プレゼン用PowerPointファイル

相続法の基本的な考え方
-中小企業研究総論(事業承継の
法と経営)における民法上の諸問題-
明治学院大学法学部教授
加賀山 茂
2015/9/23
Lecture on Succession
1
全体目次
 1.相続の登場人物
 2.問題提起と前提問題(図解1,2)
 2.歴史的考察
 家制度
 家制度の概要
 妻の無能力
 家制度の名残り


家族の定義の不在と氏の役割の増大
戸主権に代わる父権
 家制度における相続

遺留分の起源と同じ条文の機能の変容
 3.批判的考察
 相続財産の前提としての夫婦財産
 問題提起(夫名義の財産は夫のものか?)
 別産制のもともとの意味とその変質
 夫婦財産のまとめ
 夫婦財産の展望(民法改正提案)
 夫婦財産の構成員の死亡と持分の変化


2015/9/23
夫婦のみの場合の一方の死亡と持分の変化
子の誕生と持分の変化

家族の一員の死亡と持分の変化
 4.理念的考察
 相続とは何か
 法定相続分
 遺留分とは何か
 一般的見解
 遺留分減殺請求の最高裁基準(1) (2)
 新しい考え方
 5.事例研究




相続財産と相続財産法人
共同相続人間での偏頗的遺贈(図1)
過大な第三者への事前贈与(図2)
遺留分減殺の順序(図3)
 6.一般法と特別法
 遺留分の放棄
 遺留分に関する民法特例法
 特例法による遺留分の事前放棄のプロセス
 7.参考文献,参照条文
Lecture on Succession
2
目次1
 相続における登場人物
 問題提起と前提問題(図解
1,2)
 2.歴史的考察
 家制度
 家制度の概要
 妻の無能力
 家制度の名残り
 家族の定義の不在と氏の役割の
増大
 戸主権に代わる父権
 家制度における相続
 遺留分の起源と同じ条文の機能の
変容
2015/9/23
 3.批判的考察
 相続財産の前提としての夫婦財産
 問題提起(夫名義の財産は夫の
ものか?)
 別産制のもともとの意味とその
変質
 夫婦財産のまとめ
 夫婦財産の展望(民法改正提
案)
 夫婦財産の構成員の死亡と持
分の変化
 夫婦のみの場合の一方の死亡と
持分の変化
 子の誕生と持分の変化
Lecture on Succession
3
相続における登場人物(1/3)→法律1,法律2
国庫
祖父母
相続財産法人
父母
配偶者
2015/9/23
(相続人の探索)
被相続人
(死亡)
子
兄弟姉妹
孫
甥・姪
Lecture on Succession
4
相続人に関する規定
 第886条(相続に関する胎児の権利能力)
 ①胎児は,相続については,既に生まれたも
のとみなす。
 ②前項の規定は,胎児が死体で生まれたとき
は,適用しない。
 第887条(子及びその代襲者等の相続権)
 ①被相続人の子は,相続人となる。
 ②被相続人の子が,相続の開始以前に死亡
したとき,又は第891条〔相続人の欠格事由〕
の規定に該当し,若しくは廃除によって,その
相続権を失ったときは,その者の子がこれを
代襲して相続人となる。ただし,被相続人の
直系卑属でない者は,この限りでない。
 ③前項の規定は,代襲者が,相続の開始以
前に死亡し,又は第891条〔相続人の欠格事
由〕の規定に該当し,若しくは廃除によって,
その代襲相続権を失った場合について準用
する。
2015/9/23
←登場人物
 第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の
相続権)
 ①次に掲げる者は,第887条〔子及びその
代襲者等の相続権〕の規定により相続人
となるべき者がない場合には,次に掲げ
る順序の順位に従って相続人となる。


一 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異
なる者の間では,その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
 ②第887条第2項〔子の代襲者の相続権〕
の規定は,前項第二号の場合について準
用する。
 第890条(配偶者の相続権)
 被相続人の配偶者は,常に相続人となる。
この場合において,第887条〔子及びその
代襲者等の相続権〕又は前条〔直系尊属
及び兄弟姉妹の相続権〕の規定により相
続人となるべき者があるときは,その者と
同順位とする。
Lecture on Succession
5
相続分に関する規定
 第900条(法定相続分)
 同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次
の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及
び配偶者の相続分は,各2分の1とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者
の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1と
する。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者
の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1と
する。

