道徳教育(他学部) 7月3日(金)4,5限 第10回「道徳発達の心理学②-ギリガンのもうひとつの声-」 レポート課題(仮) 課題①(A とBから選択、両方選択も可、どちらの課題を選 択したかを明記のこと、2500字以上、) A 以下のテーマの内、1つないしは複数を選択し(複数テーマ 選択の場合、合わせて論じても、別々に論じてもよい) 、授 業で学んだことを踏まえて(授業で扱ったトピックについて、 3つ以上に触れる)自らの考えを述べて下さい。 いずれも本質的には答えがないテーマなので、論点を整理し た上でオープンエンドで論じてもらって構いません。 ①道徳とは何か? ②道徳を教えるとはどのようなことか? ③道徳を学ぶとはどのようなことか? ④その他、任意のテーマ レポート課題(仮)続き B 「道徳」もしくは「教育」、もしくは「道徳教育」というキーワード に関係すると思われる本(授業中に紹介した参考文献も可)を一冊以 上読み、その内容に関連して考えたことを今期の授業内容と関連させ ながら自由に記述してください。 課題②(分量は自由、書いてくれれば全員に一律に点数をつけます) 講師の半期間の授業の内容や進め方について、感想やアドバイスがあ れば述べて下さい。もちろん批判も歓迎します。 ※ 課題①を40点、課題②を5点として採点する。(計45点) ※ 提出方法はメールもしくは授業中に直接提出(現時点で期限は未 定) グループワーク① • 道徳的判断において、男女で差はあると思いますか? (あくまで大まかな傾向性として。全ての男性、女性に 共通の特性という意味ではありません。) • あるとすればどのような差であると思いますか?また、 なぜその差は生まれるのだと思いますか? • 3~4人のグループを作って話し合ってみて下さい。 Carol Gilligan • アメリカの心理学者。 • コールバーグの弟子であり、彼とともに道徳性の発達につい ての研究を行った。 • しかし、コールバーグの発達段階の尺度では女性に多くみら れる道徳的判断の独自性が正しく評価されず、その価値が低 く見積もられてしまうことを問題視するようになる。 • 『もうひとつの声(In a different voice)』を出版し、権利 と平等を重んじるコールバーグの正義(Justice)の倫理とは 異なる、ケアと応答責任(Care and Responsibility)の倫理 の存在を主張する。 • ギリガンはコールバーグのような仮説ジレンマではなく、女 性が実際に人生の中で直面するジレンマ(妊娠中絶)を研究 の対象として、ケアと応答責任の倫理の発達を描く。 In a different voice • コールバーグが最初に6段階の発達段階を提示した時、2 0年以上にわたって発達を追った84名の被験者は実は全 員男性だった。 • この段階説に従うと、多くの女性の道徳的判断は正しく理 解されず、低く見積もられてしまう。 • 多くの女性(女性だけとは限らないが)は、コールバーグ の尺度では測ることができない、「異なる声(different voice)」で道徳を語っている。これが、ケア(care)と 応答責任(responsiblility)の倫理。 • このケアと応答責任は、正義の倫理とは異なる人間関係の 捉え方や現実の認識の仕方に基づいている。 • 二つの倫理の違いは、男女の生物学的な違いよりも、男女 に割り当てられてきた社会的役割に起因している。多くの 場合、男性は公的な領域(職場や社会)で生き、女性は私 的な領域(家庭)で生きることを求められてきた。 二つの声①-正義の倫理- • コールバーグのジレンマに対するある11歳の男の子(ジェイ ク)の回答。盗むことが適切だと考えることの理由。 「一つには人間の命はお金より尊いからだよ。薬屋は千ドル設け たって暮らしはあまり変わらないでしょう。でも、ハインツが薬を 盗らなかったら奥さんは死んじゃうじゃない。なぜって、薬屋は後 で病気にかかっているお金持ちから千ドルなんてすぐに取れるかも しれないけど、ハインツは二度と奥さんを取り返すことはできない だろう?だって全く同じ人を奥さんにすることはできないじゃな い。」 ジェイクは、道徳を数学のように考えている。 ここでは、生命を保持する権利>財産を保持する権利 数学的に権利の重要度を比べる点で判断は普遍性をもち、どのよ うな立場の人でも見解が一致する合理的判断であると考えられる。 二つの声②-ケアの倫理ー • ギリガンによれば多くの女性はハインツのジレンマに 対して、男の子のようにはっきりとは答えられない。 • 女性は薬屋の家庭の事情を考え始めたり、妻の気持ち (夫が盗みを犯すことで自分の命が助かることをどう 思うか、など)を考え始めたりして、なかなか夫が取 るべき行動を決定できない。 • それは夫を取り巻く「関係」の中で、夫が薬屋や妻に 対して何をするべきか(ケアの倫理では「応答」とい う言葉を使う)を考えてしまうから。 • 「関係」について考え始めると、正義の倫理のように 普遍的な法則を作ることが難しくなる上に、はっきり とした解を導き出すことができない(「関係」におい ては人それぞれの複雑な思いや事情があるから)。 二つの声②-ケアの倫理(三年前の感想から)- • 今回はハインツ視点でのジレンマの検証であったが、薬屋さん 側にもジレンマはあるだろう。双方のジレンマで成り立つ例だ と思った。 薬を売らないと → 1人の命を失わせる 薬を売ると → 収入がなくなり、自分の家計が・・ こう考えると、薬屋さんの立場も考えなくてはならない。 薬屋さんにも収入がないと家計が成り立たないような状況にな るのかもしれない。つまり色んな事実(is)がある中でより 善い何か(Ought)を育むのに自分の良心が必要になって くるのだろう。(園芸学部) • 私はどうしても妻に感情移入してしまいます。たとえ自分が病 気であり、助かる可能性のある薬があったとしても夫に盗みと いう行為をしてほしくありません。自分のために刑務所に入る ことになったら私は苦しみ続けると思います。(理学部) ケアの倫理の発達①-自分だけをケアする- • 妊娠中絶というジレンマに直面した女性に対するギリガンのイ ンタビューより。 • 多くの場合、女性は最初、自分の思いや事情以外のことを考え るのが難しく、自分だけをケアしようと考える。 「出産を望んでいなかったということ以外、本当に何も考えませ んでした。本当にそれを望んでいなかったし、準備さえできてい なかったのです。それに、来年は最終学年ですから学校に行きた かったんです。正しい決心というものはないと思います。だって、 私は妊娠を望んでいなかったんですから」(18歳 スーザン) ※ ケアの倫理の発達過程はコールバーグ言うような人類共 通の発達段階ではなく、道徳的葛藤に直面した人がケアの 倫理を用いて自分の判断を成熟させていく道筋のようなもの。 ケアの倫理の発達②-自分を犠牲にして他人をケアする- • 女性は次には他人を思いやり、人間関係を良好に維持す ることが判断の基準になる。 • そのために自分のことを犠牲にして、他人(恋人、家族、 生まれてくる子どもetc)の要求に応えようとする。こ こでは自分の思いを表現することと、他人をケアし、他 人に応答することは対立している。 • この自己犠牲が不満に変わり、人間関係が危うくなるこ ともある。 「私が悩むのは妊娠を続けるのも中絶をするのも、自分自 身を傷つけるか、まわりの人を傷つけることになってしま うからです。自分も他人も満足できるようなやり方があれ ばよいのだけれど、そんな手立てはないのです。」 (19歳 キャシー) ケアの倫理の発達③-自分も他人もケアする- • ケアの倫理の最も成熟した段階では、自己を犠牲にして他人 をケアしても他人の幸福にはつながらないことを知り、自分 と他人もともにケアするように努める。 • この場合の道徳的判断は、普遍的な法則にすることはできな い。自分と他人の関係の現実を見極め、できる限り両方をケ アできるような選択をすることを意味するようになる。 • このような成熟には至ることができず、自己犠牲に疲れて道 徳を放棄し、自分が関係の中で生きぬくことに精一杯になっ てしまうケースも存在する。 「私は自分自身と他人に対する責任(responsibility)とケアに かかわる原理に従います。ある時は責任を負い、ある時は負わ ないというものではありません。常に責任を負わなければいけ ないのです。そういうわけで万能の原理というのはなく、ある 場合に上手くいった原理が他の場合には葛藤をもたらすこと だってあります。」(30代 シャロン) 正義の倫理とケアの倫理① • 正義の倫理とケアの倫理は、人間関係や現実についての異 なる見方に基づいているため、男女のコミュニケーション の中で誤解が生じ、関係が妨げられることもある。 • しかし、二つの倫理は対立するばかりではなく、互いに補 い合うことが可能。 • 正義の倫理は人間が個人として自律的に生きていることを 前提にし、ケアの倫理は人間が相互依存的な関係の中にあ ると考える。 • しかし、自律と相互依存は深いレベルではつながり合って いる。人は他人とかかわって生きているかぎりにおいての み、自分が他人から独立した存在であるという事を知り、 他人と自分を区別する限りにおいてのみ、真の人間関係を 経験することができる。 正義の倫理とケアの倫理② • ケアの倫理が焦点を当てる人間関係の複雑さは、正義の倫 理が理想とする人間の権利と平等を達成することの難しさ を教えてくれる。 • つまり、現実の複雑な人間関係の中では、コールバーグが 想定するような道徳的葛藤の合理的解決が通用しないこと がある。 • また、正義の倫理が焦点を当てる人間の平等な権利は、ケ アのネットワークの中に他人だけではなく、自分も含める ことの大切さを教える。つまり、相手をケアするだけでな く、自分もケアされる権利を持った一人の人間であること を確認させてくれる。 グループワーク② ハインツのジレンマ(改訂版) • 状況はハインツのジレンマと一緒ですが、色んな条件を追加し ます。ケアの倫理を使って(必要に応じて正義の倫理も取り込 んで)考えてみて下さい。 • ケアの倫理なので、「ハインツになりきったあなたが関係の中 で他人に対してどのように応答すべきだと考えるか」がポイン トであり、正解はありません。グループメンバーで考えを交流 してみて下さい。 ① 薬屋はハインツの知り合いで、寝たきりの妻を看病しながら ギ リギリのところで生計を立てている。また以前、客に騙されて 破産寸前になり、人間不信になっていることを知っている。 ② 妻との間には7歳と3歳のまだ幼い子どもがいる。当然、二 人 にとって母親の死は耐え難いものであることが予想される。 ③ 妻は迫りつつある死を部分的には覚悟しており、残された家 族 ハインツのジレンマ(再掲) • コールバーグが道徳性の発達段階を測るために実施したテストです。 • ヨーロッパで、一人の女性がたいへん重い病気のために死にかけて いた。その病気は特殊なガンだった。 • 彼女の命をとりとめる可能性を持つと医者の考えている薬があった。 • それは、ラジウムの一種であり、その薬を製造するのに要した費用 の十倍の値が、薬屋によってつけられていた。 • 病気の女性の夫であるハインツは、すべての知人からお金を借りよ うとした。しかし、その値段の半分のお金しか集まらなかった。 • 彼は、薬屋に妻が死にかけていることを話し、もっと安くしてくれ ないか、それでなければ後払いにしてはくれないかと頼んだ。しか し、薬屋は「ダメだよ、私がこの薬を見つけたんだし、それで金も うけをするつもりだからね」と言った。 • ハインツは思いつめ、妻の生命のために薬を盗みに薬局に押し入っ た。 ハインツはそうすべきだっただろうか?その理由は? 感想シート • 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワーク の中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまい ません。 • 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかか わるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分 などがあればその旨を記してください。 • 必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。 • 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしくはブ ログを利用してください。 メール [email protected] HP http://moral-education.seesaa.net/ ユーザー名 moral-education パスワード 449281 参考文献 • Carol Gilligan In a different voice. Havard University Press(邦訳版は絶版。図書館などに あるかもしれません。『もうひとつの声』で検索してみ て下さい) • ネル・ノディングス(佐藤学 監訳) 『学校におけるケアの挑戦』 ゆみる出版 • ジェーン・ローランド・マーティン(生田久美子 監 訳) 『スクールホーム ケアする学校』 東京大学出 版会
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