脂肪肝を減らす

Targeted Induction of Ceramide Degradation Leads
to Improved Systemic Metabolism and Reduced
Hepatic Steatosis
セラミド分解の標的導入は全身の代謝を改善し、脂肪肝を減らす
Jonathan Y. Xia, William L. Holland, Christine M. Kusminski, Kai Sun, Ankit X. Sharma, Mackenzie J.
Pearson, Angelica J. Sifuentes, Jeffrey G. McDonald, Ruth Gordillo, Philipp E. Scherer
Cell Metabolism
Volume 22, Issue 2, Pages 266-278 (August 2015)
DOI: 10.1016/j.cmet.2015.06.007
背景
セラミドとインスリン抵抗性
・ げっ歯類において、肝臓や血漿セラミド量の増加は肝臓機能不全およびインスリン
抵抗性、脂肪蓄積を起こす (Ichi et al., 2007; Xia et al., 2014; Yetukuri et al., 2007)
・ 肥満が引き起こすインスリン抵抗性はセラミドによって誘導され、その標的は肝臓
である (Holland et al., 2007)
・ C16セラミドはインスリンの作用を強く阻害する (Raichur et al., 2014; Turpin et al., 2014)
・ 酸性セラミダーゼを過剰発現させたC2C12培養細胞では飽和脂肪酸によるインス
リン作用の阻害を防ぐ (Chavez et al., 2003)
スフィンゴイド塩基
OH
セラミド
HO
OH
HO
NH
O
R
n
NH
セラミダーゼ
n
+
OH
O
R
脂肪酸
肝臓の脂質代謝やインスリン感受性に対するセラミド量の影響を調べるため
組織特異的にセラミダーゼを過剰発現させる遺伝子を導入したマウスを用いて
脂質量やインスリンシグナル伝達を評価した。
酸性セラミダーゼを肝臓特異的に過剰発現するマウス Alb-AC
Fig.S1
Tet onシステムを組み込んだ
ドキシサイクリン(dox)存在下で目的遺伝子を発現する
HFD-dox (200mg)
8週間
Alb-AC
肝臓特異的に酸性セラミダー
ゼmRNA発現が増加
セラミダーゼmRNA発現量・活性 測定
肝臓の酸性セラミダーゼ活性
が増加
血清の酸性セラミダ
ーゼ活性は変化なし
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現によりセラミドが減少
HFD-dox (200mg)
8週間
Fig.1
セラミド測定(肝臓、血清)
Alb-AC
肝臓および血清中のセラミド(C16:0、C18:0)が減少
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
Fig.1
グルコース経口投与(2.5g/kg体重)
HFD-dox (200mg)
8週間
Alb-AC
糖負荷試験
絶食3h
0 15
30
60
120 min
尾静脈から採血
血糖値低下
血中インスリン濃度低下
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
インスリン抵抗性試験
Fig.1
HFD-dox (200mg)
8週間
Alb-AC
インスリン腹腔内投与(0.75U/kg体重)
絶食3h
0
10
20
30 min
尾静脈から採血
インスリン投与後の
血糖値低下が亢進
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
8週間
グルコースクランプ試験
Fig.1
Alb-AC
尾静脈から採血
インスリン
サンプリング
血糖値を
一定にする
グルコース
(3H標識)
+デオキシグルコース
投与量と血中検出量から組織に取り
込まれたグルコース量がわかる
F
グルコース注入量多い
=インスリン感受性高い
腸間膜脂肪組織、精巣周囲脂肪
組織、皮下脂肪組織において2デオキシグルコース取り込み量
が増加
肝臓でのグルコース
産生率減少
(グルコース投与量と骨格筋へ
の取り込まれた量から算出)
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
インスリンシグナル伝達
Fig.1
インスリン
インスリン
受容体
グルコース
GLUT2
リン酸化
UDPグルコース
肝細胞
グリコーゲン合成
酵素キナーゼ3β
グリコーゲン
合成酵素
グリコーゲン
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
インスリンシグナル伝達
