サイエンスコミュニケーション入門 立教大学 2013年春 村上祐子 2013/4/17 立教大学理学部 そもそも科学とは何か • 科学とは何か • 科学とは何ではないのか • 今日やること:哲学的分析の入門 – 論理的に考えること – 科学者共同体のコミュニケーション – 科学者の倫理 2013/4/17 立教大学理学部 科学的活動をする人は科学的? • • • • 科学者は科学的である。 物理学者は物理的である。 化学者は化学的である。 天文学者は天文学的である。 • 法学者は法的である。 • 倫理学者は倫理的である。 2013/4/17 立教大学理学部 科学的/論理的 • 「科学者は論理的である」 – Yes or No? • 「科学者は論理的でなければならない」? • 「科学者は科学的でなければならない」? 2013/4/17 立教大学理学部 何が科学的?論理的? • • • • • • • • • • • • • 科学的方法 科学的理論 科学的な人 科学的な話し方 科学的活動 科学的食事 科学的運動 科学的教科書 科学的絵本 科学的イラスト 科学的メール 科学的動物 科学的植物 2013/4/17 • • • • • • • • • • • • • 論理的方法 論理的理論 論理的な人 論理的な話し方 論理的活動 論理的食事 論理的運動 論理的教科書 論理的絵本 論理的イラスト 論理的メール 論理的動物 論理的植物 立教大学理学部 リアクションペーパーに書け • 「科学的」「論理的」をいろいろな名詞につけ て先ほどのスライドのようなリストを作れ。 • 自分のリストの表現を分類せよ。 – ○:自然に聞こえる – △:まぁあるかな – ×:全然ダメ・不自然 2013/4/17 立教大学理学部 論理的 • • • • • • • • • • • • • 論理的方法 論理的理論 論理的な人 論理的な話し方 論理的活動 論理的食事 論理的運動 論理的教科書 論理的絵本 論理的イラスト 論理的メール 論理的動物 論理的植物 2013/4/17 Logic の語源:ロゴス 理(ことわり)=きりわけること 初めに言があった。言は主と 共にあった。言は神であった。 (ヨハネによる福音書1:1) 立教大学理学部 論理的とは • 言葉に関係する Logic の語源:ロゴス(言葉) – ○:論理的な話し方 さらに語源: 理(ことわり)=きりわけること – ?:論理的な人 – ×:論理的食事 • 「言葉の筋が通っていること」 • 論理的方法:言葉の使い方を調べて分析を 行う 2013/4/17 立教大学理学部 「科学的」の論理的分析 • • • • • • • • • • • 科学的方法 科学的理論 科学的な人 科学的な話し方 科学的活動 科学的食事 科学的運動 科学的教科書 科学的絵本 科学的イラスト 科学的メール 2013/4/17 • 左の例では「科学的」という言葉 が何通りかの使われ方をしてい ます。 • 明らかにおかしい表現はある? • 左の例以外で「科学的」をつける のがおかしい例を考えてみよう。 • 「科学的」という言葉をつけるの がおかしくない例を分類して特徴 を考えてみよう 立教大学理学部 「科学的」の論理的分析 • • • • • • • • • • • • • 科学的方法 科学的理論 科学的な人? 科学的な話し方? 科学的活動 科学的食事 科学的運動 科学的教科書 科学的絵本 科学的イラスト 科学的メール? 科学的動物 科学的植物 2013/4/17 • 「科学」そのものに関わるもの • 科学について話す・書く?科学的な方 法を使って話す・書く?科学的思考を する人? • 科学に関わる活動にはいろいろある。 どれ? • 科学的な方法で得られたデータを用い て最適化された食事や運動? • 科学に関わる内容を伝えようとするコ ミュニケーションツール 立教大学理学部 これは論理的? データの羅列だけでは情報はあるけれども、論理的ではない 2013/4/17 立教大学理学部 情報がある文はどれ? • • • • 「ここは池袋です」 「正三角形は二等辺三角形です」 「来週の授業ではリスクをとりあげます」 「東京の明日の降水確率は50%です」 2013/4/17 立教大学理学部 情報の量 • ある文の持つ情報の量:受け取った人の事前の 知識と比べて事後の知識がどのくらい増えたか • ここでいう知識は何? • 想定している可能性のすべてで成立しているこ と • 文から情報を引き出すこと=事前に想定してい る可能性のうち文の内容と矛盾したものを消去 する。 • 消去する世界が多いほど事後に想定する可能 性の数が減るので、そのすべてで成立すること (=事後の知識)が増える 2013/4/17 立教大学理学部 この情報の考え方を使うと • 数学的命題は情報がないことになる? – もともとすべての可能性で成立しているとすれば、 消すべき可能性が存在していない – 数学を勉強するとき、新しい定理を証明しようと するとき:数学的命題が成立していないような可 能性がある? 