2015年春学期 「現代の経営」 第8回 STPマーケティングと消費者行動 樋口徹 1 マーケティング マーケティングの定義 マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとっ て価値のある提供物を創造・伝達・流通・交換するための活動、 一連の制度、過程である(全米マーケティング協会 2007年)。 ※ 価値のある提供物=商品あるいはサービス 価値のある提供物を顧客に届けるには、 ⇒顧客ニーズを把握し、満たす必要がある。 ⇒顧客に情報を提供する必要がある。 ⇒顧客が購入できるように準備する必要がある。 ※ ※ ニーズ は基本的な満足が得られていないと感じる状態。 ウォンツ はより具体的で、何かを欲する願望。 マーケティングとは企業および他の組織がグローバルな視野に 立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う 市場創造のための総合的活動である(日本マーケティング協 会 1990年) ※日本マーケティング協会の定義は限定的 2 マーケティング活動のゴール=消費者による購入 • 価値ある 商品 の決定(消費者の望む機能・性能や価格) ⇒消費者ニーズ把握が必要(市場調査) ⇒どのような新商品をどの価格帯で販売するか決定 • 流通 チャネル 決定(どこでどのように販売するか) ⇒STPとの整合性(シニア向け商品のネット販売は不向き) ⇒商品の補充体制の確立(どの水準の品揃えを維持するか) • 販売 促進の方法(棚から自社の商品を採らせ、購入に導くか?) ⇒自社の製品の存在の周知(宣伝) ⇒ライバルとの差別化(ブランド確立) ※マーケティング活動は消費者ニーズから技術、流通体制、 消費者心理まで非常に幅が広い。 3 STPマーケティング マーケティング活動の変遷 かつては、企業はすべての消費者に対して、一つあるいは少 ない種類の製品を 大量生産 し、それを流通させ、それを 大衆に効率的に販売するためにプロモーション( マス ・ マーケティング)を行っていた。 ↓↓↓ 消費者ニーズの多様化( 多品種・少量 生産・販売) ↓↓↓ 市場を 細分 化(セグメント化:Segmentation)し、 その中から ターゲット を絞込み(Targeting) 、 ターゲットに適合した商品を位置づける(Positioning)。 ※これが STP マーケティングと呼ばれるものである。 4 (S)セグメンテーション • 消費者はそれぞれ異なるニーズや購買習慣、購買力を持って いる。 • しかし、一人ひとりの消費者に合わせた製品を作るのはコスト がかかる。 • したがって、消費者を何らかの共通点で グループ 化(セグ メントに分類;市場細分化)するのが効率的。 • そこで、頻繁に、セグメントの分類に使用されるものは、 -地理的変数(居住地域、就業・就学地域) -人口動態的変数(年齢、性別、職業、婚姻、教育水準、ライ フステージなど) -心理的変数(パーソナリティ、ライフスタイル、価値観など) -行動変数(使用場面、ロイヤリティ、使用頻度など) 5 (T)ターゲティング 市場全体 60歳以上 ① ② 50歳代 ③ ④ 40歳代 ⑤ ⑥ 30歳代 ⑦ ⑧ 20歳代 ⑨ ⑩ 都 心 郊 外 ※多様なセグメントに分 類可能(図上は10個) • 各セグメントの経済的な魅力と自 社の目的と経営資源を考慮して、 ↓↓↓ • ターゲットのセグメントを決定 ‐ 単一セグメント(例;①限定) ‐ 複数セグメント(例;③と⑤) ‐ 結合ターゲット (例;最初は⑨から参入し、⑩や ⑦に拡張) 6 (P)ポジショニング • ターゲットのセグメントを決定 ↓↓↓ • ターゲットセグメントのポジショニングを決定(=マーケティン グ ミックス を決定) ※消費者に自社製品を購入させるために、企業が組み合わ せ(選択)可能な要素(通常は4Pと言われる)を組み合わせ る。4Pはそれぞれ、製品(product)、価格(price)、販売促進 (promotion)、流通チャネル(place)を表す。 7 マーケティングの4P • 製品( Product );どの範囲およびどんな製品を扱うか? ⇒ターゲット・セグメントの決定(単一or複数も含む) ※新製品(研究開発体制)や品ぞろえ(多品種少量生産体制)はそれを消費 者に提供するために他の部門との協力が必要 • 価格( Price );どの価格帯に設定するか? ⇒高級価格帯or低価格帯(中間) ※生産体制や流通チャネルと密接に関連する。 • 流通チャネル( Place );どこで販売するか? ⇒デパート、ディスカウント店、コンビニ、インターネット) ※インターネットの普及に伴って直接販売(卸などの中抜き)が増えている。 • 広告・販売促進活動( Promotion );どのように宣伝するか? ⇒メディア(テレビCMやチラシ)の選択および露出頻度の決定 (キャンペーン含む) 8 STPの整合性 • 特に、T ⇔ P (ターゲットと⇔ポジショニング)の間には 整合性 が必要となる。 • 例えば、高級ブランド品を販売したければ、最高級の素材を高 品質で生産できる体制が必要となり、それに加えて洗練された デザインの製品を数多く揃えする必要がある。さらに、販売する 店舗もおしゃれな街あるいはデパートの中に直営店などを設け、 高級感のあるCMを流すのが効果的となる。 ※ドンキホーテなどで安売りされるとブランドに傷がつく。 ※アウトレットモールは通常 都心 から離れた所にあり、区分け している(旅行感覚+新商品は発売しない)。 9 マーケティングの4P内部での整合性(一貫性) マーケティング・ミックス 製品 価格 整合性 流通 チャネル 広告・ 販促活動 • ターゲット消費者にとって魅力的な商品・製品を適 切な場所で提供できているか(製品↔流通チャネ ル)? • ターゲット消費者向けの商品・製品が適切な形で ターゲット消費者に向けてなされているのか(製品 ↔広告・宣伝活動)? • 製品と価格帯はあっているのか(製品↔価格)? 10 製品の価格設定 価格とは 物やサービスの値打ちを 金額 で表したもの(広辞苑) 価格とは、 製品やサービスに対して課された 金額 、 あるいは 製品やサービスの所有や利用から得られるベネフィットと交 換に消費者が支払う価値の総称。 物やサービスに対して、 顧客が認める価値≧企業が提示する金額 の時、 顧客がその物やサービスを購入する。 ※価格は企業にとって変更できるものである。 11 価格設定における注意点:ターゲット・コスティング • ターゲット・コスティング: 売価(ポジショニング)を先に決めてから、原価企画(デザイン、 素材、製造方法や場所などを含めた製造コスト算出)を行う。 • 価格設定の際に、よくある3つの誤り ①コストの積み上げのみで価格設定 ②競合の価格設定への対応のみで決定設定 ③自社の製品のポジショニングを明確にせずに価格設定 ※製品が自分のニーズをどのように満たしてくれるかという顧 客の評価のことを 顧客価値 と呼び、顧客価値と価格が一 致するように設定するのが標準的な価格設定である。 ※営業マンの対応・サービス、企業のブランドなど総合的な製 品力が顧客価値を形成している。 12 流通チャネル(channelは水路や路線を意味する) 流通の役割 流通とは、生産者から消費者までの製品の流れとそれにかかわる 一連の諸活動である。 (※元来、仏教で経典や教えを広めることを意味していた。) 生産者と消費者の間には 乖離 がある ①人の隔たり(自給自足は非効率なので 社会的分業 が前提) 特殊な場合を除いて、(洋服、靴、PC、食料などの)消費者が 全ての生産者となることはない。 ②場所の隔たり(生産場所と消費場所が乖離: 輸送活動 必要) 家庭内や事務所で消費するもの全て、自分や自社で生産す ることはほとんどない。例えば、レストランで農園や畜産をし ているのはごく稀なケースである。 13 流通の役割(続き) ③時間の隔たり(生産時点と消費時点が異なる: 貯蔵 必要) 例えば、日本ではお米は秋に収穫されるが、ご飯は一年中消 費される。お米を購入するのも、保管している量が少なくなっ てからである(秋にまとめ買いはしない)。 ④情報の隔たり(「消費者は誰が商品を生産しているか?生産 者は誰が欲しているか?」がわからない: 仲介者 必要) 例えば、一般的に、農家の人は自分の生産した農作物がどこ で、いくらで販売され、どのように食べられているのかを知らな い。誰かが、流通活動を行ったり、市場の情報を提供する必 要がある。 ※流通の役割は、生産者と消費者の懸隔を架橋し(隔たりを埋め)、生 産者から消費者への製品の提供(販売)に必要な一連の活動を円滑 に行うことである。 14 流通活動の担い手 (販売子会社やホームページなどを設立し、直接販売) 生 (小売業者が卸売を介さずに行う間接流通) 小 産 売 (卸売を経る間接流通) 卸 者 業 (複数の卸売を 卸 卸 売 者 売 売 経る間接流通) 消 費 者 流通業者は小売業者と卸売業者に分類される。 産業分類上では、小売業 者は消費者に販売し、卸売業 者は消費者以外に販売する。卸売は小売業者や他の卸売 業者に販売し、販売先が 再販売 する。 ※問屋は卸売業者の中で独立商業資本のことを指す。 ※メーカー系の販売子会社や販売手数料を受け取る代理人や仲立人 は問屋とはみなされない。商品保有権や譲渡に関する危険を自ら負 担している業者が問屋である。 