四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自
の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の
相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一
方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同
じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
2015/9/23
←登場人物
 第901条(代襲相続人
の相続分)
 ①第887条第2項又は第3
項〔子の代襲等者の相続
権〕の規定により相続人と
なる直系卑属の相続 分は,
その直系尊属が受けるべ
きであったものと同じとす
る。ただし,直系卑属が数
人あるときは,その各自の
直系尊属が受けるべきで
あった部分について,前
条の規定に従ってその相
続分を定める。
 ②前項の規定は,第889
条第2項の規定により兄弟
姉妹の子が相続人となる
場合について準用する。
Lecture on Succession
6
相続における登場人物(2/3)
祖父母
父母
第
二
順
位
国庫
相続財産法人
(相続人の探索)
相続分 2/3
被相続人
(死亡)
配偶者
常に相続人
相続分 1/2
相続分 3/4
2015/9/23
第
一
順
位
子
兄弟姉妹
孫
甥・姪
Lecture on Succession
第
三
順
位
7
相続における登場人物(3/3)
祖父母
父母
第
二
順
位
国庫
相続財産法人
(相続人の探索)
相続分 2/3
被相続人
(死亡)
配偶者
常に相続人
相続分 1/2
相続分 3/4
2015/9/23
第
一
順
位
子
兄弟姉妹
孫
甥・姪
Lecture on Succession
第
三
順
位
8
1.問題提起
設例:長男の言い分
問題解決のための基本事例1,2
2015/9/23
Lecture on Succession
9
問題提起(1/2)
二宮周平『家族法』〔第4版〕新世社(2013)433-434頁参照→図1
 相続の相談事例(4人兄弟の長男の相談)
 母が亡くなった後,直ぐに父も亡くなりました。父
(被相続人)の遺産は,土地家屋が5,000万円,預
金が3,000万円,合計で8,000万円です。
 死亡後,父が,公正証書遺言で,次女Aに5,000万
円,長女Bに2,000万円,次男Cに1,000万円,合計
で8,000万円(全財産)を遺贈していることがわかり
ました。残念なことに,長男の私Dには,何も残し
てくれませんでした(放蕩息子だったわけではあり
ません)。
2015/9/23
Lecture on Succession
10
問題提起(2/2)
遺言(遺贈)に対する不満は「不公平だ,あんまりだ」が多い
 末っ子の次女Aは両親の近所に住んでおり,よく両親の面倒を
みていましたが,長女Bと次男Cと長男Dの私の3人は,いずれも,
遠方に住んでいるため,盆と正月のほかは,時々両親の家に顔
を出すだけで,両親の面倒をみていませんでした。
 父の遺産は,両親の面倒をみてきた次女Aと,面倒をみていな
い長女Bと次男Cの遺贈分だけで目いっぱいです。面倒をみてい
ない者が言うのも厚かましいのですが,私Dだけが,遺産を相続
できないというのは,納得がいきません。
 一昔前だったら,長男の私Dが,家督を相続するはずでした。そ
れは昔の話だとしても,今でも,遺留分という制度があって,最
低限の相続はできると聞いたことがあります。私は,父の遺産を
どのくらい相続できるのでしょうか。→図1
2015/9/23
Lecture on Succession
11
そもそも遺留分とは(1/5)?→設例
基本事例1を条文をベースに考える→事例1の図解
 基本事例1(第三者への包括遺贈:学部レベル)
 (1)母の死後,父も死亡し,父が遺言で,8,000万円の遺産全てを,世
話をしてくれたお手伝いさん甲に贈与してしまい,一人っ子の乙には,
何も残してくれなかった。乙は,甲にどのような請求ができるか。
 (2)上記の例で,乙には兄弟の丙がいたとすると,乙の甲に対する請
求は,どのようになるか(兄弟姉妹は,平等相続)。←相続分
 民法 第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
 〔被相続人の〕兄弟姉妹以外の相続人〔配偶者,子,尊属〕は,遺留分
として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割
合に相当する額を受ける。

一 〔被相続人の〕直系尊属のみが相続人であるとき … 被相続人の財産の3分の1
 二 前号に掲げる場合以外の場合〔相続人が配偶者または子の場合〕 …
被相続人の財産の2分の1
2015/9/23
Lecture on Succession
12
そもそも遺留分とは(2/5)?→設例
基本事例1を図解して考える←条文,事例2の図解
(1) もともとの状態
被相続人(父)の遺産
被相続人(父)の遺産
8,000万円
相続人以外の甲:8,000万円
(3) 相続の理想型(遺留分の確保)
被相続人(父)の遺産
処分自由分
遺留分
4,000万円
4,000万円
2015/9/23
(2) 被相続人の現実の処分(遺贈)
(4) 遺留分減殺請求による調整
被相続人(父)の遺産
乙:2,000 丙:2,000
甲:8,000万円
甲:4,000万円
乙:4,000万円
万円
万円
Lecture on Succession
13
そもそも遺留分とは(3/5)?→設例
遺留分減殺事件では,共同相続人間の争いが最も多い→図1
 現在実務に現れる遺留分減殺請求のほとんどは相続人の
間でなされるものであり,複雑な問題も主としてこの場合に
生ずるとされている[島田・遺留分減殺請求(2011)144頁]。
 遺言の普及に伴い遺言書が,「不公平な内容で相続人らが
納得しない」という理由で審判や訴訟事件が増加している。
 被相続人(父)が遺留分の規定に反する遺贈をした場合,
侵害を受けた遺留分権利者(長男)は,遺贈を受けた相続
人に対し減殺請求する。
 その結果,各相続人の具体的な相続分は修正され,この修
正された相続分に従って遺産分割を行うことになる。
2015/9/23
Lecture on Succession
14
そもそも遺留分とは(4/5)?→設例
基本事例2を条文ベースに考える→事例2の図解
 基本事例2(相続人同士の相続争い:学部レベル)
 (1)母の死後,父も死亡し,父が遺言で,8,000万円の遺産全てを,か
わいがっていた末っ子乙に贈与してしまい,生意気な長男の丙には,
何も残してくれなかった。長男(相続人)丙は,末っ子(相続人)乙にど
のような請求ができるか。(兄弟姉妹は,平等相続)。←相続分
 民法 第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
 〔被相続人の〕兄弟姉妹以外の相続人〔配偶者,子,尊属〕は,遺留分
として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割
合に相当する額を受ける。

