基礎商法2 第10回 基礎商法2 1 本日のお題 • 他人による手形行為 代理方式―無権代理―表見代理 代行(機関)方式―偽造―表見偽造 会社による手形行為(代表権との関係) 手形の変造 白地の補充 ※今日も、基本的に債務負担の話 基礎商法2 2 他人による手形行為 ―総論 基礎商法2 3 他人による 手形行為 有権代理 代理方式 無権代理(手8) 表見代理 他人による署名 有権代行 代行方式 偽造 署名 署名以外 表見偽造 権限者による変更 他人による内容の 変更 変造(手69) 権限内の補充 白地の補充 不当補充(手10) 基礎商法2 4 他人による署名 基礎商法2 5 I. 他人による署名の方式 A) 代理方式:「A 代理人B B」(署名者はB) B) 代行(機関)方式:「A A」(署名者はB) ※代理方式の署名の代行もありうる。「A代理人B B」(署 名者はC) 権限者による場合 無権限者による場合 代理方式 代行方式 代理人による署名 署名の代行 無権代理 署名の偽造 基礎商法2 6 II. 方式の不明な署名 事案:「合資会社安心荘 斉藤シズエ ㊞」(最判 S47.2.10百-4) a. b. 「合資会社安心荘 (代表社員)斉藤シズエ」の意(法人) 「(合資会社安心荘勤務の)斉藤シズエ」の意(個人) 判旨 ① 法人振出は代理方式によらなければならない ② 法人、個人いずれの振出かを手形外の証拠で決することはでき ない。 ③ 手形記載からは個人・法人いずれの振出とも解しうる場合には 手形所持人が請求の相手方を選択できる ④ 手形所持人が悪意の場合には人的抗弁を対抗できる 基礎商法2 7 代理方式の手形行為 基礎商法2 8 代理人の手形行為 I. 署名の方式 1. 手形振出と非顕名代理 手形の文言証券性から、手形行為には商法504条は適 用がない(通説) 2. 民法上の組合名義の手形振出(最判S36.7.31百3) 事案:「A漁業組合 組合長理事 Y1[Y1]」名義の手形に ついて、A組合の組合員に支払を求めうるか 多数意見:組合名義=各組合員名義と考えてよい →標記の記載によって各組合員は手形債務を負う 基礎商法2 9 II. 会社における手形行為 1. 会社代表者の代理権の制限(または支配人の支 配権の制限)と手形行為 権限の制限を善意の第三者に制限を対抗できない(会 349Ⅴ、商21Ⅲ) 2. 取締役会決議を欠く専断的手形行為(会362Ⅳ) 判例は民93類推適用で、善意・無過失の相手方との間で は有効。悪意・無過失の相手方との間では、(民法では無 効になるはずだが)人的抗弁にとどまる ※手形行為には意思表示の瑕疵の規定の適用がないことに注意 学説は会349Ⅴ類推または一般悪意の抗弁説で処理し、 相手方が善意であれば有効。悪意であれば手形行為は 無効(ただし権利外観理論で処理) 基礎商法2 10 3. 権限濫用 判例は民93類推適用。学説は一般悪意の抗弁説。処理 そのものは会362Ⅳの場合と同じ 4. 承認のない利益相反取引になる手形行為 ※会社・取締役間の取引の決済手段としての振出を想定 a. 会社―取締役間の手形の振出・裏書については、(原因 関係とは別個に)取締役会の承認が必要(判例・多数説。 最判S46.10.13百-38、会社百-57) 〔理由〕 手形債務の負担は、証明責任、善意取得、抗弁の切断、手 形訴訟制度といった面で、会社により重い責任を負わせる b. 承認は原因関係についてのもので足りる(少数説) 〔理由〕 手形は債務の履行手段であり、原因関係の履行について 別途の承認は不要 ※判例・多数説に立っても、たとえば会社振出の手形に取締役が隠 れた手形保証を行うような場合には会社に損害が生じるおそれ がないため利益相反取引規制には服さない 基礎商法2 11 利益相反取引 振出人 裏書人 受取人 原因関係 約束 手形 被裏書人 裏書人 原因関係 振出 裏書 利益相反取引? 相対的無効 →Yes(判例・多数説) 基礎商法2 12 無権代理 I. 手形法8条の趣旨 ① 無権代理人の行為責任ではなく特別な法定責任 ② 本人が責任を負う旨の虚偽の外観を表示したことを原 因とする一種の外観責任 ③ 民法の議論とは無関係に、無権代理人の責任は本人 の責任と併存するとするのが通説 II. 無権代理人の責任 1. 成立要件 ① ② ③ ④ 無権代理人が代理方式で署名したこと 代理権がないこと(代理人に証明責任) 本人の追認がないこと(同上) 相手方が無権代理につき善意(民117Ⅱ参照) 基礎商法2 ※相手方の無過失は要求しない 13 2. 手8の効果(責任の内容) ① 本人と同一の責任を負う ⇒有権代理であれば本人に生じる責任と同一の責任を負うとの意 ② ①から、本人が所持人に対して有する抗弁を対抗可能 ただし、本人が手形債務を負わない以上、相殺の抗弁は対抗でき ないし、制限能力の抗弁といった本人の属人的な物的抗弁も主張 できない(基本的には原因関係についての抗弁が対抗可) ③ 無権代理人が所持人に対して有する抗弁も対抗可 ④ 手8によって責任を負う場合には民117による損害賠償 責任は負わない ⑤ 越権代理の場合は全額(踰越額ではない)について責 任を負う ⑥ 表見代理が成立する場合であっても、無権代理人の責 任は消滅しない(最判S33.6.17百-11) 基礎商法2 14 表見代理 I. 