Fig.1
インスリン
受容体
インスリン
IRS2がリン酸化される
PI3Kがリン酸化される
Akt
p-Akt
グルコース
GLUT2
リン酸化
UDPグルコース
肝細胞
グリコーゲン合成
酵素キナーゼ3β
グリコーゲン
合成酵素
肝臓だけでなく脂肪
組織のインスリン
シグナル伝達が亢進
グリコーゲン
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
8週間
肝臓脂質蓄積
Fig.2
肝臓サンプリング
Alb-AC
肝臓組織のHE染色(細胞核、細胞質を染色)
肝臓重量減少
(Fig. 1)
ジアシルグリセロール+アシルCoA
→トリグリセリド
肝臓中の
トリグリセリド
減少
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現 トリグリセリドクリアランス試験
HFD-dox (200mg)
8週間
Alb-AC
Fig.2
脂質エマルション単回投与(15μL/g体重)
一晩絶食 0
血中にトリグリセリドが
多く存在
1
2
3
4
5
6
7
h
尾静脈から採血
血中に放出されたVLDLが増加
阻害剤
VLDL
リポたんぱく質リパーゼ
TG
LDL
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
脂質取り込み評価
Fig.2
HFD-dox (200mg)
8週間
Alb-AC
3H-トリオレイン(2μCi,
100μL/匹)尾静脈注射
20 min
5時間絶食
肝臓への脂質の取り込みが減少、脂肪組織へは増加
放射活性測定
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
8週間
精巣周囲脂肪組織(炎症)
Fig.2
サンプリング
Alb-AC
王冠様構造
脂肪の過剰蓄積により肥大化し細胞死をおこしたもの
をマクロファージが取り囲んでいる構造
免疫担当細胞が貪食・処理をすることで、慢性炎症が
生じている
S2
王冠様構造が減少
(マクロファージを免疫染色)
マクロファージが減少
炎症性サイトカインの
mRNA発現量が低下
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
8週間
精巣周囲脂肪組織(線維化)
Fig.2
サンプリング
Alb-AC
肝線維症は肝障害の徴候
肝臓における結合組織の蓄積であり、肝細胞損傷に対する反応である
基質コラーゲン代謝の調節を異常とし、異常な基質を過剰に生産する
F
S2
WT
Alb-AC
線維化の程度が減弱
線維化マーカーの
mRNA発現量が低下
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
8週間
精巣周囲脂肪組織(セラミド)
Fig.2
サンプリング
OH
Alb-AC
HO
極性基
ラクトシルセラミドなどが減少
NH
O
n スフィンゴイド塩基
R
スフィンゴシンなどが減少
肝臓酸性セラミダーゼ過剰発現
小括
酸性セラミダーゼ過剰発現
セラミド
セラミド
ジアシルグリセロール
グルコース
セラミド
グルコース取り込み
脂質取り込み
トリグリセリド
VLDL
インスリンシグナル
インスリン感受性
炎症、線維化
インスリンシグナル
酸性セラミダーゼを脂肪組織特異的に過剰発現するマウス Art-AC
Fig.S3
Tet onシステムを組み込んだ
ドキシサイクリン(dox)存在下で目的遺伝子を発現する
HFD-dox (200mg)
10日間
セラミダーゼmRNA発現量・活性 測定
Art-AC
白色脂肪組織に酸性セラミ
ダーゼmRNA発現が増加
白色脂肪組織の酸性セラミ
ダーゼ活性が増加
血清の酸性セラミダ
ーゼ活性は変化なし
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現によりセラミド減少
HFD-dox (200mg)
10日間
Fig.3
セラミド測定(脂肪組織、血清)
Art-AC
脂肪組織および血清中のセラミドが減少
血清中のスフィンゴイド塩基が増加
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
糖負荷試験
Fig.3
HFD-dox (200mg)
10日間
グルコース経口投与(2.5g/kg体重)
絶食3h
Art-AC
0 15
30
60
120 min
尾静脈から採血
糖投与15分後
血糖値低下
血中インスリン濃度低下
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
インスリン抵抗性試験
Fig.3
HFD-dox (200mg)
10日間
Art-AC
インスリン腹腔内投与(0.75U/kg体重)
絶食3h
0
10
20
30 min