一 〔被相続人の〕直系尊属のみが相続人であるとき … 被相続人の財産の3分の1
 二 前号に掲げる場合以外の場合〔相続人が配偶者または子の場合〕 …
被相続人の財産の2分の1
2015/9/23
Lecture on Succession
15
そもそも遺留分とは(5/5)?→設例
基本事例2を図解して考える←条文,事例1の図解
(1) もともとの状態
(2) 被相続人の現実の処分(遺贈)
被相続人(父)の遺産
被相続人(父)の遺産
8,000万円
相続人乙:8,000万円
(3) 相続の理想型(遺留分の確保)
被相続人(父)の遺産
処分自由分
遺留分
4,000万円
4,000万円
(4) 遺留分減殺請求による調整
被相続人(父)の遺産
乙:2,000
乙:8,000万円
乙:4,000万円
万円
乙:6,000万円
2015/9/23
Lecture on Succession
丙:2,000
万円
丙:2,000
万円
16
2.歴史的考察
家制度とその名残り
2015/9/23
Lecture on Succession
17
民法旧規定における家制度(1/6)
家制度の概要
 家制度とは何だったのか?
 家は,戸主(家長)とその家族によって構成される(旧732条)。←天皇と
臣民との関係に類似した制度
 家族は家長である戸主の命令・監督に服する。その反面,戸主は,家族を
扶養する義務を負う(旧747条)。
 家の名を氏といい,戸主および家族は,すべて同一の氏を称する(旧
746条)。
 婚姻は,家と家との契約であった。したがって,婚姻には,常に,家長であ
る戸主の同意が必要とされた(旧750条)。さらに,男は30歳,女は25歳にな
るまでは,父母の同意も必要であった(旧772条1項)。
 婚姻によって妻は夫の家に入る(旧788条)。その結果,妻は氏を夫の家の
氏に変更し,戸主と夫の支配と庇護の下に入る(嫁の意味)。
 戸主の地位は,家督相続によって,継承される(旧970条)。
2015/9/23
Lecture on Succession
18
民法旧規定における家制度(2/6)
妻の無能力

私たちが学生だった頃,民法には次の規定があった。
 第14条乃至第18条【妻の行為能力】削除(昭和22年法222)

ところが,この規定は,成年後見制度が導入された2000年に上書きされ,
永久に消え去ってしまった(永久欠番にすべきであった)。






第14条【夫の許可を要する行為】→(保佐開始の審判の取消)
第15条【営業を許された妻の行為】→(補助開始の審判)
第16条【夫による許可の取消】→(被補助人及び補助人)
第17条【夫の許可を要しない行為】→(補助人の同意を要する旨の審判等)
第18条【夫が未成年の場合】→(補助開始の審判等の取消)
したがって,現在の学生のほとんどは,民法に「妻の無能力」の規定が
あったことを知らない。
 良いことも悪いことも含めて,歴史は尊重されるべきである。刑法が以下の規
定を残しているのは,適切な判断である。
 刑法 第200条【尊属殺】削除(平成7年法69)
2015/9/23
Lecture on Succession
19
民法旧規定における家制度(3/6)
現代も続く家制度の名残り(1)
 家族の定義の不在
 家制度の下では,家族は,家長(戸主)の被支配者として
定義されていた(戸主は家族ではなかった)。
 家制度を廃止した時に,家族を再定義すべきであった。し
かし,現在もなお,家族の再定義(例えば同居の親族な
ど)はなされていない。
 家の名だった「氏」が家族の名として存続
 民法750条(夫婦の氏)
 夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。
 少なくとも,「氏を称することができる。」と改正すべきか?
2015/9/23
Lecture on Succession
20
民法旧規定における家制度(4/6)
現代も続く家制度の名残り(2)
 戸主権に代わる父権の存続
 第774条(嫡出の否認)
 第772条〔嫡出の推定〕の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認
することができる。
 第776条(嫡出の承認)
 夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否
認権を失う。
 第779条(認知)
 嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。
2015/9/23

母子関係は原則として母の認知を待たず,分娩の事実により当然発生する(最二
判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)。

出生した子の母は,その子を懐胎し出産した女性であり,出生した子とその子を
懐胎,出産していない女性との間には,その女性が卵子を提供していたとしても,
母子関係の成立は認められない(最二決平19・3・23民集61巻2号619頁)。
Lecture on Succession
21
民法旧規定における家制度(5/6)
家制度における相続
 家制度(明治民法:戦前までの民法)における相続
 家督相続

戸主(家長)の相続(戸主の死亡,生前でも,①戸主の隠居・国籍喪失,②戸主の婚姻又
は養子縁組取り消しによる去家,③女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚によって生じる)
 第970条 ①被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル







一
二
三
四
五
親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
親等ノ同シキ者ノ問ニ在リテハ男ヲ先ニス
親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス〔昭和17法7本号改正〕
前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
②第836条〔準正〕ノ規定ニ依リ又ハ養子縁組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相
続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看倣ス
この家督相続は,民法改正によって廃止された。
 遺産相続


2015/9/23
戸主以外の家族の死亡によって生じる相続(均等共同相続,ただし妻は第2順位だった)
現行民法は,この方式(共同相続)のみを残している(妻は第1順位)
Lecture on Succession
22
民法旧規定における家制度(6/6)
遺留分の起源と同じ条文の機能の変容

家督相続を原則とする明治民法の下では,遺留分制度は,被相続人
(戸主)による「家産の散逸を防ぐ」という観点から定められていた。

戦後の民法大改正によって,相続制度が家督相続から遺産相続へと根
本的に変更された。
 それにもかかわらず,共同相続による均分相続制を採る現行民法においても,
遺留分の規定は,ほとんどそのまま踏襲された。

