合理的な秘密分散における 不可能性とその回避方法 安永 憲司 九州先端科学技術研究所 コンピュータセキュリティシンポジウム 2012 @ 松江 暗号理論とゲーム理論 ともにプレイヤー間の相互作用に関する研究 暗号理論 プレイヤーは正直者 or 悪者 正直者をどのように守るか? ゲーム理論 プレイヤーは合理的 合理的なプレイヤーはどう振る舞うか? 暗号理論とゲーム理論(既存研究) 暗号理論をゲーム理論に利用 信頼できる仲介者を暗号技術で実現 [DHR06, ADGH06, LMPS04, ILM05, ILM08] ゲーム理論を暗号理論へ適用 合理的なプレイヤーが暗号プロトコルを実行 秘密分散 [HT04, ADGH06, LT06, GK06, KN08a, KN08b, MS09, OPRV09, AL09, FKN10, PS11] リーダー選出,ランダムサンプリング [Gra10] ビザンチン合意 [GKTZ12] 公開鍵暗号 [Y12] ゲーム理論と暗号理論の概念間の関係 暗号理論向けのゲーム理論の概念 [HP10, GLV10, PS11] ゲーム理論の概念による安全性特徴付け[ACH11, GK12] 暗号理論とゲーム理論(既存研究) 暗号理論をゲーム理論に利用 信頼できる仲介者を暗号技術で実現 [DHR06, ADGH06, LMPS04, ILM05, ILM08] ゲーム理論を暗号理論へ適用 合理的なプレイヤーが暗号プロトコルを実行 秘密分散 [HT04, ADGH06, LT06, GK06, KN08a, KN08b, MS09, OPRV09, AL09, FKN10, PS11] リーダー選出,ランダムサンプリング [Gra10] ビザンチン合意 [GKTZ12] 公開鍵暗号 [Y12] 本研究 ゲーム理論と暗号理論の概念間の関係 暗号理論向けのゲーム理論の概念 [HP10, GLV10, PS11] ゲーム理論の概念による安全性特徴付け[ACH11, GK12] 秘密分散 分散フェーズ 復元フェーズ (m, n) しきい値型秘密分散 m 個のシェアから秘密を復元でき m 個未満からは秘密について情報がもれない 合理的な秘密分散 単純な設定では、各プレイヤーは正直者と仮定 合理的な秘密分散 単純な設定では、各プレイヤーは正直者と仮定 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーが自分の利益のため行動すると? 合理的な秘密分散 単純な設定では、各プレイヤーは正直者と仮定 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーが自分の利益のため行動すると? Shamir の秘密分散は正しく実行されない 合理的な秘密分散 単純な設定では、各プレイヤーは正直者と仮定 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーが自分の利益のため行動すると? Shamir の秘密分散は正しく実行されない 自分の利益のために行動するプレイヤー 合理的なプレイヤー 合理的な秘密分散 単純な設定では、各プレイヤーは正直者と仮定 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーが自分の利益のため行動すると? Shamir の秘密分散は正しく実行されない 自分の利益のために行動するプレイヤー 合理的なプレイヤー 合理的なプレイヤーが正しく実行可能 合理的な秘密分散 Halpern, Teague (STOC ’04) Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える プレイヤーは正直にシェアを出すだろうか? Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える プレイヤーは正直にシェアを出すだろうか? 他プレイヤーがシェアを出すと仮定したとき Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える プレイヤーは正直にシェアを出すだろうか? 他プレイヤーがシェアを出すと仮定したとき 自分がシェアを出せば、 n 人全員が秘密を復元 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える プレイヤーは正直にシェアを出すだろうか? 他プレイヤーがシェアを出すと仮定したとき 自分がシェアを出せば、 n 人全員が秘密を復元 自分がシェアを出さなければ、自分 1 人が復元 Halpern, Teague (STOC ’04) プレイヤーの利得関数 1. 秘密を復元したい 2. より少ない人数で復元したい (n, n) 秘密分散の復元フェーズを考える プレイヤーは正直にシェアを出すだろうか? 