VI 短期の経済変動 <キーワード> 景気循環 総需要・総供給モデル 第15章 総需要と総供給 1. 経済変動(景気循環)に関する三つの重要 な事実 事実1:経済変動は不規則で予測不可能であ る 事実2:ほとんどのマクロ経済の数量は同じ ように変動する 事実3:産出量が減少すると失業が増加する *これらの事実は、例えば「景気動向指数」の構成系列から確認できる ( http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/menu_di.html ) 15.総需要と総供給.pptx 2 2.短期の経済変動の説明 短期と長期はどのように異なるのか? (これまで説明してきた)古典派理論は短期では なく長期の世界を描写している » 古典派理論は、暗黙のうちに古典派の二分論と貨幣 の中立性を仮定している しかし、短期的には実質変数と名目変数は相互 に影響しあう関係にある 長期の理論 (古典派理論) 短期の理論 15.総需要と総供給.pptx 実物経済 物価・貨幣 (名目変数) 第III部 第IV部 第VI部 3 経済変動の基本モデル 物価水準 (一般物価) 均衡物価水準 総供給曲線 (企業の生産・販売 する財・サービスの量) 均衡 総需要曲線 (家計、企業の財・ サービスの需要量) 0 均衡産出量 15.総需要と総供給.pptx 産出量 (GDP) 4 3.総需要曲線 GDPの定義式:Y=C+I+G+NXより、経済 全体の総需要は、消費(C)、投資(I)、政府 支出(G)、NX(純輸出)からなる » このうち、政府支出は政策変数で固定されていると考 える 消費、投資、純輸出は、以下の理由から一般物 価水準に対して負の相関関係にある 15.総需要と総供給.pptx 5 なぜ総需要曲線は右下がりなのか 物価水準と消費:資産効果 物価水準の下落によって、消費者はこれまでもより豊か になったように感じ、消費支出を増やそうとする 物価水準と投資:利子率効果 物価水準が下落すると、利子率が下落し、投資財への支 出が増大するので、財・サービスの需要量が増加する 物価水準と純輸出:為替相場効果 物価水準が下落すると、自国財(輸出財)の価格が輸入 財の価格に比べて割安になる。これにより純輸出が刺激 され、財・サービスの需要量が増加する 15.総需要と総供給.pptx 6 どのような要因で需要曲線はシフトするか 消費によるシフト 将来に対する見通し(左右) 資産価格上昇による貯蓄意欲の低下(右) 投資によるシフト 事業環境の見通し、技術革新(左右) 投資減税(右) 名目利子率の上昇(左) 政府支出によるシフト 緊縮財政(左)、公共事業の増加(右) 純輸出によるシフト 外国景気(左右) 為替レートの減価[ = 円安](右) 15.総需要と総供給.pptx 7 4.総供給曲線 総供給曲線は、長期においては垂直であり、 短期においては右上がりである 物価水準 (一般物価) 短期の総供給曲線 長期の総供給曲線 0 15.総需要と総供給.pptx 産出量 (GDP) 自然産出量 8 長期の総供給曲線 なぜ総供給曲線は長期において垂直なのか 長期においては、経済の財・サービスの生産(実質GDP) は、資本と労働と天然資源の供給と、これらの生産要素 を財・サービスに変換する利用可能な技術に依存する » 7章の議論を参照 どのような要因で長期の総供給曲線はシフトするの か 労働によるシフト 資本によるシフト 天然資源によるシフト 技術知識によるシフト 15.総需要と総供給.pptx 9 短期の総供給曲線 なぜ総供給曲線は短期において右上がりな のか 物価水準が人々の期待する水準から乖離すると 、自然産出量から乖離する 硬直賃金理論/硬直価格理論/誤認理論、の いずれかで説明できる(次頁) 供給量=自然産出量+ a×(実際の物価水準-期待物価水準), a>0 15.総需要と総供給.pptx 10 総供給曲線が右上がりの理由 硬直賃金理論 賃金は物価水準の変化に応じて即座に調整されないために、物価水 準が下落すると雇用と生産の利潤が減少し、企業は財・サービスの 供給量を減少させる 硬直価格理論(e.g. メニューコスト理論) すべての価格が状況の変化に即座に反応するわけではないので、 予測外の物価水準の下落があった場合、望ましい水準よりも高い価 格をつける企業がでてくることになる。