現行民法においては,条文は同じでも,遺留分制度の機能は,「家督の
散逸を防ぐ」という機能から,「遺留分権者に最小限の均等相続分を確
保させる」という制度へと変容している。
 もっとも,家督相続においては,相続人は一人だけであったため,現代におけ
る共同相続人間の遺留分減殺請求について細かい配慮がなされないままに
なっている。
 このため,遺留分に関する条文(民法1028条~1044条)の解釈に大きな混乱
が生じている。
2015/9/23
Lecture on Succession
23
3.批判的考察
夫婦財産は名義人のものか?
2015/9/23
Lecture on Succession
24
相続の前提となる夫婦財産とは何か(1/4)
配偶者の一方名義の財産はその個人財産か?
 夫名義の財産は,夫の財産か?
 民法の規定
 第762条(夫婦間における財産の帰属)
 ①夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財
産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
 ②夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,その共有に属するも
のと推定する。
 この規定は,「夫婦別産制」を宣言してものとされており,
夫婦の共有財産は例外とされている。
 このような,妻に不都合な規定があるのはなぜだろうか?
2015/9/23
Lecture on Succession
25
相続の前提となる夫婦財産とは何か(2/4)
民法762条は,本来は,妻だけを保護する規定であった
民法旧規定
 第807条
 ①妻又は入夫が婚姻前より有
せる財産及び婚姻中自己の名
に於て得たる財産は,其特有
財産とす。
 ②夫婦の孰れに属するか分明
ならざる財産は,夫又は女戸
主の財産と推定す。
 この規定は,もともとは,婚姻に
よって行為無能力者となる妻を
保護する規定であった。
2015/9/23
現行民法
 第762条(夫婦間における財産の
帰属)

①夫婦の一方が婚姻前から有する財
産及び婚姻中自己の名で得た財産は,
その特有財産(夫婦の一方が単独で有
する財産をいう。)とする。

②夫婦のいずれに属するか明らかでな
い財産は,その共有に属するものと推
定する。
 戦後の民法改正の際に,男女平等
を実現するために,「妻」を機械的に
「夫婦の一方」と改正してしまった。
 このため,実質的に,夫だけを保護
する規定へと変質してしまった。
Lecture on Succession
26
相続の前提となる夫婦財産とは何か(3/4)
夫婦財産に相続は生ぜず,特有財産にのみ相続が生じる
 夫婦財産は組合財産であり(有力説),相続は生じない。
 夫婦の持分は,常に平等である(憲法24条)。
 憲法 第24条

②配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関す
るその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚し
て,制定されなければならない。
 共有の弾力性(民法255条)によって,夫婦の一方が死亡した場合に
は,その持分は,他の一方の所有(特有財産)となる。
 民法 第255条(持分の放棄及び共有者の死亡)

共有者の1人が,その持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,そ
の持分は,他の共有者に帰属する。
 子が出生した場合,子は自動的に組合員となり,1/3の持分枠(子が
増えても枠は固定)が与えられる。そして,夫婦の各持分は1/3に変化
する。
 夫婦の一方の特有財産は,相続の対象となる。
2015/9/23
Lecture on Succession
27
相続の前提となる夫婦財産とは何か(4/4)
民法762条は,根本的改正が必要である
 民法762条改正(加賀山)私案
 ①夫婦が共通の用に供する財産(土地家屋・家具など)は,夫婦の持
平等の共有(組合的共有)財産とする。
 ②夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た
財産であっても,その財産を夫婦の共用に供した場合には,持分平等
の共有(組合的共有)財産となる。
 ③夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た
財産であって,かつ,夫婦の共用に供しない財産(衣服等の私物)は,
その特有財産とする。
 ④夫婦のいずれに属するか明かでない財産は,夫婦の持分平等の共
有に属するものと推定する。
 夫婦財産=組合財産は相続の対象とならない。このため,
夫婦財産(家族の財産)は分割を免れる。
2015/9/23
Lecture on Succession
28
夫婦財産の展開(1/3)
配偶者の一方の死亡と共有の弾力性(民法255条)
夫婦財産
配偶者の一方死亡による
夫の持分
夫の死亡
他方の持分の拡張
妻の持分
民法255条(共有の弾力性)
(1/2)
(1/2)
(相続の効果ではない!)
2015/9/23
Lecture on Succession
29
夫婦財産の展開(2/3)
子の誕生と子の持分枠の成立
家族財産
夫婦財産
夫の持分
夫の持分子の持分妻の持分
妻の持分
(1/3)
(1/2)
(1/3) (1/2)
(1/3)
2015/9/23
Lecture on Succession
30
夫婦財産の展開(3/3)→相続分
夫の死亡と妻の持分・子の持分枠の変動(共有の弾力性)
夫婦財産
家族財産
夫の持分
妻の持分
夫の死亡
夫の持分子の持分妻の持分
子の持分
(1/3)
(1/3) (1/2)
(1/3)
(1/2)
2015/9/23
Lecture on Succession
31
目次2
 4.理念的考察
5.事例研究
 相続とは何か
 相続財産と相続財産法人
 法定相続分
 共同相続人間での偏頗的
遺贈(図1)
 遺留分とは何か
 一般的見解
 遺留分減殺請求の最高裁基
準(1) (2)
 新しい考え方
2015/9/23
 過大な第三者への事前贈
与(図2)
 遺留分減殺の順序(図3)
Lecture on Succession
32
4.理念的考察
遺留分とは何か?
2015/9/23
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33
相続とは何か
権利・義務の条件付包括承継

相続とは,ある人(被相続人)が死亡した場合に,その人の権利と義務
とを他の人(相続人)が包括的に承継すること。
 全ての人は必ず死亡し,しかも,子(養子,代襲相続人を含む)よりも先に死亡
する確率が高い。
 そこで,人は,自分の遺伝子等の承継人にその財産も承継させようとする。
 このような人間の欲求に対応して,推定相続人が,被相続人よりも長生きする
という条件付で,被相続人の死亡時に,その権利及び義務のすべてを相続人
に取得させている。
 推定相続人のこの停止条件付権利は,期待権として保護に値する(民法128
条)。