趣旨 手形法には表見代理に関する規定はないが、民法の表見 代理の規定が適用される II. 内容 1. 成立要件 民法109、110、112に準ずる ※民110の「正当事由」の解釈に争いがあるが、判例は民法 と同じと解する(最判S39.9.15百-14) 基礎商法2 15 2. 表見代理の成立と「第三者」 a. 判例・民法の通説 第三者=無権代理人と直接に取 引をした者 b. 商法の通説 第三者には転得者を含む 最判S36.12.12百-10 Y寺 (経理部長A) B C X ゴム印・印章 別件前渡金 受領権限 振出 裏書 約束 手形 Y寺経理部長A 判旨:約束手形が権限踰越により振り出された場合に民110が適用される には「受取人が右代理人に振出の権限あるものと信ずべき正当の理由 あるときに限る」 ⇒第三者は直接の相手方に限られる 基礎商法2 16 最判S59.3.29総則・商行為百-28 Y福岡営業所 所長B Y株式会社 X D 白地式裏書 交付 振出 C 約束 手形 ※手形面上は、Bが直接Xに交付したように見える 判旨:表見代理が成立する第三者は取引の直接の相手方に限られるの であって、手形行為の場合は、手形の記載ではなく実質的な取引の 相手方をいう。 基礎商法2 17 代行方式の手形行為 基礎商法2 18 手形の偽造 I. 意義 偽造=無権限者による代行(機関)方式の手形行為 II. 偽造者の責任 a. 判例・通説 手形法8条類推適用 b. 少数説 偽造者行為説 ・・・相手方悪意の場合に偽造者が責任を負うかどうかが異 なる III. 被偽造者の責任 原則として責任は負わないが ① 追認は可能(最判S41.7.1百-16) ② 相手方が、偽造者が代行権限を有すると信ずることにつ いて正当な事由があれば民110類推(=表見偽造。最判 S43.12.24百-13) 基礎商法2 19 名板貸と手形行為 名板貸人 名板借人 振出 許諾 約束 手形 名板貸人が営業を許諾し名板借人が営業のために手形振出 名板貸人が営業を許諾したが名板借人は営業をせず手形振出 (類推適用) 最判S55.715判時982-144 名義貸与者が手形行為のみを許諾し借用者が手形振出 最判S42.6.6百-12 基礎商法2 20 手形の変造 基礎商法2 21 総論 I. 署名の改変とそれ以外の改変 A) 署名の改変=債務者の交代 B) それ以外の改変=債務の内容の変更 ⇒ 両者を区別して考える必要性 II. 手形要件の改変の意義 1. 権限者による改変 債権者・債務者の合意によって債権の内容を変更する ことは適法 ただし、手形の場合には、裏書によって複数の債権・債 務関係が併存して手形に表章される点に特徴 2. 無権限者による改変 「変造」 基礎商法2 22 手形の変造 I. 意義 変造=無権限者による手形の内容(署名は含まな い)の改変 ※権限者による改変は有効な債権債務関係の変 更(改変の権限は債権者・債務者の合意がなけ れば与えられない点に注意) ※署名の改変は偽造の一種 基礎商法2 23 II. 変造と手形債務者の責任 1. 原則(手69) ① 変造前の署名者は変造前の文言に従った責任を負う ② 変造者・変造後の署名者は変造後の文言に従った責任 を負う ※手形債務者が変造のリスクを負わないのは、手形債務者 には原則として帰責性がなく、債務者の意思表示に従っ た債務以上のものを負わせる根拠がないから 2. 例外 振出人等が、変造が容易な記載を行った場合には、白地 手形と同様に、善意・無重過失の相手方に対しては変造 後の文言に従った責任を負う(手10類推または権利外観 法理) ※手形債務者に帰責性がある場合には手69の原則で処理するの は債権者とのバランスを欠き不適当 基礎商法2 24 3. 原文言の立証責任 a. 判例・多数説 ・・・債権の内容の証明責任は債権者に あるから、所持人が原文言を証明しなければならない (最判S42.3.14百-22) ⇒ 真偽不明の場合は常に所持人がリスクを負う b. 有力説 ・・・変造を主張する者が原文言を証明しなけ ればならない ⇒ 真偽不明の場合は、変造を主張する者(債務者の場合も所持 人の場合もある)がリスクを負う c. 折衷説 ・・・手形の外観に異常がなければ債務者が原 文言が異なること及び原文言の段階で署名したこと、異 常があれば所持人が債務者が現在の文言のもとで署名 したことの証明責任を負う 4. 受取人欄の変造 通常の変造と同様に扱うが、裏書の連続(手16Ⅰ)との 関係では、変造後の文言に従った連続で足りる 25 基礎商法2 III. 