16.総需要に対する金融・財政政策の影響

第16章 総需要に対する
金融・財政政策の影響
1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである
 資産効果
 利子率効果
 為替相場効果
(アメリカ経済にとって)総需要曲線が右下がりであることの
最も重要な理由は、利子率効果である
利子率がどのように決定されるかは、流動性選好理論によ
り説明できる
 本章では、期待インフレ率を一定と仮定し、実質利子率と
名目利子率が同じ方向に動くと考える
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流動性選好理論(1)
貨幣市場の均衡
貨幣供給
利子率
(r)
均衡利子率
貨幣需要
0
中央銀行によって
固定された量
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貨幣量
(M)
2
流動性選好理論(2)
貨幣供給量は、利子率に関係なく、中央銀行がど
のような水準にでも固定できると仮定する
貨幣需要量は、利子率に対して負の相関
貨幣の保有動機は、流動性(交換手段として直ち
に利用できること)にある
貨幣には利子がつかないので、利子率が高いほ
ど、貨幣保有の機会費用が増加する
→ 右下がりの貨幣需要曲線
» 機会費用とは、あるもの(流動性)を獲得するために放
棄したもの(利息)をいう―教科書p.8 参照
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右下がりの需要曲線
需要曲線が右下がりであることの流動性選好理論による説明
(a)貨幣市場
(b)総需要曲線
貨幣供給
r
P
③均衡利子率
が上昇し
①物価水準が
上昇すると
貨幣需要
O
②貨幣需要が
増大して
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M
総需要
O
Y
④財・サービスの
需要量が減少する
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貨幣供給の変化
物価水準を所与とすると、貨幣注入により総需要曲
線は右方シフトする
(a)貨幣市場
貨幣供給
(b)総需要曲線
①中央銀行が貨幣
供給を増加させると
r
P
②均衡利子率
が低下し
貨幣需要
O
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M
総需要
O ③所要の物価水準の下で、財・ Y
サービスの需要量が増加する
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中央銀行の政策における
利子率目標の役割
中央銀行の金融政策に関する議論では、貨幣供給
よりも利子率を中央銀行の政策手段とみなすことが
多い
» 11.貨幣システム.pptx を参照
流動性選好理論によると、金融政策は貨幣供給と
利子率のどちらでも表現できる
 貨幣供給量と利子率は一対一の関係
総需要の拡大を目指した金融政策の変更は、貨幣
供給の増加と表現することもできるし、利子率の低
下と表現することもできる
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2.財政政策は総需要にどのような
影響をもたらすか
政府支出の変化
政府支出の増加は、総需要曲線を直接右方シフ
トさせる
X円の政府支出の増加により、総需要曲線がど
れだけシフトするかは、乗数効果とクラウディング
アウト効果という2つの効果により、X円よりも大
きくなる可能性も、小さくなる可能性もある
» 乗数効果は、政府支出増の効果を増幅させる
» クラウディング・アウト効果は、政府支出増の効果を減
衰させる
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乗数効果
乗数効果のメカニズム
政府は、総需要を増加させるため、軍事費を増
やし、ボーイング社から200億ドルの航空機を購
入したとする
ボーイング社の所有者・従業員は、それぞれ利
潤と所得の増加に反応して、消費財への支出を
増加させる
その結果、航空機のみならず、経済の他の多くの
企業の生産も増加する
このような波及効果を、乗数効果という
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クラウディング・アウト
クラウディング・アウト効果とは、財政拡張によって
利子率が上昇するときに生じる総需要(主として投
資)の減少をいう
 同じく、政府は、総需要を増加させるため、軍事費を増や
し、ボーイング社から200億ドルの航空機を購入したとす
る
 その結果、家計の所得が増加し、財・サービス購入のた
めの貨幣需要も増加する(貨幣需要曲線の右方シフト)
 このとき、貨幣供給量が一定であれば、利子率は上昇す
る
 利子率の上昇によって投資財の需要が減少するので、総
需要曲線は左方シフトする
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クラウディング・アウト(2)
(a)貨幣市場
貨幣供給
②家計所得の増加は
貨幣需要を増加させて
r
③均衡利子率
を上昇させる
ため
P
中央銀行によって
固定された貨幣量
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M
④当初の総需要
の増加の一部が
相殺される
総需要
貨幣需要
O
(b)総需要曲線
O
Y
①政府支出の増加は総需要を
増加させて
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租税の変更
政府には、財政支出以外にも、税制の変更と
いう政策手段がある
政府が個人所得税を減税すると、家計の可処分
所得が増加する。家計は、この増加の一部は貯
蓄するが、一部は消費財へ支出する
その結果、総需要曲線は右方シフトする
» 税制変更にも乗数効果とクラウディング・アウト効果が
作用する
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3.政策によって経済を安定化させる
積極的な安定化政策の賛成論
政府は財政支出・税制変更により、総需要曲線
をシフトさせることができる
中央銀行は、金融政策により、総需要曲線をシフ
トさせることができる
⇒理論上、これらの手段を講じることで、政府・
中央銀行は完全雇用(失業率を自然失業率に
一致させる)を実現できる
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政策によって経済を安定化させる(2)
積極的な安定化政策に対する反対論
金融・財政政策が経済に影響を及ぼすには、相
当のラグを伴う
金融・財政政策の遅れが問題になる理由の1つ
には、経済予測がそれほど正確ではないことが
ある
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政策によって経済を安定化させる(3)
自動安定化装置
» 自動安定化装置とは、経済が景気後退に入ったとき
に、政策立案者が意図的な行動をとらなくとも、総需
要を刺激するように財政政策が変更される仕組みをい
う
最も重要な自動安定化装置は、税制である
» 個人所得税は累進的(所得が高いほど税率が高い)
なので、不況の際には自動的に税率が下がる
» 法人税は黒字企業のみに課されるので、不況時には
大きく税収が下落する
政府支出も自動安定化装置として作用する
» 失業保険、生活保護
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