第128条(条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止)

条件付法律行為の各当事者は,条件の成否が未定である間は,条件が成就した
場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。
 この期待権を確実にする制度が遺留分の制度である。被相続人は,この期待
権を遺留分の範囲ないで害することができない。
2015/9/23
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34
法定相続分→家族財産,基本事例
(1) 子がいる場合(配偶者は常に相続人)
配偶者(1/2)
1
A(1/6)
子(1/2)
1
B(1/6)
C(1/6)
(2)子がおらず,尊属がいる場合(配偶者は常に相続人)
配偶者(2/3)
2
尊属(1/3)
A(1/6) 1 B(1/6)
(3)子も尊属もおらず,兄弟姉妹がいる場合(配偶者は常に相続人)
配偶者(3/4)
3
兄弟姉妹(1/4)
A
B
C
1
(1/12) (1/12) (1/12)
2015/9/23
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35
遺留分の一般的な理解

遺留分の定義
 一定の相続人(配偶者,子,尊属,ただし,兄弟姉妹を除く)のために法律上
必ず留保されなければならない遺産の一定割合のこと(民法1028~1044条)。

遺留分の理念
 被相続人の特有財産については,遺言自由の原則が認められ,被相続人は
遺言によって自由に死後処分できるとするのが原則であるが,相続人の個人
の尊厳を保障するために,相続財産の一定部分を一定範囲の遺族のために
留保させることにしている。これが遺留分の制度である。
 遺留分は,被相続人の財産処分の自由に対する制約を意味し,その結果とし
て,一定の相続人に対して,相続により期待できる最小限度の財産を確保す
る機能を果たしている。

遺留分の実現のプロセス
 いったん具体的な相続分を確定した後に,不公平な相続分について,遺留分
減殺請求通じて,矯正が行われる。
2015/9/23
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36
遺留分に反する行為の禁止
(遺留分に関する規定の公序的性質)→不可侵性
 第902条(遺言による相続分の指定)
 ②遺贈又は贈与の価額が,相続
分の価額に等しく,又はこれを超
 ①被相続人は,前2条の規定にかかわらず,遺言で,共
えるときは,受遺者又は受贈者
同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三
は,その相続分を受けることがで
者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三
きない。
者は,遺留分に関する規定に違反することができない。
 ②被相続人が,共同相続人中の1人若しくは数人の相続  ③被相続人が前2項の規定と異
なった意思〔持戻しの免除〕を表
分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,
示したときは,その意思表示は,
他の共同相続人の相続分は,前2条の規定により定める。
遺留分に関する規定に違反しな
 第903条(特別受益者の相続分)
い範囲内で,その効力を有する。
 ①共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚  第964条(包括遺贈及び特定
姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈
遺贈)
与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時
 遺言者は,包括又は特定の名義
において有した財産の価額にその贈与の価額を加えた
で,その財産の全部又は一部を
ものを相続財産とみなし,前3条の規定により算定した相
処分することができる。ただし,
続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額
遺留分に関する規定に違反する
をもってその者の相続分とする。
ことができない。
2015/9/23
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37
遺留分侵害額の算定基準(1/2)(金科玉条)
最三判平8・11・26民集50巻10号2747頁→図1,図2,図3

遺留分算定基礎財産の確定


被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は,民法1029条(遺
留分の算定),1030条(持ち戻し),1044条(相続分の規定の準用)に従って,被相続人
が相続開始の時に有していた〔積極〕財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加
え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,
個別的遺留分額の算定


それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ,複数の遺留分権利者がいる場合は更
に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ,遺留分権利者がいわゆる特別
受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり,
遺留分の侵害額の算定


遺留分の侵害額は,このようにして算定した遺留分の額から,遺留分権利者が相続に
よって得た財産がある場合はその額〔不明?〕を控除し,同人が負担すべき相続債務が
ある場合はその額を加算して算定するものである。
(まとめ)最高裁による遺留分減殺請求の定式化