尾静脈から採血
インスリン投与後の
血糖値低下が亢進
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
10日間
グルコースクランプ試験
Fig.3
Art-AC
尾静脈から採血
インスリン
サンプリング
血糖値を
一定にする
グルコース
(3H標識)
+デオキシグルコース
投与量と血中検出量から組織に取り
込まれたグルコース量がわかる
グルコース注入量多い
=インスリン感受性高い
腸間膜脂肪組織、精巣周囲脂肪
組織、皮下脂肪組織において2デオキシグルコース取り込み量
が増加
肝臓でのグルコース
産生率減少
(グルコース投与量と骨格筋へ
の取り込まれた量から算出)
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
インスリンシグナル伝達
Fig.3
インスリン
受容体
インスリン
IRS2がリン酸化される
PI3Kがリン酸化される
Akt
p-Akt
グルコース
GLUT2
リン酸化
UDPグルコース
肝細胞
グリコーゲン合成
酵素キナーゼ3β
グリコーゲン
合成酵素
グリコーゲン
脂肪組織と肝臓の
インスリンシグナル
伝達が亢進
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
10日間
精巣周囲脂肪組織
S4
Fig.4
サンプリング
Art-AC
王冠様構造
炎症性サイトカイン
線維化マーカー
mRNA発現量が低下
王冠様構造が減少
マクロファージが減少
線維化抑制
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
10日間
肝臓脂質蓄積
Fig.4
サンプリング
肝臓組織のHE染色(細胞核、細胞質を染色)
Art-AC
肝臓中の
トリグリセリド
減少
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
10日間
Art-AC
TGクリアランス試験
Fig.4
脂質エマルション単回投与(15μL/g体重)
一晩絶食 0
1
2
3
4
5
6
h
尾静脈から採血
血中に放出されたVLDLに変化なし
血中トリグリセリド量に
変化なし
阻害剤
VLDL
リポたんぱく質リパーゼ
TG
LDL
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
脂質取り込み評価
Fig.4
HFD-dox (200mg)
10日間
Art-AC
3H-トリオレイン(2μCi,
100μL/匹)尾静脈注射
20 min
5時間絶食
肝臓への脂質の取り込みが減少
放射活性測定
脂肪組織酸性セラミダーゼ過剰発現
小括
酸性セラミダーゼ過剰発現
セラミド
トリグリセリド
インスリンシグナル
セラミド
セラミド
スフィンゴイド塩基
グルコース取り込み
グルコース
脂質取り込み
VLDL
炎症、線維化
インスリン感受性
インスリンシグナル
脂肪肝誘導後に酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
HFD 2ヵ月間
Alb-AC
Art-AC
脂肪肝誘導
0
03
2
14
4
肝臓中セラミド量
Fig.5
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
8 週
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
28 日
酸性セラミダーゼ過剰発現
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現させた方が早く
肝臓中のセラミド量を低下
脂肪肝誘導後に酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD 2ヵ月間
Alb-AC
Art-AC
脂肪肝誘導
HFD-dox (200mg)
0
0 3
2
4
インスリンシグナル伝達
Fig.5
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
8 週
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現させた方が早く
インスリンシグナル伝達が亢進
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪肝誘導後に酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD-dox (200mg)
HFD 2ヵ月間
Alb-AC
Art-AC
脂肪肝誘導
0 3
03
14
14
30
肝臓脂質蓄積
Fig.5
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