変造の相対性 遡求 振出人A 受取人Y 振出 約束 手形 B 所持人X 白地式裏書 S49.2.13支払呈示 満期 S48.4.7 A S49.2.12 満期 S48.4.7 最判S50.8.29百-20: Yの同意がない以上、Yは、訂正前の満期(S48.4.7)に従って遡求義務を負う のであって、遡求権保全手続が取られていない以上、XはYに遡求できない ⇒同意のあるAX間では有効な満期の変更がなされているが、同意のないYX 間(BX間も)では満期は変造されていることになる 基礎商法2 26 白地手形の不当補充 基礎商法2 27 白地手形 I. 意義 手形要件の一部が欠けている未完成の手形で、事後の補 充が予定されていて無効手形ではないもの 1. 白地手形の成立要件 ① 振出人の署名があること ② 手形要件の一部が欠けていること ③ 欠けている要件が後日補充される予定であること 手形法は白地手形の存在を予定している(手10)ので、 白地手形の存在自体は許容される(実務上の必要性も ある) 基礎商法2 28 2. 白地手形と無効手形の区別 a. 主観説(多数説?) 手形外の契約によって発生する白 地補充権の授与の有無で区別する(補充権があれば白 地手形) b. 客観説 外観上補充を予定して署名したと認められれ ば白地手形 折衷説 外観上補充を予定して署名したと認められれ ば白地手形。外観上補充を予定したかどうか不明の場 合は補充権授与の有無(=主観)による ⇒判例は当初主観説に立つことを明示していたが(大判 T10.10.1)、その後補充権が欠けていても白地手形の成立 を認める(最判S31.7.20百-41。どの立場かは不明) c. ※主観説は白地手形と無効手形の区別が困難で流通の安全を害 するとの批判がある。これに対しては、補充権授与の推定や手10 類推で所持人保護がはかれるとする見解(弥永)、権利外観理論 と組み合わせる見解(田邊)が出されている。 基礎商法2 29 II. 白地補充権 1. 補充権の成立 a. 補充権は当事者の合意(補充権授与契約)で成立す る(主観説からの立論) ●補充内容は補充権授与契約成立時に決まる(当事者の特約 で決定を先送りにしたり所持人に一任してもよい) b. 抽象的な白地補充権は白地手形作成時に成立する (折衷説、客観説からの立論) ●補充内容は別途、当事者間の合意で定める ※補充権を手形外の合意と考えない方が取引の安全に は資するが(たとえば主観説は当事者の合意でいつで も補充権を撤回できる)、意思理論からは遠くなる 基礎商法2 30 III. 白地の不当補充 1. 意義 当事者の合意(補充権授与契約または別途の合意)に反し た内容の補充=不当補充 不当補充がなされても手形債務者は、善意・無重過失の所 持人に対しては合意違反を主張できない(手10) 2. 手10の趣旨 a. 手形所持人を保護した規定(主観説) 本来保護されない所持人を保護した b. 手形債務者を保護した規定 本来手17で処理されるところを手10で処理している 3. 類推適用 不当補充された手形を取得した場合だけでなく、白地手形を 合意と異なる補充権があるとして取得した場合にも類推適 用される(最判S36.11.24百-45) 基礎商法2 31 白地の不当補充と変造の区別 金額 ¥11,000,000円※ この記載は白地の不当補充? 変造? 不当補充 ・・・振出人は、取得者が悪意・重 過失でない限り1100万円の責任を負う (手10) 変造 ・・・振出人は原則として100万円の責 任のみを負う(手69) 基礎商法2 32 統一手形用紙の手形用法は、金額欄はチェック ライタで記載することを要求 ⇒手書き(特に鉛筆書き、小さな記載、欄外の記載)が 変更された場合をどう考えるか ・・・判例は「欄内なら記載として有効で変造」「欄外なら 記載はメモであって白地の不当補充」と考えているらし い。百-23事件は手形用法に従うかどうかで判断 ※欄内か欄外かを問わず、空白を多く残した記載であれば、い ずれにせよ振出人は善意・無重過失の所持人に対して現在 の文言に従った責任を負う(白地手形と考えるなら手10適用、 変造と考えるなら振出人に帰責性があるので手10類推) チェックライタと印字 基礎商法2 金額 ¥11,000,000円※ (a) 手形用法を遵守しない記載はメモ書きで金額記載とは見ない (b) 手形用法には法的根拠はなく手形金額の記載と考える (c) (b)説を基本としつつ、鉛筆書きを抹消した場合は白地 ⇒裁判例は(a)説に立つと解されている(福岡高判S55.12.23百-23) ※仮に変造と解する場合であっても、容易に変造できる金額欄の記載として、 手10類推適用または権利外観法理で、善意・無重過失の第三者に対しては 記載金額通りの責任を負うと考えるべき(スライド26参照。→結局、(a)~(c) のどの説でも結論はかわらない) 基礎商法2 34
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