遺留分侵害額=遺留分の額-(相続によって得た財産額+特別受益の受贈額・遺贈額
-相続債務分担額)
2015/9/23
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38
遺留分侵害額の算定基準(2/2)(金科玉条)
最一判平10・2・26民集52巻1号274頁→図1,図2,図3
 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象とな
る場合においては、右遺贈の目的の価額のうち
受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法
1034条にいう目的の価額に当たる。
 (1) 遺留分権者は遺留分額を下回る額の遺贈・贈与し
か受けていない共同相続人を相手として遺留分減殺
請求をすることはできない。
 (2) 減殺請求の相手方が遺留分を超えて保持してい
る利益については,各自の遺留分超過分で按分比例
して減殺に応じなければならない。
2015/9/23
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39
遺留分の新しい考え方(1/2)
相続分=遺留分(法定相続)+処分自由分の残額
被相続人の特有財産
処分自由分
(遺言自由)
遺留分
(法定相続)
 被相続人の特有財産は,死亡の時に相続人に継承される。
 被相続人は,遺言によって,相続人の権利を制限できるが,その制限は,被相
続人の処分自由分(通常は1/2,尊属だけが相続人の場合には,1/3)に限定
される。
 この考え方によると,具体的相続分額を算定しなくても,遺留分減殺額を
算定することが可能となる。→図1,図2,図3
2015/9/23
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40
遺留分の新しい考え方(2/2)
遺留分の不可侵(公序)と過剰処分の清算
被相続人の特有財産
処分自由分
(遺言自由)
遺
留
分
侵
害
遺留分
(法定相続)
 自由処分以外の財産(遺留分)は,法定相続分に従って承継される。
 被相続人が処分自由分を超えて財産を処分した場合には,その処分は,一
定の相続人に対抗できない。
 このように考えると,遺留分減殺請求権の性質は,詐害行為取消権(民法
424-426条),否認権(破産法160-176条)と同じである。
 つまり,「遺留分侵害は一定の相続人によって否認される」というのが,遺留
分減殺請求の意味である。→図1,図2,図3
2015/9/23
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41
相続財産法人
共同相続から遺産分割へと導く制度としての再評価
 第951条(相続財産法人の成立)
 相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。
 第952条(相続財産の管理人の選任)
 ①前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求
によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。
 ②前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは,家庭裁判
所は,遅滞なくこれを公告しなければならない。
 第955条(相続財産法人の不成立)
 相続人のあることが明らかになったときは,第951条の〔相続財産〕法
人は,成立しなかったものとみなす。ただし,相続財産の管理人がそ
の権限内でした行為の効力を妨げない。
 遺産分割手続に活用すべき優れた制度である(加賀山説)。
2015/9/23
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42
5.事例研究
(1) 共同相続人間
(2) 第三者への事前贈与
(3) 第三者への贈与,遺贈の減殺の順序
2015/9/23
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43
遺留分の算定例(1/3)
共同相続人間での遺留分減殺請求→図1
 例題1
 被相続人甲の財産が8,000万円
 相続人は,子A, B, C, Dの4人。(1/4
の共同相続)。
 甲がAに5,000万円,Bに2,000万円,
Cに1,000万円を遺贈し,Dには,何
も残さなかった。
 遺留分の計算
 Dの遺留分
 8,000万円×1/2×1/4=1,000万円
 遺留分超過額(相続によって得た
ものを基準に算定している)
 A: 5,000-1,000 = 4,000万円
 B: 2,000-1,000 = 1,000万円
 C: 1,000-1,000 = 0万円
2015/9/23
 遺留分の減殺請求額(判例・通説:
侵害された遺留分減殺説)
 D→A: 1,000万円×4 /5=800万円
 D→B: 1,000万円×1/5=200万円
 D→C: 0円
 加賀山計算方式(遺留分不可侵=
過剰処分否認・清算説)
 甲の処分自由分:8,000万円
×1/2=4,000万円
 修正処分額+遺留分額=適正相続分




A: 4,000×5/8=2,500 (+1,000)=3,500万円
B: 4,000×2/8=1,000 (+1000)=2,000万円
C: 4,000×1/8=500 (+1000)=1,500万円
D: 1,000万円
 遺留分減殺額(清算額)
 D→A: 5,000-3,500=1,000万円(+500万円
はCへ)
 D→B: 2,000-2,000=0円
 C→A: 1,000-1,500=-500万円
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44
遺留分の考え方の対比図(1/3)
共同相続人間での遺留分減殺請求→計算1,最初の設例へ
被相続人甲の遺産8,000万円。相続人はA, B, C, Dの4人。甲は,遺産全てを
A(5,000万円), B(2,000万円), C(1,000万円)に遺贈。Dには,何も残さなかった。
判例・通説の考え方
(最一判平10・2・26民集52巻1号274頁)
A
5000
B
2000
A
5000
1000
B
1000
A
5000
C
1000
A, B, Cの遺留分超過額
Aは5000-1000,Bは2000-1000,Cは0
A
加賀山説の考え方→理念
B
2000
C
1000
A
800
A
4200
B
2
0
0
B
C
D
1800
1000
1000
Dが,Aに800万円,Bに200万円減殺請求できる
2015/9/23
C
1000
遺留分確保のため,処分自由分を修正
処分自由分
A 4000 B
C
遺留分(法定相続)
A
B4000C
D
1000
500
1000
2500
Dが,AとBに対して4:1で遺留分を減殺
B
2000
1000
1000
1000
遺留分減殺後の最終状態の確保
A A
2500
A
1000
B B B
1000
1000
C
500
CC
1000
D
D
1000
DがAに1,000万円,CがAに500万円減殺請求できる
Lecture on Succession
45
遺留分の算定例(2/3)
第三者への生前贈与と遺留分減殺請求→図2
 例題2
 被相続人甲の積極財産が6,000万円,債務
が3,000万円
 相続人は,甲の子A, B, C
 第三者Dへ甲が死亡の半円前に6,000万円
を生前贈与している。
 遺留分の算定(通説・判例→最高裁基準)
 1.遺留分算定基礎財産

6,000万円+6,000万円-3,000万円=9,000万円
 2.A,B,Cの遺留分額

9,000万円×1/2×1/3=1,500万円
 3.A,B,Cが相続によって得た財産額(未定?)