60 日
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
28 日
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現させた方が早く
肝臓トリグリセリド蓄積量減少
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪肝誘導後に酸性セラミダーゼ過剰発現
HFD 2ヵ月間
Alb-AC
Art-AC
脂肪肝誘導
インスリン抵抗性試験
Fig.5
HFD-dox (200mg)
0
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
3 日
0
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
3 日
酸性セラミダーゼ過剰発現
酸性セラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現誘導3日目でインスリン感受性改善
脂肪組織セラミダーゼ過剰発現の方が早く脂肪肝やインスリン感受性に効果を及ぼした
酸性セラミダーゼ過剰発現とCD36
Fig.6
CD36:細胞内への脂肪酸輸送促進
Alb-AC
HFD-dox (200mg) 2ヵ月間
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
Art-AC
セラミダーゼ過剰発現により、肝臓のCD36発現量が低下
酸性セラミダーゼ過剰発現とCD36
Fig.6
・ 心筋細胞においてPKCζはCD36の活性化を促進し、脂質の取り込みを促進する(Luiken et al., 2009)
・ セラミドはPKCζの活性因子である(Muller et al., 1995)
氷冷PBSで洗う(3回)
回収
C2セラミド100μM(or DMSO)
H4iie(ラット肝がん由来細胞)
90~100%コンフルエント
60分
ドミナントネガティブ (不活性)
CD36免疫染色
常時活性型
DAPI(細胞核を染色)
CD36が膜移行
CD36は膜に局在していない セラミド添加前からCD36が膜局在
セラミドによるCD36の膜移行はPKCζを介す
酸性セラミダーゼ過剰発現とPKCζ
Fig.6
Alb-AC
HFD-dox (200mg) 8週間
肝臓にセラミダーゼ過剰発現
脂肪組織にセラミダーゼ過剰発現
セラミダーゼ過剰発現により肝臓のPKCζ発現量が減少し、活性は低下する
セラミドとPKCζ活性、脂肪酸取り込み
0.2%BSA (脂肪酸不含)
+PKCζ偽基質阻害剤
Fig.6
C2セラミド100μM
90分
H4iie(ラット肝がん由来細胞)
60分
氷冷PBSで洗う(3回)
回収
90~100%コンフルエント
dn:ドミナントネガティブ(不活性)
Ca:常時活性
セラミド添加によって脂肪酸取り込み促進
セラミド添加によってPKCζ活性化
スフィンゴシンとPKCζ活性、脂肪酸取り込み
0.2%BSA (脂肪酸不含)
+PKCζ偽基質阻害剤
90分
60分
H4iie(ラット肝がん由来細胞)
90~100%コンフルエント
スフィンゴシン50μM
Fig.S5
氷冷PBSで洗う(3回)
回収
スフィンゴシンは、セラミダーゼ反応の生成物であり、複数のPKCの阻害剤
スフィンゴシンはPKCζの活性を抑制
スフィンゴシンはセラミドによる
脂肪酸取り込みを抑制
酸性セラミダーゼ過剰発現とPKCζ
Alb-AC
HFD-dox (200mg)
+APCD(PKCζ阻害剤)
2ヵ月間
Art-AC
インスリン抵抗性試験
Fig.6
インスリン腹腔内投与(0.75U/kg体重)
絶食3h
0
10
20
30 min
尾静脈から採血
酸性セラミダーゼ過剰発現
PKCζ阻害剤はセラミダーゼ過剰発現時と同じくらい
インスリン感受性を改善
酸性セラミダーゼ過剰発現
酸性セラミダーゼ過剰発現とPKCζ
Alb-AC
Fig.6
HFD-dox (200mg)
+APCD(PKCζ阻害剤)
2ヵ月間
サンプリング
Art-AC
PKCζ阻害剤はセラミダーゼ過剰発現時と同じくらい
肝臓中トリグリセリド量を低下
総括
肝臓のセラミダーゼ過剰発現
肝臓 脂肪組織
セラミド
脂質
取り込み
インスリンシグナル伝達
インスリン感受性改善
互いのスフィンゴ脂質量がインスリン感受性
や肝臓脂肪蓄積に影響
脂肪組織のセラミダーゼ過剰発現
肝臓 脂肪組織
セラミド
取り込み
脂質
インスリンシグナル伝達
インスリン感受性改善
・ セラミドはPKCζの活性化を促進し、CD36による脂肪酸の取り込みを増加させた
・ 脂肪組織でのセラミダーゼ過剰発現による脂肪肝抑制やインスリン感受性改善は
肝臓でのセラミダーゼ過剰発現よりも早く効果を示した