平成24年度 若手研究者による分野間連携研究プロジェクト 低温度星まわりの生命居住可能な地球型惑星の 植物特性の考察とその観測に向けて 国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保 本プロジェクトの背景 • 太陽系外惑星探査は近年急速に進展している • 生命居住可能領域にある惑星も発見された • 地球や火星サイズの惑星も発見された • SFではなく、宇宙に生命の痕跡を探す時代になりつつある 本プロジェクトの趣旨と目標 宇宙に生命を育む惑星は地球の他にないのか? 天文学・生物学・惑星科学・工学の若手研究者の 分野間連携によってこれらの問題に取り組み、 近い将来に宇宙の生命探しを行う体制を確立する 平成23年度からプロジェクトを開始 平成23年度 若手研究者による分野間連携研究プロジェクト 低温度星まわりの生命居住可能惑星における植物特性の考察とその観測に向けて 国立天文台:成田 憲保、田村 元秀、基礎生物学研究所:滝澤 謙二、皆川 純 連携研究機関(京都大学、北海道大学、宇宙科学研究所、東京工業大学、ハワイ大学) 背景:天文学では近い将来に低温度星を公転する生命居住可能惑星の観測が行われる見込み 課題:低温度星まわりの生命居住可能惑星にはどんな「植物」(光合成生物)が存在しうるのか? そのような生命居住可能惑星をどうやって発見し、どのように生命の痕跡を探せばよいのか? 低温度星 3,000K ~3,800K 観測対象の探索 生命居住可能惑星 (水の存在) スペクトルに現れる 生命存在の兆候 ハワイに建設される 30m望遠鏡(TMT) 生命痕跡についての 理論的研究 新たな装置開発 本プロジェクトの目的:天文学・生物学・惑星科学・工学の若手研究者の分野間連携によって これらの課題に取り組み、近い将来に行われる宇宙の生命痕跡探しの共同研究体制を確立する <平成23年度の主な成果> 地球植物が持つred edgeという特性が植物形態や細胞構造によらないことを実験で確認 低温度星まわりの生命居住可能惑星で実現しうる植物の光合成の仕組みを理論的に考察 太陽系近傍の低温度星を公転する地球型惑星の探索に向けた観測・データ解析体制の確立 TMTで低温度星を公転する地球型惑星を直接撮像する観測装置の性能実証機を開発 今年度の方針 • 理論・観測・装置開発のそれぞれに新しいメンバーを増員 • 昨年度の内容を発展させて、今年度内に実現可能と見込ま れる新しい課題に取り組む • テーマごとのミーティングとプロジェクト全体のワークショップ を複数回実施して、共同研究の連携を強化する 3つの連携研究テーマ • テーマA: 低温度星まわりの生命居住可能惑星での植物特性の考察 – 滝澤謙二(基生研)、皆川純(基生研)、竹澤大輔(埼玉大学)、Martin Hohmann-Marriot(ノルウェー科学技術大学) • テーマB: トランジット地球型惑星の探索と既知の惑星大気の調査 – 成田憲保(国立天文台)、福井暁彦(国立天文台)、田村元秀(国立天文 台)、生駒大洋(東大)、Eric Gaidos(ハワイ大) • テーマC: 地球型惑星の直接観測のための新しい観測手法の実証 – 小谷隆行(国立天文台)、大屋真(国立天文台)、松尾太郎(京都大学)、村 上尚史(北大) テーマAの目標 (地球生物を参考に)生命居住可能惑星における 光合成生物の誕生から陸上植生の確立までの 包括的な検証を行う 酸素非発生 光合成 酸素発生 光合成 酸素非発 生光合成 原始生命体 酸素発生 光合成 3名の連携研究者が中心となって個別のテーマ毎の検証を進める Martin Frank Hohmann-Marriott Associate Professor Department of Biotechnology Norwegian University of Science and Technology 研究分野:生体エネルギーシステムの進化・生態系のエネルギー生産 竹澤大輔 准教授 大学院理工学研究科学部門生体制御学領域 埼玉大学 研究分野:コケ植物の環境ストレス対応と脱水耐性機構 滝澤謙二 NIBBリサーチフェロー 環境光生物学研究部門 自然科学研究機構・基礎生物学研究所 研究分野:光合成明反応のエネルギー変換装置とその制御機構 Martin Frank Hohmann-Marriott Associate Professor Department of Biotechnology Norwegian University of Science and Technology 研究分野:生体エネルギーシステムの進化・生態系のエネルギー生産 Hohman-Marriott and Blankenship (2011) Annu Rev Plant Biol Martin Frank Hohmann-Marriott Associate Professor Department of Biotechnology Norwegian University of Science and Technology 研究分野:生体エネルギーシステムの進化・生態系のエネルギー生産 光合成機構の進化の検証 酸素非発生 光合成 酸素発生 光合成 酸素非発 生光合成 原始生命体 酸素発生 光合成 竹澤大輔 准教授 大学院理工学研究科学部門生体制御学領域 埼玉大学 研究分野:コケ植物の環境ストレス対応と脱水耐性機構 http://morph.seitai.saitama-u.ac.jp/TAKEZ/gaiyou.html 竹澤大輔 准教授 大学院理工学研究科学部門生体制御学領域 埼玉大学 