6,000万円×1/3=2,000万円
 4.A,B,Cの債務の分担額

3,000万円×1/3=1,000万円
 5.A.B,Cの遺留分侵害額(差額説)
 1,500万円-(2,000万円-1,000万円)=500万円
 6.遺留分の減殺請求
 A,B,C→D:500万円
2015/9/23
 通説・判例の計算方式の問題点
 3.の具体的な相続分が決定できないと,遺留分額
を確定できない。
 具体的相続分は,遺留分減殺請求によって変動す
るため,どちらも決定できないというジレンマに陥る。
 加賀山計算方式(独自説・単純明快→理念)
 1.遺留分算定基礎財産(通説・判例と同じ)
 2.被相続人の自由処分額(ここがポイント)
 9,000万円×1/2=4,500万円
 3.被相続人の遺留分侵害額(具体的相続額に依存
しない)

6,000万円-4,500万円=1,500万円
 4.遺留分の減殺請求(結果は通説・判例と同じ)

A,B,C→D:1,500万円×1/3=500万円
 加賀山方式のメリット
 被相続人の積極財産と消極財産が分かるだけで,
直ちに自由処分額と遺留分額とが決定できる。
 計算式も単純で分かりやすい。
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46
遺留分の考え方の対比図(2/3)
第三者への事前贈与と遺留分減殺請求→計算2
被相続人甲の遺産3,000万円。相続人はA, B, Cの3人。甲は,6,000万円をDに事前贈与。
判例・通説の考え方→最高裁基準
第三者Dへの事前贈与
6000
遺産
3000
第三者Dへの事前贈与
6000
A, B, Cの具体的相続額:1,000万円
Dの遺留分超過額:1,500万円
D
6000
遺留分
1500
A
5
0
0
A
A
B
C
1000
1000
1000
1000
B
5
0
0
B
1000
C
5
0
0
処分自由分
4500
A
1500
遺留分
B
4500
1500
C
1500
遺留分減殺後の最終状態の確保
C
1000
A, B, CがDにそれぞれ500万円減殺請求
2015/9/23
遺産
3000
遺留分確保のため,処分自由分を修正
A, B, Cの遺留分侵害額:500万円
D
4500
加賀山説の考え方→理念
D
4500(6000-1500)
A
B
C
1500
1500
1500
A, B, CがDにそれぞれ500万円減殺請求
Lecture on Succession
47
遺留分の算定例(3/3)
第三者に対する減殺請求と順序→図3

例題3





加賀山方式による遺留分の算定(単純・明快)


被相続人甲の積極財産5,000万円,債務3,000万円。
相続人は,甲の配偶者乙のみ。
甲は,死亡3カ月前に第三者Aへ2,000万円の不動
産と500万円の預金,死亡9カ月前にBへ株券3,500
万円を贈与し,Cへも1,500万円を遺贈している。
1.遺留分算定基礎財産(通説・判例と同じ)
2.甲の処分自由分(ここがポイント)


3.遺留分侵害額(具体的相続額に依存しない)

遺留分の算定(通説・判例)



3,000万円
5.遺留分侵害額



8,000万円×1/2×1=4,000万円
5,000万円-1,500万円(Cへの遺贈分)=3,500万円


2015/9/23

民法の規定の順序に従う。
第1033条(贈与と遺贈の減殺の順序)
贈与は,遺贈を減殺した後でなければ,減殺するこ
とができない。
第1035条(贈与の減殺の順序)
贈与の減殺は,後の贈与から順次前の贈与に対し
てする。
①遺贈から減殺

4,000万円-(3,500万円-3,000万円)=3,500万円
6.遺留分減殺請求
民法の規定の順序に従う
遺留分減殺請求の順序
4.乙の債務の分担額



(2,000万円+500万円+3,500万円+1,500万円)-4,000
万円)=3,500万円
4.遺留分減殺請求(結果は,通説・判例と同じ)

3.乙が相続によって得た財産額(未定?)


5,000万円+2,000万円+500万円+3,500万円-3,000万
円=8,000万円
2.乙の遺留分額



1.遺留分算定基礎財産
8,000万円×1/2=4,000万円

乙は,Cへの遺贈1,500万円を減殺して,遺贈の履行
義務を免れることができる。
②後の贈与から減殺

乙は,Bへの贈与から,2,000万円を減殺する。
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48
遺留分の考え方の対比図(3/3)
共同相続人間での遺留分減殺請求→計算3
被相続人甲の遺産8,000万円。相続人は乙のみ。甲は,死亡の3カ月前に第三者Aに
2,500万円を贈与, 9カ月前に第三者Bに3,500万円贈与, 第三者Cに1,500万円遺贈した。
判例・通説の考え方→最高裁基準
加賀山説の考え方
(最一判平10・2・26民集52巻1号274頁)
A
2500
B
3500
C
1500
乙
A
2500
5
0
0
減殺の順序
①遺贈,②先の贈与,後の贈与
乙
2000
A
2500
B
3500
乙
C
1500
1500
乙
2000
B
3500
乙
1500
乙が,Cに1,500万円,Aに2,000万円減殺請求
2015/9/23
乙
C
1500
5
0
0
遺留分確保のため,処分自由分を修正
乙
5
0
0
A
5
0
0
乙が①Cの遺贈,②Aの贈与を減殺
A
5
0
0
B
3500
処分自由分
B
4000
3500
遺留分(法定相続)
乙
4000
4000
遺留分減殺後の最終状態の確保
乙
5
0
0
A
5
0
0
B
B
乙
乙
3500
4000
乙がCに1,500万円,Aに2,000万円減殺請求
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49
事前贈与,遺贈の充当
2015/9/23
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50
目次3
 6.一般法と特別法
 9.事業承継総論
 遺留分の放棄
 遺留分に関する民法特例
法
 特例法による遺留分の事
前放棄のプロセス
 7.参考文献
 8.参照条文
2015/9/23
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51
6.一般法と特別法
遺留分に関する民法特例法
2015/9/23
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52
遺留分の放棄
 遺留分の事前放棄
 第1043条(遺留分の放棄)
 ①相続の開始前における遺留分の放棄は,家庭裁判所の許可を
受けたときに限り,その効力を生ずる。
 ②共同相続人の1人のした遺留分の放棄は,他の各共同相続人の
遺留分に影響を及ぼさない。
 許可の基準
 権利者の自由意思,放棄理由の合理性・必要性,放棄との引き替
えの代償の有無等を考慮して判断されている。
 年間1,100件前後の利用があり,認容率は,90%を超えている。
 遺留分の事後放棄
 家庭裁判所の許可なしに,自由にできる。
2015/9/23
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53
遺留分に関する特例法
 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で,現経営者から後継者に贈
与等された自社株式について,以下の合意をすることができる。
 ①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意),又は,
 ②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)
 ①の除外合意をすると,後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社
株式について,他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので,相続に伴っ
て自社株式が分散するのを防止できる。