15 消費者行動モデル (1)消費者とは 消費者とは、市場に存在する製品、サービス、アイデアを購買、 使用、消費する人、もしくはそれをこれから 検討 する人、ある いは既に検討した人が含まれる(実際に購入しなくても良い)。 (2)消費者の購買プロセスの雛形(生産財を除く) 問題認識 ・・・何かが足りない、何かが欲しい⇒購買意欲 内的情報検索(頭の中で考える) 情報検索 ・・ ・ ・外的情報検索(関与度が高い消費者は、店舗や ネット等で調べる) 評価・選択 ・・・ブランドと店舗の選択肢を選択・評価 購買 ・・・選択した商品(ブランド)を選択した店舗等で購買 購買後評価 ・・・顧客満足度が高ければロイヤルティ形成 16 (3)消費者行動の心理プロセス (製品やブランドに対する態度決定に至るプロセス) 学習 ・・・商業的刺激(広告等)、他の利用者の評判自分での 使用による学習 ・ 知覚 ・・・五感から取り入れた情報を脳で解釈する過程 製品やブランドに ・・・顧客満足度が高ければロイヤルティ形成 対する態度 ※消費者の購買決定における心理的プロセスに関してはAIDMA(アイドマ) の法則(アメリカのローランド・ホールが提唱)の方が一般的。「Attention (注意)」から始まり、「Interest(興味)」が湧き、そして「Desire(欲望)」を持 ち、「Memory(記憶)」され、「Action(行動・購買)」に移る一連のプロセス。 17 (個別企業から見た)顧客生涯価値 • 顧客生涯価値とは、取引を開始した平均的な購入客から一定 期間にわたって予測できる累積の損益額である。 • 顧客生涯価値は平均的な(特定の)顧客との取引を長期間行っ た場合、企業にもたらされる売上高や利益を推定したもの。 • ポイントカードを利用することによって、顧客の 購買履歴 を 記録し、データベースを構築することが可能になったことによっ て算出が進んだ。 • FSP(Frequent Shoppers Program) ポイントカードやメンバーカードを発行し、購買頻度の高い優 良顧客を識別し、彼らの 囲い込み (他店での買い物を阻 止)をすることによって売上や利益を増やそうとする。 • 顧客のライフサイクル 見込み客(潜在)⇒初回購入者⇒初期 リピート 購買 者⇒コア顧客⇒離脱者 18 インターネット・マーケティング ICT技術の進展により、マーケティング手法などのビジネ ス・プロセスが変化している。 ICTの進展とビジネスプロセスの変化 • ICT(Information and Communication Technology:情報と通信技 術)の進展 • ICTがビジネス・プロセスに果たしている重要な役割 (1)既存プロセスの 問題点 の洗い出し (2)高度なデータ処理( ビッグデータ )とコミュニケーション ※ICTは構造(パターン化)化された単純な問題に有効 • リエンジニアリング ICTを活用して、顧客の立場に立って、一からビジネス・プロセス を構築し直すことにより、シームレスな(つなぎ目の無い)プロセ スを構築し、飛躍的な業績の向上を図る。 19 (オフラインとオンラインを含む)統合型マーケティング インターネット広 告 マスメディアによ る広告 人的なコミュニ ケーション 範囲 広範囲 広範囲 狭い範囲 量 大量 少量 大量 コスト 低コスト 高コスト 高コスト 方向 双方向 一方通行 双方向 • インターネットサイト(広告)は潜在的な需要者が製品について の情報を効率的に収集できる場所である。 • そこまでいかに消費者を 誘導 するかが重要となる。 • 検索エンジンにかかり易くする努力や他の人気サイトからのリ ンクを貼ったり、TV・新聞・雑誌などのオフラインメディアで宣伝 を行う。⇒ 統合型 マーケティング 20 ブランド 他数の商品の中からいかに自社の製品を購入してもらうか、あ るいは自社製品を高く購入してもらうか? (1)なぜブランドが必要か 競合他社製品から 差別化 するため (価格プレミア・流通業者との交渉力・プロモーション効果) (2)ブランドとは(定義) ある売り手あるいは売り手の集団の製品及びサービスを識別 し、競合相手の製品及びサービスと差別化することを意図した 名称、言葉、サイン、シンボル、デザイン、あるいはその組み 合わせ(アメリカ・マーケティング協会) (3)ブランド・エクイティ(ブランドが持つ資産価値:無形) ブランド・エクイティは、ブランド・ロイヤルティ(ブランドに対す る忠誠心)、ブランドの認知度、消費者が感じる品質、そのブ ランドに関する特許・商標登録などから構成されている。 (デービッド・A・アーカーが1991年に提唱) 21
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