他プレイヤーがシェアを出すと仮定したとき 自分がシェアを出せば、 n 人全員が秘密を復元 自分がシェアを出さなければ、自分 1 人が復元 シェアを出さない方が利得が高い (シェアを出すことは Nash 均衡でない) Nash 均衡と結託耐性 Nash 均衡 どのプレイヤーも、 他のプレイヤーがプロトコルに従うとき、 プロトコルから逸脱しても利得は増えない 逸脱したときに利得が減る 狭義 Nash 均衡 結託耐性 r の Nash 均衡 r 人が結託して逸脱しても Nash 均衡 不可能性に関する既知結果 Asharov, Lindell (Crypto ’09) n = 2 のとき、 定数ラウンド復元プロトコルは存在しない 解概念として Nash 均衡を考える場合 復元ラウンド数が利得の値に依存することを証明 結託耐性 n/2 を達成する 定数ラウンド復元プロトコルは存在しない n = 2 の場合に帰着して証明 本研究 KOTY プロトコルの問題点の指摘 [KOTY12] A. Kawachi, Y. Okamoto, K. Tanaka, K. Yasunaga. Rational secret sharing for non-simultaneous channels. IEICE Technical Report, 2012 回避方法の提案 不可能性の回避につながる KOTY プロトコル ブロードキャスト通信路を仮定 1人ずつ順番にブロードキャスト 定数ラウンド復元 高い確率で 2 ラウンド 結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash 均衡 定数ラウンド復元では最適な結託耐性 KOTY プロトコル (分散フェーズ) 確率 α Step 1. 通常の SS S1 (n/2 + 1, n) SS S1 識別不能 Step 2. 通常の SS S2 確率 1 – α Step 3. RSS S3 (n/2, n) SS S2 秘密 b 秘密 b = 1 (S1 で本物) 0 (S1 で偽物) (n, n) RSS S3 1 2 n/2 n KOTY プロトコル (復元フェーズ) Step 1. (n/2 + 1, n) S1 のシェア を順に出す 全員正しいシェア 次のラウンド それ以外 終了 Step 2. (n/2, n) S2 のシェア を順に出す 全員正しいシェア ∧ b = 0 次のラウンド それ以外 終了 Step 3. (n, n) S3 のシェア を使って秘密 s を復元 結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash である直観的理由 Step 1 で逸脱 偽物の可能性が残る Step 2 で逸脱 Step 3 に進めない KOTY プロトコルの性質 定理 S3 が結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash であるとき、 KOTY も結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash 復元ラウンド数 = 2(1 - α) + T3 ・α T3 は S3 の復元ラウンド数 α を十分小さくとれば復元ラウンド数 ≈ 2 KOTY プロトコルの問題点 KOTY プロトコルの問題点 より望ましく見える戦略が存在 KOTY プロトコルの問題点 より望ましく見える戦略が存在 Step 1 で、n/2 個のシェアが出た後、 自分のシェアとあわせて秘密を復元して終了 KOTY プロトコルの問題点 より望ましく見える戦略が存在 Step 1 で、n/2 個のシェアが出た後、 自分のシェアとあわせて秘密を復元して終了 最初の n/2 人のプレイヤーは秘密を復元できない 残りの n/2 人は確率 1 – α で本物の秘密を復元 少ない人数で復元 利得が高くなる可能性 KOTY プロトコルの問題点 より望ましく見える戦略が存在 Step 1 で、n/2 個のシェアが出た後、 自分のシェアとあわせて秘密を復元して終了 最初の n/2 人のプレイヤーは秘密を復元できない 残りの n/2 人は確率 1 – α で本物の秘密を復元 少ない人数で復元 利得が高くなる可能性 結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash に矛盾? KOTY プロトコルの問題点 より望ましく見える戦略が存在 Step 1 で、n/2 個のシェアが出た後、 自分のシェアとあわせて秘密を復元して終了 最初の n/2 人のプレイヤーは秘密を復元できない 残りの n/2 人は確率 1 – α で本物の秘密を復元 少ない人数で復元 利得が高くなる可能性 結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash に矛盾? 