②の固定合意の場合,固定する合意時の時価は,合意の時における相当な価額である
との税理士,公認会計士,弁護士等による証明が必要となる(評価方法の考え方は,
「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」
(http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2009/090209HyoukaGuidelines.htm)を
参照)。
この固定合意をすると,自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから,
後継者は相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなる。
2015/9/23
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54
遺留分に関する特例法の手続
後継者が贈与された自社株式について,遺留分算定基礎財産から除外する等
推定相続人全員が合意
後継者が1カ月以内に申請通商産業大臣へ
経済産業大臣の確認
通商産業大臣が要件の充足を確認
後継者が1カ月以内に家庭裁判所に申立
家庭裁判所の許可
家庭裁判所が推定相続人全員の真意を確認
2015/9/23
合意の効力の発生
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55
7.参考文献・参照条文
2015/9/23
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56
参考文献
 家族法(親族法・相続法)の教科書
 二宮周平『家族法』〔第4版〕新世社(2013)
 遺留分に関する実務と新しい考え方
 久喜忠彦編『遺言と遺留分』〔第2巻〕日本評論社(2011)
 松川正毅「遺留分減殺請求」現代相続法の課題(第78回
日本私法学会シンポジウム)論究ジュリ2014年10号126-
131頁
 経営承継円滑化法の民法特例
 中小企業庁財務課『中小企業事業承継ハンドブック~これ
だけは知っておきたい26問26答』
http://www.chusho.meti.go.jp/
2015/9/23
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参照条文(1/7)
遺留分の基礎となる財産の算定

第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
 兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそ
れぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。



一 直系尊属のみが相続人であるときは,被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合被相続人の財産の2分の1
第1029条(遺留分の算定1)
 ①遺留分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈
与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して,これを算定する。
 ②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した
鑑定人の評価に従って,その価格を定める。

第1030条〔遺留分の算定2〕
 贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を
算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をし
たときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。
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参照条文(2/7)
遺留分減殺請求
 第1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)
 遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するのに
必要な限度で,遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請
求することができる。
 第1032条(条件付権利等の贈与又は遺贈の一部
の減殺)
 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又
は遺贈の目的とした場合において,その贈与又は遺贈の
一部を減殺すべきときは,遺留分権利者は,第1029条第2
項の規定により定めた価格に従い,直ちにその残部の価
額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
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参照条文(3/7)
減殺の順序
 第1033条(贈与と遺贈の減殺の順序)
 贈与は,遺贈を減殺した後でなければ,減殺することがで
きない。
 第1034条(遺贈の減殺の割合)
 遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,
遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その
意思に従う。
 第1035条(贈与の減殺の順序)

贈与の減殺は,後の贈与から順次前の贈与に対してす
る。
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参照条文(4/7)
受遺者の負担
 第1036条(受贈者による果実の返還)
 受贈者は,その返還すべき財産のほか,減殺の請求が
あった日以後の果実を返還しなければならない。
 第1037条(受贈者の無資力による損失の負担)
 減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は,
遺留分権利者の負担に帰する。
 第1038条(負担付贈与の減殺請求)
 負担付贈与は,その目的の価額から負担の価額を控除し
たものについて,その減殺を請求することができる。
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参照条文(5/7)
遺留分侵害の要件
 第1039条(不相当な対価による有償行為)
 不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者
に損害を加えることを知ってしたものに限り,これを贈与とみなす。こ
の場合において,遺留分権利者がその減殺を請求するときは,その対
価を償還しなければならない。
 第1040条(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
 ①減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは,
遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし,譲受人
が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたと
きは,遺留分権利者は,これに対しても減殺を請求することができる。
 ②前項の規定は,受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合に
ついて準用する。
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参照条文(6/7)
遺留分減殺請求権の制限・消滅

第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
 ①受贈者及び受遺者は,減殺を受けるべき限度において,贈与又は遺贈の
目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
 ②前項の規定は,前条第1項ただし書の場合について準用する。

第1042条(減殺請求権の期間の制限)
 減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺
贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。
相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。

第1043条(遺留分の放棄)
 ①相続の開始前における遺留分の放棄は,家庭裁判所の許可を受けたとき
に限り,その効力を生ずる。
 ②共同相続人の1人のした遺留分の放棄は,他の各共同相続人の遺留分に
影響を及ぼさない。
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参照条文(7/7)
遺留分に関する準用規定
 第1044条(代襲相続及び相続分の規定の準
用)




第887条第2項及び第3項〔子の代襲者等〕,
第900条〔法定相続分〕,
第901条〔代襲相続分〕,
第903条並びに第904条〔特別受益者の相続分〕
 の規定は,遺留分について準用する。
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法と経営学の考え方
経営学
• 本質における一致
• 行動における自由
• あらゆることにおける信頼
法学
経済学
• 資源の最適な配分
• 所得の適正な再分配
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• 紛争の平和的解決
• 必要なことは許されるが,
• 損害を最小にすべし
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