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神戸大学経済学研究科・中国経済論(院)
中国経済論(大学院・上級)
第1回:躍進する中国をどう捉えるか(2015/10/1)
担当:藤井大輔(代講)、加藤弘之
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講義の進め方について(少人数ver.)
講義方法:本講義は,加藤(おもにコメント担当)・藤井(主に講義担当)の2人
体制で講義を進めていきます.その後,トピックごとに,学生も含めたディスカッ
ションの時間も設けたいと思います.
学生への要望:抽象的なテーマもありますが,本当にそうなのか?どのように実証
すればよいか?という姿勢で聴講してください.そして,ディスカッションの際に
自分の意見を述べてください.
テキスト:加藤弘之(2013),『「曖昧な制度」としての中国型資本主義』,NTT出
版
参考文献:講義中に適宜指定.
評価方法:ディスカッションへの貢献度と期末試験
その他:オフィスアワーは設けません(∵藤井は非常勤のため).
質問等がある場合は,Emailで加藤([email protected])・藤井
([email protected])宛に連絡をください.
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1. 中国理解のむずかしさ
中国の経済システムはいったい何なのか?何が優れているのか?それとも劣っ
ているのか?疑問は尽きない…
⇒本書では「曖昧な制度」が各所に埋め込まれた中国独自の資本主義として捉
え,この「曖昧さ」がここまでの高度成長の要因と考える.
上記のことを明らかにするために,
• 歴史的視点
• 比較の視点
• グローバルな視点
から中国の経済システムを見ていく.
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中国経済の奥深さを示すエピソード
① ニセモノ,「山塞」携帯
中国ではさまざまなレベルの偽物・非正規の携帯電話,いわゆる「山塞」携帯
が生産され,流通している.
生産工程の細分化→激しい生存競争の発生→イノベーションの発生
偽物生産は企業倫理的には問題があるかもしれないが,
優れたパフォーマンスの源泉にもなっている.
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• 「山塞」携帯
• 深圳の華強北市場
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② 都市・農村間格差
たしかに,都市・農村間格差は1980年代半ば以降拡大し,現在も高止まりの状
態が続いている.しかし,農村はすべて市場経済から取り残されて貧しいとい
う単純なものでもない.
一般的なイメージの農村(写真は四川)
江蘇省の華西村(写真は政府ウェブサイトより)
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③腐敗
etc.
薄熙来
周永康
徐才厚
2014年の1年間だけで、5万5000人の公務員を収賄や賄賂で摘発(最高人民法院報告)
ただし、腐敗と経済成長の関係は単純なものではない。
官僚の個人的利益(例えば、昇進)=国家利益(経済成長)という関係も。
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中国理解がむずかしい理由
1. 中国が多様性に富む大国であるから
• 経済発展水準、産業構造、人口分布、地形、民族、気候etc. 様々な点で多様
性に富んでいる。
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2. 中国は驚くべき速さで変化するから
• 改革開放開始時には最貧国に分類されていたが、2010年には世界第2位の経済
大国に成長した。ミクロ面でもさまざまな財の生産大国となった。
• 伝統経済から市場経済へ、計画経済から市場経済へと「二重の移行」が進め
られた。
計画
国有企業
計画から市場へ
集団企業
農民
私営企業
市場
伝統
伝統から市場へ
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3. 制度にある種の「曖昧さ」があるから
• ある地域では通用する制度が他の地域では全く通じなかったり、法律があっ
ても、まるで無いがごとく扱われたりする。
ex. 汚職で摘発された人への量刑
収賄が約1億3000万元、
職権乱用で21億元の利
得と15億元の国家への
損害、機密漏えい
周永康
鄭篠萸
(元国家食品薬品監督
管理局局長)
無期懲役
法律では、収賄10万元以上で死刑の可能性あり。
収賄や職権乱用で
計649万元
死刑
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中国型資本主義と「曖昧な制度」
経済システム:「社会システムを構成するサブ・システムの一つで、財・サー
ビスの生産活動を行う主体の集合を示す抽象概念」(金森他2002)
では、中国の経済システムは?