矛盾しない 上記の議論では n/2 人が逸脱する必要 何が問題なのか? 何が問題なのか? 結託耐性が n/2 – 1 しかないこと 結託耐性が n – 1 なら問題は生じない 何が問題なのか? 結託耐性が n/2 – 1 しかないこと 結託耐性が n – 1 なら問題は生じない しかし、不可能性の結果 [AL 11] から、 定数ラウンドプロトコルの結託耐性 ≤ n/2 – 1 何が問題なのか? 結託耐性が n/2 – 1 しかないこと 結託耐性が n – 1 なら問題は生じない しかし、不可能性の結果 [AL 11] から、 定数ラウンドプロトコルの結託耐性 ≤ n/2 – 1 不可能性を回避する必要 不可能性の回避方法 不可能性の回避方法 利得関数に仮定を追加 「偽物の秘密を復元することを嫌がる」 不可能性の回避方法 利得関数に仮定を追加 「偽物の秘密を復元することを嫌がる」 先ほどの問題は回避可能 偽物の可能性があれば、逸脱しない 不可能性の回避方法 利得関数に仮定を追加 「偽物の秘密を復元することを嫌がる」 先ほどの問題は回避可能 偽物の可能性があれば、逸脱しない 定理 上記仮定のもと、修正版 KOTY プロトコルは 結託耐性 n – 1 の狭義 Nash を達成 S1 と S2 をともに (n, n) 秘密分散に変更 まとめ KOTY プロトコルの問題点 より望ましい戦略が存在 結託耐性が小さいことが問題 不可能性の回避 利得関数に仮定を追加 「偽物の秘密を復元することを嫌がる」 結託耐性 n – 1 を達成可能に 既存プロトコル その他の 仮定 結託 耐性 MPC ラウン ド数 解概念 ✔ O(1/β) IEWDS [ADGH06] 同時同報 ✔ 2 whp IEWDS n/2 − 1 [GK06] 同時同報 ✔ O(1/β) IEWDS n−1 [KN08a] 同時同報 M/M Enc. ✔ O(1/β) IEWDS [KN08b] 同時同報 O(1/β) 狭義 Nash 2 THPE 文献 [HT04] 通信路 同時同報 秘密通信路 [OPRV09] 同報 正直者 1 [AL09] 同時同報 [GK06] 等 2 whp IEWDS n/2 − 1 [FKN10] P2P O(1/β) 狭義 Nash n−1 VRF [KOTY12] 同報 既存の RSS IEWDS = 弱支配戦略の連続的削除 狭義 Nash = 狭義 Nash 均衡 THPE = 摂動完全均衡 whp 狭義 Nash n/2 – 1 β :2利得に依存する十分小さな値 Nash 均衡と結託耐性 戦略の組 σ = (σ1, …, σn) が Nash 均衡 どのプレイヤーも、他プレイヤーが σ に従う とき、戦略 σ から逸脱しても利得は増えない 戦略の組 σ = (σ1, …, σn) が 狭義 Nash 均衡 どのプレイヤーも、他のプレイヤーが σ に従う とき、戦略 σ から逸脱すると利得が下がる 戦略の組 σ が結託耐性 r の Nash 均衡 r 人が結託して逸脱しても、Nash 均衡 KOTY プロトコル (分散フェーズ) 1. (n/2 + 1, n) 秘密分散 S1 を使って秘密 s を分散 ただし、確率 α で s は偽物 s を見ても本物かどうか判別不能 2. (n/2, n) 秘密分散 S2 を使って秘密 s’ を分散 s’ = 1 s が本物 3. (n, n) 合理的秘密分散 S3 を使って秘密 s を分 散 s は本物 KOTY プロトコル (復元フェーズ) 1. (n/2 + 1, n) S1 のシェアを順に出す 正しいシェア数 ≥ n/2 + 1 s を復元 正しいシェア数 = n 次のラウンド < n 終了 2. (n/2, n) S2 のシェアを順に出す 正しいシェア数 ≥ n/2 s’ を復元 正しいシェア数 = n ∧ s’ ≠ 1 次のラウンド それ以外 終了 3. (n, n) S3 のシェアを使って秘密 s を復元 KOTY プロトコルの性質 定理 S3 が結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash であるとき、 KOTY も結託耐性 n/2 – 1 の狭義 Nash 復元ラウンド数は < 2(1- α) + T3 ・α 証明の概要 サイズ n/2 – 1 の結託を考える Round 1 で逸脱 n/2 + 1 個の正しいシェアが 出されるので、全員復元して終了 確率 α で偽物の可能性 Round 2 で逸脱 s’ ≠ 1 なら偽物を復元して終 了 s’ = 1 のとき、どんな行動も逸脱とみなさない Round 3 で逸脱 S3 の性質より利得は下がる
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