研究分野:コケ植物の環境ストレス対応と脱水耐性機構 水生生物の陸上化の検証 酸素非発生 光合成 酸素発生 光合成 酸素非発 生光合成 原始生命体 酸素発生 光合成 滝澤謙二 NIBBリサーチフェロー 環境光生物学研究部門 自然科学研究機構・基礎生物学研究所 研究分野:光合成明反応のエネルギー変換装置とその制御機構 Avenson et al. (2005) Plant Cell Env 滝澤謙二 NIBBリサーチフェロー 環境光生物学研究部門 自然科学研究機構・基礎生物学研究所 研究分野:光合成明反応のエネルギー変換装置とその制御機構 光合成機構の機能の検証 酸素非発生 光合成 酸素発生 光合成 酸素非発 生光合成 原始生命体 酸素発生 光合成 太陽系外惑星に存在する宇宙生物は 現在の(地球)生物学の想定外にある可能性がある ー生物学の拡張(普遍化)が求められるー 宇宙生物 生物学 より多くの宇宙生物を包括し得る生物学の確立を目指し、 生物・工学境界領域の研究者との連携体制を構築する 生物学 宇宙生物 合成生物学 工学 人工光合成 (太陽電池) 生物学 (地球生物) 理論生物学 人工生命 (人工化学) 目標1:低温度星まわりで酸素発生光合成が進化する可能性の検証 光合成生物の進化には数多くの進化段階が含まれ、検証項目が多岐 にわたるため、多くの分野の生物研究者を集めた包括的な討議を行う。 3名の研究者(滝澤、竹澤、Hohmann-Marriott)を中心に議論をまとめ、 検証結果をAstrobiology誌に投稿する。 目標2:生物学の拡張 現在の地球上生物を対象とした実験により得た生物学の知識だけで は観測目標の系外惑星に存在する生物に適応できない可能性がある。 そこで、生物関連の工学研究者との共同研究により、普遍化した生物 学の構築を目指す。さらに、研究会での議論を通じて異分野の研究者 間の連携体制を構築する。 研究方法と配分額内訳 国内外の研究者と個別または少人数の討議を月一回程度行い、複数 の研究者を集めた研究会を年3回程度開催する。 テーマBの概要 • 昨年は低温度星まわりのトランジット地球型惑星を探すため、 赤外望遠鏡の測光精度の高精度化に取り組んだ – 岡山、南アフリカ、チリにある1-2m級望遠鏡で惑星発見が可能となる 0.1-0.3%の測光精度を達成 • 今年度から本格的に惑星探しを開始するとともに、既知の低 温度星まわりのトランジット地球型惑星に対して惑星大気の 観測を行う – 2012年前期の岡山天体物理観測所の観測時間を確保(惑星探し) – 2012年5月と6月にすばる望遠鏡の時間を確保(惑星大気観測) – 2012年後期の観測時間を各望遠鏡に申請中 岡山でのトランジット地球型惑星の探索状況 1つの候補で惑星と矛盾しない0.17%の減光を検出 1.008 1.006 1.004 Relative flux 1.002 1 0.998 0.996 0.994 0.992 0.16 0.18 0.2 0.22 0.24 0.26 0.28 0.3 0.32 0.34 JD-2455985 すばる望遠鏡に減光を起こしているのが 連星なのか惑星なのかの確認観測を提案中 既知の惑星の大気の観測 上:既知のトランジット地球型惑星GJ1214bのトランジッ ト深さの波長依存性と大気組成モデル(de Mooij+2012) 左:南アフリカIRSF1.4m望遠鏡でのGJ1214bの多波長同 GJ1214 Narita et al. in prep 時トランジット観測結果(Narita+ in prep.) テーマBの目標 • 岡山での観測を通して、日本で初めてとなるトランジット地球 型惑星の発見を目指す • 既知のトランジット地球型惑星に対して、すばる望遠鏡など の望遠鏡で観測を行い、惑星大気の組成を調べる観測手法 とその解析手法を確立する テーマCの概要 • 目指すサイエンス: 地上からの地球類似惑星の直接観測 バイオマーカーである酸素吸収線の検出 • 要求仕様: 主星超近傍(離角0.01秒)で高いコントラスト(10の-8乗)を達成する 直接観測に必要なコントラストと離角 青:SEITの観測帯域 太陽系惑星の反射能。地球(黒)には 1.27umに酸素の吸収線が存在する。 今年度の開発目標 • 開発目標 ①単色から広帯域化 ②高コントラスト化 • 要求 ①広帯域化:観測装置の中で光路長を精度よく合わ せる ②高コントラスト化:分割する開口数を増やす 昨年度採用した方式 • 従来の考え方: セグメント型の可変形鏡を用いて角度と光路長を調整する。 • 問題点: 開口数はメーカーの仕様で決定してしまう。 少なくとも2枚の可変形鏡が必要 コスト2倍 今年度採用する方式 • 今回の考え方: 角度と光路を一度に補正できるような、 アルミから切削する分割鏡。 利点: 開口数を37から一気に100へ 高コントラスト化 一枚の鏡で角度と光路長を同時に調整 光学系の簡素化 DMのような可動部分を減らすことができる 光学系の安定化 セグメントDMの代わりに 開発する分割鏡の 設計図 各グループの役割と連携関係 各テーマで個々に目的を達成しつつ、お互いの連携体制を作る ワークショップやミーティングを通して情報交換や共同研究を行う まとめ • 低温度星のまわりの生命居住惑星の探索とそこでの生命の 痕跡の探索は今後最もホットになる研究テーマ • このテーマに取り組む若手研究者の分野間連携体制を確立 するため、理論・観測・装置開発の三位一体のグループ作り を目指している • 昨年度に引き続き、今後もこの取り組みを続けていきたい
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