望ましい水準よりも価格が高 いため、その企業の販売高は減少し、その企業は財・サービスの生 産量を減少させる 誤認理論 物価水準の下落によって相対価格が誤認され、誤認した供給者は物 価水準の下落に反応して財・サービスの供給量を減少させる 15.総需要と総供給.pptx 11 短期の総供給曲線のシフト どのような要因で短期の総供給曲線はシフト するのか(例) 供給量=自然産出量+a×(実際の物価水準-期 待物価水準),なので 労働、資本、天然資源、技術知識の変化は自然 産出量を変えるので、短期の総供給曲線はシフト する―長期の総供給曲線もシフト 期待物価水準が上昇/下落すると、短期の総供 給曲線は左方/右方にシフトする 15.総需要と総供給.pptx 12 5.経済変動の二つの原因 総需要曲線のシフトと 短期の総供給曲線のシフト 長期均衡 長期の総需要曲線 物価水準 (一般物価) 均衡物価水準 短期の総供給曲線 均衡 総需要曲線 0 自然産出量 15.総需要と総供給.pptx 産出量 (GDP) 13 総需要の縮小 物価水準 (一般物価) 長期の総需要曲線 ②産出量は短期に おいて減少するが 短期の総供給曲線 A ③時間が経つにつれて 短期の総供給曲線が シフトするので C ①総需要が 減少すると B 総需要曲線 0 15.総需要と総供給.pptx 産出量 ④産出量は 自然水準に戻る (GDP) 14 調整過程 総需要曲線が左シフトすると、均衡は一時的に点B に移る 生産量、物価とも下落 政策立案者は、財政政策や金融政策など総需要曲 線を右シフトさせる政策を講じることにより、経済を 元の均衡点Aに戻すことができる(次章で詳述する) 政策立案者がなんら対策を講じなくとも、期待物価 の下落が実際の物価下落に追いつく過程で短期の 総供給曲線が右方シフトするので、経済は新しい長 期均衡点Cに移る(産出量は点Aと同じだが、物価 は下落) 15.総需要と総供給.pptx 15 総需要曲線のシフトの影響のまとめ 短期においては、総需要曲線のシフトによっ て経済の財・サービスの産出量の変動が生じ る 長期においては、総需要曲線のシフトは全般 的な物価水準には影響を及ぼすが、産出量 には影響を及ぼさない 15.総需要と総供給.pptx 16 総供給曲線の左シフト 長期の総需要曲線 物価水準 (一般物価) 短期の総供給曲線 ③物価水準は 上昇する ①短期の総供給曲線の 好ましくないシフトによって B e.g. 生産コストの上昇、 名目賃金の上昇 A 総需要曲線 0 15.総需要と総供給.pptx ②産出量は 減少し 産出量 (GDP) 17 調整過程 短期の総供給曲線が左シフトすると、均衡は 一時的に点Bに移る 生産量は下落するが、物価は上昇=スタグフレ ーション 政策立案者がなんら対策を講じなかった場合 でも、賃金と物価の認識が生産費用の上昇 にあわせて調整されて、やがて産出量は自 然水準に近づく―元の均衡点Aに自然に戻る 15.総需要と総供給.pptx 18 総供給曲線の左シフトへの対応(1) 政策立案者には、総需要曲線の右方シフトさ せることにより、短期の総供給曲線の左方シ フトによる産出量の減少を相殺するという選 択肢がある(次頁の図) その場合には、経済の均衡は点Cに移る 点Cでの産出量は、元の均衡点Aのそれと同じだ が、物価はそれよりも高い水準になる 15.総需要と総供給.pptx 19 総供給曲線の左シフトへの対応(2) 長期の総需要曲線 物価水準 (一般物価) ③物価水準は さらに上昇 するが 短期の総供給曲線 C ①短期の総供給の 減少に対して A ②政策立案者が総供給の シフトを受容して総需要を 拡張することで 総需要曲線 0 15.総需要と総供給.pptx ④産出量は 自然水準に留まる 産出量 (GDP) 20 総供給曲線のシフトの影響のまとめ 総供給のシフトによってスタグフレーションが 生じることがある スタグフレーションは、景気後退(産出量の減少) とインフレーション(物価の上昇)の複合 総需要に影響を与えられる政策立案者でも、 景気後退とインフレーションを同時に消滅さ せることはできない 15.総需要と総供給.pptx 21
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