015 -300.0 注)OSUモデルを用いた筆者による試算。2010年度時点の割引現在価値ベース。現状においてマクロ経済スライドは、2015年度から2037 年度まで適用される。各経済想定値は2012年度までは実績値、2015年度までは厚生労働省「社会保障に係る費用の将来推計の改定に ついて(平成24年3月)」による想定値、2016年度以降は運用利回りが2.5%、賃金上昇率2.0%、物価上昇率1.0%としている。 18
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