資本主義か社会主義か?→二元論で言えば、現在の中国は資本主義。
(政府見解では「社会主義市場経済システム」だが、その内容は資本主義)
アメリカや日本と同じ資本主義か?→類似する点もあるが異なる点もある。
政府の介入が強力な国家資本主義?→資源の豊富なロシアなどとも異なる。
⇒独自性のある中国型資本主義と考えればよいのでは?
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本書で考える中国型資本主義の特徴
1. 自由市場資本主義を上回る激しい市場競争の存在
ルールなき(あるいは曖昧なルール)のもとで異なる経済主体間が激しい競争
を行っている。
2. 国有経済のウェイトが高い混合体制の存在
国有企業と非国有企業で構成されている混合市場と一つの企業の中に国有と民
営の要素が融合している混合企業という二つの意味での混合体制となっている。
3. 水平方向での地方政府間競争の存在
高い経済成長を達成すると昇進できる人事考課システム(「政績制度」)のも
とで、官僚主導の地域間競争が繰り広げられている。
4. 利益集団である官僚・党支配層の存在
昇進や汚職もふくめ、地元の経済発展が官僚自身の利益にもつながる状態と
なっている。
⇒これら4つの特徴の背景に「曖昧な制度」の存在があると考える。
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2. 本書の狙い
中国の独自性にこだわる
「制度=ゲームの均衡」とする青木昌彦の比較制度分析の考えをもとにして、
中国の経済システムの背後にある制度を考察することで、中国の独自性を見出
す。
• 第2章では、「制度」とは何かを整理したうえで、柏祐賢の「包」、黄宗智の
「第三領域」、ブレズニッツ&マーフィーの「構造化された不確実性」の議
論を取り上げ、これらより「曖昧な制度」仮説を立てる。
• 第3章では、「ニーダムの謎」を糸口に「曖昧な制度」がどのような歴史的文
脈の中で形成され、近代、そして現代へ継承されてきたかを考察する。
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中国型資本主義の実像を多面的に分析
競争と相容れないと思われる特徴がかえって成長を促進した中国の独自性につ
いて、多面的に分析する。
• 第4章では、国有経済が大きなウェイトを占める混合体制に着目し、国有企業
と民営企業が競争する混合市場の形成、そして、国有企業でありながら民営
企業的要素をもつ混合企業の構造について分析する。
• 第5章では、地方政府と官僚に着目し、地方政府間の成長競争、官僚の昇進競
争のメカニズムについて分析する。
• 第6章では、1990年代半ばの国有企業改革以降の利益集団化した官僚・党支配
層の実態を明らかにし、腐敗と経済成長の関係について議論する。
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中国の独自性が世界に与えるインパクト
経済大国となった中国の独自性が世界に対してどのようなインパクトを与えて
きたかを明らかにする。
• 第7章では、改革開放によるグローバル化の進展が中国をどう変えたのか、そ
して、中国が国際経済秩序をどう再編したかを検討する。
• 第8章では、「中国モデル」をめぐる議論を整理したうえで、中国経済の強み
と弱みを「曖昧な制度」と関連づけて説明する。
• 第9章では、資本主義の多様性という観点から中国型資本主義の行方を論じ、
日本が今後中国とどう向き合うべきかを論じる。
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来週からの予定
• 来週からは、毎回テキスト1章分をめやすに進めていく予定ですが、トピック
に関する実証論文の紹介や新しい政策の補足説明が多い章では、2週にわたる
可能性もあります。
• 講義は15回ありますが、テキストは第9章までしかありませんので、読了後は
GIS(地理情報システム)を用いた中国研究の可能性についてお話します。
• また、1回分は、本研究科研究員の三竝氏による中国のイノベーションに関す
る講義をしていただく予定です。
• 11月19日は、申し訳ありませんが私の本務校の入試のために休講とさせてい
ただきます。補講についてはまた後日お知らせします。