2013/4/17 立教大学理学部 この情報の考え方を使うと • 数学的命題は情報がないことになる? – もともとすべての可能性で成立しているとすれば、 消すべき可能性が存在していない – 数学を勉強するとき、新しい定理を証明しようと するとき:数学的命題が成立していないような可 能性がある? • 数学的命題を知らない場合には情報がある 2013/4/17 立教大学理学部 言葉の筋 • 情報がなくても論理的なことがある – 数学の定理 • 情報を与えること単独では論理的にはならな い – データベース • 与えられた情報のあつまりから分かることを 引き出すことが論理 2013/4/17 立教大学理学部 情報がある文はどれ? もういちど • • • • 「ここは池袋です」 「正三角形は二等辺三角形です」 「来週の授業ではリスクをとりあげます」 「東京の明日の降水確率は50%です」 2013/4/17 立教大学理学部 論理的推論 • ある情報のあつまりからほかの情報を引き出 す 結論 前提 言葉が情報の担い手であるとしたら 推論は言葉に関することなので論理的分析の対象になる 2013/4/17 立教大学理学部 つまり • 「論理的」とは言葉の筋が通っていること – 推論:前提から結論を引き出すこと – 「論理的」と「情報がある」は独立 – 接続詞は論理的接合を制御する 接続語の役割 • 推論の流れをコントロール – 結論 – 並列(順接・逆接) – 条件 • 日本語の場合(特に一文がだらだら長い場 合)かなりあいまいに使われていることが多 い。 2013/4/17 立教大学理学部 マーカー 並列(順接) • それに • しかも • さらに 条件 • …ならば… • …だと… • …のとき… 2013/4/17 並列(逆接) • しかし • でも • ところが 結論 • だから • したがって • よって 立教大学理学部 リアクションペーパーに書け • 推論を含む文章の例を時間内に思いつくだ け書け。 • 提出はあとで 2013/4/17 立教大学理学部 文章の読み方 • 論理的かもしれないし、そうでないかもしれな い • 筋が通っていなければ修正しながら進めれば よい – 曖昧な表現をはっきりさせる – 暗黙の前提を補う – 矛盾していたら直す… 2013/4/17 立教大学理学部 推論 • 健康よりいいことは何もない。 • だから、何もないのは健康よりよい。 2013/4/17 立教大学理学部 おかしな推論 1. 健康よりいいことは何もない。 2. だから、何もないのは健康よりよい。 • 「何もない」の使い方がぶれている。 2013/4/17 立教大学理学部 曖昧性除去 • 同義語の言いかえ • 表面上同じ表現が別のことを指しているとき に、それぞれが指示するものを明らかにする • 表面上同じ表現が全く別の分節化が可能な 時にどの分節化で使っているのか明らかにす る – 誰もが一人のことが好きだ。 • あるひとがいて、全員がその人のことが好き。 • すべての人は(別々かもしれない)好きな誰かがいる。 推論を含む文章の例 • 池袋から銀座に行こうと思った。 • でも、丸ノ内線が止まっている! • だから有楽町線で有楽町から歩く。 2013/4/17 立教大学理学部 暗黙の前提 • 会話の効率性:発言者と受け手の両方が 知っていることは、(何らかの事情がない限 り)あえていわない。 • 推論が論理的であるか評価する際には、暗 黙の前提を最大限補わなければいけない。 – 前提の補い方は通常複数ある。その中で結論を 一番導きやすいものを選ぶこと。 – 相手の議論を攻撃するときに、結論にうまく結び 付かないような前提を補って攻撃することを「藁 人形論法」という。 2013/4/17 立教大学理学部 例題 • ビタミンBを飲むと肌がきれいになるというの でビタミンBを飲んでいる。だから肌がきれい になるはずだ。 • やること:パラフレーズ – 一つの情報を持つ文ごとにばらしてみる 2013/4/17 立教大学理学部 例題 ビタミンBを飲むと肌がきれいになる。 ビタミンBを飲んでいる。 だから肌がきれいになるはずだ。 2013/4/17 立教大学理学部 推論の評価 • 前提から結論を導き出すこと自体はこれまで 見てきた推論の例のいずれも行っている。そ のなかで、おかしな推論とおかしくない推論 があった。 • どこがちがうのか? 2013/4/17 立教大学理学部 推論の種類と評価 • 演繹的推論:前提を認めると必然的に結論が 導かれる推論 • 帰納的推論:前提を認めると統計的・確率的 に結論が得られる推論 • アブダクション:特別な現象・例を説明するた めの最善の説明を結論して導く推論 2013/4/17 立教大学理学部 演繹的推論の例 • 正三角形の定義は3つの辺の長さが等しい 三角形です。よって正三角形の2つの辺の長 さは必ず等しくなります。だから正三角形は 二等辺三角形です。 2013/4/17 立教大学理学部 演繹的推論の評価:妥当性 • 全ての前提が正しいと仮定する – 実際に正しいかどうかは関係ない • 全ての前提が正しくなるようなすべての 状況で、結論が正しければ(形式的に) 妥当 • たまたま現実にすべての前提が正しけ れば、現実にも正しい結論が得られる。 2013/4/17 立教大学理学部 演繹的推論の評価 • クジラは哺乳類である • 哺乳類は胎生である • だからクジラは胎生である • サメは哺乳類である • 哺乳類は胎生である • だからサメは胎生である 2013/4/17 立教大学理学部 パターン で判断! 演繹的推論の評価 • クジラは胎生である • 哺乳類は胎生である • だからクジラは哺乳類である • サメは胎生である • 哺乳類は胎生である • だからサメは哺乳類である 2013/4/17 立教大学理学部 パターン で判断! 演繹的推論の評価 • ペンギンやダチョウは飛ばない鳥である。 • だから、すべての鳥が飛ぶわけではない。 2013/4/17 立教大学理学部 演繹的推論の評価 • 必然的に存在するものがあれば、それは神 である。 • 実際にさまざまな物が存在している。 • だから、神は必然的に存在する。 2013/4/17 立教大学理学部 演繹的推論の評価 • 留意点:実際に結論が正しいかどうかと推論 が妥当であるかどうかは別の問題 • 前提がすべて真である場合に、結論が必ず 真になるパターンの推論が妥当 • 前提がすべて真である妥当な推論が「まとも な推論」 2013/4/17 立教大学理学部 アブダクション • この地域に住んでいる人だけに奇病が発生 している。 1. だから、この地域には何か病気の原因とな る毒素がある。 2. だから、この地域の住民には何か遺伝的な 病気の原因がある。 3. だから、この地域の住民は呪われている。 ある前提から最善の説明を引き出す推論。 結論が正しいかどうかは別の方法での検証が必要。 2013/4/17 立教大学理学部 アブダクションの評価 • 推論自体では決まらない • 結論となった説明を仮説として、何らかの検 証を行う必要がある。 – 普通、アブダクションで仮説を作り、実験で検証 する 2013/4/17 立教大学理学部 帰納的推論 • 「これまでしょっちゅう忘れ物をしてきた。だか ら明日も忘れ物をしそうだ。」 • これまでの例から、一般化する推論。 • 実験から理論的な結論を導くときにも帰納的 推論を行っている。 2013/4/17 立教大学理学部 帰納的推論の評価 • これまでたまに忘れ物をすることがあった。 • だから、明日も忘れ物をする。 • これまでしょっちゅう忘れ物をしてきた。 • だから、明日も忘れ物をする。 • これまで毎日忘れ物をしてきた。 • だから、明日も忘れ物をする。 2013/4/17 立教大学理学部 帰納的推論 • 前提が正しいと認めると結論がありそう(蓋然 的)な推論 • 確率的推論:帰納的推論のうち、どのくらいあ りそうか数値化されたもの 2013/4/17 立教大学理学部 帰納的推論の評価:蓋然性 • 前提が真だったとしたら、どのくらい結論が確 からしくなるか? • 弱い前提と強い前提がある。 – 弱い前提:たまに忘れ物することがあった – 強い前提:毎日忘れ物してきた • しかし、これまで毎日忘れ物してきたからと 言って明日も忘れ物するとは限らない! 2013/4/17 立教大学理学部 考えるときのチェックポイント • • • • どのタイプの推論を使っているのか? 前に言ったことと矛盾していないか? 暗黙の前提は何か? 言葉の意味がぶれていないか? 2013/4/17 立教大学理学部 リアクションペーパー 自分があげた推論の例について、 • 前提と結論をマークせよ。 • 推論は3つのタイプのうちどれか? • 推論を評価せよ。 – 演繹的推論の場合、妥当か? – 帰納的推論の場合、蓋然性は高いか? – アブダクションの場合、どのように検証できる か? 2013/4/17 立教大学理学部 ここまでのまとめ • 論理的とは – 言葉の筋が通っていること – 言葉の筋の付け方:どのタイプの推論形式? • チェック – 前に言ったことと矛盾していないか? – 暗黙の前提は何か? • 以下を区別 – 情報を与えること – 前に言ったことから結論を導き出すこと 2013/4/17 立教大学理学部
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